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195 そんな護衛はいない

 答えたくないなら別にいいんだよ。ただ、俺からは忠告があるんです。ネロを睨むと、ネロの眼差しも真剣になってくれた。昨日の夜の出来事が脳裏に蘇る。レオさんの辛そうな表情を思い出して俺も悲しくなっちゃった。ネロが心配そうに眉を寄せたから、今の俺は悲しい顔をしているのかもしれない。


「レオさんの浮気。やめてって言ってあげれば良かったのに。多分だけど、レオさんは決死の覚悟だったんだよ。だって、あの、チャラいレオさんが浮気をやめて欲しいか聞いてきたんだもん。」


「そうか?」


 昨晩のネロへのダメ出しをしてみたら、ネロの表情がちょっとだけ楽しそうに変わっていった。目も楽しそうに細められている。そうか?って、なんですか。なんでそんな適当な言い方なの。レオさんが真剣に訴えた事は、ネロには届いてなかったらしい。目に力を入れて睨むと、ネロが少しだけ怯んだ気がする。


「やめて欲しいって言っても、レオさんは浮気をやめられないと思う。それでも、ネロの言葉が聞きたかったの。代わりに俺に言わせちゃうくらい、ネロに言わせたかったの。俺もレオさんが望んでる答えは言えなかったから、可哀想な事をしちゃったとは思う。でも、レオさんが望んでたのはネロの言葉だったんだよ。」


 ネロを睨んで、一息にレオさんの気持ちを伝えてみる。あんなに頑張って聞いてきたのに、レオさんの気持ちは何一つネロに届いてなかった。これは悲しいですよ。レオさんがあんなに辛そうな顔をしちゃったのに、ネロは一体何を見ていたんだ。


「反省する。」


 ネロは、少しの間、黙って考え込んでしまった。俺の言葉を受けて、真剣に考えてくれる気になったらしい。そして、慎重に言葉を出してきた。静かなネロの一言はネロの決意の表れだ。謝罪じゃなくて反省。ネロらしいストイックな考えで、非常に好感が持てる返答だと思う。


「ネロにやめろって言われても、浮気して。ばれた時のネロの嫉妬で、レオさんは興奮しちゃうってパターンだと思うんですよ。」


 ニコっとしながらレオさんならではの可能性を付け加えてみた。ネロもちょっとだけ好きそうなシチュエーションだと思うんです。だって、二人の寝取られな性癖はかなり拗れてるからね。


 ネロが木の枝の上で立ち止まってしまった。更には、静止した状態でじっと見つめてくる。俺の披露した可能性の話で立ち止まった事だけは分かる。ネロの視線がヤバい。探るような熱っぽい眼差しで居心地が悪くなっちゃう。


 軽口でサラッと流す程度の追加情報だったのに、ネロが反応しちゃった。流石に恥ずかしくなって、顔を逸らしちゃうと、ネロが背中から手を離した。バランスを崩しそうになって、慌ててネロの肩にしがみつく。  


 ネロは俺の頬に手を添えて顔を固定し、目を合わせてきた。真っ直ぐに見てくるネロの視線が痛い。そうだね。恥ずかしい事を言ってしまったのは事実です。


 えへっと可愛さをアピールした誤魔化し笑いをしてみる。ネロの瞳孔がぶわっと広がったのが見えた。そして、ネロの視線が熱を帯びている感じがする。えっと、色気がある眼差しになっちゃった、かも。


 ネロが興奮しちゃった感があるんですけど、一体どういう事なの。ネロの嫉妬で興奮したレオさんを想像して、興奮しちゃったって事なのでしょうか。倒錯が拗れて、分からない世界に突入してるんですけど。


「ネロ、落ち着いて。後でちゃんとレオさんに言ってあげるから。ネロはそんなレオさんに興奮するんだよって伝えてあげるからね。今は落ち着こう。」


 冷静にネロに語り掛けて宥めてみる。ちゃんとレオさんに伝えてあげるからね、って言ったのが良かったらしい。金色の瞳の中の瞳孔がしゅっと細くなって、ネロが移動を再開してくれた。


