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上等だよ!

「俺が? 前線はどうするんです?」

「前線はワシが指揮をとりゃぁいいだろ」

「じゃぁ後ろは⁉」

「後ろには誰も置かん」

「はあ⁉」

 流石に言葉が続かなかった。

 それはつまり、蟻の巣に全戦力を投入するってことだろう?

 だがそれは・・・。

「待ってください! それでは被害が!」

 俺より早く、A級リーダーが割って入る。

「周りに被害が出んのは、こいつが言ったように先に末端に手ぇ出すからだ。真っ先に本丸を叩きゃぁ兵隊共も戻ってくるさ」

 それはそうだ。

 本能に女王を守るというのが刷り込まれてるんだろう。奴らは他のすべてをおいてでも、女王の危機に馳せ参じる。

 だからと言って、旧採掘場の奥にいる女王を先に潰すってのは・・・・・・そうか。

「旧採掘場そのものを潰すのか・・・」

「そうだ。ご丁寧に正面から乗り込んだんじゃぁ遅いだろうが、巣ごと潰しちまえば奴らも散らばらねぇだろうよ。ついでに、入り口から水でも流がしておきゃぁ、ある程度は兵隊共も減らせんだろうよ」

「それが出来るなら初めからそれを軸に考えればいいじゃないですか!」

「それでどうにか出来るんならな。結局は時間の問題だ」


 本部急襲。それは短期決戦だ。圧倒的不利をひっくり返すための苦肉の策に過ぎない。

 巣を潰したところで女王は死なない。精々何割かの兵隊を持っていけるかぐらいのものだが、巣を潰された女王は必ず地表に顔を出す。そこを討ち取る。これが作戦・・・になるんだろう。

 問題は、巣を潰されたことで怒り狂った女王を素早く打ち取れるかどうかだが・・・旧採掘場の中がどうなっているかも分からなければ、女王がどこにいるかも分からない。結果、いつどこに女王が出てくるのかが予測できない。これでは一番隙ができる地表に出る瞬間を叩けない。

 女王が地表に出れば、他の蟻も出てくるだろう。卵だって担いで来るはずだ。そうなれば、卵を孵して兵隊にするために蟻は無差別に攻撃を始めることになるが、こっちはそれを止められない。戦力を集中する以上、仕方のないことだ。だから、時間の問題になる。

 策とも言えない力技。とはいえ、策を練るための時間もない。

 安全を考えるなら、包囲からの殲滅戦。

 外に逃がさなければ被害はギルド内だけで収まる。

 だが、この安全は他の誰かのもので、ジェイド達は含まれない。


「なら! アンタはどうしたいんだ‼」

 曇りなき眼差しが俺を捉える。若く、真っ直ぐで、恐れを知らない眼が。

 そんな眼で見てくれるな。

 わかってるんだよ。俺だって。

 助けてやりたい。被害も出したくない。時間の問題とはいえ、両立できるかもしれない。

 それでも、教官が指揮を執ったとしても、動かせるのは30かそこらだ。俺達は軍じゃない。隊列を組んで統率の取れた動きなんざ出来やしねぇ。練度だって、皇都の冒険者じゃたかが知れてる。

 俺はそれを支えなきゃならない。

 流されたからじゃない、頼まれたからでもない。

 皇都は俺が育った街だ。生まれた故郷より長く住んだ場所だ。思い出だって、良いも悪いも山ほどある。ギルドは俺の居場所だった。昔から、今も。

 失くしたくない。失敗するわけにはいかないんだ。


「お前さんなら出来る。そうだろう?」

 答えられない俺をよそに、教官が笑う。

「調子の乗った馬鹿者も、調子に乗られて困ってるワシらも、まとめて助けてくれるだろう?」

「出来るだけはやりますが・・・」

「なら、十分じゃねぇか!」

「なんでそんな自信有り気なんですか・・・」

「なんでってそらぁ、知ってるからだろぉよ」

「なにを?」

「お前さんの力を!」

 自信満々に言ってくれるが、それは買い被りが過ぎるだろう。

 俺は仲間についていけずに引退したような、その程度の力しかない。

 確かに単体ならC級、巣の掃除でもB級パーティー何組かで倒せる蟻如きには、遅れは取らないだろうが・・・それでも数が数だ。時間制限に間に合うかどうか。

「それと、勘違いしとるようだから言っとくが、ワシは助けてくれと頼んだんだ。支えてくれとは言うとらんぞ?」

「・・・別に変らんでしょう」

「全然違うわ! いいか⁉ 助けてくれってのは、出来ないことを代わりにやってくれってことだ‼ ワシにも出来るように支えてくれなんぞと、言っとるわけじゃぁねぇんだよ‼」

 一度、ゆっくりと息を吐いて。


「今さら、自信を持てとのたまうつもりはない。やれることをやってくれりゃぁいい。それだけでワシらは助かる。それとも、やる前から出来ねぇと逃げ出すか? そんなら別の方法を考えるがな?」

 貫禄交じりに言ってくれる。

 困ったもんだ。

「出来ることはやりますよ・・・出来るだけ、ね」

 その顔と態度には、いつだって乗せられすぎるんだから。

「決まりだな。ワシの指揮が心配だってんなら、さっさとバカを助けてくることだな」

「心配なのは生え際の方ですよ」

「そこの心配はせんでいいわ!」

「それで・・・いいんですね?」

 そう聞くのは、いつの間にやら置いてきぼりを喰らったA級リーダー。

「あぁ。前線はワシが、あとのことは全部こいつがどうにかする」

「ったく、無茶言ってくれますよ」

「ですが・・・」

「心配するな。お前さんらA級パーティー”蒸気の騎乗者(スチームライダー)”には偵察の他に、こいつのサポートも任せる。頼りねぇようだったら好きにしろ。人目がねぇとサボりやがるかもしれんからな!」

「わかりました! A級パーティー”蒸気の騎乗者”リーダーのこの俺、サンがしっかりと監督させていただきます!」

「この状況で誰がサボるかよ‼」

「それと、南の町のギルドには連絡を入れておいた。皇国軍にも出る前には話を通す」

 俺もベルに連絡しとかねぇとな。

「それはもしもの時の―――」

 なにを言おうというのか。その言葉、わからなくもないが・・・それでも。


「「冒険者にもしなんてもんはねぇんだよ‼」」

 受け入れられるはずもなし。

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