Ⅺ・蝶舞うニュース
中庭。池の畔。
カトーがそこに佇むだけで、そういうシンボルのようにふわふわと蝶が寄ってくる。
はたこうとしたが、カトーは楽しく戯れているようだったので、そのまま見守っている。
美しい光景だ。まるで森の妖精の密かな物語をそっと見つめているような。
(美を求めてやまない宮子さんが追い求めるものは、案外こういうものなのかもしれないな……)
その時、蝶が弾けるように散らばって、カトーが、はっとこちらを振り向いた。
なんだろう、と思ったとき、後ろから足音がした。
リクさんのゆったりした動きではない、館花さんの押し殺す様な足音でもない、唐津沢さん軍団は、そもそも中庭にはやってこない(経験則的に)。
と、すると。
「こんにちは、嶋さん。花踏」
「あ、宮子さん。こんにちは」
カトーはろくに返事もせず、わたしの背中に回り込んで、腰のリボンをぎゅ、と掴み、わたしの腰の辺りから顔を覗かせて、宮子さんをじっと見ている。
衣食住を提供してもらっているのに、カトーは一向に宮子さんに慣れない。パーティーのようにきらきらとした人だから、わたしのように地味で美しくない者の方が落ち着くのだろう。
宮子さんは毎回少しショックそうに、でも内心は本当に心の底まで傷ついていそうな溜息を吐く。
「ここで、こうしていると、初めて会った時のことを思い出すわ……」
初めて会ったのは、カトーか、わたしか、どちらのことだろうと考えたが、この状況を見るに、恐らく、わたしなのだろうなと思った。
「どうして、嶋さんには、そんなに懐くのかしら。秘訣があったら教えて頂きたいわ」
秘訣も何も、カトーは何故か初対面からこの態度だったし、知るのはカトーのみだ。
宮子さんはよくこの台詞を口にするが、わたしは気まずくて何も言えなくなる。
こういう時、館花さんの図々しさが羨ましくなるが、カトーは館花さんにさえ懐いていないので、わたしが彼のようになったら、割と簡単に見捨てられてしまうのかもしれない。
「えっと、どうして、中庭に?」
「ここはわたしの名義の屋敷よ。つまりここはわたしのものなの。自分の持ち物の何処に行こうが、わたしの勝手でしょう?」
カトーに冷たくされた後の宮子さんは、わたしに冷たくなる。
気持ちは分からなくも無いので、何より立場があるので、わたしは苦笑いするしかない。
カトーはわたしの後ろは飽きたのか、ぷいっと中庭の奥の方へ小走りで行ってしまった。
宮子さんはまた傷付いたように溜息を吐き、わたしを見た。その眼は先程より優しかった。
「ごめんなさい。わたし、今、嫌なことを言ったわ」
「い、いいえ」
「駄目ね。わたし、花踏に心を乱されてばかりだわ。本当に美しいものは、気紛れなのよね。絶対に思い通りになりはしない……」
宮子さんはわたしではなく、カトーの走り去った後を見ているようだった。
数秒の沈黙の後、ここに来たのはね、と宮子さんが口を開いた。
「嶋さん、あなたにも報告しておこうと思って。嶋さんにもいろいろ予定があるでしょうし。こういうのは早めに言っておくのが良いと思って」
「何ですか?」
「結婚することになったの。わたし。リクと」




