192 何があったのかしら?
ネロが開けてくれている族長のテントの入り口を抜けて、一番乗りで中に入らせて貰う。ネロが続いて入ってきて俺に並び、最後にレオさんが入って入り口の脇に移動していった。
レオさんは仕事モードになったのか、スッと真顔になってしまった。レオさんの表情の変化を眺めていたら、ネロが背中に手を添えてくる。見上げると、ネロがコクっと頷いてくれた。ネロもレオさんの表情の変化に見惚れていたらしい。
そうだよね。仕事モードになった途端に、レオさんが滅茶苦茶カッコ良くなったもん。チャラいレオさんが消え失せて、レオさんの上辺の一番いい部分だけが表面に出た感じだもん。見惚れちゃいますよね。
ネロが小さく息を吐いて、レオさんの傍にバスケットを置いて離れていってしまった。もう一度レオさんに目を向けると、早く行けって感じで、レオさんが片眉を上げてきた。ヤバ、にこりともしないレオさんはヤバい。なんというカッコ良さ。
まぁ、レオさんはもういいや。俺はアルさんに会いたかったんだよ。レオさんにバイバイって、軽く手を振って、くるっと振り返る。ネロを追いかけて廊下に向かうと、アルさんの居室の前でネロが待っていてくれるのが見えた。
そうだ、アルさんじゃなくて、族長様って呼ばなきゃだったのを思い出した。気を付けよう。族長様って考えたら、超ドキドキしてきちゃった。失礼な事をしないようにしなきゃだ。言葉遣いとかどうだろう。敬語とか上手く言えるかな。
ネロが無言でアルさんの居室のカーテンを開けてくれた。中を覗き込んでみると、アルさんが椅子に座っているのが見えた。にっこり笑顔で出迎えてくれるアルさんは今日も可愛らしい。けど、族長様、だからね。アルさんって呼んじゃダメ。
緊張感を持って、恐る恐る、中に入らせて貰う。アルさんが向かいの椅子を勧めてくれたから、緊張感と共に腰を下ろす。面接の試験みたいだ。超ドキドキする。後ろを振り返ると、ネロはちゃんといてくれた。カーテンを閉めるネロの姿を確認してちょっとだけほっとする。
「こんにちは。」
アルさんに顔を向けて、緊張しながら挨拶をしてみた。粗相のないようにって考えてたら、単語になってしまった。ニッコリ笑顔のアルさんが頷いてくれる。今日のアルさんもスゴク可愛くて癒される。けど、凄い人だって理解してるからスゴク緊張してしまう。
溌溂と輝く金色と緑の混じる不思議な色合いの綺麗な瞳は輝いて、可愛らしい微笑みを浮かべる笑顔は若々しい。幼いぐらいに見えるアルさんの笑顔は、俺とそんなに変わらない歳に見える程に、若く見えるしメッチャ可愛い。
「レオとも仲良くなったのね。楽しそうで本当に良かったわ。」
「はい。族長様が気を使ってくれたので仲良くなれました。ありがとうございます。」
アルさんは優しい微笑みでレオさんと仲良くなったのを喜んでくれる。丁寧な言葉を心掛けて、笑顔で返事をしてみた。アルさんが柔らかな笑顔のままで、少し強張った気がする。ヤバい、失礼な事を言っちゃったのかな。
アルさんの表情の微細な変化に気が付いて、ワタワタと焦っていたら、アルさんがゆっくりと視線をネロに向けていく。それに伴って、アルさんの眼差しが鋭く冷たい光に変わっていった。表情は柔和なままだからメッチャ怖い。
「ネロ、レオもここに呼びなさい?少しお話があるの。」
静かな厳かともいえる声で、アルさんがネロに指示を出している。ヤバい、やっぱり俺は失礼な事を言っちゃった可能性が高い。レオさんが呼び出されるとか、俺は何をしちゃったんだろう。
「えっと、俺は何か失礼な事を言っちゃったのかな。あの、レオさんもネロも凄く良くしてくれて、メッチャ楽しかったです。」
レオさんを呼び出しているアルさんの雰囲気はメチャクチャ怖い。このままではレオさんが怒られちゃう可能性がある。ワタワタしながらアルさんに話し掛けてみた。丁寧な口調とかする余裕がなかった。これもヤバいかも。
アルさんは優しい笑顔を浮かべているけど、全然癒されない。スゴク威圧感のある笑顔だ。それに、アルさんの雰囲気は凍えていて圧倒されてしまう。
