アイドルとは……
モノレールみたいな乗り物の窓から、自然豊かな湖を見下ろしております。どーも私です。
「おお……滝だ。滝だよ幼女ちゃん」
「……あれ滝でいいの?」
「だうう?」
う、う〜ん、滝……滝……かなぁ?
正確に言うと、湖の端から下に水が落ちていっているというか……。
「湖から湖に水が落ちてるね」
ほれ、ここって大きな湖の上に浮かんでいる『造船所』じゃん。んでその造船所にも湖があるわけよ。
その浮遊大陸のごとき造船所の湖から、下の湖に水が落ちてんのよね。
「ま、途中で霧になってるけどさ」
これってそのうち造船所湖の水ってなくなんねぇのかな……。
「アンタ達、騒ぐんじゃないわよ」
ボックス席の反対側に座る尻軽女が、眉間に皺を寄せて睨みつけてくる。分かってますってぇ、大人しくしてるでしょ。
はい、実は尻軽女が場所を移動するらしいので、私達も行先について行っています。というか連行だねコリャ……。よほど箱庭トレーニングがお気に召したようですわ。
まぁいいよ、こっちもお前を利用して造船所を脱出するつもりだから、それまでは利用価値を示さにゃならんし。
「しかし、この列車スカスカッスね」
モノレールの車内を眺めて私は首を捻る。
私たち以外に乗客が一人も居ないんだけど……こんなもん? これで経営やってける?
そんな何処ぞの知りもしない鉄道会社の経営を心配していると、前の席から呆れたような視線が飛んでくる。
「はぁ、アンタねえ……仮にもアイドルが一般客と一緒に交通機関を利用するわけないでしょ」
知らねぇよ……未だにお前がアイドルってこと少し疑ってるからね私。
「んじゃこの列車って……」
「そうよ、私達アイドルで貸し切ってるプライベート列車よ」
ぷ、プライベート列車って初めて聞くワードだわ。
「いや、アイドルの移動なんて車でいいだろ……」
知らんけど、マイクロバスみたいなので移動するんじゃないの?
私の言葉に尻軽は、戯けたように手を広げる。
「あー、なんかねえ。造船所って陸路での移動があんまり便利じゃないらしいのよね。だからウチの事務所で列車を貸し切ったのよ」
ほーん、アレかな。飛行船が発達してるから、道路の整備は重要視されてないとか? もしくは浮遊大陸が実は列島みたいにバラバラに浮かんでるとかね。
――――――――――――――――――――――――
「きゃっきゃ!! だいだぁい!」
「キミこれ好きねぇ」
モノレールのボックス席で、シャボンに入れた赤ん坊をコロコロ転がしながら座席の端にいる幼女ちゃんにパス。
今度はバレーボールのようにポーンと放り投げてキャッチ。
「きゃっきゃ!! だぶだぶ」
ちょいと非人道的な行動に見えるけど、おくるみシャボンの中は衝撃なんてまったくない。バスケみたいにドリブルしても赤ん坊には問題ないし、何よりこれやると喜ぶんだよね。
流石に人前ではやらんけど……。
「………………ぬぅ」
「う?」
両手で『おくるみシャボン』をキャッチした幼女ちゃんが、難しい顔をしてシャボンをポヨンポヨン叩く。
「……オバケ姉ちゃん、この『おくるみシャボン』ってわたしに説明してない機能ある?」
「ん? いやぁ、説明した以上はないよ。ひたすら頑丈で赤ん坊に危害が加わらないようにしただけ」
それ以上はインダストリークラフトで追加アップデートしないといけないけど、まだ工場も出来てないからね。
「なんか気になるの?」
私の質問に幼女ちゃんは、考え込むように目を瞑る。
「……たまたまかもしれないけど……シャボンに入っているとき、コイツ浮かばないんだよね。なんか阻止する機能って付けた?」
「ほ?」
…………そういやそーかも?
偶然か? いや、偶然だろ。
私、この世界の不思議エネルギーに干渉なんてしてないし、おくるみシャボンにそんな変な機能なんてつけた覚えはないよ。
落下した時に無事であるようにはしてるけど。
「……安全が確保された状態だから? いや、寝てる時でも飛ぶし…………」
ブツブツ呟く幼女ちゃん。まぁたぶん偶然だと思うよ。もしくは私の能力によるところじゃないね。
そんな話をしていたら車両のドアが開いて、一人の女が入ってきた。
「ああ〜、リーダ〜ここにいたんですね。探しましたよ〜」
「いたわよ。アンタ隣の車両にいたのね」
入ってきたのは、甘えた声の純粋そうな美少女だ。
ん〜、たぶんアイドルの仲間かな? 後輩アイドルって感じだろ。うん、この姉ちゃんは如何にもアイドルって雰囲気だ。
「あれ〜、この子達はどうしたんですか」
そんなザ・アイドル姉ちゃんは、尻軽女の向かいに座る私達を見て目を丸くする。
よしよし、こちらも自己紹介しなきゃいけないね!
