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210/233

ある出版社にて……

本日二話更新 こっちは二話目


 セッテ区域にあるビルの五階……そこにはある出版社が入っていた。

 出版社といっても狭く、どちらかと言えば零細企業寄りの出版社。


 主にゴシップなどを扱うその出版社で、一人の男が椅子に座りモニターをやる気のない目で見ていた。


 男は手入れのしていない無精髭で、疲れたような顔をしている。デスクには吸い殻の溜まった灰皿が乗っており、コレでもかと不健康そうな様相だ。


「あー、編集長。まだ残ってたんですか?」


 暗くなっていた編集部に不意に灯りが灯り、若い女の声が響く。


「ん〜、ああ、リッシュちゃん。お疲れさん。パイプ端末への移行説明終わった〜?」


 男は咥えていたタバコを潰して、女にヘラヘラと笑う。


「終わりましたよ。結構渋られましたけど」

「まぁしょうがないよねぇ〜。いまだに古い人間は現物の本にならないといけないって風潮……あるから」


「だったら編集長がやってくださいよ〜」

「そんなこと言わないでよぉ、こんなオジサンより若い女の子の方が、相手さんも態度柔らかくなるんだから」


「あー! そんなセリフ。今時問題になりますよ〜」

「ごめんごめん。謝るから許して」


 出版社の上司と部下……たわいもないやり取りだが、お互いの言葉には気やすさが見てとれた。


「タバコの吸い殻溜めちゃって……またその映像見てるんですか?」

「ん〜? リッシュちゃんも見る? 『亡霊デュラハン事件』の映像」


「もう何度も見ましたよ。それにしてもよく入手出来ましたね。あの事件の動画……」

「んふふ〜、オジサン、コネだけはあるからね〜。苦労したよ」


 男が毎日見ているのは、亡霊デュラハン事件。町長がクロックシティー全域に自身の犯行を暴露した事件の映像だ。


 一般に出回っているのは静止画ばかりだが、男は貴重な当時の動画を手に入れていた。


『そうだよ〜!! 僕がッ、僕こそが『亡霊デュラハン』だッ!! アーハーッハッハ!!』


 映像の中の町長は、普段のコミカルな雰囲気とは違ってドロリとした狂人のような顔で叫ぶ。


 このクロックシティーで一番の有名人といえば真っ先に上がるのが彼だ。

 その親しみやすいキャラクターで人気もあった。

 そんな町長の起こした凶行……クロックシティーは大混乱に陥った。


 それはゴシップを扱う出版社も例外ではなく、いや寧ろ極上の餌を得たように何処もかしこも騒ぎ立てた。

 

 しかし……結局はゴシップの域を出ず、憶測ばかりの記事ばかりでピンとこない。

 不自然に情報が出てこないのだ。


 この動画ですら結構な苦労をかけてようやく入手したものである。

 

 そもそも、入手が難しかったわりに貴重な映像でもない。なぜならこの動画は一度、クロックシティー全域の人間が一度は目にしたものなのだから。


「結局、町長と争った、この『二人組の子供』ってどうなったんでしょうね?」

「ん〜、町長派が引き取ったか……それとも別の勢力が引き取ったか……それともまだ逃げてるのか。分からないね〜」


「町長派ってなんです?」

「あ〜、そうだねぇ。ま、このクロックシティーには『勢力』っていう、とんでもない概念があるんだよ。一般には知られてないけど……町長派ってのは勢力の一つ。聞いたまんま町長の勢力だね」


「え? それ私聞いちゃっても大丈夫ですか?」

「いいんじゃない? 知ってる人は知ってるし。あ、見かけても取材なんかしたら駄目だよ。消されちゃうからね」


 リッシュと呼ばれる若い女は、くたびれた編集長から聞かされる言葉に頭を抱える。


「もう……今日は私帰りますからね。戸締まりお願いします」

「はいよ〜……」


 


 ――――――――――――――――――――――


 

 

「ぐおぉお……ぐおぉお……ふがっ! ……………………あらら、寝ちゃってたか……」


 編集長の男はあの後、寝てしまったらしく、気づいた時には真夜中だった。

 アイマスクにしていた雑誌が編集部の床に落ちて、渋々それを拾う。


『そうだよ〜!! 僕がッ、僕こそが『亡霊デュラハン』だッ!! アーハーッハッハ!!』


 暗くなった編集部でモニターの中の町長が叫ぶ。


「おっと、リピート再生しっぱなしだったか」


 そう思って、モニターのスイッチを切ろうと手を伸ばす……。

 

