187 誤魔化してんじゃねぇ
「レオさんはなんで指を舐めようとしたの。」
「ん?昨日ネロが琥珀の指を舐めてたから美味いのかなと思って。」
レオさんが冷静になったトコロで、なんであんな奇行に走ったのかの理由を問い質してみる。レオさんはサラッと答えてくれたけど、何の話だよ。ネロが俺の指を舐めたってどういう事なの。
「何言ってんの。いつそんな事をしたの?」
「琥珀が酔ってた時に。ネロが琥珀の指を舐めて美味いって言ったから、どんな味かなって気になった。」
ジト目で聞き返してみたら、普通に答えてくれた。酔ってた時にネロがそんな事をした事実が驚きだよ。そして、そんな理由で指を舐めようとするとかヤバいから。張り合うにも程があるし、指に味なんてない、筈だよね。味とかないよね?
「俺は全然覚えてないんだけど、なんで指を舐める状況になったの。」
「酒を含んだ果実と、パイの果実のソースが滅茶苦茶合うとか言って、指に付けて押し当ててきた。お前主体で動いてたから、俺達は巻き込まれたんだよ。」
多少混乱しながらも、冷静に問い質してみる。レオさんも冷静な感じで淡々と答えてくれた。俺主体で動いてたってどういう事なんだ。俺は全然覚えてないんだけど。
でも、確かに、パイのフィリングとお酒の果実が超合うって思ったのは確かだ。もしかして、俺は酔っぱらって二人に絡んだのかもしれない。ネロは絡まれて迷惑だったけど、舐めてくれたって事なのかも。レオさんはそれを揶揄ってる、と。
「えっと、俺は酒乱なのでしょうか。酒癖が超悪かったりするんですか?」
「うん、悪い。でも、可愛いから問題ない。」
「悪い、かもしれない。」
客観的に聞く事で自分のヤバさが自覚できた。一応、確認だけはしておこう。もしかすると否定してくれるかもしれない。そんな希望は直ぐに打ち砕かれた。単純に肯定してくるレオさんと、言葉を選びながら肯定してくるネロ。
やっぱり俺は酒癖が悪いらしい。前にレオさんに絡んだので分かっていたけど、俺はまた絡んじゃってたのか。しかも、絡んだ記憶がない。超酔っ払いじゃん。ヤバいな。
「マジか、気を付けよう。」
「でも、酔った琥珀は可愛いんだよな。だから、気を付けなくていい。大いに酔えばいいよ。俺が優しく介抱してあげるから何も問題はないんだよ。」
「可愛いのは事実。介抱は俺がやる。」
本心から反省して決意を言葉に出しておく。二人は優しく慰めの言葉を返してくれたんだけどね。レオさんがチャラいし、変な意味っぽく聞こえるし、エロいんだよ。ネロは普通に優しいなって思う。
酔っぱらった自分の行動の真実を知ってしまって、がっくりする気持ちを止められない。ネロは優しいから『かもしれない』を付けてくれたけど、俺はダメダメだ。レオさんが優しく見つめてくれるけど、その視線で、自分のダメさ加減が悲しくなってきちゃう。
「二人が俺の前で変態の事実を暴かれた時よりも、今の俺の方がショックを受けてる。心が砕けそう。悲しい。」
「そうかそうか。俺の胸で泣けばいいよ?おいで?」
悲しみの心中を吐露してみると、レオさんが優しく微笑んでくれた。俺を受け止めてくれるって優しく言ってくれる。おいでって腕を広げて待っていてくれる。深い緑の瞳が優しさに溢れていて全てを受け止めてくれそう。
ふらふらっとレオさんに縋りつきそうになるのを、ネロに阻止されてしまった。ネロが背中から抱き留めた腕に力を少し込めて引き寄せてくる。前のめりになっていたんだけど、引き寄せられた事で、ネロに体重を預けて寄り掛かってしまった。