「隠し子ッス!」
「あ、そ〜なんですね〜……」
スルーされた! おい、テメーんとこのリーダーの隠し子だよ!? アイドルとして致命的だよ!? いいの!? なんか私が滑ったみたいじゃん!
「り〜だ〜……アイドルが隠し子はマズイですってえ〜」
「はぁ、親戚の子を預かってんのよ……」
いででで……頭グリグリすんなよ。
「ま〜リーダーなら問題なさそうですけどお……」
「……そうね」
え〜……お前アイドルなのに隠し子がいてもいいの?
どう足掻いても致命傷だろ……。
「ま〜、隠し子なんて騒がれると大変なんで、バレないようにしてくださいよ〜」
「はん、最悪アイドルの卵とか言っときゃいいでしょ」
「流石に赤ちゃんはないですってえ〜」
後輩アイドルは尻軽女の隣に座る。
は〜、しっかしこの後輩アイドルは、絵に描いたようなアイドルって感じだよね。純粋そうで後輩キャラって感じ。
そうそう、アイドルって言ったらこんなんだよな。何処ぞのアバズレ尻軽がおかしいんだよ……。
ジュポ……ス〜
「………………」
う、うん。この後輩アイドル……タバコに火ぃ付けたんだけど……。
「ん〜〜〜! おいし〜〜!」
まるで甘いパフェでも口にしたような顔と声で、後輩アイドルは鼻から煙を吹き出す。
「ちょっとアンタ……吸うなら別の場所行きなさいよ! 臭いがうつったら男が寄ってこないでしょ!」
「え〜〜、ここ喫煙オーケーな車両ですよぉ? 我慢してたんだから見逃してくださいよ〜」
嘘だろ……これアイドルの会話か?
ファンには絶対に見せちゃいけない姿だろ……。
後輩アイドルは、タバコを咥えながら私達を見て首を捻った。すげぇよアイドル……咥えてんのタバコなのに雑誌の表紙でパフェのスプーン咥えてるように見えるんだもん……。
「ん〜〜〜、あ、そっか! いけないいけない」
私達を見て少し考えた後、ポコンと自分の頭を叩くとタバコを携帯灰皿に潰した。
「シャバだと赤ん坊の近くで吸っちゃいけないのが普通ですもんね〜」
シャバってアンタ……もしかして前科ある?
「お勤めの後の一服っておいしくてえ〜。キミ達ごめんネ?」
あるね前科!
ペロっと舌を出して前科持ちアイドルは、隣の車両へと移動していった。
「なんつ〜か……アイドルって凄えッスね……」
「アレが特殊なだけよ……まぁアイドルなんてクセの強いヤツばっかりだけどね」
お前筆頭だろ……クセ激強のヤツがなんか言ってるわ。
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その後モノレールから降りた私達は、専用の下り口を通って外に出る。すると尻軽女の前に、メガネを掛けた男がやってきた。
「マネージャー、着いたわよ!」
「フェーレさん、こちらに車を回してます」
ブスっと捻くれたような顔をする尻軽女に、マネージャーと呼ばれた男は無表情に車のドアを開ける。
仲は良くねえのかな?
そして無愛想男のマネージャーは私達を見て、目を丸くした。
「フェーレさん……この子達どうしたんですか?」
「あぁ、親戚の子よ。しばらく預かることになったの」
お前それで押し切ろうとすんなよ……。マネさん頭抱えちゃったでしょうが。
「あのですねえフェーレさん! アナタ自分がアイドルだって分かってます!?」
神経質そうにマネージャーさんは、唾を飛ばしながら詰め寄るが、尻軽女は耳を塞いでヤンキーのように片眉を上げた。
「ああ!? 何がアイドルよ! アンタの持ってきた無茶な振り付けをコッチは完璧にこなしたでしょうが! 文句があんの! それともナニ? 問題があんの?」
いや、あるだろうよ……。むしろなんで赤ん坊連れたガキ共を連れ歩くのが許されると思ってんだよ。そんなんしたら本当に隠し子だって騒がれちまうだろ。
「………………」
マネージャーは捲し立てるようにヒステリーを起こす尻軽女のセリフを聞いて、顎に手を当て考え込む。
そして無表情にこう呟いた……。
「……よく考えれば別に問題ありませんね……普通のアイドルと誤解してました」
ねぇの!? え? アイドル業界ってヤベー奴しかいない!?
