怯えているのはどっち?
「……どうぞ」
「あ、ども……」
目の前に紅茶が出される。
白髪ママは尋問室側のキッチンで紅茶を淹れて来たようで、わざわざ私の分まで用意してくれたらしい。
正直、紅茶の味なんてよく分からんけど、白髪ママが自発的に行動するのはいい事だと思ってる。
いちいちキッチン使っていいですか? とか聞かれたらたまったもんじゃない。
それになんだかんだ言って、この牢屋だって厳密には私の部屋という訳ではないのだ。
遠慮なく部屋の施設を利用したらいい。
どの位一緒にいる事になるか分からないが、気を遣ったまま過ごすのはお互い気疲れしてしまうだろうしね。
状態としては、同じ部屋を間借りしている者同士が一番しっくりくる。
「……」
白髪幼女の方は餌付けの効果があったのか、最初に比べると私に対する警戒が薄らいだ気がする。
でも完璧に信用もしていない感じ。
お茶を飲みながら、まったりとした時間が流れる。
私が白髪親子の事情を聞かないからだろう、向こうも私の事情を聞いて来たりはしない。
まぁ聞かれた所で答えようもないんだけどね。
もと密航者で、今は勝手に牢屋に住み着いてますとか意味がわからんだろ。
あーそういえば……。
「三十万ネルスって、どの位の価値があるんすかね?」
雑談ついでに質問してみた。三十万円だったら分かりやすいんだけど。
この際だ。一般常識のお勉強と行こうかね。
白髪ママは紅茶を置いて、少し考える仕草をする。物静かな人だね。
「そうですね……。確か、中距離移送核の一回の利用がその位ですね」
「……」
知らねぇ単位を、知らねぇ物差しで測られても!
「……」
「……平民の、年収より少し少ないくらいでしょうか」
「え、あぁ、どぅも……」
あ、別の例えを用意してくれて、ありがとうございます……。
う〜む、年収より少し少な目かぁ……。暫定的に三百万円と考えておこうかな。
一ネルス十円ね。
……おい豚貴族。匿うだけで年収クラスの報酬を払うとか、高すぎて逆に怪しいわ。
豚貴族の金銭感覚がぶっ壊れてるんじゃなかったら、お前どれだけヤベェ橋を私に渡らせようとしてんだよ。
「……」
おう、見られてる……なんか白髪幼女にジッと見られてるんだけど……。なに? もっとお菓子をよこせとか言いたいのか? 口に出してもらわんと私、分からんぞ。
「……」
まいったなぁ……。
白髪ママの方は……ダメか。目をつぶって考え事をしている。ちょっとお母さん……子供の相手くらいしてあげてよ……。
ん〜……。そだね。無理だよね。
事情は分からんけど、大変なんだろう。娘の相手ばかりしている場合じゃないんだろ? コレからのことを考えなきゃいけないんだ。
だがスマン白髪幼女よ。私はキミの相手をしてやる器は持ち合わせていないのだ。
と言うことで……。
「あ、すんません。私寝るんで……」
逃げさせてもらいます。
私はクローゼットのスキマの中に逃亡した。
スキマの空間の中で、私はクッションを枕に寝転がる。
「あ〜、気を使うわ……。ルームシェアって大変ね」
ん? おやぁ……。
「……白髪幼女ちゃん。いったい何の用だろうね?」
白髪幼女は私の入ったクローゼットを少しだけ開いて、覗き込んでいた。
「だけど残念だねぇ……私はクローゼットの中に居るんじゃなくて、クローゼットの中に作ったスキマの中にいるんだから」
恐る恐る覗いていた白髪幼女は、クローゼットの中に私の姿がない事に驚いて、扉を開け放つ。
「ふはは、不思議かろう。確かにクローゼットの中に入ったのを見てたんだもんねぇ」
しまいにはクローゼットの中に入り込んできた白髪幼女は、奥の壁をペタペタ触って確かめ始めた。
ふ〜む、なかなか好奇心旺盛じゃないか。オドオドした子供だと思ってたけど、人並みの冒険心は持ち合わせているらしい。
私的にはそのくらい悪戯気がある方が好みだよ。
急に同居人ができて身構えてたけど、そんなに深く考える必要なんてなかったかな? たぶん警戒してたのは私の方だったんだ。
ハッキリ言って私はこの世界の人間全員を警戒しているんだ。そりゃそうだよね。
文化も何もかも分からない世界で、最初から無条件に他人を信用する方がどうかしている。信頼をするには私の常識がたりないんだ。
こんな子供が、突如豹変して化け物の姿で襲ってくるなんて状況もあるかもしれないだろ?
私は臆病だからね。リスクを避けて安全を取るのは当たり前だよ。
でも、分かってるよ。この白髪幼女は化け物に豹変しないし、この世界の人間が全員私を騙そうとしている訳じゃない。
この世界で過ごした、少しの時間と狭い世界で私も学んだよ。
「はは、あんまり怯えちゃ可哀想ッスね」
そうだね。この牢屋は子供にとって退屈だもんね。私ですらヒマなんだ。少しの冒険くらいするだろう。
「外に出たついでに、子供でもヒマ潰しできるモンを探してきましょうかね」
絵本とかあったらいいんだろうけど、領主館にそんな物ないだろうなぁ。
「差し当たって、勇気を見せてくれることで、臆病な私に勇気をくれたキミに褒美をあげよう」
私はスキマから、ヌウっと右手だけを出して白髪幼女の頭を撫でる。そして固まった幼女のポケットにお菓子を忍ばせてやった。
「うわぁぁぁあああん! オバケぇぇええええ!」
「きゃはははははは!」
冒険心は満たせたかい?




