表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/156

第103話 生まれた意味③

挿絵(By みてみん)




 死から再生できる回数には限度がある。


 無限に生き返られるほど、便利な能力じゃない。


 限度は十一回。厳密に言えば、十一回目で空間が解ける。


 不死性は、『黒牢翳こくろうえい』で支配された空間内限定で付与された能力。


 ――つまり、十二回目の死を迎えれば、絶命する。

 

「命のストックは残り九回。……でしょ? メリメリ」


 目が覚めたと同時に浴びせられたのは、ソフィアの正論。


 彼女は同じ被検体。実験の内容を知っていてもおかしくない。

 

「数え終わる頃には負けてるっすよ。『異常』頼りのお姉ちゃん!」


 精神攻撃を継続しつつ、メリッサは両手を地面に置く。


 ソフィアの足元が蠢くと、生じたのは影が入り混じる糸。


 強度が劣っていたなら引き剥がせないよう補強すればいい。


 そんなシンプルな考えを元に改善し、異能の掛け算を試みた。


 被ダメによる能力向上のバフ込みで、数十トン級はいけるはず。


「――ちょっ!!?」


 しかし、両手をグンと引っ張られ、体は宙に浮く。


 恐らく、縛られた足を動かして、力任せに引き寄せた。


 ――並外れた脚力と意思の力。


 片方だけでは成立しない、圧倒的なフィジカル。


 逆らえない引力の先にいたのは、拳を上下に構えるソフィア。


「残り……八回!」


 勢いは止まらず、不動の両拳に胸を貫かれ、三度目の死を迎えた。


 ◇◇◇

 

 両手には、血液と人肉と脳漿がこびりつく。


 カッとなったのは最初だけ。心は至って冷静だった。


 執拗に、容赦なく、念入りに、効率的に命のストックを削る。


(……まだ、本調子には程遠いな)


 意思の力の勘は取り戻しつつあった。


 身体の一部と感じるぐらいには馴染んだ。


 だけど、精密性に欠ける。繊細な操作は無理。


 全盛期を十とすると、今は一ぐらいの感覚だった。


「手が止まってるっすよ。自分を普通だと思いたい異常者!」


 減らず口を叩くのは、メリッサ。


 額から血を流しつつも、修復は完了。


 性懲りもなく、両手を地面に置いている。


(悪口も戦術もワンパターン。素材はいいんだけどなぁ……)


 話を聞き流し、哀れみの目線を向ける。


 改善を重ねてるつもりだろうけど、無駄な努力。


 少なくとも、限られた回数の中で勝つ見込みは見えない。


(やっぱり必要なのは、教育的指導。……いや、分からせ、だね)


 緋色のセンスを両脚に纏い、待ち構える。


 メリッサが固執するのは、異能による綱引き。


 死ぬごとに強度は増してるけど、全く意味がない。


 押し引きのタイミングさえ見極めれば、体勢は崩せる。


 相手が引こうとした瞬間に、引っ張るだけの簡単なお仕事。


「何度やっても無駄だよ。異能の押し付けだけじゃ勝てない」


 ソフィアは達観した態度で妹に忠告する。


 彼女が行使する能力は、意思の力とは異なる。


 聖遺物レリックの生体情報を取り込んだことによる、バグ。


 意思の力という電源を必要としない完全自律型の家電。

 

 ――明らかに、異常なんだ。


 普通なら能力も魔術も意思の力が不可欠。


 エネルギーの供給源がないと、発動できない。


 本元の聖遺物レリックも、主人の意思の力により起動する。


 そんな既存の常識では説明がつかないのが、彼女の力。


 ――だから、異能って呼んでる。


 それを誇りに思ってるみたいだけど、見てられない。


 行き着く先は、魔物か悪魔か吸血鬼か、想像もつかない。


 確かなのは、力を使えば使うほど、人から外れていくって点。

 

 現に、彼女が有する不死性は、意思の力の常識から逸脱している。


 条件次第では疑似的に再現可能だろうけど、かなりきつい縛りが必須。


 それなのに、彼女には大した縛りがない。影の空間内にいるだけで、可能。


 ――きっと、いつか破綻する。


 そのための予防策が、意思の力を覚えさせること。


 自分が理解できて、コントロールできる領域に置きたい。


 普通の押し付けかもしれないけど、きっと彼女のためになるはず。


「やってみなきゃ、分かんないっすよ」


 そんな胸中が伝わるわけもなく、メリッサは異能に頼る。


 ニヤリと笑みを浮かべて、楽しみながら、我が道を進んでる。

 

(はぁ……。ギリギリまで追い込まないと分かってくれないかぁ……)


 足元が蠢くのを感じながら、ソフィアは待ち構える。


 異能の自信を折り砕くために、あえて真っ向から受けに回る。


「残り……」


 影を纏った糸が両足を這い寄る。


 きゅっと結びついた瞬間が引く合図。


 もはや、安心感すら覚えるワンパターン。


 今か今かと何の捻りもない瞬間を待ちわびる。


(…………え?)


 でも、その時はやってこなかった。 


 影は全身に纏わりつき、体の型を取る。


 その上を無数の糸が通り、縫いつけ、至る。


「――変身物語メタモルポセス【モード『アイアンメイデン』】」


 人の型に沿って作られた、白黒の棺桶。


 強度が増した影と糸による拷問器具の完成。


 バタンと蓋が閉じると、無数の針が体に迫った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