第102話 生まれた意味②
普通って、一体なんだろう。
時折、そんなことを考え込む。
人、社会、文化、時代、ルール。
色んな物差しを当てはめて考える。
答えは、何を基準にしたかで異なる。
人なら、人生を通した偏見の塊が普通。
社会なら、人の迷惑にならないのが普通。
文化なら、住む地域の慣習を守る人が普通。
時代なら、流行りに合わせられることが普通。
ルールなら、法律や規範を遵守できるのが普通。
一通りの答えを出すけど、いつも納得がいかない。
最終的な結論は、何度考えても同じ場所に辿り着く。
――分からない。
属する国、生育環境、社会情勢が変われば、普通も変わる。
突き詰めれば、好きな価値観を普遍的なものだと信じたいだけ。
周りに受け入れられることで、自分の考え方は正しいと錯覚できる。
――ある意味では異常だ。
異常が多数派になったことで、普通になった。
それってなんだか気持ちが悪いし、寒気がする。
大勢に受け入れられる前提なのが、受け付けない。
だから、ほんの少しだけ考え方を変えることにした。
「人は糸を生成できないし、影も操れないし、死んで蘇る人間は『異常』だよ」
普通かどうかを下すジャッジを他人に委ねない。
自分を中心とした価値観を絶対として、押し付ける。
それがソフィア・ヴァレンタインとしての生き方だった。
「認識できない速度で頭を引きちぎるのも、うちからしたら『異常』っすけどね」
起き上がるのは、異常と判定した女の子。
吹っ飛ばした頭は再生し、意思疎通ができている。
帝国語に統一される前の呼び名だと、メリッサ・ナガオカ。
世界の慣習、ファーストネームに合わせて、名前を先に持ってくる。
――それが普通だった。
だけど、現在は普通が反転してる。
帝国人の姓名は、帝国の慣習に合わせる。
姓が先で、名が後。ナガオカ・メリッサと呼ぶ。
ほんの些細な変化だった。世間は誰も気付いていない。
気付けたのは自分だけ。だから自分しか信じないことにした。
「私にとっては普通だよ。意思の力を覚えれば、メリメリでもできる」
真意を胸の内に秘め、ソフィアは会話を続ける。
話題の争点は、人間離れした身体能力に移り変わる。
異能を『異常』だと認めたくないから、論点をずらした。
『異常』を愛しているとか言ったけど、しょせんはその程度。
「覚えたら『異常』が普通に成り下がる。それじゃあ愛せないんすよ」
事実を指摘するも、その分言い返される。
ピキリと頭の血管が浮かび上がったのを感じる。
意思の力を扱うこっちを、異常者扱いされた気がした。
「分かった。……じゃあ、メリメリが普通になれるよう、お姉ちゃん頑張るね!」
ソフィアは、憤りを右拳に乗せる。
戦う目的なんてなかったけど、今できた。
「――っっっ」
拳に胸を貫かれ、メリッサは吐血する。
意思の力を覚えさせて、普通を押し付ける。
そのためなら妹の柔肌を何度でも貫いて見せる。
◇◇◇
ソフィアは静かに怒り、暴力に走る。
右拳を振るって、左胸をたやすく貫いた。
生じた穴から血液が溢れ出す。意識が遠のく。
この戦いにおいての、二度目の死が近づいていた。
(意地でも自分を普通と思いたいってとこっすか……)
一度目よりも、収穫はあった。
二度目では、相手の主義主張が見えた。
殺されてしまうけど、次にやることは決まった。
「……あんた、やっぱり誰よりも『異常』っすよ」
逆張りだ。普通の考えや価値観とは、真逆の主張をする。
相手が普通と言い張るなら、こっちは『異常』と言い張る。
『正常』だと思っていた判断基準が揺らげば、きっと壊れる。
――そこに勝機がある。
次の自分にバトンを繋ぎ、メリッサは二度目の死を迎えていった。




