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010 どんより

「どうかしたの影飢。さっきからため息ばっかり」

「ちょっとな」


 焔艶灯火の一席で、窓の外、雨の降る森を眺めながら影飢は呟いた。


「いってみなさい。きいてあげるから」


 小さな胸を叩いて見せる獅子架に、思わず苦笑がもれる。


「たいしたことじゃない。露店で買い物に失敗しただけだよ」

「しっぱい?」


 幼い少女はケーキに手を付けるのもやめて、真摯な瞳を向けてきた。


「偽物を買ったんだよ。思わず安かったから飛びついたんだけど、それがダメだったな。似てたから間違えた」

「返品すればいいのに」

「それができればいーんだけどな。返品はしませんって約束をして買っちゃってるんだよ。その時点で怪しいと気づけなかった俺が悪いんだ。はぁ……」

「なにそれおかしくない? だって間違えちゃっただけなんでしょ」

 不機嫌な顔で身を乗り出してくる獅子架。

「最初から間違えて買わせる気だったんだよ」

「ええー」

「安いからって慌てて買う奴を狙ったんだなぁ。俺が馬鹿だったんだよ」

「うん、影飢は馬鹿だけどさ」

「おい」

「でも騙す奴が悪いと思うの」

「たいした額じゃないし気にするな」

「気にしてるのは影飢だよ。さっきからずっとどんよりだよ」

「おー、そうだったか。すまん」

「そうだよ、もー」


 言って、獅子架は不満顔ですとんと椅子に座り直す。


「こっちまでどんよりするよ。だから影飢は馬鹿なんだよ」

「おい」

「罰としてパフェおごってね。それで許してあげる」

「おい」

「あ、もちろん全種類ね。もう注文するから」

「ちょっと待てこら」

「なによー」


 身を乗り出した影飢に対して、少女は楽しそうに笑う。


「俺は奢らないからな」

「じゃあ、どんよりするのやめてくれる?」

「お前のせいでそんな気もなくなるつーの。ふざけんな」

「んふふー」

「んだよ、気持ち悪い奴だな」

「ぬあっ。発言の撤回をよーきゅーします!」

「知るか」

「許してあげなくもないから、ケーキセットをおごってよ、ばか影飢」


 獅子架と影飢の小競り合いは続く。

 結局、奢るまで話は終わりそうにない。

 雨音よりも騒がしく、焔艶灯火での時間がすぎていった。

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