「ネロとレオさんの愛の形はちょっと変わってる、かな。でも、愛の形って、きっとみんな違うんだろうね。」


 倒錯した二人の愛の形は凄い事になっているんだろうなって、しみじみと呟いてしまう。でもね、変わっていてもいいと思うんです。結局のところ、愛の形なんて、一つとして同じものはない筈だからね。


「琥珀の愛の形は?」


「俺は。」


 ネロが静かに聞き返してきた。ネロの質問に答えようとして言葉が止まってしまう。考えても、俺には愛の形はないから答えられない。だって、恋愛なんて俺には無縁の存在だし。


 ネロから視線を外して森を見渡してみる。あ、村が見えた、もうすぐゴールだ。でもね、いろんな意味の愛があるよね。愛か。ん~、家族愛ならネロとの愛がある。レオさんともある意味、家族愛の延長線だ。


 でも、ネロとレオさんのような恋愛の愛は俺には生涯無理だと思う。今の俺の生涯っていうのは、終わりのない永遠だ。要するに、永遠に無いんですよね。そっか、無なんだ。


「俺の愛は形になる前に無くなる。無だった。」


 色々考えた結果、絞り出した答えを口に出せたのは、家の中に入って〈シール〉を解除してくれたネロが俺のサンダルを脱がせてくれた後だった。凄く長い時間考えて、結論が無、って悲しいね。


 ネロは俺の手から果実を抜き取って、テーブルに置き、如雨露を仕舞って戻ってきてくれた。そして、俺の手を引いてソファに導いてくれる。手を握ってくれたネロは淋しくて悲しそうに見える。


 心配になって見上げると、ネロがにこっとしてくれた。優しい笑顔。本心は隠しているっぽい優しい笑顔だ。レオさんの前では作らずに本音を出すんだろうな。そんな関係が羨ましい。


 俺をソファに座らせて、ネロはお茶の用意を始めてくれる。ネロを見ながらぼんやりと考えちゃう。マジな話、俺には愛とか恋とかそういう要素は無理なんだよね。俺が貧弱で相手がいないってのもあるし、永遠を共にいてくれる存在なんてモノは存在しないってのもある。


 それに、この世界でまず、生きていく為の知識を沢山溜めないといけないし。ってか、HPやMPの検知みたいな、この世界では普通に普通の一般常識すらも知らないとかヤバい。でもな、そういうのは本に載ってない気がする。どうやって普通に当たり前の事を覚えてけばいいんだよ。困ったね。


 唯一の救いは、スツィも認める知識を誇るネロが傍にいてくれる事だ。ネロは俺の生い立ちを少しだけ知っている。ネロには精神的にも、物理的にも、知識的にも、頼り切るしかない。


「琥珀?」


 低くて落ち着く声が聞こえる。顔を上げると、心配そうなネロと目が合った。ネロを目で追っていた筈なのに、いつの間にか俯いていたらしい。ネロはいつの間に戻ってきたのか、隣に座っている。そして、メッチャ心配そうな顔をしているんですけど。どうしてそんな顔をしているの。心配の要素なんてあったかな。


「難しい顔をしていた。何か疑問があるのか?」


 ネロが心配な顔のままで問いかけてきた。心配そうに気遣ってくれる声が耳に心地いい。ただ、ネロに聞かれる程、そんなに難しい顔をして悩んでたのかな。でもね、ネロがこう言ってくれているなら丁度いい。


「今はない。でも、もし疑問に思ったらネロに聞いてもいいの?」


「勿論だ。」


 質問をする権利が欲しいんです。ネロにお願いしてみたら、あっさりと了承してくれた。良かった、これで俺は色々な事を聞きまくれる。ってか、既に色々と質問攻めにしているから、今までと同じだった、かも。


