本当の母親
どーも私です。
いやぁ、まいったよねぇ。
捕まっちったい。金属製の工場のような通路。
見た事あるねぇ……前に私達が侵入した人工ダンジョンに似てるわ。というかたぶん同じ。
「幼女ちゃんよぉ……この鉄パイプ手錠、早くなんとかしちくりぃ〜……」
「……ムリだっつってんだろ」
床から生えた鉄パイプに手首を拘束された私達は、マミィ〜のダンジョンに転がる。
「珍しいじゃん、こんな不思議パワーはキミの専門でしょ?」
「……ん」
幼女ちゃんは床に転がったまま、後ろ手に拘束された鉄パイプを見せてくる。
「……これ、今はただの鉄パイプ」
「おん?」
ふむ、確かにタダの鉄なら解の巫女さんにゃムリだね。でもさ……
「ウネウネ動いといて、唯の鉄ってのはないんじゃない?」
「……あの時はね。でもムダなんだよ。魔力、というかエネルギーを送り込んでいる場所が別だから、動いてる状態の鉄パイプを解いても動きが鈍くなるだけ……次々にエネルギーを送られるから止められない」
ふ〜む……蛇口を止めないと水が止まらん感じ?
んで、もしかしなくても、そのエネルギーを送り込んでいるってのが――
「マミィ〜の人工ダンジョンってワケだ……」
「ふふふ〜、白髪ちゃんは妙な魔道具を使ってるみたいだし……念の為にね〜」
ルンルンと料理でもしているかなように、マミィ〜は私達に目もくれず、壁に手を触れ何かをやっているようだ。
それにしても驚いたよね〜……、マミィ〜があの家の母親じゃないなんてさ。もっとも気づいたのは幼女ちゃんなんだけどね。
家から離れて、様子のおかしい幼女ちゃんに話を聞いた所……なんでも三つ編みちゃんには思考を誘導されている形跡があったんだってさ。
『……わたし達いがいに……同じ事やったヤツがいる?』ってことらしいですハイ。
う、うん。自分達のこと棚に上げるけど、普通に怖ぇよ。
んでもさぁ、マミィ〜が他人だからって何?
別に私達に問題ないよね? 放っておこうぜって話になったんよね。
だがしかぁ〜し……ある意味チャンスでもあったんだよねぇ……。覚えてるかな?
『収穫物』だよ。
マミィ〜の持ってる結婚指輪は、私の領域畑で即席のエネルギーになる『収穫物』だったんだ。
ソレに気づいた時は諦めた。
さすがに他人の結婚指輪に手を出すのは後が怖い。
けど、マミィ〜が他人なら結婚指輪ってのは嘘だってことだね。
だからこそ交渉できると踏んだ。でもねぇ……
「マミィ〜……あげちゃうんだもんなぁ……」
「あら〜? なんの話?」
「指輪ッスよ指輪。おねぇちゃんにあげちゃったでしょ? 本来なら私達は争う必要なんてなかったんスよ」
「指輪が欲しかったの〜? 長髪ちゃんはオマセな子ね〜」
そう言ってマミィ〜は壁を弄っていた手を止め、ポケットをゴソゴソ漁った後、私の目の前に指輪ケースを置いた。
「ふふふ〜、キミたちが何者なのか知らないけど、何も見なかったことにして立ち去るのなら……コレあげるわよ?」
「…………ダメっすね。おねぇちゃんにあげた指輪じゃねぇと」
「同じヤツよ〜? 能力も出来も同じはずなんだけど〜」
能力ねぇ……つまりコレも催眠術の出来る指輪ってことなんだろうけど、『収穫物』じゃねぇわ。
収穫物の判定ってよく分からんのよ。もしかしたらランダムなのかもしれんね。
というより、魔力とか関係ねぇよたぶん。だって前に見た収穫物であるテーブルなんかは、幼女ちゃんから見て魔力のないタダのテーブルらしいからね。
私の欲してる収穫物の概念って、この世界の人間にゃ関係ない別物だと思う。サンプル少なすぎてなんとも言えんけど。
「らしいけど〜……アムネシアは長髪ちゃんにあげる気あるの?」
「あるよ。私が忘れなければね」
三つ編みちゃんはジロリと私を見て呟く。
ハハハ、すまんて。確かに私達は指輪の持ち主によっちゃキミの不利益になる行動をとってたよ。当たり前さ。
んふふ。でもキミ、ソレに気づいて『忘れなければ』って言ってんでしょ?
