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12.帰る場所

 森を抜けるまで、足を止めることなく走り続けた。


 視界が開け、光が身体を包む。


 青い空が頭上に広がるのが見えたとき、僕は地面に倒れ込んで転がった。


 足場の悪い道を全速力で駆けてきたため、足はガクガクだ。息も絶え絶えで、苦しい。


「コール、大丈夫か?」


 僕でさえ、こんな状態なのだから、コールはもっと苦しかったに違いない。


 急いでいたため、彼女に気を使ってやれる余裕がなかった。


「ごめん。急ぎすぎた」


「あいぃ。だ、大丈夫です……」


 コールも、僕の隣で倒れ込んでいた。顔を真っ赤にして、汗びっしょりになって、肺を小さく上下させていた。


 もう少し休ませてあげたいけど、どうせ休むなら、安全な場所のほうがいい。


「少し休んだら、出発しよう。もうすぐ、ダイア村だから。村に入れば安心だし、きっとコールが誰なのか、はっきり分かるはずだ」


 コールはよく分かっていないらしく、首を傾げていた。


「その村が、君の帰る場所だといいね」


 僕は笑って言った。


「かえる、ばしょ……」


「そうだよ。コールがダイア村の住民に間違いないなら、そこで引き取ってもらって、僕の仕事は終わりだ。そこでお別れ」


「おわかれ……? 嫌です!」


 コールは突然起きあがって、僕に飛びついていた。


「うわっ、な、何だよいきなり……」


「ディースたんとお別れ、嫌です。ずっと、ずっと一緒にいるです!」


 コールは震えていた。走って身体を酷使こくししたからではない。


 彼女は、目にいっぱい涙を溜めていた。


「そ、そんなこと言われてもさ。家族が待ってるなら、やっぱり帰らなくちゃ」


「うっ、ううっ。コールを、置いていかないでくだたい……」


 ついに、コールは泣き出してしまった。


 まるで捨てられる寸前の子犬だ。


 いや、言葉で意思表示をしてくる分、子犬以上に厄介だ。


 困った。


 非常に困った。


 どうしてコールは、ここまで僕と離れるのを、嫌がるんだろう。


 ひとりぼっちで森の中にいたことが、よほど怖かったのだろうか。


 そのトラウマで、僕と離れることに恐怖を覚えているのかもしれない。


 どうすれば、その気持ちを払拭してあげられるだろう。


 村に戻れば、安心して僕の手を離してくれるだろうか?


「別に、二度と会えなくなるわけじゃないさ。隣村なんだし、いつでも会いに来れる」


 僕は何とかコールを落ち着かせて、立ち上がった。


「とりあえず出発しよう。ダイア村へ、行こう」


 僕はコールの手を強く握りしめ、歩きだした。


 コールも僕の手を、しっかりと握り返して、ぐずりながらついてきた。


 しばらく道なりに歩いていくと、村の入り口らしきものが見えた。


 僕たちの側をふよふよと飛んでいたギルバートが、入り口に立っている人物に気付いて近寄っていった。


 その人物は僕の姿を見て、驚いたように駆け寄ってきた。


「ディース! よかった、無事だったのですね」


 僕も驚いた。やって来たのは、心配そうな顔をした姉さんだった。


「姉さん! どうしてここに?」


「待ち合わせ場所にあなたが来ないと、この村のギフトから連絡があって。森で迷っているのではないかと心配していたんですよ」


 ああ。と内心、納得した。そう言えば、ギフトの人のことを、すっかり忘れていた。


 一時はコールがそうかと疑いもしたが、姉さんに連絡をよこしてきたということは、やっぱりその人は別にいるようだ。


「今その方に、あなたの捜索を頼んでいるところです。入れ違いになったのね」


「そうみたいだね。ごめん。色々あって」


「ソフィア、ディースが見つかったと、伝えてきてください」


 姉さんの指示に頷いて、ソフィアは素早く森の中に飛んで行った。


 その後ろ姿を見届けた後、早く姉さんにコールのことを報告しようと、話を切り替えた。


「そんなことより、大変なんだよ」


「まあ、それは大変!」


「だから、まだ何も言ってないっての!」


 また人の話を聞かない姉さんを落ち着かせ、僕はコールを姉さんの前に押し出した。


「行方不明の女の子って、この子じゃないかな。森の中で倒れててさ。記憶がないから、はっきりしないんだけど」


 コールと出会った経緯を簡潔に説明すると、姉さんは表情に同情を浮かべて、コールを見た。


「まあ、記憶が……。それは可哀想に、さぞ心細かったでしょう」


「う……?」


 だが、コールはあまりよく分かっていないらしく、首を傾げていた。


「あなたが、ここまで保護してきたのですね。よくやりました」


「いや、僕は別に……」


 コールを見つけたのだって偶然だし。


 でも、姉さんに誉められたのは初めてかもしれない。


 ジーンに感謝されたときの感覚に似ている。


 ちょっと恥ずかしくて、でも嬉しかった。


「では、この子が家出をした娘さんか確かめましょう。捜索の依頼人である、娘さんのお母さんが待っていらっしゃいますから、まずはギフトの事務所へ」


 姉さんに先導され、僕たちは村の門をくぐった。


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