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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第101話 生まれた意味①

挿絵(By みてみん)




 強くなりたい。そう思ったことは一度もない。


 生まれた時から強かった。能力に恵まれていた。


 遺伝子の恩恵。ゲノム編集の成果。聖遺物レリックの継承。


 教育の省略。生育過程の簡略。偏りある知識の共有。


 強くなるべくして生まれた。強いのが当たり前だった。


 だから強さに興味がなかった。強くなる必要がなかった。


 ――でも。


 強くならないと勝てない相手がいた。


 共有された知識の中でも、最強格の存在。


 被検体001。名前はソフィア・ヴァレンタイン。


 同じ実験から生まれた、血の繋がらないお姉ちゃん。


「――――」


 メリッサは白手袋を振るい、五本の糸を飛ばす。


 『白鋼絲はっこうし』と呼ばれる、異能で編まれた特殊繊維。


 伸縮自在で切断性が高く、太さも強度も思うがまま。


 現在の太さは約0.1ミリメートル程度。強度は数トン級。


 そんな便利で強靭な糸が、影の空間を縦横無尽に駆け巡る。


「ほっ、よっ、とっ」


 軽快な声とステップで糸を躱すのは、ソフィア。


 ギリギリまで引き付けた上で回避し、前進を続ける。


 魔眼を使う気はなく、接近戦でケリをつける腹積もり。


 敵との距離は約三メートル。この間にも距離は縮まった。


(ま、これで勝てるなら、苦労しないっすよね)


 猛進するソフィアを観察しつつ、メリッサは思考する。


 普通の異能は通用しない。だとすれば、何に頼るべきなのか。


 体術に切り替えるか、知略を巡らせるか、意思の力を取り入れるか。


 ――どれもやりたくない。


 正しかったとしても、やりたいと思えない。


 我がままだとしても、どうしても貫きたいことがあった。 


「死んでも、異能でぶち倒してやるっす」


 心意気を新たに、メリッサは左手を地面に置く。


 すると、ソフィアが駆けようとする地面が蠢いた。


 生じたのは影の手。彼女の足を掴むように絡みつく。


 『黒牢翳こくろうえい』と呼ばれ、異能から編み出された特殊概念。


 元の影の濃さと被ダメージで強度が増し、自在に操れる。


 加え、外部からの干渉を受けない、不可侵空間を構築する。


 空間内は独創世界に近く、主人には有利な能力が付与される。


「どうして、そこまで異能にこだわるの?」


 影の手に動きを封じられながら、ソフィアは尋ねる。


 その間にも、彼女の両側から白い糸が襲い掛かっている。


 何も抵抗しなければ、答えるまでもなく決着がついてしまう。


 それは少し味気ない。聞かれた以上は、答えてやる義務があった。


「普通の枠組みから外れた異常を、心の底から愛しているからっすよ」


 メリッサは本音を語り、白い糸が空を薙いだ。


 彼女が縛り付けられていた空間を切り裂いていく。  


 どうせ、決着はつかない。諦観しながら警戒を続ける。


「あっそ」


 すると、案の定、響いたのはソフィアの声。

 

 方向は後ろ。至近距離と言える場所から聞こえる。


(読んでないと思ってんすか!)


 振り返り、メリッサは迎撃態勢に入る。


 だけど、体が思った通りに動いてくれない。


(あれ……? おかしいっすね……)


 不自然に感じていると、グチャという音がした。


 気持ちのいい音じゃない。奇妙で不可解な音だった。


 何が起きたか理解が追いつかない。いや、認識したくない。


「頭を吹っ飛ばされて、死んでいく気分はどう?」

 

 そこで現実を突きつけてくるのは、ソフィアだった。


 短い言葉で適切に、起きてしまった現象を説明している。


 負けた。殺された。頭を手でちぎって、ポイっと捨てられた。


「…………くそ、くらえ」


 下らない結末を受け入れ、メリッサは悪態をつく。


 すると、目の前が真っ暗になり、意識は強制終了した。 

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