21 視線
私は携帯電話の画面を思い出す。
いくら見ても見当たらなかった奈美のメッセージ。
着信履歴にも奈美の名前はなかった。知らない番号とかあったけど、番号変えたとかあるかな?
でもそれならメールくれるよね?
すっごく胸騒ぎがする。なのに奈美が通うって言っていた学校の名前が全然思い出せない。
思い出そうとすると頭が痛くなってきてしまう。やだな、私、記憶がおかしくなってるのかな。
もし奈美に何かあったらどうしよう……やだ、怖すぎる。
伊織さんたちなら奈美、捜せるかな。
そう思って私は、伊織さんの腕をばっと掴んで言った。
「伊織さん、あの、友だち、捜してほしいです」
「友だちって誰?」
言いながら伊織さんは小さく首を傾げた。
「卒業旅行に一緒に行った友だちなんです! 名前は菊間奈美。家はあの……」
住所を言おうとしたけど、友だちの家の住所なんて覚えてるわけがない。
だから私は奈美のことで覚えている限りのことを伝えた。
親の職業、家族構成、奈美の家の近所にあったもの。トーキョーのどこかの大学に通っているはずって事。
伊織さんは黙って話を聞いたあと、私の肩にぽん、と手をおいて不敵に笑う。
「わかった。その子の事を調べればいいんだな」
と言って力強く頷く。
それを聞いて私は大きく息を吐いた。
「ほんとうですか? ありがとうございます! 私の携帯に連絡先登録されているので必要なら見てください!」
そう私が言うと伊織さんは、
「携帯に異常がないってわかったら」
と言ってくれた。
よかった。私の携帯、何もしかけられてないといいけど。
伊織さんたち、借金取りの拠点を見つけてくれたし、きっと大丈夫だよね。
お父さんたちもきっと見つかる。
そう思ったらちょっと安心してきた。
私は伊織さんから腕を離して、テレビの方を見た。
娯楽番組が終わって、ニュースの時間になっている。
殺人事件の話、マフィアとかヤクザが捕まった話、行方不明事件の話。
伊織さんがおもむろにチャンネルをかえて言った。
「葉月さん、明日、出かけない?」
「え? 出かけるって」
「藤の花。そろそろ満開なはずだから」
「藤、ですか……?」
藤、といわれても全然ピンとこない。
私が首をかしげると、伊織さんは笑って携帯を片手に持つ。
「あぁ、知らないか。こういう花」
伊織さんは携帯で検索して画像を見せてくれる。
そこに映し出されたのは、紫の雨のような満開の花たちだった。
「あ、知ってる! これ、藤って言うんですね。名前は初めて知りました」
「そっかー。少しここから離れているけど、神社で藤祭りってやってるんだけど毎年行ってんだよね」
そうなんだ、全然知らなかった。
って……
私は伊織さんの言葉を頭の中で繰り返す。
神社で藤祭り。
私は不思議に思い、伊織さんの問いかけた。
「あの、あやかしって神社に入れるんですか?」
そんな私の疑問に、伊織さんは心底おかしそうに笑った。
「あはは、そっかー、そう思うんだ。神社は神域だし下位のあやかしならはいれねえとかあるけど、俺はそんな軟なやつじゃないからな」
「じゃあ大丈夫なんですね。ちょっと心配でした」
「じゃなくっちゃ、行きたいなんて自分から言わねえよ」
そう恥ずかしげに笑い、伊織さんは携帯を座卓に置く。
そう言われてみればそうね。
漫画とかの影響だけど、あやかしって神社に入れないかと思ってた。
私は伊織さんをジーと見る。
でも伊織さん、普通のあやかしじゃないんだもんね。そもそも人の形してるけど、本当に伊織さん、あやかしなのかな。
すっと姿消したり、銃を片手で壊したりしていたけど、それだけだ。
桔梗さんは二股の尻尾があるし金色に目が光る。
真琴さんは三角の耳がある。
祐飛さんは黒い羽根を残して消える。
でも伊織さん、見た目的に変わったところ、ないし。
私の視線に気がついたのか、伊織さんは含みのある笑みで言った。
「何、俺の顔見つめてどうかした?」
「あの、伊織さんはどう見ても人間にしか見えないから、あやかしの総大将っぽくないなーって思って」
そう私が言うと、伊織さんは私の頬を両手で掴んで顔を近づけてくる。
そして、じっと私の目を見つめて言った。
「言ってるだろ、俺はバケモノだって。今のこの姿は借りの姿。本当に姿なんて知らない方がいい」
すごく真面目な顔で伊織さんが言う。
バケモノ、っていわれても私の想像できるものじゃないのかな。
全然わかんない。ぬらりひょんがそもそもどんな姿なのか知らないしな……
私は伊織さんに笑って答える。
「バケモノの姿でも伊織さんは伊織さん、ですよね。だって中身まで変わらないわけだし」
すると伊織さんはしばらく黙ったあと、ふっと笑い、
「そうだな」
と呟き私からそっと手を離した。




