彼らに会いたくて……私はアントワープを目指す 11
アムステルダムからユトレヒトに移動します。ユトレヒトといえば……あれですよ。
「おはよう……大丈夫か?」
「大丈夫じゃ……ない」
「あはは……悪かったって。ホテルでモーニング食べるんだろう?」
「ええ、そのつもりだけど」
妙にスッキリとしている彼を軽く睨んで私は起き上がった。ちょっと腰が辛い。
「今日はどこに行くんだ?」
「今日はユトレヒトに行って、帰って来てからゴッホ美術館位は見れるかなってところよ」
でもそれは、今日の体調である事を踏まえた計画ではない。多少の見学の縮小はやむなしと思っている。
「まずは朝食だ。電車でどの位かかるんだ?」
「30分よ。丁度オランダの真ん中くらいに位置しているようなものよ」
「思った割に遠くないな。日本にいるのと感覚的に変わらないのがいいよな」
「そう言われればそうかも。ベルギーもオランダも大概の都市は日帰りができるもの。食べたらすぐに外出できるように支度をしちゃいましょう」
私達はすぐに出かけられるように準備をしてからレストランに向かった。
「とりあえず、現地に着いたんだが……最初はどこに行くんだ?」
時間はまだ10時になっていない。大抵の教会や博物館は10時~11時の開館が多い。
「まだ入れないけど、ドム教会だけ見に行く?」
「入らなくてもいいのか?」
「この国の最古のゴシック建築の教会なのよ。13世紀中頃から16世紀の初めにかけて建てられたはずだわ」
「日本ではありえない建築期間だな」
「それはそうだけども、価値観の違いじゃないのかな?」
「そう言われたら、そうかもな」
確かに、ドム教会は見ているだけでも歴史を感じさせてくれる。ヨーロッパの建築物は築年数が立っていても現存しているモノも多い。もちろん中は今向けにリノベーションが施されている。
「で、オルゴール博物館の予約は何時だ?」
「10時よ。もう少しね。それじゃあ、博物館に行こうかしら」
私達はすぐそばのオルゴール博物館に向かって歩き始める。オルゴール博物館とすぐそばのドム塔はコンビチケットがあって少々お買い得になっている。
前もって予約をしてあるから、予約の待ち時間でユトレヒト大学本部を見学すればいいかなと思っていた。
「この博物館はオランダ語と英語の通訳がいるけど……どうする?」
「お前がオランダ語が分かるからオランダ語のガイドツアーでいい」
「分かったわ。そのように手配をするわ」
私達は時間になってチケットを見せてガイドツアーに参加する。ここのツアーが終わるとガイドさんにチップを渡すのが慣例になっている。手元の小銭を見ると、一人分ではなくて二人分で払うには丁度いい額のコインが見える。渡す時に二人分と言えば十分だ。
無事に一時間のガイドツアーが終わって、コインを二人分と渡したが、何となく不満そうだ。
「二人分と言って渡しましたよ」
ちょっと強めに行ったら、ガイドさんは去って行った。
「何、あれ?」
「オランダ語は聞き取れるけど会話は出来ないと思ったみたいね。あなたの分のチップを暗に要求してきただけよ。二人分で十分な額だったし、二人分って言ったのにね」
「やっぱり、こう言う事って多いのか?」
「多くないと言えば嘘になる。私がたまたまオランダ語が話せているのと、比較的治安のいい所しか選んでいないから置き引きとかもあっていないだけ。留学中は何度か痛い思いをしたもの」
「そうなんだ。日本のような感じでいたらいけないんだな」
「そうよ。まあ、あなたに渡してあるのは、チップの小銭だけだからすられてもそんなん言いたくもかゆくもないけど」
「いやいや、それだって結構ショックだぞ」
「そうだろうけど、そういうお国柄なのよ。前もってチケットを予約してあれば予約した旨を言えば現金を持つ必要性もないし、電車は乗り放題のチケットにしてあるから結果的に無駄遣いはしていないのよ」