「琥珀さんが楽しい時間を過ごしてくれて良かったわ。一つ聞きたいのですけど、いいかしら。」
「はい。」
アルさんはゆっくりと視線を戻してくれて、口を開いた。いつもと同じ優しい微笑みと優しい口調だけど、普通に、はい以外の選択肢はない問いかけだ。
これが族長さんとしてのアルさんなんだ。場を支配する雰囲気が包み込んでいる感覚がヤバい。レオさんが言ってた、アルさんは怖いって言葉が少し分かった気がする。心の奥底から震えがくる感じがちょっと怖い。
「今、私の事をなんて呼んだのかしら。」
「えっと、族長様?」
びくびくしながら、何を聞かれるんだろうと身構えてしまう。ドキドキでアルさんの口が開くのを待っていたら、アルさんの質問は意外なモノだった。なんでそんな質問を、と思いながら、素に戻って答えちゃった。
途端にアルさんの瞳が潤んだのが見えた。威圧する空気とか、重圧感のある雰囲気とかが全てがなくなった感じがする。いつものふんわり優しい癒しの雰囲気を纏うアルさんに戻ってくれた。
でも、超悲しそうな顔になっちゃった。耳も伏せちゃって、眉も寄って泣きそうに顔を歪めてる。俺は何を言っちゃったの。アルさんを悲しませるような事を言っちゃったのかな。
「名前で呼んでくれないのかしら。」
困惑の中で、自分の発言を振り返っていたら、悲しそうに呟くアルさんの声が聞こえた。そして、アルさんが何にショックを受けたのかを理解した。族長様っていう他人行儀な呼び方が悲しかったみたいだ。
「えっと、魔法の事を聞いて、アルさんは凄いんだって理解して。あとね、アルさんは一人で戦えるくらい強いし、ガトの族長様だから偉い人って理解できて。馴れ馴れしい態度を反省して、族長様って呼ばなきゃって思っちゃった。ごめんなさい。」
慌てて族長様って呼ぶに至った理由を説明してみる。アルさんが凄い人だって理解した事と、今まで馴れ馴れしかった事。あとは、今、悲しませちゃった事を全部まとめて謝罪の言葉に乗せて謝る。
「私は琥珀さんの前ではただのアルです。それ以上でも、それ以下でもない。ただのガトのアル。それでも名前で呼んでくれないの?」
アルさんが泣きそうな顔で悲しそうに訴えてくる。アルさんの言葉は凄く嬉しい。身分とかは関係なく、ただのアルさんでいいって言ってくれてる。
そうだよね、アルさんは最初から身分とか種属とか色々気にしてなかった。失礼な事を沢山しちゃってたと思うけど、いつもニコニコ笑顔で許してくれてた。アルさんは長い間、俺を待っていてくれたのに。超軟弱で貧弱で待つ価値もなかった俺なのに。気にしないって言って受け入れてくれてたじゃん。
俺は何をやってんだ。アルさんを悲しませて、泣かせる直前とかダメダメだ。涙を堪えている、潤んだ緑と金色の混じった瞳を見て、自分の言動を反省してしまう。呼び方を変えるなら、確認を取ってからにすればよかった。アルさんの気持ちを考えてなかった。
「アルさん、ごめんなさい。今まで通りアルさん、って呼んでもいいのかな。」
もう一度、今度は自分の考えのなさからアルさんを悲しませちゃった事を謝る。その上で、一応、名前で呼んでも失礼にならないかの確認を取ってみた。アルさんが嬉しそうに目を輝かせてくれた。その表情だけで、良く分かる。
「ええ、琥珀さんには名前で呼んで欲しい。さて、ネロ、レオ。言いたい事があるなら聞くわよ?」
にっこり笑顔のアルさんが優しい口調で強く同意してきた。そして、アルさんは後方に視線を飛ばした。その瞬間、空気が凍り付く錯覚を覚えてしまう。俺に話しかけるのと同じ口調なのに、超怖い。冷たい声だ。
「アルさん、アルさん。族長様って言わなきゃって決めたのはさっきなんだ。ネロもレオさんも関係ないトコで、一人で決心しただけなんです。」
「そう?何があったのかしら?」
俺の失言のせいで二人が怒られるって理解して、アルさんを止めちゃう。アルさんはゆっくりと俺に視線を戻してふわっと優しい笑顔になってくれた。優しく聞き返してくれるアルさんには冷たさの欠片すらない。
