戦闘訓練
グルナの後をついて歩いてきたカイルたちは城内にある、日々兵士たちが訓練を行っている建物に連れてこられた。
目の前のグルナと同じように訓練所の唯一ある扉を通り抜けた瞬間。
(うん? 今なにか違和感が……)
カイルは自身になにが起こったのか理解できず、周囲をキョロキョロと見渡すが、そう感じたのは後ろにいたメグも同じようで、カイル同様に周囲を警戒する。
「あぁ、お前らもそれぐらいは感じ取れたか。この訓練所はとある魔術が施されてんだよ。お前らが感じたのは魔術空間に入る時に感じたもんだろ」
「魔術空間を作れる程の人物がキルホストル王国にいるんですか!?」
ホールズの図書館で調べものをしていた際に魔術空間に関する記事を目にしていたカイルはその現物が存在することに興奮を覚えた。
魔術空間とは魔力により現存する世界とは別の空間を生み出す魔術である。
それは言わば、魔力によりもう一つの世界を作ることを意味しており、並大抵の人物では空間作ることすら出来ないにも関わらず、この訓練所の広さは建物の外見からは想像できない程の大きさで、戦闘訓練が行えるように十分な広さが確保されている。
「いるっちゃいるんだが、あいつもちょっと特殊でなぁ……。まぁ、お前らが会う機会はねぇだろうから安心しな。それよりもだ、武術大会まで時間がねぇ、とりあえずお前らの実力を見てやる」
二人に対峙するように振り返ったグルナは詠唱を唱え、紅蓮刀を構える。
「もちろん、お前らはコヴァターだ、パートナーを呼び出していいぜ。全力でかかってきな」
グルナの言葉にお互いの顔を見合わせるカイルとメグは頷く。
「サモン、テナ!」
「サモン、ギュウタス!」
「ミノタウロスに……うん? ガキ? あのガキは船で見たような……。まぁ、どうでもいいか。俺に一撃食らわせれたらお前らの勝ちでいいぜ」
それぞれのパートナーを出現させ、四体一の構図となった。さすがに大勢で戦うのは気が引けたのか、メグとギュウタスだけが前に出ようとすると。
「何してやがる。時間の無駄だ、全員まとめてかかってこい」
「随分バカにされたものね……。いいわよ、やってやろうじゃない! みんな行くわよ!」
余裕の表情を浮かべるグルナにカイル、テナ、ギュウタスが一斉に飛び掛かる。
まず最初に槍を構えたテナが先陣を切る。何度も勢いよく槍を振り回すが、グルナには当たる気配すら見えない。
その後、少し遅れたカイルが携えている短刀を取り出し、テナと協力してグルナに一撃を食らわそうと試みるが、いとも簡単にかわされてしまう。
「火球!」
声の主であるメグの手のひらからその手に収まる程の球体状の火がグルナに向かって放たれる。
「おいおい、この俺に炎属性の攻撃をするか?」
二人の攻撃をかわしつつ、向かってくる火の玉を右手に持つ紅蓮刀で真っ二つにして見せた。
だが、刀を振るために一瞬足を止めた隙をメグは見逃さなかった。
「ギュウタス、今よ!」
ギュウタスの攻撃範囲内に入っていたグルナに大きな斧が頭上高くから振り下ろされる。
しかし、振り下ろされた斧は構えていた紅蓮刀によって受け止められた。その何倍もある体格が持つ強力な力がグルナに襲い掛かり、グルナの両足が地面にめり込むがその表情は依然として余裕を見せる。
「ギュウタスの一撃を生身で受け止めるなんて……。でも、今なら! テナ!」
ギュウタスの攻撃により身動きが取れなくなったグルナにカイルとテナが左右より斬りかかる。
「甘ぇよ」
二人との距離が近付くとグルナは自身の魔力を熱に変換し、周囲に放出する。その勢いにギュウタスの斧すら吹き飛ばされる。
「みんな一旦引いて! 体勢を立て直すわよ!」
バラバラに吹き飛ばされたカイルたちはメグの言葉通り一度集結し、作戦を練ることにした。
「はぁ、はぁ、どうする? このままじゃ一撃食らわすのなんて無理だよ」
「まだ私たちは奥の手を出してないわよ」
メグはスキルカードを手に取り今出せる最大限の力ファーストカードを使用するつもりのようだ。
