見て見ぬふり
「……」
「「「「「…………」」」」」
「「「「……………………………………」」」」
どーも私です。
……え、何この空気?
よく話聞いてなかったんだけど。
キツネ顔と高飛車女は、組んだ手を頭に当てて俯いてる。なんか後ろに立ってる幹部さんらしき人たちも、目線を斜め下に向けながら無表情で暗い表情してるし……。
まるで『大災害中に別の大災害の発生報告を聞いた対策会議室』みたいな重苦しい雰囲気なんですけど……。
どうやら、この大災害トッピングみたいなドン底の空気を引き起こしたのは、キツネ顔の幹部さん。私達を指差しながら、顔だけはダンジョンの長に向けられている。
「……小悪魔ですよねアレ?」
どーした若造の兄ちゃん、激サムギャグでもかまして大滑りでもしちゃったかい?
ま、私達としては……
「「……小悪魔?」」
首を捻るしかねぇわな……。
なんやねん小悪魔って。私達に言ってんのかそれ?
幼女ちゃんも疑問に思ったらしく、私に視線を寄越して口を開いた。
「……オバケ姉ちゃん、小悪魔ってなに? あいつ何いってんの?」
「いい質問だね幼女ちゃん。アレだよ、男を惑わす小悪魔ってことだよ。私達の魅力にメロメロってヤツさ」
「……おめぇも何いってんの? 湧いてんの?」
「キミは疑問ばかりだね幼女ちゃん。『なぜなぜ期』かな?」
「……わかった湧いてんだな」
「分かってくれて嬉しいよ。『なぜなぜ期』を無事抜けられたようで何より」
冗談はさておき、周りの反応を見るにただ事じゃねぇなコレ……。
「…………キシシ」
「…………オホホ」
長い長い沈黙のあと、二人のダンジョンの長が、テーブルを凝視しながら笑い声をもらす。
「冗談がお上手ですねクイック君。あの小悪魔がこんな所に居るワケないじゃないですか」
「オホホ、そうですわ。小悪魔といえば神出鬼没の『新勢力』で、総ダン長が最近機嫌が悪い原因の厄ネタですわよ。こここんな人工ダンジョンの片隅に居るワケないですわ〜」
「ええ、そうですとも! 居るワケがない! こんな所に『小悪魔』が居るなんて冗談でも言う物じゃ有りませんよ! クイック君!」
「そうですわそうですわ! 他勢力が血眼で追ってる小悪魔ですわよ? そんなのが! そんなのがココに居るなんて事になったら……なったら……」
なんか急にキョドりだして早口になってんだけど……どうした?
「「……ココが滅ぶ……」」
「「「「………………」」」」
そして、その呟きと共に再び会議室に静寂が訪れた……。ゴクリと生唾を飲み込むような幻聴でも聞こえてきそうだ。
そして空気を読まないかのように、若造兄ちゃんが静寂を打ち破る。
「いや、小悪魔ですって……」
「クイック君〜ん!! やめなさい! そんな恐ろしい妄言を吐くのは! 誰か! 誰かクイック君を医務室に!」
「もう認めましょう長! 本当は分かってるんでしょう!」
「オ、オホホ、クイック ウィンテッドさんはお疲れのようですわ〜」
「疲れてませんよ! 二人とも現実を見ましょう! 小悪魔ですよ! ベアリング班ダン長もそう思いますよね!?」
「ワタクシに振るのはおやめなさいウィンテッドォ!」
おい、なんかモメ出したぞコイツら……。
えっと、なんだ? キツネ顔の部下である若造兄ちゃんが私達の事を『小悪魔』とか言い出して、ダンジョンの長二人が認めない感じ?
よく分からんけど、状況的にそんな感じだと思う。
人違いなんだろうけど、随分と焦ってんなぁ。
「……いいでしょう。ハッキリさせましょうか……」
やがて観念したかの様にキツネ顔が席を立ち、カツカツと牢屋の前まで歩み寄ってきた。お、なに? なんか顔色悪いけど大丈夫?
