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闇の王

序章 闇の王

 闇の王の力は、腐敗の力。近づくモノすべてを腐らせ殺してしまう。

あれを屠るには、精霊の力が必要だ。なぜなら、あれが生まれた切っ掛けを与えてしまったのが風の王の片翼である、死の翼・インスレイズだからだ。

あれを屠るには、精霊の力と腐敗に負けない生命力が必要だ。

ウルフ族──彼の民が持つ、超回復能力。

そして、神樹の花の持つ無限の癒し。

危険な賭だ。闇の王は神樹の花を狙うだろう。無限の癒やしを手に入れれば、奴の力は全世界に及びすべてを腐らせる。そうなれば、この双子の風鳥島だけの問題ではなくなる。

精霊王にも為す術はないだろう。

目覚めと名付けたこの器に、風の王たる我、インの魂とウルフ族の英雄・レルディードの体を融合させ、遠い未来に目覚めさせよう。

闇の王は、風の王の裏切りを知らない。奴に奪われていた片翼をレルディードと仲間達が取り戻してくれた。だから、もう従う理由はない。

遠い未来でまた集おう。

新たな風の王と神樹の花の精霊となる姫巫女の下。


 闇の王の支配から解放された、双子の風鳥島の片割れの島・ブルークレー島には約束を果たすため三つの国が興った。

神樹の花の精霊となる姫巫女を育む国、水のクエイサラー。

新たな風の王を導き鍛える国、炎のカルティア。

約束を正しく後世へ伝える伝承の国、レイシル。

ブルークレーの片割れの島・ルセーユには、ウルフ族と賢者の民・エフラの民が隠れ住む。ブルークレーから見えないように嵐の壁を築き、新たな風の王の卵を守るため。


 そして、戦いは伝説となり。約束は時の流れに埋没した。

 ブルークレー島の中心には、神樹と呼ばれる大樹が聳えていた。大樹を囲む森は静寂に包まれ、見た目には豊かなのに、虫一匹いない拒絶の森として知られていた。

神樹の森は、柔らかな落葉樹の生い茂る森だ。未踏で深いというのに、木漏れ日が地面にまで届き背の低い草を茂らせていた。しかし、岩がそこかしこに顔を覗かせ、まるで導くように神樹の根本まで続いている。その事を知っていれば、下生えに苦労することなくこの森を歩くことができる。しかもこの森は、この島にある三国に接していて、ここを抜ければ、最短で国々を行き来できた。

 だが、妙な気配のする魔性の森故、商人でさえ避けて通る。

そんな森の中を、慣れた足取りで、岩の道を連れだって歩く人影があった。

一人は、輝くような金色の髪を持つ、小柄な青年。彼の頭には狼の耳が生え、尻には尾もあった。もう一人は、茶色のぼさぼさの髪の少年。頭には太短い一対の角が生えていた。二人の姿は、この大陸では特異だった。

金色の半端な長さの髪を、無造作に束ねた青年は、何気なく空を見上げた。

「どうしたの?リティル、雨でも降りそう?」

紺色のローブを着た茶色の髪の少年が、青年の様子に気がつき尋ねた。

「いや。たぶん気のせいだな。行こうぜ、ディコ」

リティルは先を促したが、相棒の少年は、嫌な顔をして歩き出そうとしない。

「今度は何に巻き込まれるの?」

「はあ?おいおい、オレを疫病神みてーにいうなよな」

「だって、この間は食い逃げを捕まえたらその人、実は王族を狙う暗殺者だったし、もっと前は、落とし物を拾ったら貴族を狙う爆弾だったじゃない。リティルのそれは、気のせいじゃなくて何かが起こる前兆なの!」

ディコはビシッと、持っていた赤い宝石のはまった杖をリティルに突きつけた。

「で、今度は何?」

冗談ではない雰囲気の相棒を前に、リティルは目頭を押さえた。

「あのな、そんなこと知るかよ!事前にわかるなら、オレが知りてーよ」

確かにリティルは、些細なことから大事に巻き込まれることが多々あった。しかしそれは、ある意味彼等の職業のせいであるようにも思われた。

「本当に、何が起こるかわからないの?だって、神樹の森を通ろうなんて絶対何か隠してるでしょう!」

相棒の不信は止まらない。その様子は、もう我慢ならない!そんな感じだった。しかし、そう言われても、リティルが引き寄せているわけでも、仕組んでいるわけでもない。リティルは、ただ否定することしかできなかった。

「ねーよ」

「うう……今度は裏取引の現場に出くわすんだ。それでもって、そこに殴り込んでぶっ潰すんでしょう?」

「ねーって」

「家出した貴族のお嬢さんの逢い引き現場押さえて、丁重にお帰り願うんだ?」

「なんだそれ?おい、ディコ──」

あまりに想像力豊かな相棒の妄想を止めようとしたリティルは、別の何かに気がついて鋭く振り返った。バキバキと木々が薙ぎ倒されるような音が聞こえたのだ。

「っ」

「リティル!もお、待ってよ!」

弾かれたように、リティルは音のした方へ走り出していた。


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