彼らに会いたくて……私はアントワープを目指す 3
それでは、専務。来週からはよろしくお願いします、何かあったらツイッターにアクセスして下さいね?」
「うむっ。そうしない様に僕も頑張るよ」
この専務さん……仕事は出来る人なんだけども、あまりにもアナログ過ぎてて……こないだの海外出張でクライアントさんからツイッターのアカウント教えて貰っても私が翻訳しないと返信が出来ない状態。
まあ、この内容が今度の来日がいつだから会食をしましょうっていうお誘いメールみたいなもの。
一応、私の変わりにサポートしてくれる同期に状況は説明しているし、専務は今は忙しくはないから折角だからパソコンのレッスンをお願いしている。
6月にしたのは、株主総会が終わってホッとしている頃だろうっていう私なりの最大の配慮なんですよ?私と一緒に夏休みを取得すると最大で10連休になるから、奥様と海外旅行もゆっくりと行けますよって進言したのも理由の一つだろう。
「とりあえず、私がいないとどうにもならない作業はありますか?」
「それはもうやってくれてあるよね」
「もちろんですが、念には念です」
「君のその仕事のスタイルに僕はかなり助かっているね」
「そうですか。先々起こりそうな事に前もって対処しておけば問題はありませんよ」
私はそう言うと、専務の湯飲みを置く。奥さんが作ってくれたと言うお気に入りの湯飲みだ。
「専務、今日は午後から湯のみの茶渋を取りたいので、午後の使用はできませんよ。来週からは綺麗な湯のみですからね。奥さまにもお世話になっておりますから何か買ってまいります。その事は内緒でお願いしますね」
「分かったよ……。真山君は、本当に気配りの人だね?」
「本来の私はかなりずぼらですよ。そういうふうに見せるのが得意なだけです。私からすると皆さんが騙されているって言った方が正しいかと思いますけど」
「あはは……言うねえ。まあ、新婚旅行が遅れたのには会社の事情もあるからゆっくりと楽しんでおいで」
「はい、ありがとうございます」
「で、君たちはどこに行くんだい?」
「えっとですね。ブリュッセルまで飛行機で行って、少し市内観光をしてからアントワープに行ってアムステルダムに行って帰る予定です」
「ふうん、見所が多い旅だね。アントワープはやっぱり大聖堂がメインかい?」
「いいえ。中央駅の横のアントワープ動物園です」
「動物園?なぜそんな所に?」
「私のハートを鷲掴みにしたかわいこちゃんがいるんですよ」
専務ががっかりした表情で私を見ている。
「旦那さんとしては……置いていきぼりな感じがするのは気のせいかな?」
「そんなことないですよ。ブリュッセルではタンタンの博物館に行くんですから」
旦那さんはタンタンシリーズが好きだ。だから到着日も含めてブリュッセルには二日いる予定だ」
「タンタンって……ああ、分かった。地方銀行のキャラクターにもなっているやつだろ?」
「ええ……その銀行の通帳が欲しくて、積立口座をもっていますよ。あの人は」
「都内に支店……秋葉原にあったか」
「それと新宿にもありますから。彼は新宿で作ったみたいですよ」
新宿支店は新宿の駅前からは離れているから本当に目当てだったんだなって思うよ。
「ところで、外貨両替したのかい?」
「それですが、専務のスケジュールで銀行で頭取さんと打ち合わせの時に店舗に行って両替をする予定です。二人で持ち込める現金をマックスで」
「そうか。ヨーロッパはあまり高額の紙幣は持たない方がいい。僕の方から頭取に君が外貨両替をしたいって事を店舗に話を通しておこう」
「それはありがとうございます」
「まあ、外出はビジネスランチ込みになるだろうけど……君も同席だからね?」
「私もですか?それは困りましたね。今日の服装は若干ラフですよ?」
「そうかい?大丈夫だよ。接待じゃないから」
「分かりました。ご一緒します」
今日の業務とか、休みの間の打ち合わせをしていつも通り私は秘書業務に映るのだった。




