255 重いから気を付けてね
切ないレオさんの声で理解できた。俺の考えた通りに、レオさんはネロで興奮してしまったらしい。ネロの真似っこで興奮できるとか、変態なのに可愛い。
ネロと対面してない時のレオさんは可愛い反応をする時があるから、こんなトコロがちょっとキュンってなってしまう。レオさんの興奮が収まるまで、当たり障りのない話をする事にした。
「この前ネロが二刀流を見せてくれたんだけど、基本は一刀流なのかな?」
「ネロは片手な事が多い気がする。主に短刀を使って、弓が上手くて。一番ヤバいのは苦無。」
折角だから、ネロの話題を続けるつもりで質問をしてみる。淡々と答えてくれるレオさんの声にふむふむって頷きながら聞いていて、思った。声を聞く限りでは、レオさんの興奮は収まってそう。
「ネロが短刀の二刀流で、鍛錬をしてた時が滅茶苦茶カッコ良くてテンションが上がった。」
「鍛錬場の天井を吹き飛ばした時?」
でも、レオさんは俺の肩から顔を上げてくれないから話を続けてみる。ネロがカッコ良かったエピソードを匂わせてみたら、レオさんが喰い付いてくれた。
「そう、その時。ネロは背が高いのに、二刀流の時は武器を逆手に持って体を屈めて小さくなった。その体勢で流れるみたいに、するするって人の中を動き回って凄かった。」
「言葉だけで動きが分かる。」
レオさんの反応が嬉しくて、出し惜しむ事なくネロのカッコ良さを描写してみると、レオさんが吐息交じりに反応を返してくれた。肩がもわぁって熱くなった事で、レオさんの気持ちが伝わってくる。興奮というより、焦がれたって感じっぽい。
「レオさん、ネロが一番あげたかったのは、あの子だよ。」
「お前は簡単に言うけどな、あの武器は価値がヤバい。おいそれと貰える短剣じゃないのが問題。」
ネロの話題は終わりで、そろそろ本題。さっきもちらっと言ったけど、再度、ネロの気持ちを届けてみる。レオさんは完璧に興奮から冷めているらしく、冷静に切り返してきた。本心からそう思っているって分かる淡々とした口調だ。
「お金の問題じゃないんだよ、ネロの心の問題。傍にいたいって気持ちと、傍にいて欲しいって気持ちが両方詰まってる。」
「お前はホント、金に厳しいのに変なトコで太っ腹だよな。まぁ、ネロがあの調子じゃ受け取るしかなさそうなのは理解できてる。問題は、ですよ。返せるモノが無いってトコだ。」
優しく丁寧に、ネロの気持ちを代弁して伝えると、レオさんが溜息交じりに答えてくれた。一部、過去の俺の言葉を引用してくるトコロがイヤらしい。でも、要するに、レオさんの今の心境は当時の俺と一緒って事らしい。
無一文だから何かを貰っても返せない、という俺の思いと同じ。つまり、お金持ちのレオさんがそこまで言う程の価値のある短剣。多分だけど、ネロは短剣の価値なんか気にしてない。あるのは純粋に、自分の分身のような短剣を傍に置いて欲しいって気持ちだけ。
「レオさんの体で払ってもいいんだよ。」
気後れしているレオさんの心を解してあげようと、かつてレオさんに言われた言葉をソックリそのまま返してあげる。レオさんが顔を上げたのが分かった。熱くなっていた肩から熱が引いていく感覚がちょっと淋しい。
「お前は時々大胆になるよね。そんなトコロが堪らない。」
俺の首にキスを始めたレオさんを放置していたら、キスの合間にぼそっと呟く声が聞こえた。何が堪らないのかは分からないけど、抵抗はやめてキス魔のレオさんにされるがままになってみる。暫くの間、ぼんやりと寄り掛かっていたら、いつの間にかキスは終わっていた。
「それじゃぁ、ネロの心でも見ますか。お前は絶対手を出さない事。約束できる?」