「今夜、琥珀を抱き締めて寝る権利があるのは俺だ。忘れたか?」
「くそ、いいトコまで行ったのに、惜しかった。琥珀が自ら来てくれれば何の問題もなかったのに。」
後ろからネロの挑発的な台詞が聞こえる。そして、それに悪態を吐きつつ、残念そうに呟くレオさんが見える。もういい、寝ましょう。今夜は疲れた気がする。
「寝よっか。精神的ダメージが計り知れなかった。」
「そんなダメージを受ける事があったのか?」
ネロに寄り掛かって溜息交じりに呟いてみる。レオさんは不思議そうな顔をして聞き返してきた。色々あったじゃん。って突っ込みたくなる。
普通に二人で連携攻撃を仕掛けてきたじゃん。しかも、スゴク色っぽいヤツ。俺は挟まなくても楽しめるだろうに、態々、俺を巻き込んできたでしょ。その上、俺の酒癖の悪さを知らされて止めになったんだよ。
「そう、あったの。俺の心はガラス製なの。体より脆いの。」
レオさんを見つめながら、しみじみと呟いてみる。俺は心も体も弱い子なんだからねって。レオさんがふっと口元を緩めた。優しい笑顔だ。衰弱した心を癒してくれる綺麗な緑の瞳をぼんやり眺める。
唐突に、レオさんが俺の手を握ってきた。動く気力もなくてレオさんの好きにさせていたら、レオさんが俺の手を自分の頬に当ててくる。優しく見つめてくる深い緑の瞳がキラキラで超綺麗。
「琥珀の体とガラスなら、ガラスの方が頑丈だろ。」
「そんな事はないでしょ。あ、でも、ガラスは確かに固そうだね。まぁいいや。そんな感じ。」
優しく言い返してくるレオさんの言葉を、一瞬否定したけど、直ぐにまぁそうか。と思っちゃう。やっぱり、レオさんに口では敵わないんだろうな。レオさんの頬を俺から撫でてあげる。レオさんは嬉しそうに目を細めてくれた。
ネロの腕をぽんぽんとして腕を離して貰う。今日のベッドはほんのり温かくて快適だ。寝る間はいらないからパーカーを脱ぐ事にする。パーカーを脱いでいたら、レオさんがむくっと起き上がった。
にまぁっと笑うレオさんには嫌な予感しかしない。何を思いついたんだ、怖いんですけど。怖いモノ見たさで、目がレオさんを追いかけてしまう。
レオさんはソファに向かっていった。そして、自分の着替えの服の上から布を手にして、ベッドに戻ってきた。にっこり笑顔のレオさんがその布を手渡してくるけど、これは何。首を傾げる事で疑問を伝えてみた。
「ケープ。羽織ってくれるって言ってたよね。」
「言ってない。ってか、これは流石に俺には似合わないでしょ。可愛いし、どう見ても女の子用じゃん。」
爽やかイケメンスマイルのレオさんが威圧感満載で確認を取ってきた。無言の疑問に対する返答らしい。一瞬、唖然となった後で、勢いよく言い返しちゃう。そんな事を言う訳ない。こんなぴらぴらな可愛いのは似合わないもん。
「いや、言った。うん、分かった。って言ってた。確実に言ってた。な、ネロ。」
「言っていた。」
確信を持って言ったと言い切るレオさんを見つめてしまう。レオさんはネロに確認を取って、ネロまで確信をもって断定してきた。マジか。冗談だよね。そんな事は言ってないよね。
振り返って、ネロをじっと見つめてみた。ネロは静かに目を合わせてくれる。視線を逸らさないし、断定で言ってた。はきはきと答えてた。って事は、俺はいつの間にか了承していたって事なのだろうか。