 差し当たっての悩みから解放されて、手渡されたお茶を味わう。いつも通りの極上に美味しいお茶で頬が緩んじゃう。隣に座ったネロは自然に俺の髪を撫でながら、優しく微笑んで見守ってくれている。まったりする雰囲気で顔も心も緩んじゃう。ほんと、幸せ。


「レオがいない空間でも幸せか?」


「ん?」


 少しの間、まったりとお茶を楽しんでいたら、唐突にネロが聞いてきた。質問の意図が全く分からない。なんで急にレオさんの名前が出てきたんだ。ネロを見つめて首を傾げちゃう。


「俺と二人でも幸せか?」


 ネロは質問を変えてきた。不安そうに眉を寄せるネロの表情は珍しい気がする。心配そうなのは良く見るんだけど、不安っぽいのとかは一瞬出て直ぐ消えるんだもん。ずっと不安な顔をしているネロがかなりレアだ。


 不安そうなネロの表情が気になったけど、まずは質問に答えようと思う。ネロと二人で幸せかって、疑問に思うまでもなく答えは直ぐ出る。ネロと一緒だから幸せなのは確実だ。俺がどれだけネロから幸せを貰ってるのかを、ネロは分かってないらしい。


「うん、ネロと一緒にいると幸せな気持ちになる。ネロと二人だとまったりで落ち着くし、包み込んでくれる優しさが嬉しくて、ほっとする。」


 ネロが一緒で幸せになってるのを丁寧に説明してみると、ネロの不安顔がなくなってくれた。そして、嬉しそうに目を細めるネロの笑顔につられて俺も笑顔になっちゃう。ネロが穏やかに髪を撫でてくれる。ネロに凭れ掛かって、これが幸せなんですよ。って、心の中で呟いてみる。


「レオと二人だと?」


 ネロの次の質問で理解した。要するに、ネロはレオさんと張り合っているらしい。親としての自分ネロと、親としてのレオさん。どっちがより心地いいのかって事が気になっちゃったんだね。


「レオさんは一緒にいると超楽しい。あと、妙な話術のせいで色々とばれちゃう。」


「成る程?」


 ネロから体を離して、目を見ながら、レオさんはこうなんですよって話してみる。ネロが不思議そうに聞き返してきたけどね、そうなんですよ。レオさんには直ぐにばれるんです。何でもかんでも、直ぐに白状させられちゃうんです。レオさんは隠し事を見破る特殊能力と、詐欺師のような話術を持った人なんです。


「何かを思ったり、言わずにいたりすると、白状させられちゃう。普通に聞かれる時もあるし、強引に言わされる時もある。表情とか話し方とか目力がめっちゃスゴイの。レオさんは拷問専門の護衛さんなのかな。」


「そんな護衛はいない。」


 レオさんの話術のと雰囲気作りのテクニックは凄いんです。あの拷問ごっこが最たる例ですよ。レオさんのヤバさを力説をしてみたら、ネロが突っ込んできたでゴザル。突っ込まれたけどね、ある意味冗談じゃないから。レオさんはマジで拷問専門でもやっていけそうなのが怖い。


「良かった。ネロもそれが専門の人なのかと一瞬思っちゃったから。」


「俺が?」


 あとね、ネロも同じだからね。安堵の溜息と一緒にネロもヤバかったんだよって呟いちゃう。ネロは不思議そうに聞き返してきたけど、明らかにレオさんより格上の拷問官の素質はあったよ。


「だって、監禁して洗脳して、ネロだけを。とかヤバいでしょ。それに、ネロは凄く冷たい目をする時もあるから、そうなのかなって。」


「ああ、冗談だ。」


 怖さを表現して怯えた顔で説明をしてみると、ネロは恐怖を理解してくれたらしい。納得したようにクスッと笑ってくれて、冗談だった。と言い切ってくれた。内容的に冗談だとは思っていたけど、本心っぽいって感じもあったから少しだけ怖かったんですよ。