緊張感の込められた声がひびいてきた。黒い短剣をネロの心と表現したレオさんの言葉が嬉しい。嬉しさを表現したかった。でも、レオさんの緊張感が伝わってきたから気を引き締めてコクっと頷く。俺を抱き締めたままで、レオさんが体を傾けてローテーブルに手を伸ばした。
ローテーブルに1本だけ残されていた黒銀色に鈍く光る短剣。その短剣を掴むレオさんの手を目で追いかける。片腕で俺を抱き寄せたままで、レオさんは鞘に納まった短剣を握った右手を前に突き出した。
「その穴は何かの意味があるのかな。結晶とかを嵌め込むの?」
「これは投擲の時に指をかける穴。」
特殊な形状の短剣を眺めながら、某ゲームの魔法やスキルを嵌める穴を思い出してして聞いてみた。直ぐに答えが返ってきたけど、意外な回答にちょっと驚いてしまう。振り返ると、真剣に武器を見つめる緑の猫目が見えた。
「投擲って投げるの?」
「そう、投げて攻撃する。多分だけど、ネロはこの短剣を近接武器というよりは、苦無と同じように投擲武器として使ってたんだと思う。だからこそ、手放す意味が分からん。」
違う意味合いもあるのかなって確認を取ってみたけど、返ってきたレオさんの言葉によると俺の認識で正しかった。しかも、ネロはこの短剣を投擲の用途で使っていた可能性も教えてくれた。
「投げるって事は高価なのに使い捨てなの?あ、でも、ネロが投擲武器として使ってたなら、使い捨てじゃないか。って事は、毎回、回収するのが面倒になって苦無に切り替えたのかな。ネロは何気に物臭タイプだから。」
「この武器の面白いトコロは〈帰還〉の紋が刻まれてる。要するに、投げても勝手に帰ってくる。だから、回収しなくても平気で、物臭タイプのネロさんにもぴったりの武器なんですよ。」
投擲武器だとしたら、更なる疑問が浮かんで言葉が出てしまう。ただ、ネロの使用状況から考えると違う事に気が付いて言い直してみた。レオさんはクスッと笑って、商品を紹介する販売員みたいな口調になっちゃった。
冗談めかしているけど、ネロがこの短剣を手放す事が心底疑問って感じが伝わってくる。〈帰還〉という紋様が刻まれた、言葉の響き通りに、帰ってくる効果の付与された短剣。投擲武器で、投げても戻ってきてくれて、小型で、見た目も黒くて目立ちにくい。
確かにネロにぴったりな武器な気もしてくる。それを手放してでも、レオさんにこの武器を渡したいっていうネロの気持ちを考えると、胸が温かくなる。レオさんへ向けるネロの愛を確認できてホンワカしちゃった。
「この子は短剣にしても小柄な方だよね。それなのに重いね。」
「確かにかなり小型。でも、逆手で持つと目立ちにくいから、攻撃がし易い。投擲としてもまぁ、許容範囲の大きさ。重いのは、この黒い金属の特性かな。扱う力さえあれば、この重さが攻撃に乗るって考えると、相当な強みになってくるいい武器。」
レオさんは鞘を外さずに短剣をクイクイっと傾けて確認を続けている。それを見ながら、見たまま、感じたままの感想を口に出してみる。短剣を動かす手を止める事なく、レオさんは淡々と答えてくれた。
口調がお仕事モードっぽくて振り返って見つめちゃう。表情は全然お仕事モードじゃなかった。目がキラキラして、耳がピンと立って、メチャクチャ楽しそう。
「黒い金属は超重いの?」
「うん、重い。ガキの頃、カイさんの工房で黒い大剣に潰されかけた。そして、ユリアが大泣きで怒ってきた記憶が蘇る。まぁ、それは置いといて。この短剣はその重い金属の中でも飛び切りな重さ。要するに、金属の質や純度が高い、即ち、ヤバい。」