「でしょうよ。『契約』にないんだから問題ないわね」
「その通りでした。アナタにはアイドルとしての真っ当な働きは期待してませんし……」
なんなのコイツら……いや、アイドルとしての真っ当な働きに期待してないって。アイドルなんじゃねぇのソイツ……。
「それより何よ、あの振り付け! 私だけ難易度終わってんじゃない!」
「むしろよく完璧に仕上げましたね……普通に引きましたよ。絶対無理だと思ってたのに……」
「無理だと思って押し付けたのかよ! テメーケンカ売ってんだな!」
「もういいので車乗ってもらえます? アナタ以外は表で出待ちにファンサービスやってるんですよ。ほら、キミ達も……」
「ちょ、押すんじゃないわよ! セクハラよ!」
「僕としてはナマコでも触ってた方が罪悪感ありますね。さっさと乗ってください」
マネージャーに私らごと詰め込まれたわ……。
しかし、仲悪いなぁコイツら。というよりこのマネージャーも淡々としてるわ。
いや、クセの強いアイドルのマネージャーなんてこれくらいないとやってけないのかもね。お疲れ様です。
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ついた場所は、立派な敷地にある旅館のようなホテルだ。アイドルっていいとこに泊まるのねぇ……。しかも他の客がいないところを見るに貸切だろ。
「あ、フェーレさん。奥に舞台の練習をする建物があるんで向かってください。もう皆集まってますよ!」
「忙しないわね! 分かったわよ!」
ほう、敷地内に練習をする施設まであると。
「尻軽姉さん。私らはどーします?」
「部屋も案内されてないし……いいわ、すぐに終わるからアンタらも着いてきなさい!」
へいへ〜い。私らも舞台施設について行きますよ〜。
……めんどくせぇな。あんまり時間が掛かるようだったら抜け出すか。
無愛想マネージャーの後ろをついて行ったら。体育館のような場所に辿り着く。そして中に入ると、おそらくアイドルであろう女達が思い思いに過ごしている。
結構人数多いね。数十人くらいいるぞ。
そして入ってきた私達に視線をやったアイドルが、マネージャーに話しかける。
「ちょっとマネージャー! 部屋割りどーなってんの! ウチは人数多いんだから分けてよ!」
おおっと、のっけから喧嘩腰よ。
いやこのマネージャーも淡々としてるから言い合いになるんだろうな〜……。
「はぁ〜い! ただいまぁ。すみませぇ〜ん。すぐに宿に言って部屋を分けますねえ〜」
「マネージャー! ウチの付き人来てないんだけどしらない?」
「はい〜、確認とってきます!」
しかしマネージャーは、いくらか声色を高くしてヘコヘコとアイドルに機嫌をとる。
ええ……お前さっきとキャラ違うんだけど……。
アバズレ女にだけ上から目線だったんだ。
いや、他のアイドルと違って尻軽舐められてんなぁ。
そそくさとアイドル達の無茶な我儘を叶えるために、マネージャーさんは体育館から出て行ってしまった。
おい、どーすんだよ。
あのヘコヘコマネージャーに舐められてる尻軽女に付いてたら、私らまで虐められちゃうんじゃね?
ビクビクしている私を他所に、尻軽女はズカズカと体育館を進み。舞台の上に立つ。
そして、小さな声で呟いた……。
「……………………集合」
一瞬……さっきまでガヤガヤ話していたアイドル達がピタリと会話をやめる。
シーンとした体育館の中で、アイドル達の視線が壇上の私達に突き刺さった。
ほんの僅かな静寂……。
次の瞬間、ダッとアイドル達全員が乱闘のように走り向かってくる。
おわーー! 怒らせた! 謝れ尻軽!
ボコボコにされんぞ!
しかし、アイドル達は舞台の前でピタリと停止した。
全員がキッチリと並んでいて、背筋を伸ばしながら真面目な顔で直立している。
「……よろしい。休め。みんなダンスは覚えてきているわね?」
「「「「「「「「「はいッ!!」」」」」」」」」
ザッと軍隊のように、一糸乱れぬ動きで返事をするアイドル達……。
「………………」
ねぇ、なんでマネージャーは舐められてて、お前は軍の隊長みたいになってんの!?
お前らの力関係いったいどーなってんの!?




