自分を見極めに行ってくる 取り残された一弥
では、取り残されたホイホイ部長のある日の午前。
「部長!!大丈夫ですか?」
「ん?何だ?」
事務担当兼デザイナーの悠里がちょっと早めの夏休みと称して職場を休んで三日目。
後三日経てば戻ってくるのに、心がぽっかりと穴が空いているのはどうしてだろう?
「悪い、体調が悪いわけじゃないから。で、なんだ?」
俺を呼んだ中西に用件を聞くことにした。職場で呆けるだなんて余程悠里に溺れている事がバレバレなのだが、あえてそこをなかった事にする。
「今度の社外プレゼンの件ですが……」
「分かった。打ち合わせコーナーで話を聞こうか」
営業企画室。ここが俺達の所属先だ。主に社外プレゼンをメインとしている。
営業部でもなくはないだろうけど、俺達は新規開拓がメインなので、調査も業務のうちだ。
企画室のメンバーは皆それなりのスキルを持ち合わせている。
俺は入社以来営業でやってきている。香山課長は元審査部。企業の調査は徹底している。
中西は主任。こいつは開発部出身。お菓子が好きなので、スイーツの開発をメインにしている。渡は入社4年目。プレゼンでの結果も順調に出てきている。
後は、デザイナー兼事務処理担当の悠里だ。もう一人女の子はいるけれども、今月末で寿退社する為今は有給消化の為出社していない。
「今回の状況はどうなんだ?」
「そうですね。多分……大丈夫だと思います。課長から貰っている調査資料を元にプレゼンのコンセプトを纏めたつもりです」
中西は俺に今回のプレゼンの概要を説明する。メインは中西であるが、中西が不在の際は俺が対応することになっている。
「そうか。今回は夏休み向けの子供の自由研究キットのプレゼンか……。課長の家はお子さんが小学生がいるから経験も資料にあったのか」
「そうなんです。でもそれを見ていると、お父さんが参加できる自由研究が凄く少ないので、そこを逆手に取って見ようかと思います」
中西は同時進行で、夏休みの臨時のファミリープランのプレゼンもしている。これは、関連会社のホテルで開催される。全国の関連ホテルでもプレゼンが行われているのだが、中西がターゲットにしたのは、高原リゾート地にとか、郊外のホテルをターゲットにした流星群観察とするプランだ。チェックイン後に、プラネタリウムで投影会をして事前にレクチャーを受けてから、深夜までフリープラン。日付が変わる0時から天測会を開始する。
通常であればチェックアウトは翌日10時であるが、このプランは、2泊3日に設定しているので、観測翌日でゆっくりと過ごして貰うという。
子供達の宿題は、学習塾の先生を派遣して貰って、レポート作成のフォローを予定している。
「この塾の先生は?確保できそうか?
「大手の進学塾でなければ、大抵はお盆時は塾がお休みになります。そこを利用して募集をかけることは可能です。今回のプランは最大で20家族なので、各家族に子供が二人いても40人なので、5人ほど講師がいれば十分ですよ。」
「ふうん、レポート以外の宿題を聞くのはどうなんだ?」
「そこは問題ないと思います。そうなるともう少し人数がいた方がいいですね。一人は作文を書かせるのが得意な先生を用意した方がいいでしょう」
「親達がゆっくりと休んでいる間に、子ども達は宿題の消化に励む……。随分と効率的な方法だな」
「ええ。アウトドア系の課題をこなすのであれば、自然塾の講師を観測翌日に講座を持って貰えばいいと思います。」
「アウトドア系と言えば……あれか?植物採集とかか?」
「ええ。都内では雑草の種類は限られていますから」
中西のプレゼンは夏の思い出づくりには最大の効果をもたらしてくれるだろう。
「そうだな。これで問題はないだろう。細かい所は課長に聞いてもっと肉付けをして歓声を目指す様に」
「部長……いる人がいないのが寂しいですか?」
「いきなり……何を言っているんだか?」
「だって……目は正直ですよ。部長。渡以外は皆……気が付いていますから」
「中西。何を言う?」
「悠里ちゃんだって、前よりも女性らしくなりましたからね。そうさせたのは部長なのでしょう?」
「さあどうだか」
「今はそれ以上追及するのは止めましょう。戻って来た悠里ちゃんが可哀想ですから。ありがとうございました」
そうやって中西との打ち合わせは終わった。
昼食になると、皆一斉に外に食べに行く。今日の俺の予定は午後からは社外に出て数社程打ち合わせをして今日は直帰の予定にしてある。
俺の仕事は、今までプレゼンが通った企業の結果とかを収集している。そこから次の企画の依頼を受けてくる事も多い。これから受けるものは秋のモノが多くなるだろう。
まずはシルバーウィーク関連のイベントに絡んだものになるであろう。
今週は事務処理担当がいないので、事務処理は自分で対処することになっている。
こういうのが度と凍りがちになるのは、若手の渡だ。オーバーワークになるまでに俺で対処できるものを処理しておくか。
「渡、事務処理で俺でも済ます事がでいるものはあるか?」
「えっと……経費計上位ですが、今は交通費だけなので大丈夫です」
「そうか。オーバーワークになる前に頼れよ。分かっているな?」
「はい、ありがとうございます」
どうやら、悠里が休暇前にあらかた処理をさせられたようだ。
「課長……ちょっといいですか?」
今度は香山課長を呼びだす。今調査している案件の途中報告を聞いておこう。
「調査報告を聞いておこうか?」
「そうですね、メンバーが抱えている案件は、こちらが受注を受けると本社の各部門も伸びしろが増えて来る分野だと思います。で、マイナスな情報はあるかい?」
「特に……コレと言っては、悠里ちゃん平気なんですか?一人でルーマニアなんて」
「どういう事だ?あっちには親族がいるっていうし、ブカレストの空港にはいとこが迎えに来るって言っていたぞ」
「まあ、普段家の事を教えてくれない本人が言うのですから、本当の事でしょう。ですが部長。一般的にルーマニアは治安がいい国って訳じゃないんですよ」
「どこの国でもそんなことはないわけじゃないだろう」
「そうですが……まあ、彼女の事なのでフラフラとで歩く事もないでしょう」
課長に言われた事が妙にひっかかる。日本で平和慣れしているとどうしてもよその国も治安がいいと思ってしまいがちになる。
確かにルーマニアもこん睡強盗とか偽警官がいる国だ。でも悠里が一人で夜のパブに行くとはどう考えてもありえないし、ルーマニアの現地の言語が使えるのかどうかも俺は知らない。
悠里の事だから、最低限の言語は使えるとは思うが、見た目が日本人だからな……多分悠里が言ういとこと一緒に行動をしていると思いたい。
今まで、女性と付き合ったことはある。男女のそういう関係になった事もある。
悠里……俺の彼女は彼氏がいない歴=年の数と正直に告白してくれたので、そう言った事を早急に求めた事はない。付き合い始めてから四カ月。どんなに奥手でもそろそろもっと仲を深めてもいいのでは?と思ってしまうのはおれだけなのだろうか?
営業企画室のメンバーにはきちんと彼女との仲を話したことはない。けれどもどうも俺達の仲は知られているようだ。それならそれで仕方がない。背徳感を覚える様な行為は一切ない。
そういえば、出国前に話しておきたい事があるって悠里が言っていたな。
彼女の告白が何なのかまだ分からない俺は就業中にも係らず空想にふけってしまうのだった。
悠里がいないだけで全く使えない人になりました。一応取り残された一弥です。




