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鍛冶屋にて

 鍛冶屋と(おぼ)しき建物の中は・・・予想通り鍛冶屋だった。

 だが、違和感がある。

 あまり言うべきじゃないんだろうが、道具類がボロい。

 年季が入っていると言えば聞こえこそよくなるんだろうが・・・俺が皇都を離れる時には、こんな場所にこんな店はなかったはずだ。現に店自体はそれほど傷んでいる様子はない。その差がさっきの違和感の正体か。

 だとしたら、10年かそこらでこれほど道具類をボロボロにする鍛冶屋ということになるんだが・・・その場合、道具の手入れもまともにできないズボラか、そんなところに気を使ってられないほど忙しい店かということになる。

 ただ・・・。


「そんで? なんのようだ?」

 俺達を店に連れ込んだおっさんが聞く。

 教官が熊ならこっちは汚れた白熊か? 火にあたってるとはいえ室内作業だ。日焼けとは縁遠いのかもしれない。

「なんのようっていわれてもな? こいつがここで装備を買ったって言うから見に来ただけだ」

 隣でキョロキョロしているヨハンを前に出す。

 ふと、もう一人を探したら出口ギリギリで待っていた。

「ん? おぉ! 坊主か!」

 一瞬、首をかしげたおっさんだったが、すぐに思い出したようだ。

「どうだ? 使いやすかったろう!」

「え? えー・・・っと・・・?」

 そう聞かれて困った様子でこっちを見上げて、助けてという表情だ。

 そういえばまだ使ってなかったんだったか・・・、と思ったが違う。そうだ。装備を変えるってことはいらねぇっていうのと同じだし、なんなら返品ってことにもなるのか。

 ゴツイ大人相手にそんなことは言えねぇか。

 つーか俺も嫌だわ。

 むさくるしさは教官とタメを張るが・・・実力も同等とかねぇよな? 流石に。朝から一戦やらかしてきてるのに続け様なんて冗談じゃねぇぞ。

「お? どうした?」

 そんなヨハンの態度に、知ってか知らずか心配するように声をかける辺り、悪人ではないんだろう。その相手に俺は、

「その装備は使わねぇからどうしたもんかって話だったんだよ」

 悪びれもせずにそう告げなければならなかった。

「使わねぇってどういうこった? おれっちの作品が気に入らねぇってのか! つか、オメーはなんだ?」

「俺は冒険者ギルドの人間だ。そいつと・・・あいつの教育係って奴だ」

「その教育係のオメーが、なんでこいつらの装備を決めんだ? 好きにやらせてやりゃぁいいだろぉが!」

「好きにやらせるからいらなくなったんだよ」

「おぉ⁉ どういうこった?」

 こんな状況でもきちんと俺の話に耳を傾けるなんて、間違いなく善人だな。

「色々話したら、結果として敵とは出来るだけ距離を置きたいって結論になったんだ。だから、スモールシールドはともかくとして、ショートソードはようなしになったってわけだ」

「なんだ坊主、んなことも決めてなかったんか?」

「すみません!」

 呆れたような声にすぐさま頭を下げるヨハン。


「うーん・・・まぁ話は分かった。つっても、それを返品で受け取ることも出来ねぇ」

 おっさんは申し訳なさそうな顔で言う。

 ここは突っ込むべきか・・・?

「なんでだ?」

 短い問いにも困ったように手を挙げて、

「見りゃぁわかると思うがよ・・・恥ずかしい話、金がねぇんよ」

 首を振る。

 そう。忙しさは感じられない。店の中にはおっさん一人。よほどのこだわりでもなければ、人手を雇って現場を回すはずだ。

 なら、相当なズボラなのか・・・っていうと、そうでもないと思わせるのが商品の質。

 パッと見だが、どれも丁寧に作られている。

 重心の偏りや仕上げの雑さ、手直し品のなげやりさも見当たらない。

 同じ二つのものにも差異を見受けられないとなれば、ズボラという線も消えそうだ。

 駆け出しでも手が届く値段で品質も悪くない。にもかかわらず金がない。

「・・・まぁ、引き取ってくれって言いに来たわけでもないし、それは構わねぇさ」

「面目ねぇ。返品は出来なくとも、交換なら出来っから良かったら色々見てみてくれ」

「だとよ。ヨハン適当に選んでみろ。リミア! お前も盾がいるとか言ってたろ!」

 いいんですか⁉ と早速見に行くヨハンといそいそと移動するリミア。

 これでしばらく時間を稼げるだろう。


「気になることがあるんだが・・・聞いてもいいか?」

「そりゃぁ構わねぇけどもよ?」

「いつからここでやってるんだ?」

「5、6年前ってとこだな」

「道具はその時そろえたのか?」

「だったらこんなボロんなってねぇよ!」

「そうか・・・なら、なんで皇都なんかに?」

「ちょうどそん頃、皇都出身の冒険者が大物を倒したとか聞いてよ。軍に新しい部隊も出来るって話だったからそんなら・・・ってよ」

 おもり隊か・・・。

「その割にはこの現状か」

「あぁそうだ。なっさけねぇ話だけどよ」

「軍は?」

「とっくの昔に(おろし)が決まってるってよ。売り込みに行くことも出来んかった」

「あの槍は?」

「あれか。あれはそん時に”これはただでくれてやるから二度と来るな”って。そんで、手直しして置いてんだ。悔しいがよ、あれがうちで一番売れてんだ」

 おもり隊の装備をちゃんと見てはなかったが・・・いや? だとしても、軍の正式採用装備を払い下げにするか? しかも売れてるって・・・。

「あんなもん誰が買ってくんだ?」

「あー・・・大体は兵士の格好の奴が買っていくぞ?」

 どういうことだ?

 捨てたもんをわざわざ買い戻してんのか?

「数はでるのか? 売れる時間は?」

「月に2、3本ってとこだ。時間までは覚えちゃねぇよ」

 その程度じゃ個人の買い物でも通じるが、おもり隊が出来てからなら2年以上だぞ? 毎月3本でも70本以上が売れてるじゃねぇか!

 兵士の格好で昼間に来てたんなら、皇国軍以外の可能性が高い・・・。

 やばくないか?

「先生!」

 そこへ、タイミング悪くヨハンが装備を持ってきた。

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