少し体を傾けて、レオさんを見ながら会話を続けてみる。レオさんの話の中から拾った疑問をぶつけてみたら、ちょっとだけ懐かしそうな顔で思い出話をした後で、淡々と説明をしてくれた。
悪戯をして大剣を倒しちゃった幼いレオさんと、心配して大泣きする幼いユリアさんの情景が目に浮かんでフフッてなっちゃう。ホント、仲良しな幼馴染だったんだって分かる、ほっこりエピソードだった。
「何がヤバいの?」
「黒い金属は単純に言うと、滅茶苦茶硬くて重い金属。それなのに、ある程度の柔軟性もあるっていう優れもの。多分だけど、大きさと重さで判断すると、この短剣の金属は驚く程に純度が高い。要するに、超硬くて頑丈だから乱暴に扱っても壊れる心配は不要な上に、攻撃にも硬さと重さが乗るからどんな硬いモノもスパスパ切れますよって事。」
レオさんの視線はずっと短剣に向けられているから、横顔を眺めながら質問を続けてみる。楽しそうに武器を扱いながら、淡々と淀みなく答えてくれるレオさんは凄い。知識も凄いし、説明も的確。
ちょっとの間、レオさんの横顔をぼんやりと眺め続ける。キラキラ楽しそうな緑の猫目だけど、真剣さも含んでいて凄く綺麗。ネロの愛を受け取って喜んでいる感じがする。こんな風に喜んでくれるレオさんが見られて幸せ。
会話が止まったのが気になったのか、確認がひと段落したのか。レオさんが目を合わせてくれた。武器を見ていた時のキラキラな感じはなくなって、柔らかな甘い眼差しになっている。ネロの愛を感じて、心にクルものがあったらしく、甘さが追加されちゃったらしい。
「レオさんのメイン武器になる?」
「確実にメイン武器になる。紋がエグくて対人には使いたくないけどね。」
俺に甘さはいらないよ、って伝えたくて、レオさんの目尻を撫でながら聞いてみる。思いは届いてくれたらしく甘さはなくなったけど、代わりにデレデレに目尻を下げたレオさんが口調だけは淡々と答えてくれた。
「人には使いたくないって、投げて戻ってくるだけなのにヤバいの?」
「それは補助程度。付与されてるメインの二種類の紋がちょっと殺傷能力が高めでエグい。効果は琥珀には教えたくない、かな。」
なんで対人は嫌なんだろう。疑問は溜め込まずにそのまま口に出してみる。デレデレな顔のままで、困った感じで耳をぴくっと動かしたレオさんだったけど、正直に答えてくれた。パパさんの意見として、子供には言えないエグい効果ってのは分かった。
「殺傷能力を得る代わりに、レオさんの正気が失われるとかじゃないよね。」
「それは無い。」
「良かった。レオさんの正気が失われたら、どんな事になるのか。考えただけでも恐ろしい。」
コクっと生唾を飲み込んで、恐る恐る、聞き返してみた。だって、レオさんが言いたくない、とまで口に出した訳だし。それなりに色々な意味を含んでそうだし。ただ、即行でレオさんが否定してくれたから、ほっと息を撫で下ろして安堵の言葉を出しちゃう。
「仮に正気を失ったとしても、ネロが殺してでも止めてくれるから心配しなくていい。」
レオさんが宥める感じで頬にキスをしてくれた。優しいキスの後で、レオさんは穏やかな声で穏やかじゃない事を言い出した。どんな事があってもネロがいるから平気って信頼は伝わった。でも、言葉のチョイスが嫌だ。ネロが殺す訳ない。冗談でも言って欲しくない。
「正気を失ってレオさんがエロい事をしたくらいで、殺す訳ないでしょ。レオさんが正気の状態でエロい暴走をしても、浮気をしても多少睨むくらいで終わらせてくれるんだから。ネロはえっちぃ事にも寛容だと思うんですよ。」
