9・お茶会の時間です(※邪魔する人は許しません)
一年以上経って更新しました。相変わらず会話文多めのコメディです。宜しければ、お付き合いください。
追記>早速誤字報告を頂きました。見逃しが本当にメチャクチャ多いので本当にありがたいです。いつも本当にありがとうございます!又、教えて頂ければ幸いです。
【前話のあらすじ】
他国の王女様とお友達になった男爵令嬢は、王女様に頼まれて王子と下っ端を呼びに行くことになりました。
「あのぉ、少しお話したいんですけど…いいですか?」
「え…?」
恥ずかしそうに目元を染めて、懇願するように小さく胸の前で手を握り、潤んだ大きな目で自分を見つめる。
心臓が高鳴った。
今にも逃げ出しそうに震えている華奢な身体。それでも決意を込めて一途に見つめてくる瞳。
それが好意を持っている相手なら、期待せずにはいられないだろう。
そうして、私は蝶が花に誘われるが如く、彼女の元へと歩みを進めた。
★ ★ ★ ★ ★
「―――ふぅ、どうにかお菓子は準備出来たわ。用意していた100枚のクッキーを食べきられた時にはどうなる事かと思ったけど、何とかお茶会は出来そう。後は、王太子殿下たちをお待ちするだけね」
自ら購買までダッシュして買い求めたお菓子を並べ、彼女は息を吐く。
「あの子、ちゃんと王太子殿下達を案内できるのかしら…? まだ校内に詳しくないから任せてしまったけど心配だわ…」
「王女様! お待たせしました!」
「あら、随分と早かったわ、ね……」
「おらぁっ! 王女様がお待ちだぁ! さっさと歩け、この鈍間な駄犬共がっ!」
「クッ、殺すなら、いっそ殺せ……!」
「きゃああああああああああ!?」
不本意な強制イベントで友人となってしまった相手が、大国の王太子とその側近を縄で縛って目隠しをし、蹴り飛ばしながら連行して来た件についてぇぇぇぇぇ!!
★ ★ ★ ★ ★
「一体ここはどこなんだ!? 何が起こった!?」
「そこにいるのは誰だ!? 我々にこんなことをしてただで済むと思うなよ!」
「目的は何だ!? 金か!? 国家転覆か!?」
「王太子となった時から覚悟は出来ている。――――殺せ」
お友達の王女様にお願いされて連れてきた王子と下っ端が煩い。
「あわわわわわわ!?」
王女様が喜びの余り麗しく泡を吹いていらっしゃる。
どうやら、ご満足頂けたようだ。
「では、お茶会を始めましょうか」
「いやこれ、お茶会じゃなくて地獄の査問会ぃぃぃぃぃ!!」
王女様が懇願するように私の腕を取る。
成程、全て理解した。
「ああ、煩いですもんね。直ぐに黙らせます」
「そうじゃないわよ!? 何で王太子殿下達を縄で縛っちゃったの!?」
「暴れられると面倒なので」
「それ熟練の誘拐犯のセリフゥゥゥゥゥ!! 早く解放して差し上げて!」
「暴れられると面倒なので」
「何故お茶会で暴れる前提なの!? お願いだから早く縄と目隠しを解いて!」
「仕方ないですねぇ」
王女様が必死でお願いしてくるので、渋々王子と下っ端の縄と目隠しを解く。
「暴れないでくださいね」
「いや、暴れる前に昏倒させられたのだが…」
「やっぱり犯人はお前か」
「犯人はいつも一人」
「頼むから、何かするときは事前に申告してくれ」
「面倒なので自分で察して下さい」
「お前を理解するには人生を後75回はやり直さないと無理だ」
目隠しを取り、ようやく大人しくなった王子たちは縄を解くとホッとしたように体を解している。
話している私達を見て、王女様が恐る恐る声を掛けて来られた。
「あの…貴女、随分と王太子殿下達と仲が良いのね。もしかして、お友達なの?」
「止めて下さい。人聞きの悪い」
「どういう意味だよ!」
「敢えて言うなら、一方的に迷惑を掛けられている関係性です」
はっきりと言いきれば、何故か殿下が肩を落としている。
「め、迷惑…確かに…」
「殿下、本当の事を言われたからって凹まないで下さい!」
「報酬はちゃんと払ってますから! タダ働きをさせている訳じゃないですから! はっきり言って足元を見たぼったくりですから! 気にする事ありません!」
「寧ろ、割とこっちも物理的な被害受けてますからね! ドローですよ、ドロー! ちょっとこっちの被害が大きい位です!」
下っ端達が殿下を慰めている声が不思議と癇に障る。何故か白い粉をぶつけたくなってきた。でも、ここは王女様のお茶会だ。我慢しなくては。
「…チッ、命拾いしたな」
「よく分からないが命の危険を脱したことは理解した」
「用があるなら拳で語る前に、口で語ってくれ」
「それで一体何なんだ」
「何か私に用があるのではないのか?」
王子が首を傾げながら聞くので、王女様を紹介する。
「用があるのは私ではなくて、こちらの王女様です」
「え? 貴女は…?」