正直嫌いじゃないよ。
指輪が欲しけりゃ私に協力しなテメーら。ってことね。
頭の回転が速いじゃん。
即座に私達の目的を察して、私達を駒に仕立て上げたんだ……ただのフィジカルオバケじゃなかったんやね。
まぁもっとも、今は役立たずなんすけどね。
ゴウゥ〜ン……とマミィ〜の触れていた壁が上から下に下がる。どうやら隔壁だったようで、その先にもある壁が何枚も下がっていく。
マミィ〜は私達を担ぎ上げて、その広い通路をルンルンと進んで行く。
そして通路の先には、ドームのような広場。
中央がすり鉢状になって、中心に太陽のような大玉が浮いている。
前に侵入したときの光景と一緒だ。
ただ一点、明らかに違う物がある。
「広くなってる?」
三つ編みちゃんがボソリと呟く。
そう、広くなってる。そもそも、降りてきた通路も広くなってた。
ダンジョンが明らかに成長してるようだね。
マミィ〜は中央の太陽のような大玉の前まで私達を運ぶと、玉に向かって手を差し伸べた。
「まっててね〜アムネシア。いま、新しい強力な指輪を作ってあげるから……全て……忘れましょう〜」
太陽のような大玉がエネルギーをダンジョン内に行き渡らせるように光る。そしてエネルギーを太陽に送り込むように逆流を始めた。
ソレ、結構時間掛かります?
あの……ちょっと腕が痛いんすけど……。
う〜ん、少しでも情報を得るかな。
「ねぇ、マミィ〜ってさ。結局何者なんです? おねぇちゃんの記憶を消すなら、教えてくれても良くないッスか?」
「んん〜……そうねぇ。時間も掛かるし、いいわよ〜」
あ、時間掛かるんすね。なら腕の拘束解いてもらって……あ、ダメッスか。
「このクロックシティーには『勢力』と呼ばれる組織が複数あるわ〜。知ってる〜?」
「まぁ、知ってますよ」
マフィアとか教会とか、町長もそうだっけ?
「よく知ってるわね〜。もしかしてソッチ側の子かしら〜。まぁいいわ〜、複数ある勢力は、とんでもない力や権力を有してるんだけど……不思議と勢力同士が争うことは滅多にないの〜」
「え〜っと、縄張りがあるからッスね」
どっかで聞いた。たぶんマフィアのボスあたり。
「そうよ〜……じゃあ勢力のうち……一番縄張りが広いのは何処だと思う? それは……『人工ダンジョン勢力』」
人工ダンジョン勢力? 人工ダンジョンにも勢力があったんだね。まぁオッケーまだついていける。
「じゃマミィ〜は人工ダンジョン勢力だ? すごいね家でマッタリしてるだけのダメ主婦だと思ったら、実はキャリアの共働きだったんすね!」
「ち、長髪ちゃん〜。私のことそんな風に思ってたのね〜」
マミィ〜は、口を引き攣らせて頭を抱える。いや、だって洗濯とか簡単に出来る機械あんじゃん。あと知ってるぞ、掃除の業者とか呼んでただろアンタ。
いやまぁイヤミ言いたかっただけで、その他は意外にも母親やってたけどね。
「そうねぇ、でも少し違うわ〜……私は『元』人工ダンジョン勢力」
「元ってことは、退職したんで?」
「ふふふ〜おしいわ〜。人工ダンジョン勢力の特色ね〜。人工ダンジョン勢力の中でも『縄張り争い』をやってるのよ〜」
「ふ……む?」
「人工ダンジョンはどんどん縄張りを拡大しているの〜。だから親のダンジョンから株分することで、何人ものダンジョンの管理人が存在する」
「マミィ〜もその一人ってことで?」
「元……よ〜。私は、人工ダンジョンの縄張り争いに敗北したの〜。ダンジョンは広ければ広いほどいいわ。だから勢力内で争って縄張りを奪い合ってるのね」
ふむ、人工ダンジョンの中で、複数の人間が戦争してるワケだ。んで、マミィ〜は敗北してダンジョンがなくなっちゃったと。
「私は敗北する寸前に、ダンジョンをつくる株玉をもって逃げたわ〜」
「んで、ここに株分したダンジョンを作り直したってとでオーケー?」
「オ〜ケ〜。よく出来ました〜」
「んで追われてるワケだ……」
「そうなのよ〜。株玉を奪われるのが最大の敗北だからね〜。持って逃げたから、争ってた人工ダンジョンに狙われてるんじゃないかってね〜」
マミィ〜は嬉しそうに手を合わせる。
「私はここで力を付けて返り咲くわ〜」
「諦めてないんだ?」
「そうよ〜、その為に一般家庭に隠れてダンジョンを一から作ってるの……でも〜」
そこまで言ってマミィ〜は、笑顔の下から真剣な顔を覗かせる。
「追手がやってきたのね〜」
「あらま」
「驚いたわ〜、バレないようにゆっくりと作ってたのに……侵入されたの」
「…………ん?」
「血の気が引いたわよね〜。近くにダンジョンどころか侵入された形跡すら無かったのに……間違いなく侵入されたの……」
「え、えっと、なんで侵入されたと思ったんですぅ?」
マミィ〜は、大玉の後ろに回り込むと、ある物を持ってきた。
「これよ〜」
「「「………………」」」
「これが通路に落ちてたの……入り口は家の床下収納にしか作ってなかったわ〜。でも、落ちてたの……」
私はチラリと幼女ちゃんを見て、そのまま三つ編みちゃんに視線を移す。
「「「…………」」」
『シャベル』をダンジョンに置き忘れてたー!!