「ふうん。結構な額の予算を算出しただろ?」
「そうね、一番高いのが航空券だもの。オランダまでは直行便だからどうしてもね。フランクフルトとかパリでトランジットすると多少安くなるけど疲れるから止めたの」
「お前の気配りには頭が下がります」
「次のドム塔の見学が12時だから、ユトレヒト大学本部でも見ない?」
私はそういうと彼をドム教会の南にあるユトレヒト大学本部に連れて行く。19世紀末のルネッサンス様式の建物だ。この大学自体は17世紀からの歴史がある由緒正しい大学だ。
私達は大学本部を見学した後、近くのカフェで簡単に昼食を取ってドム塔の予約時間を待つことにした。
ドム塔は、高さが大体100メートルもある14世紀をかけて建築された建物だ。この塔はオランダでも一番高いそうだ。このガイドツアーでも465段あるといわれている階段を上ってユトレヒトの街を見る事が出来る。
高い所は嫌いだけど、頑張って登ってみようと思う。
ガイドさんの話を聞きながら登ったので、思っていた割に体力は消耗していない。
そして、街を見る順番になった。高い所は苦手だけど、日本の様にごちゃごちゃしている街並みではない為か、怖いとは不思議と思わない。
「雅美、お前高い所ダメだろう?平気か?」
「今は平気みたいよ。そうしてなのかな?」
「さあ?折角のチャンスだから写真でも撮るか?」
彼は持って来ていたコンデジで外からの景色を撮影している。
私は写真を撮らないで彼が撮影が終わるまでそのまま見える景色を楽しんでいた。
ドム塔のガイドツアーが終わった私達はバスで次の目的地に向かう。
バスに乗って焼く15分するとセントラル・ミュージアムに到着する。
本来ならココも見学したいところだけど、その前にその向かいにあるディック・ブルーナ・ハウスに行く。
うさこちゃん……日本ではミッフィーちゃんの方が有名だろうか?映像から玩具・遊具と大人から子供までうさこちゃんが好きな人なら楽しめる博物館だ。
正しくは、セントラル・ミュージアムの分館という立ち位置になる。
館内は子供達が楽しそうに遊具で遊んでいる。
「雅美も遊びたいんだろ?」
「そんなわけないでしょう?私はブルーナさんのコレクションを見に来たのよ。隣のセントラル・ミュージアムも見る?」
「もう、何を見ても分からないからいいや」
「そう。だったらユトレヒト中央駅に戻ってゴッホ美術館に行く?多分閉館前には入れると思うから」
「お前それでもいいのか?」
「うん。私は一度来ているからね。でも……子供がいたらどうなるのかなって思ってここに来たかったの。どこの国の子もうさこちゃんの前では皆同じなのかしら?」
「そうじゃないか?シンプルだけども、可愛いと思うのは、世界共通なのではないか?」
「そうなのかしら?」
「そう言うものさ。案内標識も信号もブルーナさんなのな。ここまで徹底されているとあっぱれというかなんというか」
「そうね。オランダにいた時は結構な頻度で通っていたわ」
「だろうな。お前、アレ持っているだろう?あの……オランダにしかないっていう……」
彼はタイトルが出てこないようなので、私がそこから先をつづけることにした。
「花の本ね。アレね……実は3冊あるのよ。一冊はリビングでディスプレイしてあるでしょう?」
「残りは?」
「実家に保管しているわ。色あせたり、破けたら大変わりさせようと思ってね」
「本当にブルーナさん好きなのな。今回使っているスーツケースもうさこちゃんだものな」
「うん。留学から帰って来てから鞄屋さんで売っていて衝動買いしたの」
「留学後なのかよ。でもちゃんと使っているな」
「もちろん。大好きなうさこちゃんと旅行なのだから楽しいに決まっているでしょう?」
その後、ブルーナさんのグッズが欲しいので。ブルーナさんのお気に入りのお菓子屋さんでお土産用にクッキーを買ってから、絵葉書を買いたくて雑貨を取り扱う店に寄る事にした。