レオさんの口車にいつの間にか乗せられていたのか。くそぉ、これはレオさんの特殊能力なのではないだろうか。能力名、口車、的な能力持ちなのではないだろうか。
「レオさんはなんでそんなに誘導が上手いの?変な商売をしてる人だったりするの?」
「変な商売ってなんだよ。普通の護衛だよ。」
レオさんは詐欺師的な何かだったりするのだろうか。眉を寄せて慎重に質問をしてみる。レオさんの眉がぴくっと反応した。そして、面白そうな顔になって、俺の想像を否定してきた。ホントにそうなのだろうか。普通の護衛さんにしてはチャラいしエロいし、口が上手い。
「言い包めが上手過ぎな気がするんだよ。ね、ネロはどう思う?」
「話術は相当な腕。」
懐疑的なままで、ネロにも聞いてみた。ネロは静かに俺に同意してくれた。恋人のネロもこう言ってるんだよ。ってか、恋人の意見ではなく、客観的に見た意見を言ってくれたっぽい。これはもう、ある意味、ヤバい事だと思うんですよ。
「ほら、ネロもこう言ってるよ?もうね、ヤバい商売からは足を洗った方がいいと思うの。」
困惑顔を作って、レオさんを諌めてみると、レオさんが心外だって顔になっちゃった。呆れを含ませた鋭い目付きで片眉を上げてじっと見てくる。そのキリっと顔はちょっとカッコいいですね。
「何もやってねぇ。ただの護衛だって言ってんだろ。女を相手にしてると上達するんだよ。」
レオさんのカッコ良さに気を取られていたら、レオさんは静かに、冷静に、そして淡々と反論をしてくる。成る程~、女の子を相手にしてた中で口が上手くなったんですか。
「まぁ、イヤらしい。ね、ネロさん。あの人イヤらしいね。」
「そうだな、猥褻だ。」
ネロに体を寄せて、眉を寄せながら、ひそひそ話をしてみる。ネロも顔を寄せてひそひそと言葉を返してくれた。ネロもノリノリである。楽しそうな顔をしてるもん。分かるよ。
「お前な、それが言いたかっただけだろ。ネロも乗っかるなよ。」
「ばれたか。」
レオさんが悪戯っ子を諌める感じで軽く睨んでくる。そして、静かな口調で俺とネロにダメ出しをしてきた。まぁ、茶番はここまででいいか。てへぺろをしてみたら、レオさんの頬が緩んでくれた。
よしよし、レオさんの攻撃を躱す事ができた筈。さて寝るか。ブランケットを持ってこようと立ち上がったら、レオさんが腰に腕を回して引き寄せてきた。いつも通りの展開か、と諦めの境地になっちゃうよ。
思った通りに、レオさんの膝の上に向かい合わせでふわっと置かれちゃった。正面の間近なトコロに、レオさんのにっこり笑顔が見える。背中には熱く感じる手のひらが添えられて、逃がさないぞって意志が感じ取れる。
もう、驚かない。こんなのは慣れましたからね。慣れる程、何回もされてますからね。もはや、膝の上でにっこり笑顔で見つめ返す事すらできちゃうよ。
「レオさん、その技も中々凄いね。合格。じゃぁ、寝ましょうね。」
ニコニコでレオさんに合格を上げましょう。そして、速やかに寝る方向へ持っていこうかな。レオさんが非常に冷めた目で見てくる。怖いですね。レオさんは目つきが怖いんだから、そんな顔したらダメなんだよ。
「誤魔化してんじゃねぇ。大人しくケープを羽織ろうね。」
少し怯んでしまったら、ドスの効いたレオさんの低い声が聞こえてきた。少し前の俺なら泣いちゃうくらい怖い声だと思うんですよ。ニコってした顔も迫力があるんです。イヤですね。怖いですね。
