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悪霊たちに狙われた一般家庭


「ハッ……ハッ……ハッ……」


 喉から出る悲鳴を、無理やり口を押さえながら止める。自分の眼球が小刻みに震えるのが分かった……。


 【なんで……どうして……】


  【いつの間に?】


 混乱する頭に断片的な思考が浮かぶ……。


『アムネシア〜……顔を見せてちょうだい?』

「ヒッ……」


 背中越しの扉から聞こえた声に、ひっくり返ったような悲鳴が漏れる。

 グワングワンと恐怖で視界が歪む。

 酷く現実感がない。


 自分が立っているのか、座っているのかすら分からなくなってくる。


 

 

 何故、私はアレ(母親)を母親だと思い込んでいた?


 私に『母親』は居ないのに……。


『アムネシア〜……』


 ならば、アレは……母親のフリをしているアレはなんだ?

 いつからだ?


 ドクンドクンと心臓が早鐘を打つ。


 こわい……怖い怖い怖い!


 いつの間に、アレはすり替わった?


『ねぇ……アムネシア。あなた……』


 扉の向こうから声をかける母親らしき存在。

 普段の間伸びしたようなアレの声が、ふいに変わった気がした。


「ッ!!」


 いけない……本能的にそう思った。

 今の自分の行動は良くない。


 気づかれてはいけない……私が気づいてしまったことに……。

 

 一度乾いた口を閉めて、水気のないツバを飲み込む。

 そして、極めていつも通りに聞こえるよう、口を開いた。


「だッ……大丈夫だよお母さん」

『……………………………………そう。なら……顔を見せてくれないかしら〜』


 ギュッと心臓を絞られるような感覚に陥る。

 

 見せる? 顔を?


『ねぇ〜……アムネシア〜……?』


 嫌だ……怖い……アレの前に出るのが……怖い。

 私は唇を噛んで、声が裏返らない様に……震えない様に声を出す。


「ッ…………はぁ〜ぃ」


 いつも通りに……声を出せただろうか?

 怖い……でも、気づかれてはいけない。

 だから、普段通りに過ごすしかない……。


 ガチャリと扉のノブを掴み、ゆっくりと開く。

 


「……あぁ〜……やっと顔を見せてくれたわね〜……」


 

 顔を見れない……。

 だが、いつも通りの声色だ。

 私は意を決して……アレの顔を見上げる。

 

「いったいどうしちゃったの? アムネシア〜……」

「ッ……んーん、宿題やったかなって……」


 笑顔の仮面を貼り付けて……母親の顔を薄目でみる。


「そうなの〜心配しちゃったわ〜」


 後悔した……。

 優しそうに微笑む、いつも通りに見えるその顔が……酷く不気味なモノとして私に警鐘を鳴らす。


 私が母親のフリをしている存在に感じたもの、それは少し前に見た得体の知れないモノを彷彿とさせた。


 友人の体から這い出た異形……あの『悪霊』と重なる。

 今までの常識が裏返るような、見ては行けないもの。


 それと同様の恐怖心。


「さぁ〜オヤツを用意しているわ〜。下にいきましょう?」

「う、うん。ありがとう。お母さん」


 俯くように顔を下げ、母親の横を通り抜ける。

 震える足で階段まで歩く。


「ッ……」


 アレが私の後を付いてくる気配がする……。

 当たり前だ。一緒に下の階に移動しようと言うのだから……でも、後ろから見られている様で居心地が悪い。

 

 そして、階段に足を一歩踏み下そうとした瞬間……。


「ねぇ〜……アムネシア〜……」


 私の体を止めるように、後ろの母親が私の肩に手を置いた。しゃがんで話しかけているのか……耳元でその声は聞こえる。


 肩に乗せられるその手は……まるで……


 


「あなたぁ……いつから私を『お母さん』なんて呼ぶようになっタのカしラ〜?」

「ッ!!」


 死人のように冷たかった。

 


 ――――――――――――――――――――――


 