「ネロの冗談は怖い。」


「そういうのは嫌か?」


 ネロに寄り掛かって甘えた口調でネロを非難してみた。ネロは俺の肩を抱き寄せて髪にキスをしてくれる。優しいキスだから、ごめんごめん、って感じなのかな。そして、優しく聞き返してくれる。嫌かって聞かれると、ん~。ってなっちゃう。


 だって、ネロの冗談は怖い時も多いけど、お茶目で可愛い時もあるからね。それに、妙に色気っぽい何かを醸し出している時もあって、ぞくっとするようなドキドキ感がある時もある。でも、そんな風に色々なネロの顔を見られるのは嬉しい。


「嫌じゃないけど、ドキッとする。」


 レオさんに聞かれたら、意地を張って、眉を寄せて嫌って言っちゃうと思う。でも、ネロだと素直な気持ちをそのまま言える。レオさんだったら、揶揄われるって分かってるから絶対言えないけどね。


「どういう意味のドキッ?」


「ん~、ネロがなんかエッチくなっちゃった。って、感じのドキッ。レオさんと一緒になって、虐めてくる感じにドキッてなっちゃうの。」


「成る程?」


 ネロは少し考えて、突っ込んで聞いてきた。ぞくっとする程の色気っぽいのが見え隠れする感じにドキッてしちゃうんだよ。ある意味、昨晩のネロとレオさんが連携を組んだ時の感じみたいな、ドキッと感があるんです。伝わってくれただろうか。いや、伝わってない気がする。だって、ネロの相槌は疑問形だもん。


 レオさんの名前を出したら、ネロの優しい微笑みに甘い感じが加わって幸せそうになった、気がする。こういうネロは可愛い。柔らかくて甘い雰囲気に包まれていて、クールで冷静なネロとは全然違う。家出の前に二人で過ごしてた時の優しいネロとも全然違う、甘さを含ませた感じがある。


「ネロはレオさんと二人だとこんな感じなんだね。」


「ん?」


 ネロが幸せってのが伝わってきて、感想を漏らしてみた。ネロが不思議そうに聞き返してくる。その表情も幸せそうで穏やかで、まったりとして甘い感じだ。眼差しも優しさだけじゃなくて、なんというか、恋人に向けるような甘さがある気がする。


「なんかね、普段のキリっとしてるネロと違って、柔らかくて甘い感じになってる。このギャップがヤバいんだと思う。これでレオさんがクラっとするんだね。ネロは大人ですね。」


「そうか?」


 ネロのギャップも如何にヤバい事を説明してあげた。レオさんのギャップもヤバいけど、ネロも相当ヤバい。プライベートだけは全然違うってトコがポイントなんですよ。頬を緩めて疑問形の相槌を打ってくるその表情や仕草が、おうちの中でだけ見せてくれる顔って感じで凄くいい。


 クールで冷静で真顔なネロが、恋人の前でだけは激アマな表情を見せてくれる。これでレオさんをメロメロにしているネロは大人だ。レオさんのギャップにやられてしまったネロの気持ちも、ネロのギャップで悶えるレオさんの気持ちも良く分かってしまう。ネロの家族で良かった。こんな近くで幸せを体感できるんだもん。


 ネロはクスッと笑って俺の髪を撫でてくれる。地肌に滑らせてくれるネロの指が気持ちいい。ん~、マッサージも上手いし、ネロはマッサージ師にもなれる気がしてきた。容姿が抜群にいいから売れっ子になりそう。腕は一流、見た目も極上。癒しのひと時になるのは間違いない。


 レオさんもマッサージは上手いから、一緒になればいいと思う。でも、レオさんは違う意味で売れっ子になりそう。ん、レオさんがマッサージ師とか、卑猥。なんて事をするの、って事態になりそうじゃん。ほんっと、レオさんはイヤらしいんだから。


「琥珀?何を考えている?」


「何でもないよ?えっとね、あ~。そう、頭。頭を撫でられるのが気持ちいいなって思っただけだよ?」 


「そう?」


 マッサージ師のネロと、変なマッサージ師のレオさんを想像していたら、ネロに問い掛けられてしまった。はっとなったけど、答えられる訳もなく、早口で、ネロの頭撫でが極上なんですって伝えておく。ネロは納得してくれたから良かった。


