こう言うヤツが一番厄介
「……食事の時間です」
「あ、どーもどーも若造のお兄さん、お疲れ様ッス。いつもすんませんねぇ!」
青い扉からカートを押して入ってきたのはキツネ顔の部下、若造兄ちゃんだ。どうやら今晩の飯を運んできてくれたらしい。
若造兄ちゃんは緊張した面持ちで、私の言葉に微妙な反応を示した。
「若造……ですか」
「あれ、ご不満でした? お若く見えますけど」
「……いえ、仰るとおりです」
そう言って若造兄ちゃんはカートからお盆を取り出して準備する。
ふぅむ……嫌に丁寧な兄ちゃんだな。
私達の食事は、日毎に高飛車女陣営とキツネ顔陣営が交互に用意してくれてんだけど、キツネ顔陣営の時はこの若造兄ちゃんが運んできてくれてんだよね。
「……い、行きますよ」
「え? あ、はい。どうぞ?」
いつもはサラッと食事を用意してくれんのに、今日は牢屋の前で両手にお盆を持ったまま、そんな事を言って動かない。
はい? 何なん? さっさとメシくれや……。
「……」
腰が引けてるね……。
もしかして私達に怯えてますのん?
「……えっと、早く貰えません?」
「ッ! わ、分かりました……少し牢屋から離れて下さい」
うん、コイツ怯えてるわ。あー……アレかぁ、『小悪魔』ってヤツね。
どうやら私達は知らない間に小悪魔という『勢力』になってたらしく、若造兄ちゃんの様子がおかしいのはそのせいなんだろうね。
いや……ただの小娘に何やってんのコイツ……。
汗を掻きながらハァハァ言ってんだけど……噛みつきゃしねぇよ。
「もっと、もっと壁際まで退がって!」
「もう、分かったッスよ」
私と幼女ちゃんが面倒くさそうに壁際まで退がって座り込むと、若造兄ちゃんはカチャカチャと魔術施錠を解いて少しだけ開く。
そしてサッとお盆を二つ、地面に置いてすぐさま閉めた。
「いや、猛獣の檻かよ……」
「……いみねぇのにな」
幼女ちゃんシッ! 一応、私達が抜け出せるのはヒミツなんだからね! まぁ、バレたところで何やねんって話だけどね。
ここの人間温いから……。
まぁええわ。食事にしましょ。
私達は牢屋に置き去りにされたお盆をテーブルに置いて食べ始める。
「お、今日も美味そうじゃん」
今日の献立は小鍋とウドンのような麺。あと小鉢がチョロチョロ。
え、鍋? なんか変なもん出てきたな……。囚人に出すには面倒じゃない? 小ちゃい卓上コンロみたいなのに乗っかってる小鍋を見て私は首を捻る。
「えっと、幼女ちゃん。これどー使うと思う?」
「……ん」
幼女ちゃんが卓上コンロにタッチすると、グツグツと小鍋が煮え始める。
「ほぉ〜、なんか面白ぇな。卓上コンロと小鍋がセットになってる感じ」
美味そうやね。
…………ふむ、近くに食堂がある?
この小鍋セットみたいなのってさ、システム化され過ぎっていうか……提供するのに特化させてる気がするよね?
わざわざ私達の為に作ったってよりは、食堂が背伸びして作ったメニューを、注文して持ってきたって感じしない?
「何処かな何処かな〜?」
私は【立体マップを作る能力】を起動して浮かべる。
幼女ちゃんも私と同じ事思ったのか、私の浮かべたマップを見ている。
「……ここじゃない?」
幼女ちゃんが指さしたのはマップの端っこ、侵入禁止エリア扉の向こう側……。あ、たぶんこの侵入禁止エリアってのは恐らくコッチ側だね。
だから一般よりのエリアになるんだろう。
というか食堂なんだから、一般エリアにあると思われる。侵入禁止エリアに食堂なんて作ってもしょうがねえしな。
職員用の食堂ってところか。
「マップは此処で途切れてんね。幼女ちゃんが探索した方でしょ?」
「……うむ、侵入禁止扉に魔術施錠が掛かってた。それ以上は遠くてやめた」
なるほど……この緩衝地帯とやらは粗方探索したけど、その向こう側は未探索……。けど遠いから幼女ちゃんだと帰ってくるのが大変ってことか。
「…………は?」
ウドンのような麺を鍋に入れてグツグツしてると、間の抜けたような声が聞こえた。会議室に座って作業している若造兄ちゃんだ。まだ居たの?
若造兄ちゃんは私の浮かべる立体マップを見て、いきなり自分のパイプ端末を起動する。すると、色分けされた地図みたいなものが映し出された。
「……」
そして若造兄ちゃんは地図の拡大を繰り返し、恐らくこの緩衝地帯を確認したのだろう……私のマップと見比べてテーブルに頭を抱えて突っ伏した。
「言い訳が出来ないほどの最高機密……なんで持ってるんですか……」
あ、はい。自分達の足で作った自前の地図ッス。そやね、侵入禁止エリアの詳細マップなんて一部の幹部しか持ってねぇだろうしね。驚くよね。おかしいよね?
