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パパのちょっといいとこ見てみたい


「あの〜、コレはですね〜!! あの〜……」


 若造が不祥事を起こした政治家の記者会見のような文言で、総ダン長を止めようとスーツを引っ張るが、一ミリも体は動かない……。

 覗き込むようにイカつい顔を私達に向けて、凄まじいプレッシャーを放ってくる。


 あ〜あ〜ヤベェヤベェ! 見つかったー! どーすんのこれ!! 逃げるための能力も大したもんセットしてねぇぞ!


 スキマ

 言語

 ライド遊具

 監視カメラ


 クソッ監視カメラの能力が邪魔だ。

 幼女ちゃん! キミはなにか無いか?


 あ、ダメだ。死んだ目してやがる。

 グイグイこっちに押し出すんじゃねぇ!


 ええっと、唯一ある扉にはスキマを作ってあるから速攻で逃げ込んで外に……それからは幼女ちゃんとバラけて逃げるのがいいか?


 いいや違う! まだ逃げる場面じゃない!


「こ、こんにちは〜。いい床ッスね」

「……ちゃす」

「…………」


 他 人 の フ リ だ!

 私達は小悪魔じゃないよ〜……ただの一般通過幼女ですよ〜……ダメ? 帽子とフードで顔を隠してるけどダメ?


「…………」


 総ダン長は、持っていた机を下ろすと腰にしがみついている若造にジロリと視線をやる。言葉にするならば『……これはどう言うことだ?』といった感じですかねぇ〜……。


「ッ!」


 その視線に言葉を詰まらせながらも、若造は口から言葉を絞り出す。


「あの〜、その子達は……職員のお子さんで……」

「……」


「え〜、少しの間預かることになってですね〜……」

「……」


「…………はい」


 諦めんなー!


 総ダン長は再び私達に視線を戻すとしゃがみ、観察する様に岩のようなイカつい顔を近づけてくる。

 そして……私達の体ごと握りつぶせそうな両腕が頭に伸びてきた……。ぎゃー!!


 ガシリと私の帽子と、幼女ちゃんの被っているフードを頭ごと掴まれる……。握り潰される!!


 静かに……

  無骨な口が開かれる……。




「………………そうか」

「……」

「……」

「……」


 えっとぉ……これは、もしかして。

 ……頭を……撫でてる?


「職員の……子供か……」

「……」


 ……すぅ〜…………騙せる!!

 この筋肉スーツ騙せるぞッ!!


「パパがぁ〜お仕事で忙しいからぁ〜。しばらくお兄さんに預かっててもらってるんスぅ〜」

「……すぅ〜」


 行け! このまま押し切れ!


「……そうか」


 そう呟いた筋肉スーツの総ダン長は、割れ物を扱うようがごとく私達の頭から手を離すと、考え事をする様に自分の顎に手を当てた。


「急な視察に職員の負担が出たか。すまない事をしたな……」


 ッシャァ! この脳みそ筋肉がぁあ!!

 よく考えりゃ、幼女ちゃんの目立つ白髪さえ隠しとけばそうそう小悪魔と関連付けられんわな。


「ふむ、職員に向けた託児施設の導入を検討すべきか……」


 ス……と立ち上がった総ダン長は、若造に振り返り神妙な顔をして頷く。


「クイック……子供が苦手だと思っていたが、そんなお前が幼子の面倒をみるなど感心だ」

「ッ……そう……ですか」


「我はそろそろ行く。先に列車で来たので秘書が探しているだろう……」


 総ダン長は言葉を選ぶ様にゆっくりと喋る。

 ん〜なんとなく……だけど、私達を怖がらせない様に口数を増やしてる気がするね。


「クイック、今日は話せてよかった……」

「……ええ」


 そう言って総ダン長は事務所からノシノシと出て行った……。


「「「ふぅ〜……」」」


 若造は疲れた様に頭を抱えて椅子に座り込み、私達はズルゥ〜……と床に潰れた。

 き、緊張した〜。


「……なんとか……総ダン長と小悪魔の衝突は免れましたか」


 若造が自分の肩を抱いて、心底安心したように呟いた。


 衝突って言うのやめない?

