本当の怪異
「……もっちゃもっちゃ……ごっくむ」
白髪ちゃんはエビフライのシッポごと飲み込んで、クローゼットから飛び降りる。
そして黒い巨人に近寄ると、目を赤く光らせた。
「……ん〜……体から出てきてる?」
「やぁ〜ぱさぁ、コレってゴーストタウンの時と同じヤツだよねぇ?」
二人は巨人の周りを、車の整備士のようにグルグルと回りながら当たり前のような顔で話し合う。
あまりにも非現実な光景に頭が真っ白になってしまった。
……なんで……なんでそんな当たり前のようにしていられるの? どう見たって普通じゃない異形に対して怖がらないの?
やがて白髪ちゃんは、私の方を見てコテリと首を捻った……。
「……姉ぇ……これ……いる?」
やばい……今回こそは本格的に何言ってるのか分からない。『いる』ってなに!?
「ダメだよ幼女ちゃん。おねぇちゃんのモノ何でも欲しがっちゃ。新しい妹かもよ」
「……ぬ。なら仕方なし」
あってたまるか馬鹿やろぅ! これ以上よく分からない妹が増えてたまるか! というか私が妹を犬猫みたいに拾ってくるクセがあるみたいにいわないで!
君たちは私の意思とは無関係に入り込んできたよね!?
『ォォォオオオオ……』
黒い巨人は自身の周りをグルグル回る幼女達が見えてないように空洞のような瞳を天井へ向けると、考え込むように停止した……。
「ッ!!」
いけない! ボケ倒している自称妹に心の中で突っ込んでいる場合じゃない! 未だ黒巨人の周りで、ワチャワチャ楽しそうに話してる二人の襟首を掴んで引き寄せる。
「「おわ!」」
私の後ろにゴロンと転がった二人を後回しにして、今度はティミットちゃんの元に駆け寄った。
『ォォォオオオオ……』
目の前にたたずむ黒巨人にゴクリと唾を飲み込む。
私が……私がシッカリしなきゃ……。
ティミットちゃんの胴体を担ぎ上げ、転がる二人の元へと降ろした。黒巨人が何なのかは分からないが、どうみたって良くないモノなのは明らか。
近寄っちゃダメだ……。
黒巨人は足元に来た私のことは見えていないように無視していたが、ティミットちゃんを引き離すとポッカリと穴の空いた不気味な目を向けて、ゆっくりと手を伸ばしてきた。
妙に長い指が人外感を増長させ恐怖心を煽る。
私はティミットちゃんを奪われないように、彼女の体を抱きしめて睨みつけた。
『オオオオ……ォォ……ォ』
すると黒巨人の手は、迷ったように停止する。
しかし不思議そうに首を捻った黒巨人は、不定形の首を伸ばして私の目の前まで伸ばしてきた……。
怖い……怖い怖い怖い怖い怖い怖い……。
目の前いっぱいに広がる不気味な顔のようなモノに、歯をカチカチを鳴らしながらも睨む。目を逸らしたら一気に襲われそうな気がして動けない。でも……
守らなきゃ……
コレが何なのか分からないけど……絶対に良くないモノだからティミットちゃんを守らなきゃ。
「……ねぇ姉ぇ……ちょっと聞きたい」
とか思ってたら後ろから白髪ちゃんが話しかけてきた……。
ゴメンちょっとお姉ちゃん忙しいかな!?
見て分からないかな!?
今すっごくマズイ状況だよね!?
なんでキミは普通にしてられるのかな?
言葉を返せずにいる私を無視して、白髪ちゃんは言葉を続ける。
「……なんでソイツ……出てきてる?」
「…………え?」
出て……来てる?
何を言っているのかは相変わらず分からないけど、何となく確信した。
「は、白髪ちゃんは……コレが何か知ってるの?」
「……ぬ。まぁ……自然現象?」
不自然現象の間違いじゃないかな?