あ、じゃぁ、そのまま反応すればいいじゃん。流石俺と言いたくなる名案に内心ニマっとしてしまう。迫力の笑顔のレオさんを見つめてみた。ちょっとだけ目を伏せてウルウルと涙目を作って、顔を逸らしちゃう。
「レオさん、超怖い。顔が怖い。声も怖い。笑顔も怖い。あと、目がイヤらしい。」
できるだけ儚く弱々しく、そして甘えた口調で呟いてみた。レオさんがケープをベッドの上に置いてくれた。大袈裟な演技だったけど、騙す事が成功した模様。俺の勝利の瞬間である。レオさんは攻略できたからもう寝るだけ。
ほっとして立ち上がろうとしたけど、背中に添えられたレオさんの手のせいで動けない。しかも座り方を胡坐に変えてきたから、お尻が落ち込んで動けなくなった。その上で、フリーになっているレオさんの片手が俺の顎に添えられた。
レオさんが優しく俺の顔を動かして、俯いた顔を上向かせられてしまった。レオさんはニッコリ笑顔だ。目前には綺麗な緑の瞳が見える。迫力のある眼光だ。そんな目をしちゃヤダ。怖いよ。
にこっとしてみると、顎からは手を離してくれた。でも、背中からは手を退けてくれない。どう見ても、どう考えても、ばれてますね。俺の演技はダメだったのか。
くそぉ、騙された振りとかズルい。レオさんを睨んだのと同時に、ふわっと肩を覆う感覚がしてびっくりしちゃった。見上げると、ネロが嬉しそうにケープを俺の肩に羽織らせている最中だ。
ネロは背中から俺を抱き締める形で、首元の紐を結び始めた。レオさんが拘束した上でネロが実働を担当とか、連携攻撃じゃん。そして、ネロはめっちゃ器用。俺の背中側にいるのに、腕を前に回して首元で紐を結ぶとか、めっちゃ器用。大事な事だから二回も思っちゃうくらい器用だよね。
「拘束して無理遣り縛るとか、酷い。」
ネロは角度的に見えないから、レオさんを睨んで非難をしてみた。レオさんがメッチャ嬉しそうに目を輝かせたのが見える。レオさんが超楽しそうなんですけど。睨まれて文句を言われても喜ぶとかなんなの。
レオさんを睨んでいる間に、ネロが紐を結び終わっちゃってた。そして、頭にフードを被せられてしまう。ケープを羽織らせるのが完了して、ネロがレオさんの傍に移動してきて覗き込んできた。
少しの沈黙の後で、金色の瞳の中の瞳孔がブワッと広がった。驚いたのかよ、どんな見た目だよ。驚く見た目なのか?レオさんに目を向けると、レオさんは固まっていた。瞬きもしないし、息もしてない気がする。
「レオさん、大丈夫?」
固まって息をしてないレオさんが心配で一言、声を掛けてみた。レオさんの瞬きが復活してくれて、ほっとしてネロに目を向けてみた。驚きから回復したらしく、ネロの瞳孔はもう細く戻っていた。
ネロは目が合わせて深く頷いてくれる。でもね、俺には以心伝心のスキルは無かった。だから、ネロの頷きが何を意味しているのかがさっぱり分からない。ただ一つ分かるのは、ネロが驚いて、レオさんが時を止めた事。
そこから導き出される答えは、ヤバい見た目って事だ。似合ってないから驚いて固まったんでしょ。レオさんの嫌がらせで恥ずかしい恰好をさせられて、二人を驚かせるっていう恥ずかしい体験をさせられただけだった。悲しい。
「要するに、全然似合ってないって事だよね。もう脱ぐ。」
むっとしながらさっさと脱ごうと、首元で結ばれてる紐に手を伸ばした。俺の右手をネロが、左手をレオさんが握ってくる。離して、って手をぶんぶんしてみたけど、二人の手は俺の手のひらに吸い付いたように離れない。