「魔法の事を聞いて、色々と理解できたのがさっきなの。魔法は凄い複雑なんだなって思って、魔法が凄いのはアルさんって連想しちゃった。」
おずおずと説明を始めると、アルさんが優しく頷きながら聞いてくれる。アルさんって名前を出したら、嬉しそうに目を細めてくれるのがめっちゃ可愛い。本当に、俺の前ではただのガトのアルさんなんだなって思っちゃう。
「で、アルさんは魔法も凄いし、族長様だし。凄い人を名前で呼んじゃうとか失礼な事って思っちゃった。だから、ネロもレオさんも全然関係ない。関係があるとすれば、魔法の事を説明してくれた事だけど、それも俺が聞いて答えてくれただけ。全く関係ないとも言えるかな。」
「成る程、レオ。ごめんなさいね、下がっていいわ。後、琥珀さんにお茶を。」
「了解。」
アルさんが優しく聞いてくれるからほっとして、なんで族長様と呼ぼうかと思ったかの説明を続ける。アルさんは優しくうんうん、と相槌を打ちながら最後まで優しく聞いてくれた。そして、納得してくれたっぽい。アルさんが後方に笑顔を向けて謝っている。アルさんの指示で静かに答えたレオさんの声が聞こえる。
アルさんの地雷は族長様って呼ばれる事らしい。そして、ネロとレオさん、ごめんなさい。俺のせいで怒られるトコだったね。回避できてよかった。心の中で二人に謝っておく。
「アルさん、ご迷惑をお掛けしました。一人で戦ってくれてありがとです。怪我とかなかったですか?」
「凄く楽しかったわ。」
緊張感の溢れる事態を脱却して、本題に入る事にした。感謝と心配を言葉に出してみたけど、アルさんは本当に楽しかったらしい。嬉しそうな笑顔で答えるアルさんを見る限りは、真実だと思う。アルさんが怪我しなくて良かった。
「ホントにお外で遊ぶのは楽しいのよ?こんなトコロに閉じ込められて書類と格闘する事と比べて百倍くらい楽しかったわ。」
アルさんはマジで外で動き回るのが好きなんだね。だから、こんな若々しく見えるのかな。外で暴れまわって楽しんできたから、こんなキラキラ溌溂とした可愛いアルさんなのかな。高齢って聞いてたけど、最近では全く高齢に見えない。これも猫耳と猫目マジックなのだろうか。
アルさんのお話を楽しく聞いていたら、レオさんがお茶をテーブルに置いてくれた。レオさんを見上げて、お礼を言いながらニコっとしてみる。レオさんは無言で頷いて去って行った。真面目な顔でニコリともしなかったレオさんに、ほう、っとなってしまう。仕事中は寡黙なレオさん、か。成る程。
「雨の日は沢山魔物が出てくるの?」
「そうね、数は多い、かな。あの子達は森の中に点在するから困っちゃうの。探すのに一苦労。」
普通に話せるっていいね。さっきまでの緊張感から解放されて、いつものホンワカ優しいアルさんに癒される。溜息を吐いて、困った感じで眉を寄せたアルさんだけど、楽しそうに話してくれた。
ニッコリ笑顔で楽しそうにお話をしてくれるアルさんは可愛い。お茶を飲みながらアルさんの話に耳を傾ける。アルさんはホントに楽しかったらしく、大暴れしてきたとお喋りに花を咲かせてくれた。
このまま雨が止むまで外で戦ってたい、と、アルさんが希望を言った所でネロが静かに口を挟んで止めてきた。族長の仕事の肩代わりはごめんだ、と言わんばかりのネロの物言いに、アルさんがしょぼんとしてしまう。話のキリがいい、という事で、ここら辺でお暇する事になった。
「アルさん、ホントにご迷惑をお掛けしました。あと、ホントにありがとうございました。また、遊びに来ていいですか?」
帰る前に、もう一度、しっかりと謝罪と感謝の言葉を伝えて頭を下げる。アルさんがそっと頭を撫でてくれたから、顔を上げると、優しい笑顔のアルさんが頷いてくれた。迷惑を掛けちゃったのは重々承知してるんだけど、また遊びに来ていいかも確認してしまう。
「勿論、いつでも遊びに来て。ネロとレオにだけじゃなくて、偶には私も構ってね。」
