努力の理由
才色兼備でクールな奴且つ目標に一途という情熱的な一面もある――という理想的な人物とのことで老若男女問わず人気と囁かれている神楽沙耶。俺はそんな彼女に気に入られたか。俺に超能力云々の話をしてからというもの少しずつ絡むようになってきたのだが、これがまた悪い気しかしないのである。
いや、神楽と関わること自体に悪い気はしない。問題は周辺人物であり、主に男子からの目線が殺意さえ感じられるので居心地が悪いったらありゃしないのだ。
こんな目線、無ければいいのにな――って思ったが現実は厳しいもので、何処で何が如何絡んでいるのか知らないが何故か俺の能力が発動せず、居心地の悪い目線は収まらない模様。
ついでに言うと、これらの理由から神楽の人気振りが窺える一方、当の彼女は「まだ足りない」とか言って更に文武の高みを目指しているので人気という自覚は無いらしい。よって俺をフォローしようとも思ってくれない。分かりきったことではあるが、これも俺の能力じゃどうしようもない。
神楽曰く、現実に干渉できる程度が低すぎる、という。だったらこんなクソな能力いらねぇと思ったのだが、手放せるはずもなく渋々甘んじてこの能力を身に宿している。
この能力――つまり、想像を現実にすることが出来る能力。長ったらしい、もうこの際だから命名してしまおう。その名もイマジネーション。単に想像力って意味になるが、長ったらしいから命名するんだ、短くても分かれば良いだろ。
――というわけで、俺がそのイマジネーションのことで悩んでいると。
「意外。貴方が悩むなんて」
「失礼な」
考え事に耽る際、俺は人目や騒々しさを気にするタイプだ。
よって放課後に態々学校の旧校舎まで来たってのに、ご丁寧にも最東端の物置と化した教室まで失言と共に神楽のお出ましである。
「こんなとこまで何しに来たんだ?」
「貴方を見かけて追ってきた」
「なぜ追ってきた……」
「何するのか気になっただけ。そしたら……馬鹿みたい。繰り返し使えばいいだけなのに、態々考え込むなんて」
繰り返し使えばいい――というのは、言わずもがな超能力のことだな。
俺の考えていることは、大抵は神楽に筒抜けだ。それもその筈、コイツは精神に関する超能力の達人なのである。ましてや精神操作で人間さえ操れるんだ、俺程度の人間に対して行う読心術など朝飯前といったところだろう。
「自分を磨くのに悪いことは言うつもりねぇけど、超能力なんて極める必要あるのかよ?」
「平和ボケしてるね、貴方」
長く蒼い髪を揺らし、神楽は窓辺へ移動して黄昏始めた。
普段の蒼い瞳は、きっと水鏡する夕焼けの色に染まっている。
「確かに今は平和だけど、私達が超能力者である以上、きっと何か事件が起きる」
「そりゃ俺が言えたことじゃねぇけど考えすぎだろ。ってか、イマジネーションで封印できないかねぇ」
「貴方がそれだけの実力を持てばね。今は出来ない」
「結局は実力主義か……」
――悩ましい。何かを成し遂げたいなら、やはり相応の実力を身につけるしかないか。
「私の言うこと、間違って無いでしょ?」
「まあな。一手どころか二手三手と先見ばっかすりゃ、そうなるんだろうよ」
「その場凌ぎだけじゃ、絶対に後悔すると思う。だから私は、損の無い事をしていたい。貴方みたいにのほほんとしてる人見てると、何だかこっちが落ち着かない」
「――だからか。言い寄る男を片っ端から振りまくってんのは」
「うん」
先も言ったように、神楽は非常に人気者。故に告白する男子も少なくない。
ただ、どうやら神楽に言い寄る男ってのは、だらしの無い男ばかりのようだ。目標も持たずに毎日をその場凌ぎで生きて、凌げないことに直面すれば甘えるような、都合の良い奴らばかり。
――何だか俺もそいつらと同じ人間に思えてきたぞ。言霊ってか、神楽の言い方はどこか重い。目標に一生懸命と世間が騒ぐ理由が分かった気がする。
「んじゃ、俺は強くなるために努力しますか」
椅子に座ってたのを立ち上がって、うんと伸びをするや神楽が振り返る。
「唐突……どういう風の吹き回し?」
それくらい読んでくれよ――って思ったが、そんな我侭はダメだなと思い直す。
何って、超能力を使うと疲れるのだ。俺も神楽も人間だから何かしら行動をすれば疲弊は免れないが、中でも超能力を使うと非常に疲れる。特に俺達は肉体を動かす能力ではないので、主に精神面で疲れてしまう。強くなるべき理由は、そういう意味でもあるかもしれない。
「お前を惚れさせるわけじゃねぇけど、お前に言い寄った男と一緒になるのは御免だからな」
――そう。あんな殺意の目しか向けられない奴らなんかと一緒にされたくないからな。
「ふうん……三日坊主にならないといいね」
対して神楽は淡白だ。ならば宣言してやる。
「一ヶ月だ」
「え?」
「一ヶ月、俺は今から超能力の特訓をする。それまで飽きてなかったら、一緒に修行しようぜ」
「――分かった。望むところ」
「そうこなくっちゃな」