「若造お兄さん、気にしない気にしない。お兄さんには関係ない……いいね?」
「……」
若造兄ちゃんは、無言で薬を取り出して一気飲みしてた。
「大丈夫……大丈夫。下手に手を出さなければ、何もされないはずです」
ブツブツと呟きながら落ち着けようとしている若造兄ちゃん。いっそ可哀想になってくるんだけど。
というかさぁ……。
「若造お兄さん……アンタおかしくない?」
「……へ?」
小鍋の汁を飲み干した私が呟くと、若造兄ちゃんはビクッとした後、何を言われているのか分からないといった顔をする。
いや、オメーだよオメー……。
「私……ですか?」
「そーッスね。アンタ、私達に対して怯え過ぎじゃない?」
「そ、それは君たちが小悪魔で……」
「あ、うん。それは分かったッスよ。でもね、他の皆さんはアンタみたいに私達を怯えてなかったよ?」
アンタだけだ。高飛車女もキツネ顔も、他の幹部もアンタ以外は私達に怯えてなんかいないんだ。
アンタだけが私たちに怯えてるんだ。
「小悪魔ねぇ……いいよ分かった。たぶん話を聞くに私達の存在は、此処にいる人間たちにとって不都合なんだよね?」
「え、えぇだから皆焦って――」
「うん、だから皆、『やっかいな物抱え込んじまった』って雰囲気なんだ。分かるよ。でも若造お兄さんは違うよね?」
「……」
コイツは『私達』に対して怯えてるんだ。
頭を悩ましてるんじゃない。怖がってる。
「私ら……ただの子供ですよ……」
やがて若造兄ちゃんは、脂汗を浮かべながら覚悟を決めたように声を絞り出した……。
「みんな……何も分かってないんですよ」
何がよ?
「キミの言う通り、みんな『やっかいな物を抱え込んだ』としか思っていない……キミ達の見た目だけを判断して、子供だと侮っている」
「……」
この兄ちゃん……
「キミ達は……『勢力』だ」
「それは、そちらも同じでは?」
「……そうです。人工ダンジョンという勢力の、沢山あるダンジョンの一つなんですよ」
「……」
「でもッ! キミ達は違う……たった二人で勢力……勢力そのものだ」
……厄介だな。
「映像見てたなら分かると思いますけど、ただ町長をペテンに掛けただけの子供ですよ……」
「違う……私は知っています。勢力はそんな甘くない……ただの子供に勢力が潰されるなんてペテンだろうが起こり得ない……」
コイツ厄介だ……。
「キミ達、勢力を抱え込むには、いち人工ダンジョンの手に余る……」
コイツ、本当に私達を舐めてない。ある意味、子供だからってのが通じない。
「私は怖い……こうして話しているだけでも、『油断』してしまいそうになる……」
油断してくれない。ペテンに掛けられない。
コイツ……厄介だ。
正直、舐めてくれないと本当に私達はただの無力なガキなんだよ。
「……最大勢力のトップを潰した存在なのに、ただの子供だと思い込みそうになる……」
なるべく敵に回したくねぇな……。
「私は……キミ達が怖い……」
奇遇だね。私もお前が怖いよ。
――――――――――――――――――――――
やがて食事が終わった私達の食器を片付けようと、若造兄ちゃんが牢屋の鍵をそっと開ける。
ふむ、今のところこの若造兄ちゃんに対する対抗策はないね。無理に敵対するつもりもないけど。
とりあえず、とんでもねぇ過大評価してるのだけは分かったよ。
難儀な性格してんね。考え過ぎで私達を必要以上に危険視しちゃってさ。でも私達にはこの上なく効果的なんだよねぇ。
ま、刺激しないようにしなきゃね。無害だと分かってもらえるといいけど……。
若造兄ちゃんが腰を屈めて牢屋に置いてある食器を取ろうと手を伸ばす。
「ッ!! う、うわぁああ!」
その手を掴む存在があった……。若造兄ちゃんが情けない声を上げる。
おい、白髪幼女……。刺激すんじゃねぇっつってんだろ!!
「うわァァアア!!」
しかもコイツ、目を赤く光らせて白目を黒くするという不気味スタイルしてやがる。掴んだ手とは逆の手に持った天然コアが、文字を撒き散らしながら光り輝く。
「……おわ」
若造兄ちゃんが反射的に掴まれた手を振り払ったので、幼女ちゃんはゴロゴロと私の横まで転がってきた。
「何してんのお前……ビビってるのが面白かったん?」
「……すこし」
「ッ!! ッ!! もういやだ!」
若造兄ちゃんはそう叫びながら、ガチャガチャとカートを押して会議室を出て行った。ゴメンねぇウチの幼女ちゃんが……。
「んで、本当にビビらせたかっただけなん?」
若造兄ちゃんが出て行って静かになった会議室で、私は横に転がる幼女ちゃんに話しかける。
「……ん」
幼女ちゃんが腕に巻かれたパイプ端末を見せつけてくる。そのパイプ端末に天然コアの撒き散らす文字が吸い込まれると――
「……コピーしてきた」
幼女ちゃんのパイプ端末から、若造兄ちゃんの使っていた色付き地図が浮かび上がる。
「……これ、たぶん人工ダンジョンの地図。辺りがどうなってるかこれでわかる……」
幼女ちゃんがマップを縮小していくと、様々な色の陣地が映し出される。これ、ここ以外の人工ダンジョンも映ってんのか?
確かに若造兄ちゃんを無駄にビビらせただけの成果はあるわ……。
コイツ、どんどん小賢しくなってくな……いいぞ! その調子!
しばらくフンフンと地図と睨めっこしていた幼女ちゃんは、私に視線を向けて迷ったように口を開いた。
「……オバケ姉ちゃん。ダンジョンが広い。そしてわたしが移動できる距離がみじかい」
「あ〜、ジェットブーツがある私と違ってキミは徒歩だからねぇ……」
「……わたしが速く移動できる方法……もしくは乗り物を用意して……」
オメー私の事なんだと思ってんだ! キャバ嬢の送迎ドライバーじゃねぇんだぞ!
クソ、でも確かに行動範囲が広がれば便利なんだよね。
「少し考えてみるよ」
なんかいいゲームあるかなぁ……。