拒否感から話の方向性を変えたくて、真顔で冗談を返してみた。レオさんの意図している正気を失ってバーサクモードではなくて、俺の意図しているのは正気を失うとレオさんはエロモード一択。
強ち間違いではなさそうな冗談だから、半分本気な部分もある。そんな冗談はレオさんの心を鎮静化させたらしく、レオさんのでれでれな顔がスーッと真顔に変化していった。
経験上、この後の展開は分かる。真顔の後は、爽やかな笑顔か、ニヤとした笑顔か、ニーッコリイヤらしい笑顔になる可能性しかない。そして、完膚なきまでに言い負かされちゃって涙目になる、と。
「焦らさないで早く見せて。」
という事で、先手を取って展開を変えてみる。そうしたら、一瞬後でキラキラなエフェクトを振り撒く爽やかな笑顔のレオさんになっちゃった。
キラキラの主な要因は紺色宝石ちゃん。レオさんを最大限綺麗に見せるように頑張っている模様。紺色宝石ちゃんのおかげで、レオさんの胡散臭さは多少薄れて爽やか度が増している気がする。
「もうちょっと焦らして琥珀の可愛い顔を見てたかったんだけど、我慢できなくなっちゃったなら仕方ない。そんな顔をされたら俺も我慢できなってきた。ゆっくりするから、ちゃんと見ていてね。でも、危ないから動かない事。」
爽やかな好青年風のレオさんが、甘くて優しい声で卑猥な事を囁いてくる。もう慣れっこになってしまったレオさんのこの感じ。これに慣れちゃうなんて、俺は大丈夫なのだろうか。自分が心配になってくるレベルである。
コクっと頷いて短剣に顔を向けると、レオさんが俺の首に唇を押し当てながら左手を鞘に添えた。唇をゆっくりと滑らせながら、鞘もゆっくりと抜いていく。注意事項を与えておきながらこの仕打ちである。
ゾクゾクするようなレオさんの唇の刺激に耐えながら、約束を守って動くのはやめる。鞘から少しずつ顔を覗かせる綺麗な黒い短剣のブレードに目を奪われる。でも、首からの刺激のせいで集中できない。短剣を傾けて鞘を抜いてくれているから、黒いブレードで輝く金色の紋様も見えてきた。
レオさんの卑猥な発言の後だからか、レオさんがネロの服をゆっくりと脱がせている錯覚に陥ってきた。多分、艶めかしく見える短剣のせいだ。ネロをイメージした短剣の鞘をエッチく外しているからそう見えるんだと思う。
ネロが脱ぐ姿を見ていてって強制した癖に、首にキスをして刺激を与えて集中させてくれない。レオさんは普段、こんな風にエッチく意地悪をする人って事が良く分かった。レオさんの唇が耳の後ろに到達した時点で鞘は完全に取り払われた。
耳へのキスを免れたと思って気を抜いていたら、名残惜し気に耳にキスをされてしまう。びくっと体を震わせちゃうと、鞘を脇に置いて、レオさんの左手が俺の体に巻き付いた。
「動いちゃ駄目、って言ったでしょ?仕置きをされたいの?」
「だって、ずっと我慢してたのに、レオさんが変なトコにキスするんだもん。我慢できなかったの、仕方ないじゃん。」
抱き寄せられてキュッと固定された状態で、耳元で低い声が囁いてくる。甘いけどゾクッとする冷たさを含む複雑な声色。レオさんのせいだからって意味合いを精一杯甘えた声で伝えると、レオさんがすっと息を吸い込んだ音が聞こえた。
「絶対に動かないでね。」
レオさんが急に真剣な声で指示を出してきた。今までのエロを超えた卑猥モードはどこに行ったんだと言わんばかりの、キリッとした声だ。驚きの変化である。
左腕でがっちりと俺を固定した状態で、レオさんがグリップとブレードの境目にある穴に人差し指を差し入れて握り直した。右手を前に突き出して短剣の角度を調節するのが見えて、何をするんだろうってワクワクになって身を乗り出しそうになっちゃう。