キツネ顔は私に視線をやったあと、ゆっくりと幼女ちゃんにも視線をやり、白髪の髪を見て胡散臭い顔を苦痛に歪める。
そして絞り出すように問うてきた。
「…………キミ達は……『小悪魔』ですか?」
「いや、ちゃいますけど。小悪魔ってなんスか?」
「そ、そうですか、違いますよね。皆さん聞きましたね! 彼女達は小悪魔じゃないそうです! 知らないそうですよ!」
聞くだけ聞いて、足早に椅子まで戻ろうとするキツネ顔。それを若造兄ちゃんが手で止めると、ゆっくりと首を振る。
「ダメですよ……ウルペース班ダン長」
自分の部下の行動に苦々しい表情をしたキツネ顔を他所に、若造兄ちゃんは私達の方に視線をやると、重々しく口を開いた。
「質問を変えます……」
「そもそも、こっちの質問には答えてくれないんスね……小悪魔って何ですの?」
「……分かりました。お答えします。この街には『勢力』と呼ばれる組織があります」
あ、知ってます。
てか若造兄ちゃんが話を進めるのね。上司が逃げ腰だからかな?
「そして最近……『勢力管理局』により、新たに勢力が発生したと発表されました……」
ふむ、子供の私達にもちゃんと答えて偉いね。丁寧な若造兄ちゃんだ。というかお前……子供の私達の事をナメてないな? ……やっかいな。
「それが新勢力……『小悪魔』」
ほぉん、『勢力』って増えるんだ。まぁ私達に関わらんなら問題ないけど、その小悪魔ってのと私達を勘違いしちゃったワケか……。
「そもそも私ら子供ッスよ? 勢力なわけないじゃないですか」
「……小悪魔も子供だからですよ」
お……やぁ〜?
え、まさか違うよね。
「質問します。キミ達は『町長を潰した小悪魔』ですか?」
「………………」
すんません……。
どーも私、『小悪魔』です……。
「…………」
引き攣った顔で幼女ちゃんに視線をやれば、彼女はフードを深く被って眉間を押さえていた……。
おい、どーすんだよ。
私ら『勢力』になってんじゃねぇか!
勢力ってアレだろ? 普通なら大きな街一つを支配してしまえる様なヤベェ組織。馬鹿か! 私ら二人の無力なガキやぞ!
いや、分かる。有り得るわ!
さっき言ってた町長を罠にハメた件だな。町長は町長派とかいう『勢力』だったワケで……それを間接的にでも潰した私達は脅威とみなされたワケだ。
私達の力はともかくね!
判断してんのが何処のアホか分からんけど、そんなもんソイツらに分かるはずが無い。あるのは町長を潰したと言う呪いみたいなステータス。
やったことはペテンまがいのインチキだろうが、やった結果は勢力を一つ潰したヤベェ悪魔だ。
まじぃ……コイツらなんて言った? 勢力が血眼になって追っている? お前らガキ二人に何やってんだボケぇ!
チッ……とりあえず何か答えんといかんな。若造兄ちゃんが待ってる。誤魔化すか……。
「…………違いますね」
「…………」
若造兄ちゃんは私の言葉聞いて、スタスタと退がるとキツネ顔の横を通り過ぎて、キツネ顔の座っていた席に勝手に座って頭を抱えた。
「…………」
物語っていた……。絶対嘘じゃんと、その背中は物語っていた。そして、その考えはこの部屋にいる全員が思っているようだ。
う、うん。そうだよね。誤魔化されるはずないもんね。でもそう言うしかないじゃん!
「……総ダン長に報告しましょう」
やがて若造兄ちゃんは、ボソリと呟く。
総ダン長……おそらくコイツらの親玉か?
まずいね……さっき高飛車女が言ってたの覚えてるぞ。総ダン長は小悪魔のせいで機嫌が悪いと……。
なんで見ず知らずの勢力の親玉に、目の敵にされにゃならねぇんだよ!
「ま、待ってくださいクイック君!」
「落ち着きなさいなクイック ウィンテッドさん!」
ここで待ったを掛けるのがダンジョンの長である二人。班ダン長か?