「うん。また遊びに来ます。怪我とかなくて元気なのが確認できてほっとしました。」
アルさんはニッコリ笑顔で勿論って言ってくれた。ついでに可愛らしく冗談も言ってくれた。レオさんの冗談とは質も内容も全然違う、可愛らしい冗談だ。流石アルさんである。アルさんの笑顔に和みながら、ばいばい、と手を振って部屋を後にする。
「レオの所で少し待て。」
ネロが開けてくれたカーテンを潜り抜ける時にネロの声が聞こえた。部屋から出て振り返ると、カーテンは閉ざされている。ネロはアルさんとお話らしい。言われた通り、レオさんの所で待ってよう。
顔を前に向けると、レオさんの姿が見える。入り口の脇に立っているレオさんはキリっとしていて、さっきの家でのデレデレした顔の面影はない。真っ直ぐに俺を見つめてくる視線も、家にいる時とはちょっと違うカッコ良さだ。
廊下を少し進んで、距離を置いた状態でレオさんを眺めていたら、後ろから腕が巻き付いてきた。びくっとして見上げると、ネロが後ろから抱き締めて引き寄せてくる。
お話が終わるの早!何を話したんだよって早さなんだけど。レオさんの傍にすら行けてないよ。そして、なんで後ろから抱き締めてるんだよ。まぁ、見てるのはレオさんだけだからいいけどね。
ネロの腕から抜け出して廊下を早足で歩いて逃げてしまう。早足の俺の横をネロの長い脚がゆったりと追随してくる。外に出る直前で、ネロが詠唱を始めた。自分に〈シール〉を唱えているらしい。
ネロを待つ間、レオさんを見上げてみた。レオさんが無表情に見下ろしてくる。なんだ?と言わんばかりに、片眉を上げたレオさんはマジでカッコいい。
「仕事中のレオさんはカッコいいね。合格。また後でね。」
レオさんに寄って背伸びをすると、レオさんは無表情ながらも屈んでくれた。レオさんの耳元で、小さな声で囁いて、にこっと笑顔を贈ってみる。レオさんの返事は待たずに外に出る。
ネロはバスケットを片手に先に外に出ていたらしく、外側から入り口を開けて待っていてくれた。ネロの視線が俺を通り越してレオさんに向けられたのが見える。
ほぅほぅ、いつもの冷静な真顔なのに熱く見える視線ですな。そして、口元が微かに緩んでますね。レオさんとアイコンタクトとか、ネロはイヤらしいですね。
ネロの視線が俺に戻ってきてしまった。凄く微妙な顔になってる。なんでそんな顔なの。あ、照れてるんだね。分かってますよ。俺は見てません、だから、平気だよ。すすっとネロから目を逸らして歩き始める。
ネロと並んで食事場に向かっていて気付いた。レオさんがいないとめっちゃ静か。レオさんがどんだけお喋りだったかが証明された瞬間である。でも、ネロとの二人でまったりな時間はほっと落ち着く時間だ。
「ねぇ、ネロ。お願いしてもいい?」
「どうした?」
沈黙の中で思い出した。ネロにお願いしたい事があったんだ。ネロを見上げて声を掛けると、ネロは目を合わせて優しく聞き返してくれた。表情は家の中とは違って真顔に近いけど、眼差しは柔らかくて優しい。
「神樹の所に行きたい。連れてってくれる?」
「分かった。返却が終わったら、一旦家に戻る。その後で行くか。」
急なお願いなのに、ネロは二つ返事で了承してくれた。でも、家に戻るってなんでだろう。少し考えて気が付いた。如雨露を取りに戻るって事だね。思いっきり忘れてた。
「あ、そうだね。如雨露を忘れてた。じゃぁ、俺はバスケットを持って、先に食事場に向かってるから、ネロは如雨露を持って追いかけてきてくれる?」
食事場までは結構進んでる感がある。でも、ネロなら家に取りに戻っても、すぐに追いつく距離だと思う。という事で、ネロに如雨露をお願いしてみた。時間の短縮になるし、いい考えだと思うんです。
「駄目だ。共に戻るか、このまま進んで後で家に寄る。どちらかを選べ。」
バスケットに手を伸ばしてみたけど、すいっと遠ざけられてしまった。ネロは拒否の姿勢を見せてきて、言葉でも拒否をされてしまった。そして、選択肢を突き付けてくる。俺としてはネロとの散歩は楽しいからいいけど、俺は歩くのが遅い。メッチャ時間がかかっちゃうよね。いいのかな。