レオさんは俺の行動なんて見越していたらしく、耳に息をふっと吹きかけてきた。熱い息に驚いてびくっとなって止まってしまう。固まった俺の反応で満足したらしく、レオさんはグリップを握った手を開いて反動をつけるように動かした。
人差し指を軸にして短剣が回転を始めた。黒い渦の中に金色の軌道が微かに煌めいて凄く綺麗。角度を少し変える事で鈍い金色になったり、輝く金色になったり。少ししてレオさんがグリップを握って回転を止めて、ショーは終了。
感動を伝えたくて振り返ったら、レオさんが褒めてって感じで頬にキスをしてきた。そんな風に甘えられると、虐めたくなってきちゃう俺はレオさんに毒されているのかもしれない。
「回転を止める時に、間違って刃の部分を握っちゃったら大変だなって思いました。あと、室内で武器を振り回すのは危険だなって思いました。でも、カッコ良かった。」
「お前はホント、いつでもぶれずに可愛いトコロがヤバい。」
つらつらと素直じゃない意見を並べた後で、顔を逸らして最初に伝えたかった言葉を小さな声で付け加えてみる。ふっと息が耳に吹き込まれて、びくっとなったら甘い声が耳元で響いてきた。それから、レオさんは俺の体に回していた左手を離して短剣に鞘を被せてしまう。
「レオさんの卑猥度が半端なかった。ネロや女の子とそういう雰囲気の時はあんな風にエッチく話すんだね。」
「あんな甘い言葉は琥珀にしか言わない。普段は琥珀がドン引きになるくらい、数段階上の卑猥さだよ。まぁ、気分が乗って虐める時はあんな感じになるかもだけどね。」
レオさんの手元を眺めながら世間話風に話しかけると、レオさんがクスって笑っちゃった。そして、まったりとした口調で答えてくれるレオさんをじっと見つめてしまう。
レオさんは普段からこうやって、君にだけ、的な特別感を出す作戦を取っているって理解できた。中々大人な感じが漂ってくる駆け引きだと思う。ただ、最後の最後で、結局普段からしているって分かってしまった。
そして、ドン引きになる感じってどんな感じなんだろう。既にドン引きに近かった気がする。武器を触るという目的の為に耐えていたけど、ドン引きで間違いなかった。でも、今は慣れてしまった。レオさんのせいで自分も卑猥になっちゃったみたいで悲しい。
キラキラな笑顔のレオさんからそっと顔を逸らして、レオさんの右手に握られている短剣に目を向ける。鞘に収めた短剣はシックで物静かな雰囲気でカッコいい。黒と黒銀色だから落ち着いて大人しい。
「この状態なら触ってもいい?」
「重いから気を付けてね。」
手を伸ばしそうになったのを耐えて、先ずはちゃんと聞いてみる。レオさんはよくできましたって感じで髪にキスをした後で、穴に人差し指を通してぶら下げた状態で短剣を差し出してくれた。気遣う一言を付け加えてくれる感じが、パパさん系なレオさんだ。
握り易いようにぶら下がっている短剣のグリップを握ってみる。重いって言われたけど、実際はレオさんがぶら下げている状態だから全く重くない。つるっとしたグリップは手の形に変形する感覚があって、不思議な感触だ。それに、レオさんが握っていたから温かくなっていて握り心地がいい。
「人差し指でぶら下げて指は痛くない?」
ちょっとだけ心配になって、レオさんが支えている人差し指を撫でながら聞いてみる。短剣を回転させた時の遠心力にも耐えていたから平気だとは思ったけど、気になっちゃった。
「少し重い程度。全く問題はない。」