「待て、琥珀。似合い過ぎて時間が止まっただけだ。マジ可愛い。可愛すぎてヤバい。」
俺の手を握りながらレオさんが焦った口調で褒めてきた。懐疑的な視線を向けてみたけど、レオさんは大きく頷いてくれる。要するに、変ではないって言いたいのかな。
変ではないかもしれないが、似合い過ぎってのはお世辞だろう。それはレオさんのチャラい発言で分かる。ネロの顔がレオさんに向いた。スゴク真剣な顔と眼差しだ。
「レオ、どこで入手した。今すぐ吐け。」
「今、ここでは言えない。それにしてもヤバいな。」
ネロがレオさんに抗議してくれると思った。けど、違った。ネロよ、それはそんな真剣な顔をして聞く事なのかい?そして、レオさんよ、ここでは言えないってどういう事なの。更にはヤバいって何。
「ヤバいの?」
「うん。ヤバい。」
どうヤバいのか聞くのも憚られる程に、にまにまと眺めてくるレオさんと、目を細めて嬉しそうなネロがいる。お世辞じゃなくて、そこそこ似合ってるのかもしれない。
取り敢えず、理解できたのは二人は親バカモードに入ったって事だ。多分だけど、自分の子供が何を着ても可愛いって言っちゃうアレですよ。二人には付き合ってられない。
「成る程、じゃあ。もういい?」
「待て、もう少しいいだろ?」
冷めた口調でお開きを宣言して、ケープを脱ごうとしたけど、レオさんもネロも手を離してくれない。二人的にはまだお開きにはしたくないらしい。レオさんは口でも止めてくる。
「じゃあ、ブランケットを持ってきて。俺は寝る。このまま寝て、このケープが破れても知らないからね。」
まぁいいや。俺は眠たいんです。欠伸をしながらこのまま寝ちゃうからね。ぴらぴらな可愛いケープが破損しちゃうよって忠告してみた。レオさんが楽しそうに目を細めたのが見える。
「うん、いいよ。破れても全然問題ない。ってか、破れるってどんな激しい事をするつもりなの。でも、そうだよね。その可能性を考慮してもっと沢山用意しておかなきゃだった。ごめんね。」
うん、さっきの表情でレオさんが何かを言うとは思ってたよ。でもね、俺は眠いから流しておいてあげる。実にレオさんらしい答え方だけど、今は流しておいてあげましょう。
レオさんへの文句と、レオさんのチャラい返しを黙って聞いていたネロが離れていった。目で追いかけると、ネロはソファの方からブランケットを運んできてくれてる。ついでに、枕も持ってきてくれた。
「これ、高いって言ってなかった?破れてもいいの?」
「高いって言っても買えない程ではないし。問題ない。」
ネロが枕を設置してくれるのを眺めながら、疑問を口に出してみる。レオさんは嬉しそうに答えてくれるけど、疑問の答えになってない気がする。それに、問題なくないでしょ。
「レオさん、お金は大切にね。」
「趣味に金は惜しまない。」
溜息交じりにレオさんを窘めてみた。レオさんはスゴクいい笑顔で答えてくれた。きりっと言ってるけど、趣味ってアレ系な本とかコレ系な服とかだよね。そこに本気でお金をつぎ込むとか、お金持ちはいいですね。
「因みに、エロい本が趣味ってのは正しい。こういう服は今回趣味に加わった。」
今、俺は口に出していたのだろうか。いや、出してない。考えただけで口には出してない。なんで考えている事に対して、レオさんは返答をしてきたんだ。レオさんの目を見据えてみる。