 なに? お前の中で総ダン長と私達って、ぶつかったら拮抗する想定なの? 物理とか苦手? ……私達が潰れて終わりだわそんなん!


「衝突じゃなくて事故でしょ。死ぬかと思ったッスわ。つか若造兄さん! 総ダン長を煽り散らすのやめてもらえません!? 殺されっかと思ったんですけどぉ!!」


 若造の感想に両手を上げてプンスコ文句言うと、彼はス……とマブタを細めて非難するような目で返してきた。


「ならば姿を見せるのはやめて欲しかったのですが?」

「うっ……」


「私言いましたよね? 牢屋から出ないで下さい……と」

「……え、えへへ」


 やっべ怒ってる……。


「それで目の前に現れた挙句、怒らせるなと言われましてもね……心臓が一瞬止まりましたよ私」


 す、すまんて。理詰めの説教が似合いすぎるのよ若造兄さん。

 そうだね。お前はコレを危険視して、わざわざ私達に総ダン長の視察情報を渡してきたんだもんね。

 それで見つかったあげく、怒らせんじゃねぇって言われたら不満もでるか。


 若造はグウの音も出ないほどの正論を撒き散らしながらジーっと半眼で見てくるが、やがてため息を吐いて首を振った。

 ゆ、許してね。カワイイ幼女のイタズラでしょ?


「まぁいいでしょう。しかし、恐ろしいですね」

「ねぇ〜。メッチャ小悪魔憎んでんじゃん。恐ろしいッスわ」


「……貴女達のことですよ?」

「もしや眼球のほう腐敗されてます?」


 お前どー見ても私達より、あのマッスルゴーレムの方が怖えだろうが。


「まさか、ここまで足を伸ばしているとは思いませんでしたよ」


 あ〜うん。コイツからしたら思ったより私達の行動範囲が広がってた感じなのか。


「なんにせよ、総ダン長とアナタ達がぶつからなくて一安心と言ったところですか……」


 ん〜、やっぱり過大評価は治らねぇな!

 私達の扱いに困ってるのだけは分かるけどね。

 私達が総ダン長から身元を隠したから、敵対の意思がないことに安心したらしい……最初からねぇよ。


 この辺で本格的に誤解を解いておくか……。

 正直やりづらいし、ぶっちゃけナメて貰わないと困る。


「若造兄さん。マジなこと言いますけど、私ら本当に無力な子供ッスからね」

「……」


「逆に聞くけどさ……アンタ本当に私達がダンジョンをぶっ壊せるような化け物だと思ってんの?」


 若造は私の言葉に僅かに口を開いて、そして迷ったように閉じると真剣な目でコチラを見てきた。


「……貴女達は……本当に子供の力しかないのでしょう。それは何となく……私にも分かっているのです」

「だったら」


「だからこそ……私はアナタ達『小悪魔』が恐ろしい」

「……」


 緊張を孕んだような静かで冷たい目。それを真っ直ぐに向けてくる。


「確かにあなた方『小悪魔』はダンジョンを壊す力のない『ただの子供』。ですが、壊す力などなくとも……アナタ達なら『壊します』」

 

「あたま良さそうな顔してメチャクチャ言うんだけどこの人……」

「……かだい評価ここにきわまれり」

 

 もぉ無駄だこの兄ちゃん。私達に対する考えが理屈じゃねぇーんだもん。こんなもん説得のしようもねぇよ。

 はい、この話終わりね。

 でもムカつくから少し煽ってやろ……。


「それにしても若造兄さん、随分と楽しそうでしたね?」

「……楽しそう?」


「えぇ、総ダン長を煽ってる時の兄さん、随分と嬉しそうでしたよ?」


 ニィイイと笑って私も煽るように笑う。

 他人を煽ってる時って楽しいよなぁ? お前もそうだったんだろ? 私も同じさ……。


「…………ふむ」


 でも若造は、私の言葉にキョトンとした後、顎に手を当てて考え込んでしまった。あれ? なんか予想してた反応と違うね。ちょっと面白くないんだけど……。


 若造は天井を見上げたり、テーブルに視線を落としたりする。そして考え込んだ表情のまま席を立つと、無意識のようにスタスタと炊事場からコップを二つとり、冷蔵庫からジュースを取り出してテーブルに置いた。