怖がる様子のない白髪ちゃんに、何だか気が抜けてしまった。……もしかして、そんなに危険なモノじゃない? いつの間にか黒巨人は、私から顔を逸らして天井に顔を向けている。
「……」
白髪ちゃんは、私の腕の中にあるティミットちゃんに視線をやると、考え込むように腕を組んで私の横に歩いてきた。
「……アレは……自然現象だよ」
「幼女ちゃ〜ん……原因は……」
「……あ、アレは自然現象だよ?」
急に挙動不審になった白髪ちゃんはコホンと何かを誤魔化す。
「……アレは自然現象……祈りの巫女風にいうと……『妖魔』とかいってた」
「あ〜言ってたね〜」
「……そしてコレは妖魔のなりかけ。といっても、それ以下の、とても脆弱なそんざい……」
「ぜ、脆弱……」
「……姉ぇ……アレは心の弱いヤツに入り込む。そして宿主の力じゃどーにもならない時に出てくる。オマエ……ソイツが暴れた時、なにした?」
「え? ……急にティミットちゃんが暴れたから……両手を掴んで取り押さえたけど……」
白髪ちゃんは私の言葉を聞いて、ドン引きしたように顔を引き攣らせる。
そして長髪ちゃんとコソコソ話し出した。
「……おい……あいつヤベぇぞ……」
「アレって取り憑かれるとリミッター外れたみたいな力出すよね……」
「……いくらガキの宿主とはいえ……力尽くとかイカれてる……」
「だねぇ……今度から喧嘩売るのやめとこや」
「……さんせい」
なんか失礼なこと言われてる気がする!?
コソコソ話してた白髪ちゃんは私に振り向く。
「……姉ぇ、さいど聞く。……あれ……いる?」
「い、いらない」
そして、まるでお菓子をねだる妹みたいに聞いてきた。
「……じゃわたしがもらう」
そして彼女は何でもないように、黒巨人へと足を進めると、ソレの長い足に向かって両手を向ける。そして――なんの抵抗もないように……拍手でもするように――。
――ォォォオオオオ!!――
白髪ちゃんの両手に吸い込まれ、黒巨人の胴体は消え失せた……。
「……あ、ちぎれた」
――ォォォ……オオオオ!!――
上半身だけで浮かぶ黒巨人は、初めて白髪ちゃんの存在を認識したかのか、おぞましい叫びをあげる。
それは、怯えているかのようで――
「……まて、にげるな」
私は……勘違いをしていたのかもしれない……。
――ォォォオオオオ!!――
上半身の黒巨人は私の上を飛び越えて、窓の方に向かう。黒巨人はまさかの白髪ちゃんから逃走を図ったようだ。
「んふふふ〜……ダメだよぉ〜?」
そして部屋に響く、長髪ちゃんの他人を馬鹿にしたような声……。
窓から外に出ようとしたのだろう黒巨人は、呆然とするように動きを止めた。そして……私の動きも止まった。
「ここは……私のダンジョンだからねぇ……」
窓の外は……何処までも広がる、夕焼けのような世界に変わっていた……。
私は……勘違いをしていたのかもしれない……。
「妖魔君さぁ〜……キミ、存在としてあり得ないくらい弱いよねぇ〜? だから、ダンジョンの強制力に抗えないんだ?」
部屋に住み着いた低級霊の二人組……。
「……足しにもならないけど……コレはわたしがもらう。チリも積もればなんとやら……」
そして、黒巨人の背後に迫っていた白髪ちゃんが手を伸ばし、オニギリを握るようにその両手に吸い込まれる。
そして黒巨人だった物は、小さな玉みたいに凝縮されていた。
私は勘違いしていた……。
この二人は……黒巨人なんかよりよっぽど――
「………………いただきます」
危険な存在だ……。
――――――――――――――――――――――
どーも私です!
私達が原因で発生したであろう妖魔君。どうやら三つ編みちゃんのお友達に取り憑いたようです。
怖いですねぇ……主に原因が私達にあるというところが……。
まぁ、いいわ!
バレへんバレへん。
黙っときゃいいんだよ。
証拠隠滅も幼女ちゃんがやってくれたしね。
と、ゆーかさぁ……。
「ペッしなさい!! 幼女ちゃん! ペッ!」
コイツ妖魔食ったんだけどーー!!
「……ゴックム」
飲み込んでんじゃねぇよ。
さてはオマエ……負け犬に取り憑いていた妖魔も同じように飲み込みやがったな!
「……足しにもならん」
最近体から黒い霧が噴出するようになったスモーク幼女。妖魔をエネルギーにしてたようですわ!
