第31話:内なる決戦
闇の虚無に、轟音が響いた。
俺と影の俺が拳をぶつけ合い、衝撃波が広がる。
そこには重力も空気もないはずなのに、確かに痛みと圧力があった。
《無駄だ》
影の俺が嗤う。
《俺はお前の力そのもの。否定すれば、自分を殺すことになる》
「……そうだとしても!」
俺は血を吐きながらも、拳を握りしめた。
「お前にすべてを渡したら、俺はただの器になる。
それじゃあ……エリスと笑えない!」
影の爪が振り下ろされ、俺の胸を裂く。
痛みが走る。だが――まだ立てる。
《くだらん執着だな》
影が冷たく吐き捨てる。
《守る? 愛する? そんなものは弱者の幻想だ。力こそ真実だ》
「……力がすべてじゃない!」
俺は叫び、殴り返す。
拳が影の顔を打ち抜き、赤黒い血が散った。
影の俺が初めて表情を歪める。
《チッ……なら証明してみせろ、人間》
再び影の力が爆発し、空間を覆うほどの黒炎が渦巻く。
その中心で、影の俺は完全なる怪物の姿へと変わっていく。
背には翼のような棘、腕は巨大な刃、瞳は紅く燃える。
《これが本来のお前だ……否定できるか!?》
全身が震える。
恐怖か、怒りか、それとも――希望か。
俺は胸の奥に残る光を思い出した。
エリスの叫び、彼女の声。
「……できるさ」
震える足で、俺は前に踏み出す。
「俺は怪物でも、人形でもない……俺は俺だ!」
そして、真っ直ぐに怪物と化した自分へと走り出した。




