立体マップを作る能力
「キシシ、本日の戦績を振り返るとしましょうか」
「オホホ、三カ所の境界で争いが行われましたわね」
キツネ顔の男が胡散臭い笑みを浮かべながら告げる。
それに返すのは、テーブルを挟んで座っている高飛車そうな女だ。
「まぁ挨拶代わりの小競り合いといったところですか?」
「すぐに対応しておいてよくいいますわ」
「キシシ……」
「オホホ……」
お互い腹の内を見せない顔をしながら笑いあった。
二人の長は、こういった小競り合いを1日のうち、何度か行う。
目的は相手のダンジョンを偵察すること、そして少しでもエネルギーを消費させることだ。
と言っても、大してエネルギーは消費しない。本格的な戦争の前に行う小規模な戦争、もとい軽い小突き合い。そしてその後には何食わぬ顔をして会合を行うのだ。
「さて、今日はここまでにしましょうか」
「そうですわね。夕食の時間ですもの」
「おや、よろしかったらご一緒に如何です?」
「オホホ、残念ですが遠慮しますわ。戦争中ですもの」
一見和やかな雰囲気だが、この二人は縄張りを争っている敵同士なのである。
そして――
「幼女ちゃん、お布団の位置壁際にする?」
「……ぬ、いいと思う」
「「……」」
同じ悩みを持つ同志でもあった……。
「ご飯食べるテーブル欲しくね?」
「……地べたは食べづれぇ」
会議室の壁際を占拠する牢屋、その中に住み着いている二人の幼女に、長たちは微妙な顔をする。
「「……」」
明らかに怪しい幼女の侵入者。というより侵入者という存在がもう怪しい。ダンジョンのスタッフルームには普通には侵入できないのだから……。
「……元気なお子様ですね」
「……ええ、牢屋に入れられても悲壮感どころか楽しそうですわ」
だが、長達は彼女達の存在をなるべく気にしないようにしていた。疑問は山ほどある。
どうやって侵入してきたのか?
侵入できたのだから、他の長の差金なのではないのか?
だとしたら何故、子供を使ったのか?
そもそも目的が分からないし、即行で捕まった意味も分からない。
「まぁ、ご飯さえ与えていれば大人しいのでいいでしょう……」
「……そうですわね」
二人は幼女達の事を後回しにしていた。
今は戦争中だ。大事な時期なのだから、意味の分からない幼女達に構っている暇などない。
かといってダンジョンの中心部に侵入してきた怪しい二人組を放逐するワケにもいかない。
今は放って置くしかない…………。
長達は自分にそう言い聞かせて目を瞑るのだ。
そして、それぞれのダンジョンに通じる扉を潜りながら、二人の長はこう思うのだ……。
……侵入者に布団とか用意してたっけ?
いや、向こうが用意したのだろう。
――――――――――――――――――――
どーも私です。
この牢屋生活が始まって数日経ちました。
相変わらず快適であります。
「よーし、今日は私は赤の扉に行こうかな?」
「……じゃわたしは青で」
キィ……と当たり前のように牢屋の扉を開けた私達は、目の前のテーブルに登って作戦会議を行う。
「さて、昨日私が探索した限りだと、主に細い通路が迷路みたいに伸びてる感じだったね」
「……こちらも同じ」
毎日少しずつ探索して辺りの様子を観察しているよ。
ちなみに夜の探索は、別々で行っている。その方が探索範囲は広がるしね。
幼女ちゃんも、どうやらこの場所でなら割と自由に行動できるっぽいから大丈夫やろ。この間もカタカタ壁を動かしてたしね。なんでもダンジョンのビビがどーたら……。
「ちなみに、向こう側はこんな感じやったね」
そう言って私が、座っているテーブルの上に手をかざすと、ホログラムみたいに立体的な通路マップが表示された。
「……おぉ」
なにやら感心したような幼女ちゃんの声が聞こえるが、私はジオラマのようなマップを動かして話を続ける。
「基本的に細長い通路が伸びて、途中に部屋がある感じ。もっと先に行くと広い空間があったけど、ちと遠いね」
「……ふむ、だいたいこっちも同じ」
「なんかダンジョンというには簡素で面白くないよね」
「……たぶん、この辺りがスタッフルームで戦争禁止区域だからだと思う」
「うん、あの長達の話を聞く限りそうなんだろうね」
幼女ちゃんの話を総合して朧げに見えてきたのは、人工ダンジョンと、人工ダンジョンの戦争は別物なんじゃないかという考察。
というよりあの二人の『取り決め』によるものなのかな?