「……どうぞ」

「あ、ども」

「……いただく」


 あ、ジュースくれんのね。ありがと……。

 私と幼女ちゃんは、総ダン長が座っていたソファーに腰掛けてジュースをチビチビと飲み始める。あ、ネットリ柑橘系だ。この微かな苦味がいいよね。

 

 その間も若造は考えこむように視線を動かしていたが、やがて不思議そうな顔で口を開いた。


「どうやら私は楽しんでいたようです」

「たっぷり考えてソレだけ!?」


「言われて気づきましたね。いやはや、自分の無自覚な感情を自覚するのは難しい……」


 感心したように若造は頷く。

 う、う〜ん、そうですか……。なんか行動原理が意味不明すぎて興味わいてきたわ。


「じゃあ、若造兄さんは何が面白くて、総ダン長を煽ってたんです?」

「……たぶん私は、煽る事が楽しかったのではなく、怒らせることで総ダン長の強さを感じたかったのでしょうね」


「んー……『パパのちょっといいとこ見てみたい』ってこと?」

「それです。親として尊敬しているのですよ? ですが言葉の足りない人ですからね。小悪魔の名を出して怒らせることで、プレッシャーをその身に感じたかった」


「んで見事怒らせて『ヤフィー! パパやっぱりカッコいいー!』ってニヤついてたんだ」

「まさしく。父親に相手をしてもらいたかった部分もあるでしょう」


 お、おう……。


「なんというか、わりと子供っぽいこと恥ずかし気もなく吐露するんすね……」


 若造は立ち上がると、おどけたように肩を竦めた。


「ええ、なんせまだ『若造』ですから」


 そう言いながら事務所の扉に向かって歩く。


「お二人も、今度こそ牢屋から出てこないでくださいね。あぁ、ダンジョンから出ていくなら歓迎しますよ」


 若造は事務所から出て行った。


 ふぃ〜、まぁ何にせよ助かったわ。

 少し休憩したら牢屋に帰ろ……。



 ――――――――――――――――――――――

 


「帰るタイミング逃した!!」


 はい、今はですね〜。

 さっきの事務所にスキマ作って引きこもってんだよね〜。


 というかね。グダグダしてたらいつの間にか事務所の外に職員がね……。

 

 監視カメラを確認すれば、緊張した顔で空港に並ぶキツネ顔と高飛車女。そして幹部達。

 う〜ん、これは出られねぇ……。


 仕方ないから監視カメラで確認しながら隙を見て帰るタイミングを計ってます!


「お〜お〜、ピシッと整列しとるやん」


 監視カメラを確認しながら呟くと、エレベーターの扉が開いて、総ダン長とその後ろに秘書みたいな人物が出てきた。


 総ダン長が歩くたび、ビリビリと空気が震える。圧倒的な存在感だ……。


『キ……シシ、総ダン長。ようこそお越しくださいました』

『オホホ……視察のスケジュールですわ』

『……うむ、しばらく世話になる』


 吐き気のするような緊張の中、キツネ顔と高飛車女が挨拶をする。

 

「いやその人、本日二度目ですよ……」


 さも今し方到着したみたいな顔してっけどさ。さっきまでこのプレハブ小屋でコーヒー飲んでましたから……。


『キシシ……まずはどちらのダンジョンから向かわれますか?』

『ああ、いや待て。本日はもう一人来る』


 総ダン長が片手で止めると、空港に影が落ちる。


『あれは……『造船所?』』


 飛行船だ……。

 おかしいと思ったよ。総ダン長は飛行船なんかで来なかったのに、なんで空港を作らせたんだろうって。この為だったんだ……。

 大きさ的には学校の運動場くらいの飛行船だね。

 しかし……


「だ、だっせぇ……」

「……ピンクの飛行船とかセンスわるい」


 全身ピンクの飛行船だ。

 形は流線形で速そうなフォルムしてんのに、ピンクに塗装された船体が台無しにしてる。


『造船所勢力』ね。

 私達を雪山でぶっ飛ばした『包帯ジェット機野郎』がソレなんじゃねって話だったんだよね。

 なんでも上層部は生身で空を飛ぶとか……。


 高飛車女が一発で造船所の飛行船だって判断したって事は、あのピンクの飛行船が造船所勢力の目印かね?