レオさんは余裕って感じで答えながら、俺の首にキスをし始めた。武器を触っている間はいいよね、的な感じでキスを続けるレオさんに反発したくなってしまう。両手でグリップを握って、じりじりと力を加えて下に引っ張ってみる。レオさんが笑ったらしく、首元にもわっと熱い息が掛かった。
「琥珀だったら、ぶら下がっても平気。」
「なんで指一本なのにそんな力があるの。ズルい。」
「そんなに拗ねないの。仕方ないでしょ、種族差なんだから。」
キスの合間で囁く声が聞こえた。首に唇を付けたまま話しているらしく、唇が動く感触がヤバい。負荷をかけるのはやめて両手を離し、ボソッと呟いちゃうと、レオさんが顔を上げて頬にキスをしてくれた。そして、優しい声で慰めの言葉を掛けてくれる。
レオさんは片腕で俺を抱き寄せて、体を前傾させてローテーブルに短剣を置いてしまった。見学の時間は終わりらしい。俺もレオさんの上から床に移動して、レオさんの体温で火照った感のある体を床のヒンヤリで冷やす。
「床だと寒いでしょ、上においで。」
「レオさんと接してたトコが熱くなったから冷やしてるの。」
「イヤらしい表現、合格。」
即行でレオさんの心配そうな声が飛んできたから、寒いから床を選択してるのって言い返しちゃう。レオさんが目を丸くして止まっちゃったから、何事って思ってしまった。少しの間を置いて、何故か違う方向で合格を出されちゃったんだけど、イヤらしくはないと思うんですよ。
レオさんは嬉しかったらしく、にこにこ笑顔で座面の武器達をひょいひょいとローテーブルに移動させていく。移動の合間に、俺の髪や頬に軽くキスをしてくるのが、マジでチャラい。
武器の移動が終わったら、レオさんが立ち上がった。ぼんやりとレオさんを目で追いかけていたら、本棚の前に移動してしゃがみ込んだレオさんが見える。シャツとズボンを取り出しているらしい。
レオさんは戻ってきてソファの座面に服を置くと、ついでに、俺の髪にもキスをしてきた。ソファの上に移動して、レオさんの服を抱えながら、レオさんが服を脱ぐ様子を眺める。ぴったりシャツを脱いだレオさんの首元を凝視していたら、レオさんが屈んでくれた。
昨日の夜、ノーラさんに付けられた痕は目立たない程に薄くなっている。レオさんの肌は適度に日焼けしているから、遠目には分からない程度になっている。思わず、自分の服の首元を捲ってレオさんを見上げちゃう。
レオさんは一瞬戸惑った顔をした後で、覗き込んでくれた。そして、微かに首を横に振ってくる。要するに、俺の体にある痕はまだ目立つって事らしい。
「なんでレオさんのはもう消えかけなの。ノーラさんが付けたのは昨日でしょ。俺よりずっと後だったのにズルい。」
「体を鍛えてるから消えるのも早いんだよ。琥珀も体を鍛えて筋肉が付いたら1日で消えるかもしれないね。可哀想な琥珀、おいで、慰めてあげる。」
むぅっとなって文句を言っちゃったけど、レオさんは嬉しそうに目を細めて軽い口調で適当に切り返してきた。ホントかよ、って思うような発言なんだけど。ホントに筋肉で痕が消える速度が上がるのだろうか。
そして、慰める時だけは飛び切り甘くて優しい声になるのはやめていただきたい。あとは、上半身裸の状態で、甘い眼差しと一緒に、おいでって感じで腕を広げるのもやめていただきたい。
ジト目で見上げていたら、レオさんは着替えに戻ってくれたから、ズボンの腰紐を解く様子を眺める。今日もズボンの腰紐は固結びだった。レオさんはもたもたと手際悪く解いているけど、固くて解けないらしい。
「解きにくくなるのに、なんで固結びにしてるの?」
「戦ってる時に解けてズボンが脱げたら恥ずかしいだろ。」