 相手がレオさんなら、今頃俺の考えは丸裸にされていた筈。全部暴露させられて、超恥ずかしい思いをさせられている筈。それだけじゃなくて、レオさんが無理遣りマッサージをしてきて、辱められる展開すら予想できるのが怖い。


 ネロで良かった。っという事で、相手がネロだから、俺も聞いてみちゃおうかな。レオさん対策に役立つかもしれないし。


「なんで何かを考えてるって思ったの?」


「にこにこしていた。」


 素直に聞いてみると、ネロもサラッと答えてくれた。成る程ね、表情に出るってそういう事だったのか。理解した。これでもう、レオさんの攻略は一歩進んだも同然だ。ネロを味方につけておけば、打倒レオさんも夢ではない、筈。


「琥珀、今はレオの事を考えるな。」


 苦笑交じりのネロの言葉を聞いて、ばっとネロを見つめてしまう。なんで分かったの、観察はしないって言ったじゃん。心の中で文句を言ってしまった。じーっとネロを見つめていると、ネロが困った顔になっちゃった。


「言いたい事は分かる。だが、観察ではない。」


「言い訳は良くないと思います。」


 困っても許しません。見つめ続けていたら、ネロが釈明をしてきた。でもね、どう考えても、ネロは俺の考えを読んでた。明らかに観察をした訳でしょ。むっとしながら、ネロの釈明を撥ね付けちゃう。


「観察ではない、勘。」


「レオさんと同じ言い訳も良くないと思います。」


 ネロは何故かレオさんと同じ言い訳をしてきた。勘って何なの。勘で考えている事が分かる訳ないでしょ。敢えてレオさんと同じ言い訳をしてきた意味は何なの。ジト目で言い返してみると、ネロは考え込んでしまった。


「成る程。どうしたら信じる?」


「ん~、そうだな。じゃぁ、レオさんが帰って来てからの行動を勘で当ててみて欲しい。」


「分かった。」


 少しの間考えていたネロだったけど、スッと目を細めて静かに切り出してきた。信じる為には、勘が的中した瞬間を目で見ればいい。ネロの勘がどれくらいの的中率なのかを証明する為に案を出してみたら、ネロは渋る事もなく、二つ返事で了承してくれた。


 一切の迷いがなく即答だった。メチャクチャ自信がありそうな感じだ。ホントにネロの勘は凄いのかな。ネロにかかると、不可能の三文字が見えてこない。ある程度の的中率は確保してきそう。あ、勘もあるけど恋人の行動だし、ある程度は予測がつくってトコロかな。


「あ、口で言ったら、レオさんがコッソリどっかで聞いてそうだから。紙に書いて。で、ネロのお仕事箱の中に保管がいいかも。」


「分かった。」


 ネロが口を開く前に追加条件を足してみたけど、ネロは笑顔で即、了承してくれた。立ち上がったネロが移動していくのを目で追いかける。ネロは真っ直ぐ棚に歩み寄って、棚から仕事で使う木箱を取り出してテーブルに置いた。お茶を飲みながらのんびりと、ソファに寄りかかってネロの行動を見守ってみる。


 ネロは筆と紙を取り出して、サラサラと何かを書き付けている。筆の運びは一切の淀みがない。書き終わった紙に短く詠唱をしているネロが見える。多分だけど、乾かしたのかな。そして、その紙を折り畳んで木箱に収めて、また棚に戻している。答え合わせが楽しみである。


「楽しみだね、ネロの勘という名の予言。」


「そう、だな。」


 ニコニコでレオさんが帰宅した後の楽しみを伝えると、ネロは微妙そうに眉を寄せてしまった。なんでそんな顔をしたんだ。しかも、相槌まで微妙そうだし。スゴク気になるんですけど。