「おいおい、まさかこれで終わりじゃねぇだろうな? これじゃあそこいらの兵士とかわらねぇぞ!」
四人を煽る口調で話すグルナを他所に、グルナに一撃を与える段取りを打合せする。
「それじゃあみんな手筈通りに。行くわよ!」
先程と同じように正面からギュウタス、左右からカイルとテナがそれぞれにグルナを目指して走り出す。
「学習しねぇやつらだな」
グルナは頭を掻きながら一歩も動こうとはせず、ただただ向かってくる彼らを静かに待つ。
「火球!!!」
一番最初にグルナに到着したのは後方より放ったメグの火球であった。しかし、それは先程の手のひらサイズではなく、両手を上に掲げて作った現在のメグが放てる最大限の大きさであった。
「大きさの問題じゃねぇてぇの」
グルナは落胆したように俯き顔をあげると、再度手に持つ刀で大きな火球を真っ二つにする。
「なっ!?」
真っ二つにした火球の中から大量の水蒸気が溢れでてきた。
先程グルナが魔力を熱に変換したのを見て、空気中の水分を使い水蒸気を作ることを思い付いたのだ。
「味な真似をするじゃねぇか」
グルナの視界は大量の水蒸気により、ほとんど見えなくなっていた。だが、そんな状況にグルナは笑みを浮かべる。
「ファーストカード、大地の怒り!」
(今の声はお嬢ちゃんか、つぅことはあのデカいののスキルカードだな)
すると、グルナは目を閉じ視覚からの情報を遮断した。目を使わなくなった分、魔力の動きが敏感に感じ取れる。これは幾千もの戦を乗り越えた際に身に付けた生きていくための術である。
(これはなかなかの魔力じゃねぇか、でもまぁ一個で十分だな)
グルナはゆっくりと目を開け、すっと刀を持つ腕を肩の高さまであげる。
「炎技、炎甲防」
刀の根本にあった宝玉の一つが赤い光を放つと同時にグルナを包み込むように炎の膜が出現する。その形状は亀甲らのように幾つもの六角形が所狭しに並べられている。
間もなくして、ギュウタスのスキルカード、大地の怒りにより生じた地割れがグルナの足元に到達する。
「あぁ?」
炎甲防により落下を間逃れたグルナは未だ魔力を感じる地面の切れ目を覗き込む。
「うぁあ!」
予期せぬ地面からの火柱に思わず声を漏らし、身体を反り返すグルナ。しかし、その火柱はグルナを貫通することなく、炎甲防によりグルナの立つ場所のみ火柱が上らないでいた。
「やっぱり、今の私の力じゃ敵わないのね……」
その光景を水蒸気の外から見ていたメグは全力の一撃が通用しないことに改めて力の差を痛感するのであった。
「やっと収まったか」
数十秒にも亘って続いた火柱が止み、グルナが一息つこうとした瞬間。
「はぁあぁ!!」
「次は坊主か」
機を狙っていたカイルが急かさず短刀をグルナ目掛けて斬りつける。しかし、普通の短刀が炎甲防を突破できるはずもなく、その強固な守りの前に無惨にも砕け散ってしまった。
グルナは炎甲防を解き、カイルの腹部目掛けて足蹴りを食らわせる。
「ファーストカード、閃光の矢!」
カイルは蹴りを食らう寸前に自身が受け身をとることを捨て去り、懐に忍ばせていたスキルカードを取り出した。
グルナの真後ろに控えていたテナが全身に光を纏い、その姿を一本の矢のようにし対象目掛けて飛び出す。
「早ぇ!!」
再度炎甲防を展開させる余裕のなかったグルナは紅蓮刀に炎を宿らせる。
紅蓮刀とテナの槍が激しくぶつかり合い、周囲に衝撃が走る。
(閃光の矢に反応するなんて……)
完全に止められてしまったテナはそのままグルナの力に押し負け、吹き飛ばされた。
「やっぱり僕たちじゃ敵わないのか……」
カイルが敗北を認め肩を落とす。
「やるじゃねぇか」
その声に顔をあげるとグルナの右頬に擦れたようなかすり傷ができていた。
「まぁ、一撃とはいかねぇが傷を付けるのは妥協点って所だな。ひとまず、お前らの実力は理解できた。そうだな……、ちょっと着いてこい」
「えっ?」