「レオさん、怒らないから言ってみてね。ホントは考えを読むエキスパートで、勘っていうのは言い訳でしょ。ホントの事を言わないとユリアさんに言いつけちゃうよ?」
「ユリアを出してくるとか鬼畜だな。でもな、完璧、勘だよ。実は俺の勘は結構凄かったりするんだよ。」
レオさんが不思議そうな顔をしたトコロで、静かに問い質してみた。レオさんが楽しそうに目を細めた。そして、勘だという意見は変える気はないらしい。爽やかな笑顔を浮かべているレオさんは好青年にしか見えない。嘘や偽りを言葉に出している感じはしない。でも、レオさんだから分からない。
「レオも観察は得意かもしれない。勘も鋭いのは事実。」
「やだ、覗かないでね?絶対だよ?あと、もう下りるね。」
静かにレオさんに同意するネロの声が聞こえた。ネロの意見で一応は納得できた。でも、考えを覗かれるってのは恥ずかしいんですよ。目を伏せて伝えてから、下りたいって言葉で伝えてみる。
そして、体を少し捩って態度でも意思表示をしてみる。レオさんはあっさりと背中から手を離して解放してくれた。レオさんの膝の間から移動して座り込むと、俺の前でゴロンと横になったレオさんが見上げてくる。
「覗くって、わざと言ってるのか?」
「レオさんが言うと卑猥だね。」
視線に意図を感じてじっと見つめ返したら、レオさんが目を細めて聞いてきた。口調と視線と表情がもう、卑猥なんですけど。ニコっとしながら思ったままを伝えてみる。
レオさんは少し目を丸くした後で、ニヤッとしてしまった。そして、俺の太腿に頭を乗せて見上げてくる。勝手に膝枕してきたでゴザル。ちょっと驚いたけど、俺もネロに何度もしちゃった記憶があるから、何も言えない。そして、膝枕って案外頭の重さを感じない事を学んでしまった。
「お前が言っても卑猥だよ。恰好からもうね、ヤバい。」
「じゃあ、もう脱いでいいかな。寝にくい気がする。」
レオさんが楽しそうに言い返してくるのを聞いて、むっとしてしまう。恰好がヤバいって、着させたのはレオさんじゃん。まぁ、その言葉が出たから、ちょうどいい。寝るから脱ぎたいんですよ。
「明日の夜、羽織ってくれるならいいよ。」
「ん~、じゃぁ、それでいいよ。」
「駄目だ。」
ホントに脱ぎたいって意思は伝わったらしく、レオさんがニッコリ笑顔で提案をしてきた。これを着て外を歩けって言われたら嫌だけど、家の中で少し着るくらいなら全然いいでしょう。レオさんの案を飲んだ瞬間に、ネロからの却下する一言が挟まれた。レオさんは驚きの表情でネロに目を向けていてる。
「ネロがダメだって。っという事で、なしな方向で。」
「ネロ、イキナリ口を出すとか。なんで駄目なんだよ。」
ネロに駄目って言われたら仕方ないよね。レオさんの頭を撫でながら、さっきの了承の言葉を撤回させて貰う事にする。レオさんは納得できないらしく、膝枕をやめて起き上がってしまった。そして、ネロにキツイ口調で言い募っている。
そこまで本気で喧嘩腰にならなくてもいいのに、と思ってしまう事態だね。レオさんの中の情熱は俺には理解できない方向性だった。このケープがレオさんの何を刺激しているのだろうか。
「俺が見られない。」
レオさんのヤバい方向性の趣味に思いを馳せていたら、ボソッと呟く声が聞こえた。声の主を辿ると、ネロがスゴイ目力でレオさんを睨んでいる。えっと、ネロさん。あなた、今なんて言いました?
