偽りの日常
本日二話投稿 コッチは二話目
どーも私です。
この一般家庭に潜り込んだ、平和な日常。
板に付いてきたよねぇ〜。
私達もだいぶ、子供として上手い事やってんちゃう?
最初は『こんなん上手く行くんか?』と半信半疑だったんだけどね。
やってみりゃ、快適だし安全だし、飯は出るでいい事尽くめだったわ。
「んふふふ、だいぶ時間も稼げたし……もう少しすれば完全に警戒も……」
「……ざんねん」
とか思ってたら、幼女ちゃんがボソリと呟く。
「あん? どーしたん幼女ちゃん?」
私の視線を受けて、彼女は私に手を差し出してきた。
ふ……む。どうやら真剣な話のようだね?
幼女ちゃんがゆっくり手を開くと、そこには緑色の指輪があった。
キミの催眠指輪がどうした?
彼女はソレを握りしめて振る。
――…………り…………ん…………ん……――
弱々しくなる微かな鈴の音……。
なるほどね。
そうかぁ……
そりゃ残念だ。
――――――――――――――――――――――
「それじゃあお父さん。しばらく出張だから。アムネシア、いい子にしてるんだよ」
「はぁ〜い、お父さんお仕事頑張ってね」
お父さんに急な仕事が入ったらしい。
「アナタ〜、ハンカチ忘れてるわよ〜?」
「ああ母さん。ごめんごめん。ありがとう」
パタパタと歩いてきた母さんが、お父さんのポケットにハンカチを入れる。
急なお仕事なら仕方ない……よね?
そう、自分に言い聞かせる。
本来だったら明日、家族でご飯を食べに行く予定だった。けど、出張じゃ仕方がない。あの二人も最近は外出についてくる様になった。
悔しいけど、あの二人がいると飽きはこない。
だから何気に最近は外出を楽しみにしていたのだ。
困らせちゃいけないのは分かっているんだけど、顔に出ていたのだろう……。お父さんは眉を少し下げて、申し訳なさそうにしゃがみ、私に目線を合わせてきた。
「ごめんねアムネシア……」
「ううん、大丈夫だよ。お仕事がんばってね」
たぶん、ちゃんと笑えたと思う。
そんな私を見て、お父さんはイタズラっ子のように笑顔を浮かべた。
「いい子だねアムネシア。お土産買ってくるからね。そうだッ! 帰ったら家族みんなで遊園地に行こうか!」
現金なもので、私の顔がパァと笑顔に変わった。
「ほんと!? お父さん」
「ああ本当さ」
お父さんは私の態度に苦笑しながらも、出張に出掛けて行った。
「ふふふ〜、良かったわね〜アムネシア」
「うん!! そうだ! あの子たちにも教えてあげなきゃ」
「あらあら〜、あんまり走っちゃダメよ〜」
「は〜い!」
私は母さんの言葉を背中に受けながら、階段を駆け上がる。そして、バンと部屋の扉を開いた。
二人は急に入ってきた私にビックリしたのか、目を見開いている。ふふふ、その驚きを笑顔に変えてあげるよ。
「ねぇ二人とも聞いて! お父さんが出張から帰ったら遊園地に連れて行ってくれるんだって! 楽しみだねー」
ニコニコ顔の私に二人はお互い目を見合わせると、白髪ちゃんが軽く顎でシャクってきた。
長髪ちゃんがため息を吐いて、ベッドから飛び降りると――
「そうかぁ……ゴメンね」
と呟く。
その顔は申し訳なさそうに笑っていた。
「遊園地……私達は一緒に行けそうにないかなぁ〜?」
「……」
私は呆然と立ち尽くす。
なんとなく……彼女の言いたい事が分かってしまった。
――――――――――――――――――――――
「ねぇ……本当に出て行くの?」
下を向く三つ編みちゃんに対して、まぁ……私達に言える事はないね。
ちょいと早いけど幼女ちゃんが言うに、これ以上は本当に無理っぽい。
「そっすねぇ、割と楽しかったけど、流石にタイムオーバーッスわ」
「……うむ」
「…………そっか」
私達は家を出て道を歩く。
三つ編みちゃんは、何か言いたげに「見送る……」って言いながら着いてきた。
はぁ……キミさぁ……本当に分かってる?
何処まで着いてくる気かな?
いやまぁ分かってはいるんだろうね……。
私達は彼女にとって、外敵だ。
勝手に家に入り込んだ害虫みたいなもんだ。
まぁ害虫というほど被害は出すつもりはないけど、キミはソレを知らないだろ?