 私は自分のミスを悟った。


「『母さん』って呼んでたわよねぇ〜? ねぇアムネシア……あなた〜……」



   『気づいたわね?』

 


 バレた……私が気づいたことをバレた。


 けど……振り向けない。

 後ろの存在がどんどん大きくなっていく感覚に陥る。


「な、なんのこと? 母さん」

『………………』


「はやくオヤツ食べようよ……」

『………………』



 後ろの存在は答えない。

 刺すような視線だけが、私の後頭部に突き刺さる。


 震える体で階段を見下ろす。

 それは地獄に続いているように感じた。



 

 


 そして……


 その地獄に続く階段からペタペタと上がってくる気配があった。


「あら〜……帰ってたのね〜」


 後ろの母親は、いつも通りの声色で呟く。


「白髪ちゃん〜……」



「……ただいま。(あね)ぇ……(はは)ぁ……どーも、わたしです」


 それは無表情を貼り付けた……白髪ちゃんだった。



 ――――――――――――――――――――――



「白髪ちゃん〜、母さんちょっとお姉ちゃんとお話しあるから〜……下で待っててね〜」


 後ろから聞こえる母親の声は、白髪ちゃんに興味のないように聞こえる。

 対して白髪ちゃんは、目を細めて赤く光らせた。


「……そうか、お前…………一緒だな?」

「なんの話かしら〜?」


 なんで戻ってきたの?

 ここは危険だよ?


「逃げて……白髪ちゃん」


 震える声でようやくそれだけ絞り出す。

 ソレを皮切りに、私は大声を出した。


「逃げて!! コレはお母さんじゃない!!」


 私は、肩に置かれた母親の手を振り払い、階段の白髪ちゃんの腕を引いて背中に隠した。

 そして、母親に振り向くと、睨みつけるように正体を叫んだ。




「悪霊だよ!!!!」

「……ちがうよ」


 しかし、白髪ちゃんは後ろで即座に反論された

 え? 違うの!?


「……ソイツ、人間だよ」

「そうなの!?」


 白髪ちゃんは母親に向かって指を指す。

 

「何を言ってるの〜? 白髪ちゃん」

 