「お前、コインとか買わなくていいのか?」
「それは既に実家にあるの」
「そうですか、絵ハガキでいいのか?」
「うん。飾ってもいいからね。ちょっと多めに買ってくの」
そう言うと私はかなりの束になった絵葉書を購入した。無事に買い物が終わった私達は再びアムステルダム中央駅に戻ることにした。
ユトレヒトから電車を乗る前に、ホテルに連絡してゴッホ美術館のチケットを予約しておいて貰う事を頼んだ。今日は金曜日なので22時まで開館している日だ。ひまわりは今回は展示されているそうなので、私も楽しみにしている。
ホテルに戻ると、フロントで頼んでいたチケットを貰い支払いを済ませる。
「今日は22時までですが、早めに行った方がいいですよ。夕食はどこか予約しますか?」
「えっと、ニュードリハウス取って貰えますか?」
「構いませんよ。何時がよろしいですか?」
「そうですね。今から美術館に行ってくるので、20時でお願いします」
「お待ちください……予約の確保が出来ましたので直接店に行って下さい。お気をつけて」
「さあ、行きましょう。ここには20時に戻ってくれば大丈夫よ」
私達はゴッホ美術館に向かう為、バスに乗る為に歩き始めた。
ゴッホ美術館は昨日のアンネ・フランクの家の様にかなりの列が出来ている。
ホテルに戻って一度予約をしてあるので入場には困らない。
館内に入ると、中央部分が吹き抜けで開放的なイメージを抱かせる。
ここには、油絵とデッサンを合わせて750点程展示されている個人美術館だ。
ゴッホが日本の浮世絵に影響を受けていた事は知られている。そのゴッホがコレクションした浮世絵や自書の手紙やスケッチや版画など……ゴッホにまつわるものが展示されている。
作品の方も、オランダ時代から、フランス時代まで年代を追って展示されているからゴッホの絵が変わっていく様が見て分かるようになっている。
私達でも知っている、ひまわりはフランス・アルルのアトリエで書いたものだ。
明るくて力強い作品が多くて、目に着きやすい。
ここには自殺直前に書いた作品も展示されていて、アルルで書いていたものに比べると荒々しいイメージが強く感じた。
「やっぱり凄いなあ。こんなに絵の印象が変わるだなんて、相当の事があったんだろうな」
「それは分からない。全てはゴッホしか分からないことだもの」
「そうだな。美術館のグッズがあったら買って行くか?」
「気に行ったのがあったらね?それより広場にいかない?いいものが見えるのよ」
私は彼を本館からゴッホ広場に出る様に促す。
ゴッホ広場からは、新館が見えるのだが、この新館をデザインしたは日本でもお馴染みの建築家なのだが、彼は分かるのだろうか?
「あっちに見える新館は誰が設計したもの?」
「それ・・・・・・パンレットに書いてある。黒川紀章だろう?」
「そっか。英語のパンレットにも書いてあるわよね。折角だから見て行かない?」
そうして私達は今度は新館も楽しんでから、バスに乗ってホテルに戻る事にした。
ホテルに戻った私達は、ジャケットを取りに一度部屋に入る事にした。
明日はのんびりとして、空港に行ってショッピングをしてフライトは午後2時過ぎの予定だ。
「明日はどうするんだ?」
「ホテルで朝食を食べてからチェックアウト。その後直接空港に行ってショッピングをする予定。お昼は空港の中のレストランで済ませるわ」
「国立美術館は?」
「今回は企画展もないからいいよ。どうしても行きたいのなら行くけど?」
「そんな事は思っていない。そうか、それならバーに行って飲まないか?」
「そうね、今回の旅行では飲んでないわね。その変わりに一杯だけよ」
「ああ。分かっている」
私達はオランダ料理をアラカルトで楽しんでからバーカウンターでもう一杯の誘惑に負けてしまい、2杯分楽しんでから部屋に戻った。




