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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第102話 生まれた意味②

挿絵(By みてみん)




 普通って、一体なんだろう。


 時折、そんなことを考え込む。


 人、社会、文化、時代、ルール。


 色んな物差しを当てはめて考える。


 答えは、何を基準にしたかで異なる。


 人なら、人生を通した偏見の塊が普通。


 社会なら、人の迷惑にならないのが普通。


 文化なら、住む地域の慣習を守る人が普通。


 時代なら、流行りに合わせられることが普通。


 ルールなら、法律や規範を遵守できるのが普通。


 一通りの答えを出すけど、いつも納得がいかない。


 最終的な結論は、何度考えても同じ場所に辿り着く。


 ――分からない。


 属する国、生育環境、社会情勢が変われば、普通も変わる。


 突き詰めれば、好きな価値観を普遍的なものだと信じたいだけ。


 周りに受け入れられることで、自分の考え方は正しいと錯覚できる。


 ――ある意味では異常だ。


 異常が多数派になったことで、普通になった。


 それってなんだか気持ちが悪いし、寒気がする。


 大勢に受け入れられる前提なのが、受け付けない。


 だから、ほんの少しだけ考え方を変えることにした。


「人は糸を生成できないし、影も操れないし、死んで蘇る人間は『異常』だよ」


 普通かどうかを下すジャッジを他人に委ねない。


 自分を中心とした価値観を絶対として、押し付ける。


 それがソフィア・ヴァレンタインとしての生き方だった。


「認識できない速度で頭を引きちぎるのも、うちからしたら『異常』っすけどね」


 起き上がるのは、異常と判定した女の子。


 吹っ飛ばした頭は再生し、意思疎通ができている。


 帝国語に統一される前の呼び名だと、メリッサ・ナガオカ。


 世界の慣習、ファーストネームに合わせて、名前を先に持ってくる。


 ――それが普通だった。


 だけど、現在は普通が反転してる。


 帝国人の姓名は、帝国の慣習に合わせる。


 姓が先で、名が後。ナガオカ・メリッサと呼ぶ。


 ほんの些細な変化だった。世間は誰も気付いていない。


 気付けたのは自分だけ。だから自分しか信じないことにした。


「私にとっては普通だよ。意思の力を覚えれば、メリメリでもできる」


 真意を胸の内に秘め、ソフィアは会話を続ける。


 話題の争点は、人間離れした身体能力に移り変わる。


 異能を『異常』だと認めたくないから、論点をずらした。


 『異常』を愛しているとか言ったけど、しょせんはその程度。


「覚えたら『異常』が普通に成り下がる。それじゃあ愛せないんすよ」


 事実を指摘するも、その分言い返される。


 ピキリと頭の血管が浮かび上がったのを感じる。


 意思の力を扱うこっちを、異常者扱いされた気がした。


「分かった。……じゃあ、メリメリが普通になれるよう、お姉ちゃん頑張るね!」


 ソフィアは、憤りを右拳に乗せる。


 戦う目的なんてなかったけど、今できた。


「――っっっ」

 

 拳に胸を貫かれ、メリッサは吐血する。


 意思の力を覚えさせて、普通を押し付ける。


 そのためなら妹の柔肌を何度でも貫いて見せる。


 ◇◇◇


 ソフィアは静かに怒り、暴力に走る。


 右拳を振るって、左胸をたやすく貫いた。


 生じた穴から血液が溢れ出す。意識が遠のく。


 この戦いにおいての、二度目の死が近づいていた。


(意地でも自分を普通と思いたいってとこっすか……)


 一度目よりも、収穫はあった。


 二度目では、相手の主義主張が見えた。


 殺されてしまうけど、次にやることは決まった。


「……あんた、やっぱり誰よりも『異常』っすよ」


 逆張りだ。普通の考えや価値観とは、真逆の主張をする。


 相手が普通と言い張るなら、こっちは『異常』と言い張る。


 『正常』だと思っていた判断基準が揺らげば、きっと壊れる。


 ――そこに勝機がある。


 次の自分にバトンを繋ぎ、メリッサは二度目の死を迎えていった。

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