なんかアレつかって細い棒……というか多分小さなビルを生やしたりする能力にしてるっぽいよね。
ま、まぁ幼女ちゃんの武器になって体に影響がないならいいわ。さすがに幼女ちゃんも体に悪いもん飲み込んだりしねぇだろ。
「……う、うぅん」
おっと、三つ編みちゃんのお友達が目を覚ましそうだね。
「幼女ちゃん、クローゼットに戻ろうぜ」
「……うぃ」
「待って!」
そんな私達に待ったを掛けるのが三つ編みちゃん。
「ティミットちゃんは大丈夫なの?」
あ〜そうだね。お友達のこと心配だもんね。
そこんとこどーなってます? お答えください幼女先生。
「……ぬ。もんだいない。そもそも、ほっといてもよかった……」
「いや放っておけないよ……」
「……よかったんだよ。あんなに小さいの、わたしが何かしなくても、そのうちかってに消滅してた」
「そ、そうなの?」
「……それに、アレにはそれ以上なにもできない。とっても無力なそんざい」
まぁ幼女ちゃん言ってたもんね。
ゴーストタウンの小規模なものだって。
メガネちゃんは、たまたま運悪く感応しちゃったんじゃないかな? それでもそのうち放っておけば消滅するような弱い妖魔だったってことでしょ。
だから三つ編みちゃんは私達に感謝しなくていいよ。
そもそも、妖魔が発生したのが私達のせいとか……幼女ちゃんの腹の足しになったから結果的に助けたとか置いておいてね。
「で、でも……ありがとう。助けてくれて」
そ、そうかぁ……でもありがとうかぁ……。
「「お、おぅ……」」
な、なんだろうね。
お礼言われると罪悪感湧くんだけど……。
「……お、おのれぇ……」
ほれ、幼女ちゃんですら、三つ編みちゃんの純真さに気まずさと、子供としての劣等感を抱いておるわ。
ウケる。
―――――――――――――――――――――
「うぁああーー!! またやられた!!」
はい、『私の領域』でゲームやってます。
プレイしているゲームは
【ロストグラウンド】〜lost ground〜
【飛ぶ能力】を作ったゲームだね。
うん、まだクリアしてねぇのよ……。
いや、死にゲーらしく難易度がね……その……ね。
分かるだろ? 難しいんだよ!
「間違いなく面白いんだよ。なんならスッゲェ面白いっていってもいい」
でもね。それを上回る難易度なんだ。
たぶん私のプレイスキルが足りてねぇんだろうけど、ずっと同じところで止まってる。
「たぶん、ストーリー的にはラスト近いんだろうね」
でも勝てねぇ……。
「しょうがない。気分転換でもするか」
いっかい頭を真っさらにするとサクッとクリアできることあるもんね。
ところで、
「ふむ。そろそろ行けるな……」
能力の拡張ができるんだよね。
あぁ、ゲームの能力じゃないよ。
「……私の超越者としての力が増してきたんだよね」
覚えているかな? 私は現在四つの能力をセット出来る。でもね、最初は三つだったんだよ。
これは私の超越者としての力が増したから、スロットを一個拡張できたんだ。
「じゃ、今回も能力を拡張して五個のゲームをセット出来るようにする?」
まてまて、慌てるな。
この拡張ってのはけっこう柔軟性があるんだよ。リソースの範囲内なら潰しが効くんだ。
「んで前回、能力のアップデートで、スロットを増やす以外にもう一つ候補があったんだよね」
でもあの時は、白髪親子を牢屋に迎え入れて、不穏な状況だった。だから私は、能力の増設という分かりやすく役にたつアップデートに踏み切ったんだ。
じゃあ、あの時諦めたもう一つの候補とは……
「……ゲームの携帯化」
当時牢屋で暇だった私は、牢屋でゲームが出来るように、『私の領域』からゲームを持ち出せないかって考えてたんだ。
んで……今は平和なんだよねぇ……。一般家庭に潜り込んだこの現状……暇と言ってもいい。
いや、分かってんだよ!!
能力スロットを増設したほうが便利だって!!
「でも、こんな状況じゃなきゃしないよねぇ……」
能力が五個セット出来るようになるのは魅力的なんだけどさぁ……。
「ええぃ!! 私は誰に言い訳しとるんだ!!」
あえて言うなら私の心なんだけど!!
いいじゃん!! スロット四個でもなんとかなるなんとかなる!
「はい決めたー! 今回の能力増設は……『ゲームの携帯化』に決定です!!」