「いま当ダンジョンは縄張り争いをしている大事な時期! 余計な諍いは避けたいのです!」
「そ、そうですわ! それに本人も否定していますわ! 確証のない情報で総ダン長の機嫌を損ねるワケにもいかないですわ!」
ふむ……情報が足りん……。
結局のところ、私達にとって最善の結果はどれだ?
少なくともコイツらの親玉、総ダン長に引き渡されるのはマズイな……。
チラリと幼女ちゃんを見てみれば『何とかしろ』という視線……。どーも彼女的には、この間見た玉が気になっている模様。
それに……脱出して逃げるならいつでも出来るんだよね。
ふむ、幼女ちゃんは止まる事を望むか……。マミィ〜のダンジョンでは『私の都合』に付き合わせたから否定もしづらいね。
オッケ、やれるだけやってみよう。
「『総ダン長』ですかぁ〜。よく分からんのですが、人工ダンジョンの上司さんとお会いできるんですねぇ」
急に喋り出した私に、会議室の視線が集まる。
「それはそれは、御礼を言わなきゃいけませんねぇ……」
「……御礼ですの?」
高飛車女の『コイツ何言い出すんだ?』という視線が向けられる。
「ええ……お二人には大変『良く』して貰えました……と」
ニィイイと私が笑みを浮かべれば、全員がゾッとした顔を浮かべる。
「えぇえぇ、それはそれは良くして貰えたと報告させて頂きますよぉ?」
彼らの顔に浮かぶのは明確な『焦り』。
『有る事無い事』思うがままに言われる……そんな事を考えてそうな表情。
いいね、勘がいいよ。
「大丈夫、私はアナタ達の味方ですよぉ……。分かってます。一緒に総ダン長に叛逆しましょう。お手伝いしますよ」
「待って下さい! 私達は総ダン長に叛逆など考えて――」
「分かってます分かってます……」
『ダメだ……コイツらを総ダン長に引き合わせてはいけない』『最悪、総ダン長にダンジョンごと潰される……』
おけ、こんな感じやろ……いいんじゃね?
「……放逐しましょう」
おや、若造兄ちゃん。私達をダンジョンから捨てる気かい? ふむ、幼女ちゃんの目的は玉だろうし……、外は雪山で嫌だなぁ……。
「駄目ですわ……捨てたら何処で何を言われるのか分かりませんもの。それに、まだ他のダンジョンのスパイの可能性も……ここに入り込めた訳ですし……」
高飛車女は考え事でパンクしそうなのか、頭を抱えてブツブツ言い始める。
ここだね……。妥協点を迫るならこの辺りだ。
情報が足りないけど、大体のコイツらの考えは朧げに見えてきた。コイツらの零れた情報を元に、此処への滞在を決めてやる。
私は両手を叩いて全員の視線を集める。
「人工ダンジョンの皆様。総ダン長とやらに報告するのも一興ですがぁ? どうやらお二人とも忙しいようで……そんなお二人の手を煩わせるのも忍びない。やってるんでしょ? 戦争……」
班ダン長二人は、『事なかれ主義』気味だよね?
「忙しいお二人にとって大事な時期なんじゃないですかぁ? 私らねぇ……外の雪山から逃げてきた、か弱い子供に過ぎませんよ」
いいじゃない……事なかれ主義。私もそうだよ?
「私達の事なんて気にしないでいいんですよ。勢力なんて関わりたくないし、そもそも小悪魔ですらない。だからご飯さえ用意してくれれば、戦争後に大人しく出ていきますし、このダンジョンの事も他言しないと約束しますよ」
「…………」
お前らは無かったことにすればいいんだよ。
「その頃には雪解けでもしてるかもしれませんねぇ……私達はアナタ達の邪魔しません。居ないものとして接すればいいんですよぉ……それで無かったことになる。全部元通り……」
最後に私はペコリと頭を下げて、顔だけ向ける。
「メシさえ用意してくれればねぇ?」
仲良くやろうや。
余計な労力使いたくねぇだろ?
私もだよ……。