「そこかよ、お前はいつだって着て貰えるだろ。朝でも昼でも夜でも。俺は琥珀と一緒の時じゃないと見られないんだよ。少しくらい譲歩してくれよ。」
疑問の言葉を出そうとしたけど、それより早くレオさんがネロに言い返してくれた。でもね、えっとね、あなたの論調も少しおかしいから。朝も昼も夜も、って。ネロはこんな服を俺に着させないからね。譲歩とか、おかしいから。
俺と一緒の時って、まさかとは思うけど。レオさんはこの服をこの家に置いたままにする気じゃないよね。レオさんの趣味全開の服なんだけど、女の子の服だよ?男三人の家にこんな服があったらおかしいからね。
「レオさん、コレは持って帰るんだよね?置いてかないよね?」
「置いてくよ?俺は雨が収まる迄、この家で夜は世話になるし。趣味の服を置いといて何が悪い。それに、ネロも楽しめるしいいでしょ。共通の趣味なんだよ。」
恐る恐る聞いてみたら、レオさんが開き直った口調で何かを宣言しだした。えっと、開き直った態度になっちゃったよ。ネロ、どうするの。この子、駄々っ子になってるよ。共通の趣味とか言ってるよ。
困ってネロに目を向けると、ネロはレオさんと目を合わせて頷いている。なんか意気投合をしてるように見えるんですけど。何かの意思疎通が行われて、何かを意気投合したね。確実にしたよね。要するに、共通の趣味って事で正しいって認識でいいのかな。
レオさんがキラキラするエフェクトが付きそうな程、爽やかな笑顔で俺に向き直ってきた。なんでそんな笑顔になったの。普通にイケメンなのが怖いんですけど。エロいのに爽やかなイケメン風とかヤバい。俺は内面を知ってるけど、普通に騙される人はいると思う程、爽やかイケメンスマイルだ。
「って事で、明日の夜に羽織ってくれるなら、今脱いでもいいよ?」
「ネロに駄目って言われてるので、お断りします。」
レオさんは好青年のフリを続けながら、優しい口調で話しかけてきた。その言い方とその顔はゾワゾワ来るからやめて。そして、ネロに駄目って言われたじゃん。眉を寄せて、拒否をしてみる。
「ネロに許可は貰ったよ?な、ネロ。」
「許可する。」
爽やかな好青年風のレオさんが、ネロに目配せをしながら話を続けてくる。ネロに目を向けると、ネロまで爽やかな笑顔になってた。しかも、許可するってなんでなの。あなた達は何の会話もしてなかったよね。
それにしても、レオさんの嘘くさい爽やかな笑顔に対して、ネロの爽やかな笑顔の綺麗な事。二人の笑顔を見比べて、心の中で感想を漏らしてみた。レオさんの眉が寄った感じがある、そして、ネロの笑顔のキラキラが増した感じもある。
そっか。分かった、二人のスキルか。くそぉ、これは卑怯だ。そうだよね、思い返せば、俺の考えてる事をさらっと当ててくる二人なんだもん。そういうスキルだってあるよね。レオさんはズルい。レオさんをキッと睨むと、レオさんは爽やかな笑顔を崩さずに首を傾げた。
「ズルい。護衛のスキルを使うのはズルい。テレパシーとかズルい。」
「そんなん使ってねぇし、護衛のスキルでもなんでもない。で、どうする?あ、脱ぐなら恥ずかしそうに首の紐を解いて上目遣いでフードを外してみてね。」
レオさんを睨んだままで勢いよく文句を言ってしまう。俺の文句が終わり次第、レオさんは呆れた口調で俺の想像を否定してきた。でも、爽やかな笑顔のままだ。この口調と表情の乖離で混乱しちゃうんだよ。そして、なんなの、その趣味全開の演技指導は。レオさんはマジ変態。ヤバい。
「そうなんだよね。俺はマジで変態だったみたい。あいつらに太鼓判押されて良かったわ。もう隠す必要はないし、ね。」
ヤバい、レオさんがマジでヤバイ。勘で俺の考えを読まないで欲しい。にっこり笑顔のレオさんを睨んでしまう。そして、目を逸らして首の紐を引く。紐もベルベット生地を使ってるみたいでするっと解けた。
レオさんに視線を戻して、少し俯いて目を伏せる。ちらっとレオさんを見上げると、ほぅっと息が二人分重なって聞こえてきた。二人のシンクロ具合は微笑ましいんですよ。でもね、何故息を吐いた。
レオさんを上目遣いで見つめながらフードを外してみる。更に溜息が重なって聞こえた。もういい、無視しておこう。外し終わったら、ぽいっとレオさんに投げ捨てて、ベッドに横になってブランケットに潜り込む。
「いいモノが見られたな。最高だった。これだけで俺はアレだよ。イケる感じがする。」
「そうだな。」
くそぉ、二人で遊びやがって。今に見てろ、いつかレオさんをぎゃふんと言わせてやる。ネロは可愛いからしょうがない、許してあげる。二人の会話を聞きながら、打倒レオさんを心の中で誓っておく事にする。