「ダンジョンっていう位だから、お客さんである『冒険者』がいるんだろうよ」
そんな中、私達の考えるような『モンスターを物量に任せて攻め込ませる』みたいなことやったら、冒険者に迷惑だろう。
だから、おそらく緩衝地帯には冒険者用のダンジョンは作られていないとみる。
迎撃用のダンジョンを作って戦争してんのかな?
「まぁそれとは別に、この近くは攻め込まないっていう取り決めだから、この会議室に連なる施設しかないんだろうね」
だからこそ簡素で細い通路が伸びてるんだ。
「……わたし達が思ってるより、ダンジョンは広いと見るべき」
それはそう……マミィ〜の言葉が思い出される。
『一番の縄張り範囲を持つ勢力』
マミィ〜は、あの二人と同じダンジョンの長だったと言っていたね。沢山いる長がそれぞれのダンジョンを運営してるんだ……そりゃ広いだろう。
私達はそんな人工ダンジョンの、しかも戦争中のダンジョンに迷い込んだワケだ。
「……それじゃいく」
「あ、ちょっと待って幼女ちゃん」
テーブルから飛び降りて、青の扉に歩く幼女ちゃんに声を掛ける。
「ほれ、これ持っていって」
私は『ムムム……』と自分の両手を合わせる。そして開いたらポンッと音を立ててデフォルメしたような小さなヌイグルミが現れた。
「……なにこれ。オバケ姉ちゃんを模したヌイグルミ? ……呪われない? 焼いていい?」
オメー私を何だと思ってんだコラァ!
「焼くんじゃねぇよ……斥候だよ。ほれ、コレを広げる為に必要なのよね」
そう言って私は、先ほどの立体マップを広げる。
はい、新能力です!
【Vertex】 バーテックス
【立体マップを作る能力】
このゲームはアレね。
三つ編みちゃん宅でやった、戦略ストラテジーのゲームよ。私の領域外でやったゲームだけど、外にゲームを持ち出すという私本来の力を使ったから、能力を作るリソースも稼げるんだ。
あの時やったゲームを能力にしたのがこれ……。
【立体マップを作る能力】だね。
能力としては、私の通った場所をこうやって立体マップにするという分かりやすい能力だよ。
ほれ、扉の先は細い通路だけど『迷路』みたいになってるって言ったでしょ?
迷うんだよ。
だから通った道を分かりやすくマップにする能力を作った。【Vertex】 バーテックスは斥候を使って判明していない土地の様子を探索するゲームだからね。
「ということで、幼女ちゃんがその斥候ヌイグルミを持ち歩けばマップが拡張して行動しやすくなるよ」
「……ほう」
「ちなみにヌイグルミのお腹を押せば、ミニマップを表示できるから幼女ちゃんが迷ったらやってみてね」
「……たすかる。通路が複雑で遠出ができなかったから」
グニグニとヌイグルミの腹部を押してマップを確認する幼女ちゃん。おい、ワタが出そうなくらい押し込むんじゃねぇよ……。
「あんま乱暴に扱うと消えちまうからねソレ……」
実はその斥候ヌイグルミ……自走ができる。
斥候だからね。でも駄目ですわ……。能力のリソースが足りんくてね。中途半端な性能に落ち着いたよ。
勝手にトコトコ歩いて、マップを広げてくれんのは良いんだけどねぇ……。
まず扉は越えられないよね。
歩きが遅い。
力もないから物も退かせない。
少しの衝撃で消えちゃう。
段差から落ちても消える。
はい、自走とは名ばかりのダメダメ斥候に御座います。
そしてリソースを無駄に消費しちゃった原因が、『人に見つかりかけると消滅』すること(コイツは除く)。むしろ制限だろこんなん……。
でも仕方ないねん……見知らぬヌイグルミが落ちてたら騒ぎになっちゃうでしょ。