手を伸ばしたら、意図が分かってくれたらしく、レオさんが体を寄せてくれた。ギュッと結ばれて固くなっているトコロをゆっくりと解しながら、問い掛けてみる。俺の髪を優しく撫でながら、レオさんがのんびりとした声で答えてくれた。
職業柄、癖で固結びにしている事が理解できて、ふむふむって頷いちゃう。でも、毎回解く時にこんなに手間をかけていたら大変かなとも思ってしまった。だって、レオさんは基本的に遊び人だし、服も脱ぐ機会が多いだろうし。
あ、そっか。だから、レオさんは裸族だったんだ。脱ぐ手間も省けるし、女の子とイチャイチャもスムーズに移行できる。合理的な考えに基づいた、最適な生活スタイルだったんだ。
偶にズボンを穿いていたのは、こうやって女の子に解いて貰うプレイ的な何かだったのか。子供に解いて貰うのとは全然違って、大人の駆け引きみたいな興奮があるのかもしれない。
「レオさんは基本的になんでも器用にこなすのに、こうやって腰紐が解けないみたいな不器用さを出してくるトコロがエロい。えっちぃプレイで解いて貰うんでしょ?お姉さん達はまぁ、分かるけど。ネロにもして貰うの?」
「お前はホントに可愛いコトを言い出すよね。ネロは、ん~。そうだな。やって貰わない。解く前に引き千切られてしまう。」
話をしながら頑張って緩めていたら漸く解く事ができた。解き終わって見上げると、レオさんが屈んで額にキスをしてくる。お礼のつもりらしい。そして、ズボンを脱ぎながら適当な感じで質問に答えてくれた。
引き千切るとか。ネロは何気にワイルドな事をするタイプらしい。とはいえ、面倒臭がりだし、解けなくてもういいってなってしまうネロもイメージできてしまう気もする。
レオさんが詠唱を始めて、水が脱いだ服を覆っていくのを見ながら思いを馳せてみる。冷たい目で見据えながら、腰紐を引き千切るネロと、頬を染めて少し怯えた様子の潤んだ目のレオさん。
超怖い。甘さが一切ない気がしてくるけど正解なのだろうか。いや、そこからネロのドSが展開されるパターンに突入する可能性が高い。そして、涙目でお耳をぷるぷる震わせる可愛いレオさんが。
髪を撫でられて顔を上げると、優しい微笑みのレオさんが見えた。詠唱はもう終わっていて、顔を巡らせると、俺の隣の座面に適当に畳まれた服が見える。もう一度顔を上げてレオさんを見上げてみた。
「そろそろ服を渡してくれると嬉しいんだけどな。」
どうしたのって問い掛ける感じで小首を傾げたら、レオさんが困った感じで答えてくれた。そういえば、レオさんの服をずっと抱えていた事を思い出して、服を差し出す。
ズボンを掴んで穿いていくレオさんの姿を眺めていたら、レオさんが腰紐を縛る手を止めてこっちを見た。目が合って細めてくるレオさんの要請に従って、蝶々結びにしてあげる。レオさんは俺の頭をサラッと撫でて、シャツも持ち去ってササっと羽織ってしまう。
シャツは羽織るだけで、ボタンを留める事なくレオさんがサイドテーブルに手を伸ばした。そして、着ぐるみパジャマを取って手渡してくれる。受け取りはしたけど、立ち上がるのが面倒でソファに座ったままでもそもそと着ていたら、レオさんにひょいっと抱き上げられちゃった。
床に下ろされて、しゃがんだレオさんの誘導に従って、足を上げたり、腕を動かしたりしていたら、半ガトになっていた。ボタンを留めていってくれるレオさんをぼんやりと見下ろしちゃう。
着ぐるみパジャマを着込んだら、レオさんが座る形で抱き上げてくれた。片腕で俺を抱っこしたレオさんは枕を俺に抱えさせて、ブランケットを拾い、スタスタとベッドに移動を始めた。完全に、小さなお子様の面倒を見るパパさんの行動だ。