あれ、私達がここに侵入した時のシャベルだーー!
「焦ったわ〜。本来ならあんまりダンジョンに良くないんだけど、急速に拡大させて力を付けることにしたの〜」
「……」
「人工ダンジョンのエネルギーを得る基本って知ってる? 地脈のエネルギーを得るの。人を呼び込むのは心臓の鼓動でエネルギーを汲み上げるのに近いわね〜」
「……あ、あのマミィ〜。ごめん、ノリに乗って説明してるとこ悪りぃんだけど、そのシャベル私達の忘れもんすわ……」
「……」
「……」
マミィ〜は、ドサリと両膝をついた。ご、ごめんて。
「追手なんて……居なかったのね〜……」
「よ、よかったじゃん」
フラフラと立ち上がったマミィ〜は、立ち上がると大玉に手を差し伸ばす。そして大玉から光が分離し、マミィ〜の手には指輪が乗せられていた。
「まったく〜仕方のない子達ね〜。まぁ、いいわコレからはゆっくりとダンジョンを広げていくから」
マミィ〜は少々疲れたような顔をしていたが、振り返ると三つ編みちゃんの前に座り込んだ。
「ねぇアムネシア〜。最後よ。お願い。この指輪を受け入れて?」
「……」
真剣な、どこか懇願するようなマミィ〜の顔。
三つ編みちゃんは、その顔を真顔で見つめ返していた。
「本当はね〜。ダンジョンなんて……どうでもいいのかもしれないわね〜……。ねぇ、アムネシア。全部忘れて……いつもの日常に戻りましょう」
「……」
「幸せな……日常に戻りましょう。私、頑張るわ……料理だってシチュー以外も作れるようになる……お願い。指輪を受け入れて」
「……」
マミィ〜は優しげに言葉を紡ぐ……。
私には三つ編みちゃんがどう判断を下すのかは分からない。
でも、収穫物の指輪は置いといて、キミの判断に任せるよ。
ハッキリ言うけど、忘れてもいいんじゃないかなって思うよ。
三つ編みちゃんの口がゆっくりと動く。
「……アナタは……お母さんじゃない……」
「…………そぅ」
マミィ〜の悲しそうな声が、広いドーム状のダンジョンに響く。
それがキミの判断なんだね。
「私は、アナタの母親には――」
「私の!!」
マミィ〜の言葉を遮って、三つ編みちゃんが大声を出した! その突然の行動にマミィ〜の目が見開かれる!
ミチィィ…………
何かの軋むような音が聞こえた。
お、おい! おねぇちゃん!?
「私の母親はぁ!!」
ギチュゥゥ……ゥゥ!!
その音は、三つ編みちゃんの背中から聞こえていた。
「アムネシア〜!? アナタまさか! 嘘でしょ!」
三つ編みちゃんを拘束していた鉄パイプが、悲鳴をあげていた。
「私のお母さんはぁ!!」
ピギッ!!
はい、バケモン〜!!
三つ編みちゃん、キミはもうダメだ!
鉄パイプをひん曲げる少女はもうダメだ!
三つ編みちゃんを拘束していた鉄パイプは、三つ編みちゃんによって弾け飛んだ……。
そして、ダンジョン内を揺るがすように宣言した。
「お父さんを捨てて別の男に走った!!」
はぇ?
「アバズレだーーーー!!!!」
「アムネシア〜!?」
悲報、おねぇちゃんの本当の母親! アバズレでしたーー!!
「あのクソ女ぁ! ぶちのめしてやるからなぁ!!」
おねぇちゃん!? この空気どーすんの!?