だから本来、キミは私達を受け入れちゃいけなかったんだ。
まぁその気になれば力尽くで追い出せるだろうと思ってたんだろうけどね。
たぶんね、キミは……自分の日常を壊したく無かったんだと思う。
変化を恐れたんだろうね。
だから最初は私達を受け入れられなかった。
けど、今度は私達がいるのが当たり前になっちゃったんだ。
今度は、私達がいなくなるという変化を恐れているんだね。
だから言ってあげよう。
「引き返しなよ。キミの非日常は終わったんだよ」
「……わたし達はこれ以上居られない」
「…………」
三つ編みちゃんは何か言おうとして口をつぐんだ。
「うん、分かった。お父さん達は……キミ達の事、忘れるの?」
「……わすれるも忘れないもない。そもそもわたし達は最初からいなかった」
「ごめん分かんないよ」
三つ編みちゃんの言葉に、幼女ちゃんは軽くため息を付いて、催眠指輪を見せてきた。
「……これでお前の両親を騙していた」
「この指輪で?」
「……そうだ……子供が三人だと誤魔化していた……」
幼女ちゃんは指輪を見て、目を赤く光らせた。
「……でももう終わり……魔力が切れた」
パシュンと幼女ちゃんが指輪の魔力を掻き消した。
そして、幼女ちゃんは指輪を投げ捨てる。
「……もう、ただの指輪」
草むらに落ちた指輪に、興味がなくなったかの様に幼女ちゃんは、視線を三つ編みちゃんに戻す。
「お前の両親も、そのうちわたし達のことを忘れる。お前は両親の前でわたしたちの事をしゃべるな。……面倒なことになる」
赤い目を向けられた三つ編みちゃんは、「分かった」といって俯いた。
「…………あれ?」
対して幼女ちゃんは赤い目を光らせて首を捻った。
そして、目をシパシパと瞬きする。
まるでカメラのフォーカスを合わせる様に……。
そして……
「え!? なに?」
いきなり三つ編みちゃんの顔を両手で挟んだ。
そして目を光らせて呟いた。
「……ん? あれ……ミスったかな?」
「倫理観の薄いマッドサイエンティストみたいな事言い出した!!」
「……だ、だいじょうぶ……」
「なにが!? 本当に大丈夫なの!?」
おい、幼女ちゃん?
様子おかしいけど、お前何した? なんかミスったか?
「……さらば」
とか思ってたら幼女ちゃんが逃げ出す。
「ちょ、ちょっと!!」
その背中に三つ編みちゃんが声掛けるが、幼女ちゃんは止まらなかった。
はは、最後まで三つ編みちゃんに大声出させちゃったね。
「んじゃ、また機会があったらどこかで……」
そう言って私は幼女ちゃんを追いかける。
「全く……もう……」
三つ編みちゃんはもう、追いかけては来なかった。
幼女ちゃんは道を曲がると、私を座って待っていた。
そして首を捻って不思議そうな顔をしていた。
おい、お前本当に何した?
――――――――――――――――――――――
二人が走り去った後を、私は見えなくなるまで見ていた。
「……そっか……終わったんだね」
振り返って家に帰る。
いつの間にか家にやって来て、そしてアッサリと居なくなった二人組……。わずかに寂しさがあった。
ただの子供のようで、絶対に普通じゃない自称妹達。
なるほど、私は結構この非日常を楽しんでいたらしい……。
どれくらい歩いたか……いつの間にか私は、自分の家の前まで辿り着いていた。
「ただいまー」
明日からはまた……いつもの日常が戻ってくるのだろう……。
「あらアムネシア〜、お帰りなさい〜。何処行ってたの〜?」
いつもの様に母さんがキッチンから出てきて笑顔を見せる。
「……うん、ちょっとね」
家の中が広く感じた。
ドクンと心臓がはねる。
「ッ……」
私は階段を駆け上がる。
「どうしたの〜? アムネシア?」
急に走ったからか、階段の下からお母さんの心配する様な声が聞こえる。
バタンと自分の部屋を開ける。
そこには誰もいない……当たり前だ。
……当たり前の日常だ。
ドクンドクンと心臓が鳴る。
私は口から漏れそうな声を両手で押さえた。
『どうかしたの〜アムネシア?』
背中越しの扉から、お母さんの心配したような声が聞こえる。
「……なんでも……ないよ」
『なんでもないって、あなた顔が真っ青だったじゃない〜』
どうやら顔色が悪かったようだ。
お母さんがノックをして私を心配してくる。
「……大丈夫……私は大丈夫だよ」
部屋の中は相変わらず、私しかいない……あの二人はもういない……。
言ってたじゃない……二人が居なくなったら……。
いつもの日常が戻ってくるって……
私は口をギュッと押さえる……。
「……もどって……こないよ……」
だって……
『アムネシア〜、いったいどうしたの〜?』
だって……
私に……
『母親』なんて居ないじゃない……
『ドぉシたのォオ〜? コこヲあケなサィぃイ〜』




