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≪第八部≫ウンディーネは未明に微睡む ーマフィア編ー  作者: 咲佐きさ


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エピローグ

「もおお、無茶するなよお、あとちょっとで君、蜂の巣になってたところなんだぞう…」

 べしょべしょに泣きながらぽかぽかセデュを殴る僕を、セデュは愛おしそうに目を細めて見ている。掌はしっかりと僕を抱き寄せたまま。僕の言葉なんか聞いちゃいないって感じだ。言葉よりもドキドキしてる僕の心音だとか、大捕り物に必死になってた汗みずくの僕の体温だとかを、味わっている感じ。チクショウ、ほんとに心配したんだぞ。君が死んじゃうかと思ったんだぞ!

「もうやめてよ、僕のために、あんなこと…君はもっと自分を大切にして、」

「それは聞けない」

「僕のお願いなんだぞー! 聞けよー!」

「この世界に、お前より大切なものなどないからな」

「バカバカ、バカ野郎! 命知らず! 君が死んだら僕だって生きていけないんだから、わかれよなー!」

「…うん、」

 セデュは微笑んで僕を見て頷いて、乱れた僕の頭を撫でる。そのまま僕の髪を救い上げるようにして、そこに口づけする。

 セデュに優しく触れられて、くしゃくしゃになっちゃった僕は彼の胸に頬を寄せる。トクトクと彼の心音が、僕を慰めるみたいに響く。生きている、息をしてる。君はたしかに、ここにいる。

「…助けてくれて、ありがとう。もう二度と、君には会えないって、おもってた…」

「私の諦めの悪さは知っているだろう」

「それでもさ、…あんなやつらを敵に回すなんて…」

「お前は何も心配しなくていい。すべてうまくいくさ」

 ふと思い当って青褪める僕とは正反対なセデュは、鷹揚に笑いかける。楽天家もここまでくると才能かもしれない。…なんか、セデュなら何とかしてくれるかもって思えてしまうのもずるい。逆恨みされて命を狙われたりとか、家に火を点けられたりとか? そういうことも、全然、起こり得るっていうのに。

「こわいよ、君が傷つくのがこわい。君の命が、危険に晒されるのが…」

「大丈夫、大丈夫だ。心配しないで、休みなさい…ここにはもう、お前を傷つけるものはいない、安心していい、…」

「……」

 優しい声が僕を宥めて、大きな掌が背を撫でる。息を吐くと張り詰めていた数週間が蘇って、僕はぶるりと震える。ずっと怖かった、いつ嬲り殺されるかわからなくて、君に会えなくて、一生、閉じ込められたままかもしれないって、思って――

 でも、今は僕はセデュの腕の中にいる。帰ってこれた。君が助けてくれたから。

 胸元に顔を擦りつけるみたいにして恐怖を誤魔化し懐く僕に、セデュは軽い笑い声を立てる。なんだかまだ、ふわふわしてる。極度の興奮状態から解放されて、気が抜けちゃったのかもしれない。

「…じゃあ、子守歌、歌ってくれる? セデュ、おねがい…」

「…いいよ、おやすみ、愛しい子」

 セデュの柔らかな低い声が、優しく慰撫するように、僕の耳元で囁くように歌う。運転席のセラノが鼻を啜る音が微かに聞こえる。泣いているのかもしれない。片側に寄りかかったバロットは窓の外を見ている。夜明け前の、微睡みのような薄青い空の真ん中を僕らは飛んでいく。優しい歌声に聞き惚れて、愛しいひとの腕の中で、僕は眠りに落ちていく。ゆらゆら、ゆらゆら、幼い頃のように、稚い日々のように。

 深く意識が沈む込む直前に、君が囁く愛の言葉を僕は飲み込んで、また少しだけ涙が出た。




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