第1話 勇者なのに、魔物が俺を襲ってこない件
「勇者レオンよ。そなたに魔王討伐を命ずる」
国王の声が、謁見の間に響き渡った。
王宮の中央に立つ青年は、面倒くさそうに頭をかいた。
「……断るって選択肢は?」
「ない」
「ですよね」
青年の名はレオン。十八歳。
辺境の村で育った、ごく普通の青年――のはずだった。
三日前、王都で行われた勇者選定の儀式。
千年間、誰にも抜くことのできなかった聖剣を、レオンは片手で引き抜いた。
いや、正確には。
「ちょっと邪魔だったから、どかしただけなんだけどな……」
聖剣は台座ごと引き抜かれた。
さらに、彼の能力を測定した宮廷魔術師は、その場で気絶した。
理由は簡単だ。
---ステータス鑑定結果---
名前 レオン・アルヴェイン
種族 人間
職業 勇者
レベル ERROR
魔力 測定不能
固有スキル 《■■■■■■》
鑑定に失敗しました。管理者権限が必要です。
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「何なんだ、管理者権限って……」
レオンはそうつぶやいたが、誰も答えられなかった。
旅立ちから七日後。
レオンは最初の異変に遭遇する。
「レオン! 前方に魔物の群れ!」
叫んだのは、同行する女騎士エリシアだった。
森の奥から現れたのは、二十体を超えるオーガ。
普通なら熟練冒険者が十人いても危険な相手だ。
「任せろ」
レオンは聖剣を抜いた。
その瞬間。
二十体のオーガが、一斉に膝をついた。
「…………え?」
エリシアが固まる。
オーガたちは武器を地面に置き、額を地面に押しつけていた。
まるで、王に謁見する臣下のように。
「お、おい。何やってんだ、お前ら」
レオンが一歩近づく。
オーガの長らしき個体が、震える声で言った。
「ど、どうか……どうか、お許しを……」
「何を?」
「我らは……あなた様が、すでにお戻りになられたとは知らず……!」
その言葉が終わる前に。
オーガの額に、突然、黒い紋章が浮かび上がった。
そして、何かに怯えるように全員が逃げ出した。
「……何だったんだ?」
「レオン」
エリシアの声が震えていた。
「あなた……本当に人間なの?」
「ひどくない?」
レオンは笑った。
しかし、彼には気づかないことがあった。
オーガたちが逃げ出す直前。
彼らの頭上に、レオンにしか見えない文字が浮かんでいたことを。
《魔王軍所属:第七軍団》
《忠誠対象を確認》
《魔王陛下の帰還を検知しました》