「じゃあ、レオさんが帰って来る迄どうしよっか。」


「琥珀は何がしたい?」


 差し当たって、今はネロと二人。レオさんが帰宅する迄、答え合わせは先送りだ。という事で、何をして待とうかな。ネロに聞いてみると、ネロは俺の希望を聞き返してくれた。ネロはいつも俺を優先してくれるから、今日はネロを優先したい。


「ん~、ネロがしたい事がしたい。」


「いいのか?」


 ネロはいつも俺の希望を聞いてくれるからね、今日はネロの番ですよ。ニコっと笑顔で、ネロの希望を教えてって可愛く伝えてみる。聞き返してくるネロの瞳が輝いた。金色の猫目がキラキラで可愛くなってる。


 えっと、ネロがメッチャ喜んだのは分かった。ネロは一体何をしたいんだろう。光を増していくネロの瞳を見ながら考えてみる。取り敢えず、眩しいんです。ネロの目を塞いで、考えに集中してみた。


「琥珀、見えない。」


 苦笑したネロの声が聞こえて、手を離す。瞳の光はもう消えていて、優しく穏やかな眼差しになっていた。ネロの目を観察していたら、ネロが可愛く小首を傾げて見つめてくる。どうやら、目を塞いだ理由を問いかけているっぽい。


「レオさんもネロも瞳がぴかーってし過ぎ。興奮した時に光るかもって言ってたけど、今は興奮するような事はなかったよね。」


「集中した時も光ると聞く。」


「成る程。」


 ネロの目が光って眩しかったんです。そして、なんで光るのか。疑問がいっぱいで話しかけると、ネロが補足を付け加えてくれた。要するに、今は何かに集中したって事なのか。


 ってか、聞く、って表現を使っているって事は余りない事なのかな。それにしては二人とも良く光っているんですけど。全然レアな現象じゃない感しかないんですよ。


「レオの瞳が光ったのは見た。」


「ネロも光が駄々漏れになって、眩しいくらいに光ってるんですよ。」


「そうか?」


 他人事っぽくレオさんの目の事を話しているネロだけどね。あなたも凄い光っていますよ。ヤバいくらいの光量だからね。淡々と指摘してあげると、ネロは不思議そうに相槌を打ってくれた。納得、という感じではないっぽい。


 自分では光っているのが分からないのかもしれない。って事は、自発的に光らせる訳でもなく、光っても自覚はないって事なのかな。


 一つ分かるのは、猫の目が光る原理とは全く違うって事だ。猫は興奮しても集中しても光らないし。光る場所も、ネロやレオさんは瞳孔の奥が光っている訳じゃなくて、瞳全体が光ってるんだもん。


「じゃぁ、何がしたいか教えて。」


「う。」


 まぁ、脱線はそこまでにして。ネロの希望を聞いてみましょう。改めて切り出してみると、ネロが少し動揺したのが見えた。どうした、何を動揺したんだ。言葉だけじゃなくて表情にまで動揺を出すとか、ネロにしては珍しい狼狽え方だ。


「ネロ?」


「軽蔑しないか?」 


 早く教えて、って可愛い笑顔を作って話を促してみる。ネロは少しだけ躊躇したっぽいけど、確認を取ってきた。ん~、軽蔑って、されるような事を言おうとしてるのかな。超気になる。でも、どんな事を言われてもネロを軽蔑なんてする訳がない。ニコっと笑顔で頷くと、ネロが頬を緩めてくれた。


「膝の上で抱き締めたい。」


「ほぅ?」


 静かにサラッと言い切ったネロの言葉が意外で、ちょっとだけびっくりして疑問の言葉が口から漏れちゃった。だってね、ネロがレオさんになってる。いや、チャラさはないし、優しい微笑みだから、レオさんとは全く違う。でも、超積極的。これは知ってる。レオさんのあの大胆さを取り入れたいって事ですよね。


