反面教師
「う、グス……ヒック……」
ただいま〜っと。見回りが増えて厨房に忍び込むのも大変になったわ。
んん?
「テレサ……大丈夫よ。ここにいれば怖いものはないわ」
「……」
ん〜、なんか帰ってきたら白髪幼女が泣いてるんだけど、どしたの?
「あ、すみません。うるさくして」
「あぁ、いやいや。なんかありました?」
夜泣きか、お菓子いる? ……ってそんな雰囲気じゃないね。
「いえ……少し怖い夢を見たようで。すぐに落ち着くと思います」
「……」
母親に抱きつきながら白髪幼女は泣いていた。
私は白髪ママの表情をみて察した。辛そうで、それでいて絶対に娘を守るという強い顔だ。
「気にしてないッスよ。それじゃ……」
……怖い夢を見たってのは本当なんだろうね。子供じゃなくても良くあることだ。
問題は、なんで怖い夢を見たのかってことだ。
私が知りたがらない事情に関する事なんだよね。
たぶん白髪幼女は、ここにくるまでに怖い目に遭ってきたんだ。
この親子、なんかに追われてるんだろうなぁ……。
それで豚貴族に保護を頼んだって所なんでしょ? こんな子供が追われてて不安を感じてないはずがないんだ。
オドオドした雰囲気を持つのも、怯えているからなんだろうね。
豚貴族の思惑は分からんけど、何かしらの交渉があったはずだ。善意で行動してるはずがないからね。
最初の雰囲気から考えても、豚貴族は二人の味方ではない。
つまりこの二人は、追い詰められてるにも関わらず、味方がいないんだ。
それは豚貴族に紹介された私も同様。この二人にとって私は味方ではない。
「はは、私自身、二人を味方とみなすことは難しいからね」
スキマの中で笑いながら横になる。
薄情というなかれ、お互い深く踏み込んで欲しくないんだよ。それは拒絶という形の、自分を守る術なんだから。
白髪幼女の心の傷は、私には癒す事ができない。……嫌な言い方をすれば、そんな義理はない。
白髪幼女の家族がやることであって、私が何かするのは余計なお世話だよ。
もしくは――
「そんなもんは……自分で乗り越えるしかない」
そう、自分の心にケリを付けるのは、いつでも自分なんだよ。
自分を傷付ける存在との付き合い方を学ぶしかないんだ。
だからさ幼女ちゃん。私は思うんだ。
――――――――――――――――――――
「嫌なヤツの嫌がる顔って最高だと思わない?」
「……?」
バカらしい……。何を私は子供相手にゴチャゴチャ考えとるんだ。こんな子供が自分で乗り越えるなんて発想出てくる訳ねぇだろ。
だったらソレを教えればいい。理不尽をモノともしない強かさが必要なんだって教えてやる。
次の日、疑問顔の白髪幼女の為に、お勉強を教える事にした。教科は道徳だ。
「いいっすか、私達の武器は無垢さです。ソレで相手を油断させるんですよ」
「……たち?」
いや、難しく考えんでもいいわ。
余計なお世話、いいじゃない。私がどうなろうが構わないと思ってるなら、白髪幼女にアドバイスしてもいいでしょ。……それがいい事かは別としてねぇ。
「私達子供は残念ながら非常に無力ッス。だからと言って、やられたままなんて腹が立つよね。だから、考えて相手の嫌がる事をするんスよぉ。いや、むしろ無力だから出来る煽り方ってのもありますね。でも加減ってのは大事で、やり過ぎると怖い目に遭うよ」
まぁ、色々言うけど、言いたい事はただ一つ。誰も助けてくれねぇんなら自分で何とかするしかない!
その心構えだ。誰かの助けを求めるんじゃなくて、誰かを利用するくらいの強かさを教え込んでやる。
「……」
白髪ママがテメェ娘に何吹き込んでやがんだ! みたいな顔してるけど、知らん……。
守る立場のママさんじゃ教える事はできないだろ?
「いいッスか。タイミングです。一番効果的なタイミングを狙って、ぶりっ子ポーズ! 相手の悔しがる顔を想像して「エヘヘ……」これは腹立つぞぉ……」
「……うわぁ」
うわぁって言うなよ。傷つくだろ。
あとキミも覚えるんだよこのポーズ。
「はい、無垢な顔して相手を煽るポーズ! せーの……」
「「えへへ……」」
「いいッスよ! 幼女ちゃんには相手をイラつかせる才能があります!」
「……ありがとう」
ちっとも嬉しそうじゃないけど、私は構わない!
これで白髪幼女の将来がどうなろうが、私の知った事じゃないよ。
でも、白髪幼女に今必要なのは、ただの無垢な子供じゃない。理不尽を跳ね除ける強さだ!
ごめん、本当は無垢な子供が歪むのを楽しんでるのもあります。
でも、心の強さも必要だと思ってるのは本当だよ。
「「えへへ……」だいぶ様になって来たっすね。もっとお目目をキラキラさせると、相手はイライラすると思いますよ」
「……」
なんか白髪ママから冷気が漂ってきてる気がするけど……気のせいやろ!
「愛嬌ってのは武器になるッス。表面だけ取り繕えば相手は油断するし、余計な諍いも避けられるっスよ」
おっと、なんか白髪ママがギシリと音を立てて立ち上がったぞ? タイムリミットが迫ってる。
「かく言う私も愛嬌には自信ありまして。友人からはよく「アンタを隣に置いておくとモテるのよね……」と褒められた事があるッス」
「……哀れ」
どうした悲しそうな顔をして、私は白髪幼女が泣かないで、乗り越える術を教えていると言うのに。
と思ったらアレ? 白髪幼女がトテトテ走ってベッドに逃げ込んだぞ。
「……いい加減に……しましょうね」
タイムオーバー、私の肩に手を置いたママさんは笑顔だったけど、すげぇ怖かった。ちょっと調子に乗りすぎたか……。
そして幼女ちゃん逃げ足が早いじゃん。見どころあるわぁ……。
「え、えへへ……」
反面教師ってヤツですよぉ。