 ピンク飛行船はゆっくりと空港に着地する。

 そして飛行船から一人の男が姿を見せる。


 日に焼けた自信のありそうな渋めの男。顔はニコやかに総ダン長に向けられている。

 ピンク色のコートに帽子を被ったオッサンだ。

 色にさえ目を瞑れば、ちょっと若めの軍艦の艦長って感じ。いや、この場合は飛行船だから船長かな?


『あ、ディケード総ダン長! 今到着しましたー!』

『うむ』


 ピンク飛行船の上から大声で豪快に声を張り上げた船長は、なんと……飛んで降りてきた。

 両腕からジェット噴射みたいにバランスをとり、目を白黒させている人工ダンジョン勢力の真ん中に降り立つ。


 そして豪快に笑いながら総ダン長と握手する。


『おっとっと、いやぁ〜。ご無沙汰してます総ダン長殿!』

『あぁ、この間はすまなかったな』


『いえいえ、予定が狂ったのは総ダン長のせいではありませんよ』


 おそらく……この会話はキツネ顔や、高飛車女には距離的に聞こえてないだろう……。私の監視カメラだけがその会話を拾っていた。


『はっはっは、先代の腕と判断が的確過ぎましたね。まさしく傑物でしたよ……まんまとしてやられました』

『うむ、今日は存分に視察をするがいい……』


 ん〜……なんか飽きてきたわ。

 どーでもいいから早く終わってくれ。牢屋に帰りたいから……。

 そんな挨拶の最中、空港に居る全員が空を見る。


「んで……今度は何よ……」


 また空港に飛行物体接近中ですわ。

 今度は小型のヘリっぽい乗り物。


「招かれざる客なのかな?」


 総ダン長や、ピンク船長の反応からしてそう……。

 そしてヘリコプターから、フード三人を引き連れた男が降りてきた。


「あー! もういいよ! ピンク船長だけでもお腹一杯なのに、これ以上知らんヤツ出てこられても困るわ!」


 だいぶ飽きてる私がモニターに向かって叫ぶ。

 だが一緒に見ていた幼女ちゃんは、目を細めて呟いた……。


「……オバケ姉ちゃん……どうやら知らんヤツでもなさそうだよ」

「あん?」


 その言葉に私はモニターを眺める。


「あら……あらら……確かに知ってるヤツだったわ。これは予想外……」


 ヘリコプターから降りてきた黒いスーツの男は、ニヤニヤ笑いながら総ダン長とピンク船長に歩いてくる。

 そして、サングラスの下から傷の入った目を向けて、ニィと笑った……。


『へへ、お騒がせしてすいやせん……人工ダンジョンの総ダン長様』

『……貴様、マフィアか……』


 ガラの悪い男に、総ダン長は目を細めて威圧する……。しかし、黒スーツの男はそのプレッシャーに僅かに汗を掻きながらも『ヒュー』と口笛を吹いてグラサンを掛け直す。

 

 うっわ久しぶりぃ〜。

 紹介するわ。マフィアで私達の世話係だった兄ちゃん。


「『傷グラサン』じゃ〜ん……」

「……」


 え?

 キモノお嬢来てないよね?


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― 新着の感想 ―
ははーん?さては総ダン長、子供好き故に勢力になった2人が心配でふざけてるって言ったな?
意外と良いパパとピンクと傷グラサンがダンジョンに。 視察という名のバトルロイヤル?もしくはお茶会??
お化けお姉ちゃんの方は映像とかに残らないから、幼女ちゃんの方さえバレなければ案外ごまかせる感じなのか? 小悪魔の外見を分かっていて、小悪魔が総ダン長から一応隠れていることは知らない傷グラサンの登場……
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