 レオさんみたいにオープンで強引だと逃げたくなっちゃう。それなのに、ネロの頼みだと普通に受け入れちゃえるのが不思議だ。そして、ネロの気持ちは分かる。ネロはレオさんにそうしてあげたいんだよね。だから、ある意味、予行演習のような感じなのかもしれない。


 レオさんに言うのは恥ずかしい。だから、取り敢えず、俺で試す、的なヤツですね。それに、出がけにレオさんが俺を膝の上に置いた事への対抗意識もあるのかも。ちょっとだけヤキモチを妬いちゃって、対抗心を覚えちゃったのかもね。


「嫌であればしない。忘れてくれ。」


 思案する間の沈黙を拒否と受け取ったのか、ネロがあっさりと提案を撤回してきた。そんなに簡単に諦めたらダメなんだよって目で訴えながら、にっこり笑顔でネロを見つめちゃう。


「ネロはホントに素直じゃありませんね。ちゃんと、レオさんにも言ってあげてね。」


 ネロが戸惑った顔で見つめ返してきたから、優しく言い聞かせてあげる。そうしたら、ネロはイヤそうに軽く眉を寄せた後で、少し思案して、最終的には渋々って感じで頷いてくれた。俺には分かるよ、ちょっとだけ照れちゃったんだよね。


「どんな抱っこにするの?」


「膝の上で向かい合わせ。」


 って事で、どんなお膝抱っこがしたいのだろうか。サラッと聞いてみると、ネロが照れた感じで目を伏せて答えてくれた。ほぉ、やっぱりそうか。俺の考えてた通りだった。ネロが希望したのはレオさんが好きな抱っこの体勢、って事は確定だ。


 やっぱりレオさんを自分の膝の上で抱っこしたいんだ。あ、でも、レオさんにして貰いたいって可能性もあるのか。分かります。レオさんはデカいから、スマートに事に及ぶ為には練習が必要になってくる。ネロはレオさんに対してはクールだから、失敗したくないんだよね。


 誘ってから、膝の上に置くまでのプロセスの予行演習って事ですね。分かります。試すには体の小さい俺が最適。だから、レオさんのいない今、試そうとしてる訳ですか。


 ネロはストイックだから、完璧を目指そうとしてるんだろうな。そうと分かれば、ネロの為に協力は惜しまないよ。俺は頑張る。ん~、そうだな。一番良さそうな感じとしては、レオさんを参考にするのがいいのかも。俺は小道具の一つとして演技も頑張っちゃう。


「ネロがしてくれるの?それとも、俺からがいい?」


「どうして欲しい?」


 演技に集中して、ネロに凭れ掛かり、甘えた感じを出しながら囁いてみた。ネロは俺の髪を摘まんで弄びながら、優しい囁きで返してくる。


 疑問に疑問で答えるスタイル、そして甘い響きの低い声。更には、同じ髪を触る行為なのに、いつもと全然違う感じ。ネロが真に迫った感じを出してきてる。望む答えを小道具としては精一杯演じてあげましょう。


「それを言わせるの?」


 顔を逸らして恥じらう風を前面に出して、甘えた声で答えてみる。純情なレオさんになりきるんだ。きっと、レオさんならこんな感じで答えそう。ネロが髪にキスをしてくれて、立ち上がった。


 背中にネロの手がそっと添えられたと思ったら、ふわっと体が浮いた気がする。体が浮き上がった感覚のままに、位置が逆転して、ネロがソファに腰を下ろした。そして、自分の太腿の上に、向かい合わせの形で俺をそっと置いてくれた。

 

 お膝抱っこがレオさんより上手い気がする。レオさんより滑らかで流れるような動作だった。持ち上げられた衝撃も、自分の体重すらも感じなかった。魔法みたいな現象を体感できて楽しかった。


 ってか、ネロも何気に手慣れてる、よね。甘い声とか、髪にキスとか、チャラい行動を普通にしてきたんですけど。大人って怖い。ネロは真面目な人だと思ってたのに、レオさん並みに遊び人だったりするのかな。怖いですね。

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