【049】
「そんじゃ、そこへ立て」
アンリエッタは、奇怪な紋様の中心へカレンを立たせ、精神を集中させるように目を閉じ、呪文を唱え始めた。その呪文に呼応するかのようにその紋様は激しく光り輝き、視界を奪った。
そして。
視界の奪われた世界で、カレンは精一杯の大きな声でスゥへお礼を伝える。
「スゥちゃん、短い時間だったけど楽しかったよ」
「私もです」
スゥのその返事にカレンは思わず笑みを溢す。
「スゥちゃん」
「何ですか?」
「ボクは、スゥちゃんのことが大好きです。次に、再会した時に、スゥちゃんの返事を聞かせ――」
そして。
「――て下さい」
そう言い終え、目を開けられるようになると、そこにスゥの姿は無かった。カレンの視界に広がる光景は、いつもの馴染み深い森の中だった。一瞬、夢だったのではないかと自分を疑ったが、手の中に残されたスゥのオルゴールが夢では無かったを何よりの証拠だった。
カレンは、小さく笑みを浮かべ、オルゴールをぎゅっと握りしめ、上機嫌で村へと戻る。
しかし、どうにもいつもと様子がおかしい。
いつもなら、田舎とは言え、陽気で笑いの絶えない村なのだが、妙に静かすぎるのだ。胸騒ぎのするカレンは、小走りで村へと急いで向かった。
村へ着くと、その胸騒ぎは現実のものとなる。
「なに、これ……」
その様子に、カレンは思わず絶句した。
村には、人っ子一人いないのだ。それどころか、生活感の欠片も残されていなかった。カレンは、自分の家へと駆け出した。自分の家族は、きっと家に居ていつもと何ら変わらず出迎えてくれるはずだ――そう信じて。
カレンは、勢いそのままに自分の家の扉を開ける。
「ただいま」
しかし、その声に返事してくれる人は誰も居なかった。
「ただいま」
もしかしたら、気付いていないだけなのかと、もう一度先程よりも大きな声で叫ぶが、その言葉は虚しく空へと消えていった。
カレンの手からするりとオルゴールがすり抜けるように落ちて行き、膝から崩れ落ち、両手を地に付き四つん這いの姿勢となり、堪えられない感情が込み上げ――そして、涙となって頬を伝っていく。
カレンには何が起こったのかそれを理解出来なかった。なぜ、村から誰も居なくなってしまったのか。自分だけ見捨てられてしまったのか――考えを巡らせたところでその答えを見つけることは出来るはずも無かった。
その時のこと。
「誰かいますか? 居れば、返事をして下さい」
村の方から声が聞こえて来る。
カレンは、この声に聞き覚えが無かった。村の人の声を聞き違えることなど在り得なかったからだ。と言うことは、この声の主は村の外から来た人のと言うことだ。
しかし、こんな状況だからこそ自分以外の人と言うのは心強かった。
カレンは、オルゴールを拾うことなど忘れ、家を飛び出しその声の方へ思い切り走る。
「生存者がいたぞ」
そして。
カレンの視界に入って来たその声の主は――防護服を身に纏った大人達であり、こちらがあっと言う間も無く、囲まれてしまった。