『まさかだよ!! まさかキミ達みたいな子供にバレちゃうなんてさあ〜!! お笑いだよね!! 最後だったんだよ!? それなのにキミ達に殺す瞬間見られちゃったんじゃないかってさ〜!!』


 それは偶々だったのかもしれない……。


『全部ッ!! 全部キミの言う通り!! 不安だったんだよ〜キミ達に見られちゃったんじゃないかってさ〜! そんなことないって思おうとしても、キミ達全然僕のこと信用してないから焦ったよね〜。どっち? ってさ〜ハッハッハ!!』


『偶々』男は違和感に気づいただけだったのだ……。


「あ……れ?」

『プレジールヴィイ君はちょうど良かったんだよ。最後に僕の罪を全部被ってもらって、彼の首を切るつもりだった』

『ん〜なんでかな〜?』


 気づいてしまったら、何故としか思えなくなった。

 その違和感も、すぐに『そんな物か?』と消えてしまいそうなほどの違和感。

 だから彼が気づいたのは『偶々(たまたま)』だったのだ……。


 

 


「町長…………誰と話してるんだ?」


『アーハー! そこかぁ〜……キミたちクロックシティーの外で出会ってたんだ〜。人選ミスだね〜。最後だから気が抜けちゃった!』


 町長は……一人で会話をしていた……。

 一人で犯行を暴露し、一人で楽しそうに返答をしている。


「は……あぁ? ……なんだ……これ」


 一人で? ……違う。

 俺は町長が会話をしている相手を知っている。

 いや、この映像を見た、全員が知っている筈だ。


 『二人組の子供』


『ぬひひひひひひひひ』


 そうだ……この、悪魔のような笑い方をする子供……。


「……違う」


 もう一人いた……。

 確かにもう一人『居た』のだ。


『ヌヒヒヒヒヒヒヒヒヒ! ……勝った勝った』


 しかし、映像に映るのは一人の子供だけ……。



 思わず……口を押さえて、叫び声を止める。


「ッ……俺は……何を見ている?」


 不意に足元から押し寄せる不安感……。

 気づいてはいけない物に気づいてしまったような焦り。

 そして……


「ッ!!」


 背後で落ちたバインダーに、大袈裟に仰け反って振り返る。

 ダラダラと冷や汗が頬を伝う。


 気づいてしまった事で……誰かに見られているような錯覚……。


 誰も居ない……誰も見ていない……

 だが、気づいてしまった違和感に……男は恐怖を覚えた。




「おはようございま〜す! あ、編集長、早いですね……というかもしかして編集部に泊まり込みました?」

「…………あ、あぁ、リッシュちゃん」


 気づけば、日はのぼり部下が出勤してきた。


「? ……どうしました? 顔色悪いですよ?」

「……いや……何でもないさ」


 男は落ち着かせるようにタバコに火をつけて、すぐに揉み消す。


「……ところでさリッシュちゃん。この映像の子供の声って…………なんで入ってないんだろうね?」


 震える指で執拗にタバコを揉み消しながら、平静を装ってそう呟く。

 視線は……向けられなかった。

 何と答えるかすら恐怖を覚えてしまって。


「ん? あぁ、そう言えば入ってませんね。まぁ、音質悪いですもんね」

「そ、そうだよね〜……」


 そうか…………そうか?

 本当にそうなのか?


 音質が悪いといっても、他の音は入っているのに?

 なんでそもそも、今まで俺は違和感を持たなかった?


「編集長? 何処行くんです?」

「リッシュちゃん。町長が次のパイプ映像で対談する予定だった相手って……誰だっけ?」


 男は掛けてあった自分のジャケットを羽織りながら、部下に聞く。


「ええっと、クロックシティーの崩壊を救った若き英雄……リード ヴァーミリオンとの対談……らしいですよ」


 男は、それを聞いて頷く。



 


「リッシュちゃん。取材に出かけるよ。その英雄の元にね」


 

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― 新着の感想 ―
てっきり認識できないのかと思ったけど。データにも残らない正しいのか? なんにせよ、”真実”の気づいた編集長が、San値直葬しなくてよかった。
英雄ならクロックシティに訪れた巨悪(謹慎中)を倒さにゃならんね()
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