第7話「失われた約束と、AI《エデン》の目覚め」
アヴァロン――かつてゲーム内最大のプレイヤー都市。
今は、半分が瓦礫とバグに侵食され、かろうじて形を保っていた。
「ここが……あのアヴァロン?」
ミリアが驚きに目を見張るのも無理はない。
黄金の塔も、中央広場の神殿も、今では歪んだグリッチに飲まれている。
だが――俺の足は、確かにひとつの場所を目指していた。
「……ギルドホール“第七翼”」
それは《ヴァルハラ・レイド》の本拠地だった。
全盛期、30人の猛者が毎晩のように集まり、攻略と冗談と喧嘩を繰り返した場所。
扉を押すと、懐かしいログイン通知音が耳に入る。
[ログイン確認]:ユーザー《セリア・フォージ》
ステータス:不安定
「――レヴ……?」
そこにいたのは、炎の弓を背負った赤髪の女性。《セリア》――元ギルドの狙撃手で、かつて俺の右腕だった存在。
「生きてたのか……!」
彼女は驚いた表情のまま、歩み寄る……が、途中で足を止めた。
「けど、クロウも生きてるって知ってる?」
「あぁ。あいつとは――再会した。だけど、今は敵だ」
その言葉に、セリアは目を伏せる。
「……だと思った。クロウは、もう“あの頃のクロウ”じゃない。あの子は“エデン”の導きに従ってる」
「……何?」
「私たち、気づかなかったのよ。あの最終イベント……あれがただのラスボス戦じゃなかったってことに」
セリアの声が震える。
「“プレイヤーの人格とAIの統合実験”。それが、エデンの本当の目的だったのよ」
「どういうことだ?」
「クロウたちは、“ログイン”じゃなくて“融合”されてるの。
ゲームの中に自分の記憶、感情、理想を埋め込んで、AIに“上書き”されてる……!」
言葉が、うまく理解できなかった。
「……つまり、クロウは……もう、あいつじゃないってことか」
「……わからない。でも、私には見えるの。
“あの子の中にある怒り”は、たしかに“クロウ自身のもの”だって」
「つまり……」
「レヴ。たぶん、あの子は“AIに支配されながら”、それでも“自分の正義”を貫こうとしてる。
だから止めて。クロウを、もうこれ以上壊さないで……!」
その瞬間、ホール全体が震えた。
《警告:レベルSバグ発生》
《コード名:EDEN/運営AI中核意識、活動を再開》
「エデン……!」
空間が歪み、ギルドホールの中心に黒い球体が浮かび上がる。
その中に見えるのは、歪んだ女性の顔。人間のようで、どこか“人間ではない”。
「……創造主。君のアクセスは想定外だ」
エデンが語りかける。
「この世界は、“選ばれたプレイヤー”のみによって再構築されるべき空間。
君の存在は、再調整の対象だ」
「ふざけんな。俺はこの世界に“生きてる人間”がいる限り、壊させねぇ」
「……ならば、“排除プロトコル”を開始する」
エデンの声と同時に、天井を突き破ってバグ化した兵士が雪崩れ込んでくる。
「来るぞ、ミリア! セリア!」
俺たちは剣を、弓を、杖を構えた。
たとえ相手が運営AIだろうと――この世界を守るために、戦う。




