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家なし少女はあやかし執行官の執愛に囚われる  作者: あさじなぎ


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30/42

30 大学前

 五月二十三日金曜日。

 私はひとり、帽子を目深にかぶって外に出かけていた。

 キチジョウジから電車で三〇分ほど離れた都会。

 建ち並ぶ高層ビル群に圧倒されて、私は印刷した地図を見ながら歩いていた。

 時間は九時前。

 私は今、伊織さんに教えてもらった奈美が通う大学のそばいる。

 もう、縁を切られちゃったのに、私は自分を納得させたくってここまで来てしまった。

 姿をひとめ見たらきっと、私は諦めがつくと思う。

 だから私は伊織さんに置手紙残してここまでひとりで来た。

 私が伊織さんと一緒に過ごすようになって、ひとりで遠出するのは初めてだ。

 なんとか電車を乗り継いでたどり着けたけど、ほんと、都会って人が多すぎる。

 キチジョウジも私からしたら充分都会だけど、この辺りはその比じゃなかった。

 地下鉄にも乗ったけど、よく私、たどり着けたな……

 私はきょろきょろしながら、門が見える所に立って、携帯で調べ物をするフリをして奈美を探していた。

 大学の門をくぐってたくさんの学生が中に入っていく。皆、私なんかよりもずっとおしゃれだ。

 そもそも奈美が一限目からいるとは限らないけど、でも大学の一年生ってたいてい一限目から講義、あるよね。

 その可能性に、私はかけていた。

 私の目の前を、会社員ふうの人たちや年配の女性などが通り過ぎていく。

 一限目って九時位からだと思うんだけど……奈美、本当に来るかな。約束してもいつも時間ぎりぎりだったから、一〇分前くらいにここを通りそうな気がするけど。

 校門の様子を見ているうちに、私はなんだかとんでもないことをしているような気がしてきた。

 私何してるんだろう。

 入り待ちなんかしてこれじゃあ私、ストーカーじゃないかな?

 そう思ったら怖くなってきた。

 冷静になろう、私。

 私は自分の胸に手を当てて、大きく息を吸って吐く。

 奈美は友だち、だった。

 でも高校卒業して、何でかわからないけど奈美は連絡先をかえちゃって。高校時代の子たちとは誰とも繋がっていないらしい。

 縁切られたんだから諦めたらいいんだよね。私。

 一度、顔を見たら吹っ切れるかな、って思ったんだけど、やめよう。こんなの絶対気持ち悪いもの。

 帰ろう。

 奈美の子とは忘れて帰ろう。

 そう決めて、私は大学へと背を向けて歩き出す。

 その時だった。

 明るい茶色に染めた髪。

 マスカラをばりばりに塗った大きな目の女の子が、向こうから歩いてくるのが見えた。

 へそ出しの白と黒のボーダーのトップス。白いカーディガン。白地の和柄ミニスカート。

 ブランド物のショルダーバッグをさげた彼女は、誰かと電話をしながら歩いていた。

 その子を見て、私は思わず立ち止まる。

 懐かしい顔がそこにある。

 奈美だ。間違いない。

 私は大きく目を見開いて、こちらへと歩いてくる彼女を見つめた。

 彼女もまた、こちらを見る。

 彼女と私。視線が絡む。

 私は帽子を深くかぶっているから、きっと気が付かないと思う。

 そんな思いは、彼女が電話を切った瞬間打ち砕かれた。


「葉月……?」


 確かに彼女はそう言った。

 目が合って、確実に顔を見られて。この状況で逃げられるわけがない。

 いろんな感情が私の中でひしめき合う。


「う……あ……」


 奈美。って言葉が出てこない。

 でも、奈美はぱっと笑顔になって私の所に走ってきて言った。


「葉月だよね!」


「……な、奈美……?」


 なんとか絞り出す声で名前を呼ぶと、彼女は嬉しそうに飛び跳ねる。

 強い香水の匂いがする。こんなのつける子だったっけ。


「やっぱ葉月だよね! ひさしぶりー! 連絡取れなくなってごめんね! あのあと携帯おっことして壊れちゃってさー、それで連絡先みんなふっとんじゃったんだよねー!」


 と、早口で語る。

 携帯が壊れた。 

 そうだったんだ。

 言われて私は今、奈美が持っている携帯へと目を向ける。確かにぴかぴかだし、真新しい。


「そう、だったんだ……」


 呆然と私が言うと、奈美はうんうん、と頷く。


「そうなんだよー! ごめんね、びっくりしたよね!」


 そう言いながら、奈美は私の腕を掴んだ。

 さらに強く、香水の匂いが漂ってくる。その匂いがなんだか嫌なものに感じて私は顔をしかめてしまった。

 伊織さんの家や探偵事務所はお香の匂いで溢れているから、違う匂いに敏感になっているのかも。

 私は奈美の言葉に大きく頷いて答えた。


「う、うん。皆奈美と連絡取れないって言ってて、何かあったのかと思ってた」


「周りにこっちの大学いった子、いないからねー。偶然会った子には教えてるんだけどさー。あ、でももう時間ないからとりあえず連絡先だけ交換しよ!」


 そう言いながら奈美は携帯を開いた。

 その勢いに押されるように私は頷き、携帯を出して、連絡先を交換する。


「あー、やば! 早く行かないと一限遅れちゃう! ごめんね、葉月、また後で連絡するね!」


「あ、う、うん」


 奈美は携帯をバッグにしまうと嵐のように走り去っていく。

 その背中をあっけにとられながら私は見送った。

 

 

 

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