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第一章 EP1 覚悟する時が近づいてるわ


 ――【ASO】リリースから約七年後。


 ――ドガァァン!

 拳を叩きつける。

 テーブルの木片は、やがて空中で光の粒子に変わり、キラキラと宙を舞う。

 椅子に座ったまま、眼鏡の奥にある瞳へ、鋭く目を向ける。

 …………

 ……

 …

 ――時は、事件が起きる数時間前に遡る。


《生体認証。完了しました》

《登録者。ホシカワ・ヒロキ。認》

《ゲーム選択。ASOが選択されました》

《使用キャラクターを表示します》

 ――『シャルロット』

 仮想アバターが浮き上がる。

 金髪のミディアムヘア。

 現実と変わらないブルーの瞳。

 白基調のドレスアーマー。

《こちらのキャラクターでよろしいですか?》

 

 ――YES。


 次の瞬間、俺の視界はまばゆい白へ塗り替わる。

 背中を包んでいた柔らかさが遠のき、意識がゆっくり沈んでいく。

 光は青へ変わり、わずかに香る草原の匂い。

 やがて身体に感覚が戻ってくる。

 視界の端には『HPヒットポイント』や『名前』が薄く表示され、前髪がふわりと映り込む。

 下を見ればいつもより近くに感じる地面との距離。


 顔を上げた先には、中世を思わせる白亜の地面と重厚な建物が並び、街の中央には雲を突き抜ける程の白いタワーが存在している。

 そして、この空に漂う色鮮やかな星素が、世界を彩っていた。

「……なんか、今日はやけに眩しい気が……いや、こんなもんか」

 見上げた先の太陽を隠すように、差し出された小さな手のひら。

 どこからともなく聞こえてくる様々な呼び声と、遠慮ない笑い声。

 さて、行こう。

 彼らとの約束の場所へ歩き出す。

 行き交う人を避け、雑踏を抜けた先には、噴水に腰掛ける人影が見えた。

 銀の無造作な髪の間から覗く瞳は鋭く、黒と赤のプレートアーマー、その上からマントを纏ったゼクス(ぜっくん)は、紫煙を口から吐き出している。

 彼の元へ、駆け足気味に向かう。

「おーっす、……珍しく時間ギリギリだな」

 聞き慣れた、低く落ち着いた声。

「わりぃぜっくん」

 ゼクスの前で足を止め、親しげに手を上げる。

「まあ時間前だし、気にすんな」

 ゼクスはタバコ型アイテムを消し、スッと立ち上がる。

 見上げるほどの長身。三十歳の大人の余裕と、初めて会った時からまるで変わらない、どこか少年心をくすぐる佇まい。

 そのキリッとした眼差に、俺の表情は緩む。

「じゃあじーくん来るまでスキルの確認しとこうかな」

 その場で自分のステータスを表示する。


 《Level 100》

 《HP 35,162》

 《SPスキルポイント1,451》

 《挑発》《ふんばり》《かばう》《危険探知》


 さすがに慣れたけど、昔やってたゲームに比べると、この【ASO】は実力主義すぎてスキルの数が少なすぎるよな。

「ぜっくんって今 《ふんばり》入れてる?」

「当たり前だ。チャージ貯まる寸前で死ぬのはごめんだからな。《ふんばり》と《英雄の背中》を入れてる」

「あと2個は?」

「《チャージ時間短縮》と《堅牢》」

 それを聞き、自然と顎に手を当てる。

 今朝見た情報通りなら、ボスの動きは遅いハズだし、《危険探知》より《堅牢》いれといた方がいいかな?

「……」

 するとゼクスが口を開く。

「……最近、シャルの表情が、なんかこう……自然?になってきたな」

「そう? 特に意識したこともないな」

「……これもロールプレイの一環か」


《ジーク がオンラインになりました》

 

 視界の隅、フレンドリストの『ジーク』の名前が白く点灯する。

「やっときたね。遅刻魔が」

 メニューを閉じ、ゼクスを見上げる。


 ――その時。


 視界の端に、一本の光柱が空へ突き上がる。

 ――『ファストトラベル(座標指定移動)』

 隣のゼクスは鼻で小さく笑う。

 光の中から現れたのは、逆立つ黒髪、切れ長の目。

 黒を基調としたワイルドな軽装鎧。

 もう一人の親友、ジーク(じーくん)だ。

 じーくんは昔から俺のことを「マスター」と呼ぶ。

「マスター、ぜっくん! お待たせ!」

 ジークは人懐っこい笑みを浮かべ、手を大きく振りながら駆け寄ってくる。

「いやぁ遅くなりました!」

「シャルより遅いとはいただけないな」

 やれやれと肩をすくめるぜっくんを睨みつける。

「なんで俺が基準なんだよ! 一番に来たからって! もうっ、さっさとカエデちゃんのとこいくよ!」

 二人の間を抜ける際、ゼクスの背中を叩く。

 背後では「マスター機嫌悪いの?」とジークが漏らしていた。

 

 俺たち三人は並んで中央の通りを歩き、『カエデの星具』へ向かっている。

 道中、多くのプレイヤーと行き交っているのだが、みんなクエストの話をしているようだ。

 なぜわかるかと言うと、大半が不満を口にしているからだ。

 

「クソ運営がまた碌でもないもん作りやがって」

「血も涙もないのかよ」

「人間の考えることじゃねえな……」

 

 だが、【ASO】ではこれがいつもの光景。

 クリア率低いのは毎度のことだから、そんなに驚かない。

 実装は昨日だから、まだそこまで情報ないしね。

 クリアしてるのは大手のチームくらいじゃないかな?

 


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