 母さんは薄く笑ったままだ。


「……一緒だよ……、ソイツはわたしたちと同じことしてたんだ。ただ、対象が違っただけ……」

「? 白髪ちゃん〜……アナタ〜」


 ここで初めて、母さんの顔色が変わった。

 柔らかい笑みを消し、目を見開く。


「白髪ちゃん…………あなた〜……誰ぁれ?」

「……最初わたしは、この家の人間は夫婦二人だと勘違いしていた。それは、車が二人乗りだったから……」


 白髪ちゃんは母親の質問を無視して話を続ける。


「……でも、この家にはもう一人……よけいな娘がいた」


 そういって私を見てくる。余計って……。


「……この家族は三人家族だった……でも、違ったんだ。最初の予想通り、二人だった」

「………………あ……れ」


 母親は頭を押さえて何かを考え込む。


「……わたし達は夫婦の認識をズラして、こどもとして潜り込んだ……でも、わたし達より先に……『同じ事』してたヤツがいた」


 朧げに、私にも分かった。この子達が両親にやった催眠術……ソレは私にも掛けられてたんだ。

 頭を押さえる母親の手で指輪がひかる。


「……それがソイツだ。指輪の魔力残量を確認したとき、掛けた覚えのない似た魔力がお前に残ってた。だから勘違いして解いた」

「ッ……」


 だから私は気づけたんだ……母親が母親じゃない事に……。

 今度こそ明確に、母親の顔色が驚愕に染まる。


「……わたし達が認識をずらして……催眠を掛けたのが夫婦、父親と母親……。そして、ソイツが掛けたのが親子……父親とお前だ」

「なんかお父さん重ね掛けされてる!?」


「違……う。この家の子供は〜……アムネシア……ひとり? はくはつちゃん〜? 何? これ……」


 母親は混乱している。私同様に、思い出して違和感を持ってしまったんだ。

 そして、バッと首を白髪ちゃんに向けて、血走った目で睨みつけた。


「ッ……白髪ちゃん〜……まさかアナタ、私と『同じ事』私にしてたの〜?」

「……さっきからそう言ってる」


「ッ!!」


 母親の顔が今まで見た事ない、怒りの表情に変わった。そして、白髪ちゃんを掴みあげようと咄嗟に手を伸ばしてくる。


「コッチ!」

「……おわ」


 私はその手を打ち払って白髪ちゃんの手を掴み、自分の部屋に逃げ込んだ。

 そして、ガチャリと鍵を閉める。


『アムネシア〜無駄よ〜。母さんとお話しましょ〜?』


 ズリュ……という鍵穴に差し込むような音が聞こえる。

 まずい……鍵をもってたんだ!


 ギィ……と部屋の扉が開かれた。

 


 ――――――――――――――――――――――



「捕まえたわ〜、アムネシア」

「は、離して!!」


 母親に後ろから掴み上げられた三つ編み少女は、腕の中でもがく。しかし、母親はニコニコ笑いながら不気味に笑みを浮かべた。


 そして……


「驚いたわ〜……まさかねぇ〜。いつの間にか子供が増えてるなんて思わないじゃない〜?」


 そういって窓際に立つ白髪幼女に問いかける。


「……おたがいさま……まさか先に一般家庭に潜りこんでいるヤツがいるとは思わなかった」

「困ったわね〜……どうしようかしら〜。新しい指輪を生成するしかないかしらね〜」

「離して!! 離してよ!!」


 腕の中で暴れる三つ編み少女に、母親は困った風な顔を向けると、口を開く。


「困ったわね〜……一度気づいちゃった子に効くのかしらね〜?」

「アナタ誰なの!?」


「ふふふ〜……ひどいわね〜アムネシア。母さんよ」

「……よく言う」


「ソレを言うなら白髪ちゃんよね〜。正直、アナタ怖いわよ? いつの間にか入り込んでいたの? アナタ〜誰?」

「……お前と同じ……他人だよ」


 窓際に立つ白髪幼女は、静かに告げる。

 どうやらこの返しは、彼女にとって面白くなかったらしい。


「そう……アムネシアはともかくとして、白髪ちゃんはどうしようかしらね〜」


 脅すようにギョロリと白髪幼女に視線を向ける。

 対して白髪幼女は鼻で笑う。

 

 フワリと部屋に風が吹き、彼女の衣服を揺らした。

 カーテンが揺れる。


 どうやら窓から逃げようとしていたのだろう。部屋に冷たい空気が入ってくる。


 そして、捲れたカーテンから一人の少女が姿を現した。


「あら〜?」


 その少女は、尻餅をついて驚いたような顔で母親を見ていた。


「誰が隠れてるのかと思ったら……『アムネシア』じゃない〜………………は?」


 カーテンの裏から現れたのは、アムネシアだった。


「………………え?」


 母親はゆっくりと自分の手元にいる娘に視線をやる。


「は、離してよぉ!! グフッ!!」



「グフフ!!」


 手元のアムネシアは、急にグリンとコチラを振り向いた。その顔はアムネシアがするとは思えないような、嫌らしい笑みを浮かべている。



「ねぇぇええええ? マぁミぃいいいい!?」


 

「……」

「………………」


「……………………ふふ」


 マミィ〜は薄く笑うと、顎が外れんばかりに叫び声を上げた。




 


「誰るぅええ〜〜!!」



 

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― 新着の感想 ―
この御一家、家族を名乗る不審者に狙われすぎぃ!
催眠をかけたとは言ったが、増えた娘が一人だとはいっていない。 ...結局、ホラー(ヒトコワ)じゃないですか、善良な一般人はどこ?(謎怪力姉を見ながら)
あけましておめでとうございます 今年もこの小説を楽しく読ませていただくます 化け物(人間)には化け物(ナニコレ)をぶつけんだよ! 果たしてパピィ〜もまともな人間なんだろうか…
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