「ん~、じゃあ。このままお散歩続行で。でもね、俺は遅いって知ってるよね。時間の無駄じゃないかな。」
「共に歩く時間は楽しい。」
ネロの提案した選択肢の一つを選んだ上で、ちゃんと確認も忘れない。返答次第では、俺だけ家に帰って、待機するって第三の選択肢もあるかなって思ってた。でも、ネロは笑顔で嬉しそうに答えてくれた。
外でこんな笑顔になるネロは珍しい。キラキラが溢れて凄いですよ。ネロ自身が光り輝いて見える。ヤバい程の綺麗さだ。ネロは綺麗だから、こんなにキラキラなエフェクトが見える錯覚に陥るんだろうな。
「そうだね。レオさんいると賑やかだけど、ネロとだとまったりだよね。」
「レオがいる方が楽しいか?」
ネロの言葉が嬉しくて、笑顔で同意しちゃう。レオさんの名前を出したら、ネロの笑顔がなくなって無表情に戻ってしまった。そして、ネロはレオさんの事を確認してくる。淡々としてるけど、少しだけ緊張感がある感じの声だ。
レオさんがネロの恋人って知ってから、三人で過ごしてきた。表面的には俺とレオさんは仲良くしてるって分かってる筈。でも、ネロは俺の本心が知りたいらしい。レオさんがいない状況でしっかりと確認しておきたいって事かな。
ネロ的には、恋人と、家族である俺が仲良くできるかが心配なんだと思う。二人きりの今、俺が無理をしてないかを聞いてくれたみたいだ。
ネロの心配には及ばず、ネロとは違う方向性で、レオさんと過ごす時間は楽しい。俺自身は表面的に仲良くしてるなんて思いたくない。レオさんといると楽しいし、レオさんに滅茶苦茶甘えちゃってる。
ってか、俺への心配より、レオさんへの心配をした方がいいと思う。レオさんは演技派だから内心を隠している可能性もある。ネロに甘えられないとか、恥ずかしがって素直になれないとか、確実に内心は隠してるだろうな。
それに、俺がいる事で、ネロとレオさんの二人の時間が減っちゃってるのは事実だ。ネロは俺と一緒にいると、基本的には親モードになっちゃうのが問題なんだよ。レオさんの中でフラストレーションが溜まってないかが気になっちゃう。
ネロとは違う方向性で甘やかせてくれるレオさんには全力で甘えちゃうんだよ。レオさんが受け止めてくれるから、更に甘えちゃう。そして、調子に乗って怒られちゃう。
あの感じを見てると、レオさんも本心で俺を可愛がってくれているって信じられる。でも、ちょっと心配になっちゃう。俺の事を心から可愛がってくれてても、ネロとの間を邪魔する俺が疎ましいって気持ちが無いとは言えない。
ってか、レオさんが俺の親になりかけてる心理が分からない。さっきも幼い我が子を可愛がるパパさんになってたし。あのデレデレの顔はどう考えても演技ではない気がする。まぁ、多分、ネロの子供だから、自分の子供って認識になってきちゃったのかな。
「レオさんと一緒の時は楽しい。レオさんはお喋りだし、軽口が多いし、チャラいし、優しい。でも、ネロと二人だと落ち着く。ネロと一緒だと安心する。それに、ネロと二人のまったりとした感じが好き。」
「そうか。」
色々と考えちゃったけど、素直に答えてみた。ネロは一言、感情を込めずに相槌を打ってくれた。ネロ的にも色々と思うトコロがあるのかもしれない。恋人と家族、両方を大切にするネロだから板挟みが大変なのかも。苦労を掛けちゃいますね、ごめんなさい。
「ネロは魔法の知識は凄かったね。ソピアにいる時に学んだの?」
話を切り替えて、魔法の事を聞いてみた。ネロの魔法の説明はかなりのモノだったし、スツィも褒める程の知識だった。あの知識は一般的なモノのか、専門的なモノなのかが知りたくなっちゃったんです。
「そうだな。ソピアで得た知識が多い、気がする。」
ネロは頬を緩めて静かに答えてくれる。成る程、っと頷いて、一般的な知識ではない事は理解できた。ソピアで得た知識って事は専門的って考えて良さそうだからね。
「ネロの魔法の詠唱の声は凄く綺麗だよね。言葉に意味はあるの?ただの音というか響きだけ?」