「あ、あの…私、最近南の国から、こちらの学園へ転入してまいりました。それで、王太子殿下とお近づきになりたくてお茶会にお誘いしたのです。招待状は受け取って頂けましたか?」
緊張した顔で王女様が言えば、王太子殿下は困惑した顔で下っ端達を振り返った。
「招待状なんて来ていたのか?」
「申し訳ありません。確認を怠っておりました。殿下が白い粉のお陰でまともになってから、毎日山の様に届くようになり、担当者も確認が間に合わず…しかし、他国の王女殿下の招待であれば、最重要項目として優先的に確認が入る筈なのですが…」
下位貴族ならまだしも、おかしいですね、と首を傾げる下っ端B。それに何故か王女殿下は顔を赤くしている。
「あの、私、個人的に出しましたので…もしかしたら下位貴族の方と同じ方へ紛れてしまったのかもしれませんわ」
「そうだったのですか。こちらの不手際で大変失礼しました」
「何かすみません、王女様。うちの王子と下っ端が使えない存在で…」
「お前は今、何目線で謝っているんだ?」
「でも、過ぎた事を言っても仕方ありませんし、お茶会を始めましょう!」
「そして、何でお前が仕切るんだ」
パンパンと手を叩いて、さっさと席について、お茶を淹れた。うん、いいお茶だ。お菓子も美味しい。モグモグ。
「そして、開催者が座る前に勝手に座った上に、自分の分だけお茶を淹れて飲むという…」
「作法以前にフリーダムすぎるだろ。本当に貴族令嬢か」
「ハッ! 大変! 王太子殿下もご側近の方々も早くお座りになって! 早くしないと又してもお茶菓子を食べきられるわ!」
「そ、そうか、分かった」
王女様の声に、王子が慌てて席についた。
「お茶菓子を食べきられるから早くお茶会をしようとか斬新すぎる」
「又してもとは?」
「実は先ほどもあらかじめ用意していたお茶菓子のクッキーを100枚食べられたのです…」
「飢えた獣かな?」
「王女様はお腹を空かせた私に大切なクッキーを下さったのです。その時から、私は王女様のお友達…」
「完全に餌付けされてんじゃねぇか」
「気が付いたら勝手に食べられていたのだけど…」
「用意していたものを勝手に食べ尽くされた上、コイツと友達にまでならないといけないとか、罰ゲームが過ぎる」
「わ、私もクッキーを用意すれば、友人になって貰えるだろうか…?」
「殿下、身を切って罰ゲームに参加しないでください」
「ハァ…殿下には、私がもので釣られる様な安い女に見えるというのですか?」
「え、それは…」
「見える」
「見える」
「どうして見えないと思った?」
下っ端達が今日も失礼なので、席に座ったまま、指の先で塩の塊を弾き、そっと目に添えて差し上げた。三人とも椅子から転げ落ちたが、お茶もクッキーも美味しいので問題ない。
「その、すまない…侮辱するつもりはなかったのだ…」
「殿下! 我々の惨状を見て下さい! 我々は今、襲撃されています!」
「殿下、正気に戻って! とんでもないコントロールだぞ!? どうしたら、座ったまま、人の目に塩をぶつけられるんだ!」
「駄目だ、初めての恋に我を失っている…! 何より怖いのは、人に塩をぶつける事に何ら躊躇を覚えていないという点だ! 凄腕の暗殺者かよ!」
目を抑えて口々にそう言う下っ端達。相変わらず煩い人達である。
そんな中、王女殿下がボソリと呟いた。
「―――貴女、さっき男爵令嬢だって話してたわよね?」
「はい」
荷物を運ぶときに、確かに王女殿下に話した気がする。
目の前のクッキーの匂いに気を取られて半分くらい聞いてなかったけど。
「―――――もしかして、『王太子殿下と仲のいい男爵令嬢』って、貴女のこと…?」
「止めて下さい! 縁起でもない!」
「ごめんなさい!?」
「何でキレた!?」
危ない危ない。王女様に不名誉な称号を与えられてしまう所だった。セーフ!
【おしまい】
【おまけ】
「王太子殿下達を昏倒させたって一体どうやったの?」
「物陰に呼んで、首の後ろへ手刀を落としました」
「そ、そう…警戒されなかったの? 物陰に呼び寄せたのに?」
「『お話があるんですぅ』って目を潤ませて言ったら、全員ノコノコついてきたんで」
「「「「「……………」」」」」
「お前たち…」
「…っ、だって…だって仕方ないじゃないですかぁ! コイツ顔だけは可愛いんですから! 顔だけはとにかくいいんですからぁぁぁぁぁ!!」
「可愛い子に物陰に呼ばれたら期待するじゃないですか! 期待せざるを得ないじゃないですかぁぁぁぁ!!」
「畜生、オレ達だって青春したいんだ! 殿下の側近ってだけで避けられて、出会いゼロなんだよ! 婚約者にも『ゴメン、無理…』って振られてんだよこっちはぁぁぁぁぁくそぉぉぉぉぉぉ!!!」
「そ、そうか、す、すまない…」
「闇が深いわね…」
「ははは、可哀想。ウケる」
「「「お前が言うな!!!」」」