この斥候ヌイグルミを有効活用するなら、幼女ちゃんに持ち運びさせるのが一番かな。
「……マップ表示がない部分が未探索か」
「ポケットにでも突っ込んでおけばいいよ」
こうして我々の探索は順調に進む。
「目標はテーブルね。良さそうなのがあったら二人で取りに行こう」
「……うぃ」
――――――――――――――――――――――
真夜中……高飛車女のヘイティー ベアリングは給湯室でコーヒーを淹れていた。
「ふぁ……眠くなってきましたわね……」
彼女は自分の寝室ではなかった為に寝つきが悪かった。自室は会議室から遠いのだ。
だから最近は、緩衝地帯の会議室の近くで寝泊まりする事が多い。
ようやく眠くなってきた彼女は、給湯室の流し台にカップを置いて仮設の寝室に帰る為出る。
シューと圧縮空気のような音を立てる給湯室の扉を出ると、無機質な金属製の通路が現れた。
薄暗い通路。昼も夜もないダンジョンだが、時間の感覚を狂わさないために夜になると薄暗くなる。
カツカツと通路を進む。すると薄暗い突き当たりのT時路で妙なペタペタという音が聞こえた気がした。
ドキリと心臓が跳ねる。
他の職員か? いや、幹部の人間は別の場所で寝ているはず……。
薄暗い通路が妙に不気味に見えた。
ドキドキとしながら通路を進む。そして――
「……ッ!」
T字路を黒い影が通り抜けた……。
……。
…………。
………………。
「……気のせい……ですわね」
そう言ってヘイティー ベアリングは眉間を押さえて仮設の寝室へと戻る事となる。
疲れているのだ……。
気が張っているのかもしれない……。
ありえない……。
だって……
「牢屋に居るはずの子供がこんな所に居るはずないですわ……」
気のせいだ。
背中に背負った風呂敷をコンモリと膨らませた通路を通り過ぎる幼女など見なかった……。
――――――――――――――――――――――
そして次の日。
「「…………」」
いつもの会議室にて話し合いをしていた、長たちは、会話をしながらもチラチラと牢屋の方を気にしていた……。
何故なら――
「幼女ちゃん、お菓子拾ってきたよ」
「……うむ、こっちは販売機で飲み物買ってきた」
牢屋の中でフカフカのソファーに座りながら、テーブルにお菓子と飲み物を並べる幼女達の姿があったからだ。
「……お優しいですね」
「……なんの話ですの?」
「……あのテーブルとソファーは貴女ですよね?」
「……貴方でしょう?」
「……」
「……」
気にしてはいけない。今はそんな時ではない。
あれは恐らく相手がコッチを混乱させる為の作戦だそうに違いない……。
明らかに豪華になっている牢屋を気にしてはいけない。
そして、その時はやってきた……。
「あら? アナタ気分でも悪いのかしら? あまり無理はしていけませんよ。クイック ウィンテッドさんでしたわね」
高飛車女は、キツネ顔の後ろに立つ幹部の一人の顔色が悪い事に気づいた。相手の幹部くらい、名前は覚えている。
キツネ顔は、おや? と後ろを振り返り、汗をダラダラ掻く自分の幹部の顔を見る。
「すごい汗ではないですか! クイック君、気分が悪いなら早く言いなさい! はぁ……自分の部下の体調不良すら見抜けないとは、お恥ずかしい……」
キツネ顔の幹部は『ぃ、いえ……あの』と非常に言いづらいような顔をして、牢屋の幼女達を指差す。
二人の長は内心『……馬鹿! そんな意味のわからない存在放っておけ』と思ったが、彼は言葉を続けた。
幹部が指差した先にいるのは白髪の幼女。
最初はフードを被っていた幼女が今は脱いでいる。
「あれ……『小悪魔』じゃありません?」