「意味はある。意味を理解して詠唱をする事で魔法の発動に至る。」
次の質問は詠唱していた言葉についてだ。レオさん曰く、詠唱の言葉は、古代語とか、精霊語とか、『理』の外の言葉って事だった。って事は、俺には理解できなくても、意味のある言葉な可能性が高い。ネロが淡々と説明してくれた事によると、それで正しかった。
「成る程ね~。凄いな。」
「そうか?」
確かに、ネロは理解をする事で発動に至るってさっきも言ってた。綺麗だけど難解な言葉を完全に理解して詠唱するって事実が凄い。思わず感想を漏らしてしまうと、ネロは嬉しそうに目を細めて謙遜の形をとった相槌を打ってくれた。
「同じ魔法でも、国や地域、種族によって唱える詠唱が違ったりするのかな。」
詠唱を完全に理解してっていうと、全ての人が同じ言葉を使ってるのだろうか。新たな疑問が湧いて出て、また、質問を続けてしまった。ネロは優しく見守る感じで、俺の疑問を聞いてくれている。
「その認識で正しい。動作での差異は顕著に表れるが、詠唱にも多少の差異が生じる場合もある。」
「完璧な詠唱と動作じゃないと魔法は発動しないって言ってたけど、違っても発動するの?」
ネロが導き出してくれた答えをふむふむ、と聞いていく。動作でも詠唱でも違いがある場合もある、と。そして、また疑問が出てきちゃう。更に質問を続けてみると、ネロが楽しそうに目を細めた。
ネロは先生モードの状態を楽しんでる感がある。質問をすると、真顔なんだけど金色の瞳は楽しそうで嬉しそうに輝くんだもん。だから、質問をするのも気後れしないでできる。知らない事は聞いてもいいんだなって気持ちになれる。
「種族の違い、同じ種族でも地域単位の部族の違いによって、精霊への見識に差異が生じる。その見識の差異は動作や詠唱の差異に繋がる。理解の方向性の違い、というトコロ。方向性が違っても、精霊がその理解を承認すれば魔法は成立する。」
「ん~。同じ魔法でも感じ方がそれぞれ違うから、それに対する魔法の前準備みたいなのが違ってくるって事?」
ネロは考えを纏める時間もなく、スラスラと説明を始めてくれた。ふむふむ、と頷きながら聞いて、なんとなく分かった気もする。ただ、正確に理解できたのかは微妙過ぎて、自分なりに纏めて、答え合わせをして貰う事にした。
「少し違うが、その認識でも間違いではない、かもしれない。」
「成る程?」
俺の見解は少し違っていたらしい。魔法というものを完全に理解できてないからか、イメージができなくてトテモ難しいんです。きっと、知力の値が1だからなんです。悲しい。
「精霊への見識の差異は、魔法の理解の差異にも繋がる。極端な話、同じ魔法を真逆の意味で理解したとする。その場合でも、両者の理解が原理に基づいている、尚且つ、『理』の内に当て嵌まる場合、精霊は両者を承認する。結果、両者の魔法の構築は可能となる。発動に至るか、となると、もう少し複雑にはなるのだが。」
真逆の方向性で理解するってどういう事なんだろう。地域によって、神になったり悪魔と呼ばれたり、的なイメージでいいのかな。まぁ、どっちにしても、ちゃんと原理に基づいた理解をしてれば魔法の構築は可能なんだね。成る程。
ネロの説明で、魔法の構築と発動が別物ってのは分かった。でもね、なんで『構築した魔法が発動しなかった』なんて事が分かるんだろう。だって、魔法が失敗したとしても、どの段階で失敗したのか分からないでしょ。
「構築は可能だけど、発動はしないってなんで分かるの。」
「魔力が減る、魔法が発動する前兆が目視できる、〈解析〉などのスキルを持った者が観測する、などで確認が可能。魔力の減少や魔法の前兆がない場合、魔法の構築は行われなかった、という事になる。」
俺の更なる疑問にも、ネロはサラッと答えてくれた。あ~、成る程ね。魔法の前兆は知ってる。俺も経験があるヤツだった。〈浄化〉を覚えて直ぐに使おうと思ったら発動しなかったんだよね。手のひらに青い光が集結して、何も起こらず霧散したんだよな。懐かしい。




