常識
「あ・・・・・・危ないじゃない‼」
誰も、言葉を忘れていた。
その中でいち早く立ち直ったエイラが叫ぶ。
「もし当たってたら、どうなってたか⁉」
確かに、左右どちらにそれても大惨事だっただろう。
だがしかし、
「当たるわけねぇだろ?」
その指摘は的外れもいいところだ。
「そんな簡単に‼ 万が一ということも―――」
「ありえねぇな」
「ッ‼ 何を根拠に⁉」
へたり込むキューティーの隣にしゃがみ込み、気遣いながらもキッ! と睨む。
「万全を期す。当然のことだ」
両腕を挙げ、
「つまり、装備の手入れも完璧ってわけだ」
籠手を見せつける。
しかし、
「なにをもって完璧と言えるんですか⁉ 完璧だったらなぜ当たらないと言えるんですか⁉ 命にかかわることですよ‼」
エイラは捲くし立てる・・・が、
「・・・あのなぁ?」
動転しているのか分からないが、自分の言葉の意味すら正しく理解できていない。
「命がかかわるからだろ? 命を懸けて戦うんだ。なんで思った通りのことが出来ないわけがある?」
そう。万全を期すとはそういうことだ。
思い通りに動けて当然。なぜなら、そのための準備なのだから。
そうでなければ、いったいなにを信じて戦えばいい? なんのために、なにをしていた? ということになる。
「理想を体現しろ。戦場に言い訳を持ち込まないためにな」
敵がモンスターだろうが人だろうが、自分の状態は変わらない。戦場では些細な違いが、思考の乱れが、一瞬の遅れが生死を別つ。どんな時も、自分を助けるのは自分自身だ。
思い通りに動けなかった。
そんな言い訳など、聞くに堪えない。
だから、
「抜かりがなければ思い通りになるんだよ」
当たるはずがないのだ。
「そ、その装備は故障とかは・・・し、しないんですか? その、弾詰まりとか・・・」
自分の言葉の意味を理解して、次の言葉が出なくなってしまったエイラに代わり、ケイトが質問する。
「ああ、機械式じゃないからな。そんな複雑な構造でもないし」
「と、ということは魔法で・・・?」
「そういうことだな。だからまぁ、故障だとか弾詰まりなんかはありえないな。弾切れはあるが・・・」
「ね、狙いも?」
「そりゃ何百Mも離れてんなら外れもするだろうが、目の前の的外すようなら使いもんにならねぇだろ?」
それはそうだとケイトも頷く。
この籠手は自作とはいえ、決して出来の悪いものではない。
撃ち出す弾についても、ただの石ころだが限りなく真球に近いものを使っている。
射出方式が魔法なので弾を曲げて飛ばすことも出来なくはないが、使い方としてはもっぱら、正面の敵にぶっ放すという考えいらずの運用法だ。
「気になったんですけど。それ、何を飛ばしてるんです?」
「ただの石だ」
興味を示すヨハンに抜き取ったマガジンから取り出した弾を見せる。
「本当にただの石なんですね」
「嘘つく意味あるか?」
「いえ。金属を飛ばした方が威力が出るのでは?」
手に取っていた石を返しながらヨハンが言う。
「そうだな。じゃぁそれはどうやって用意するんだ?」
「え? それは・・・」
金属の方が威力が出るのはその通りだ。それでも、そうしない理由がある。
どうやらヨハンも気付いたようだ。
「真球の形をした金属を扱ってる店がない。あったとしても、この籠手に合うサイズとも限らない」
真球の金属なんぞを欲しがるもの好きがどれだけいる? 少なくとも、俺以外にこういった装備を使っていたのは数人だ。その数人のためだけに商品を用意する商人も職人もいるはずがない。
サイズにしても、そういう武器を使っていた冒険者のそれと俺のとじゃぁかなり違いがあった。
「そうなれば特注で作ることになるわけだが・・・石ころならそこらにあるが金属はそうもいかねぇ。しかも、誰かに頼むってことは材料をそいつに届けて、そこからさらに完成品を送って貰うことになる。 いったい幾らになるんだろうな?」
「ですね。それじゃ意味がない」
「難しい言葉でいえば費用対効果ってやつだ。装備を決める時には重要なことだから、覚えておけよ」
はい! と返事をするヨハンをよそに、
「それは籠手として、ちゃんと使えるのでしょうか?」
「強度なら問題ない。耐性の高さも結構なもんだ。絶縁能力に助けられたこともある」
「絶縁⁉ それがあれば私も・・・⁉」
「・・・面倒なしがらみを切る能力じゃねぇからな?」
一喜一憂するリミアをなだめた。