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最果てのホライズン  作者: 椎名乃奈
第終章 えぴろーぐ
42/60

【042】


「乗車券を拝見します」


 帽子を被った少女は、慣れた手つきで乗車券を車掌へと渡す。老巧な車掌は、受け取った乗車券を改札鋏でガチャンと鋏痕を付け、再び帽子を被った少女へとそれを手渡した。


 どこでも見かける券礼の光景だ。


「当列車のご利用有り難うございます。今日はまた、おつかいですかな?」


「はい、あっちでないと手に入らないモノもありますから」


 その時のことだった。


「その子を捕まえてッ!」


 若輩な男性車掌は、声を荒げながら小さな子供を追い掛けていた。その子供の走る先には、帽子を被った少女の券礼を終えたばかりの老巧な車掌が待ち受けていた。後ろからは、若輩な車掌が負い掛けて来ており、挟み撃ちと言うその子供にとっては最悪な状況となった。


 後ろの若輩な車掌に気を取られていたようで、前に居る老巧な車掌には気付いておらず、立っていただけの老巧な車掌の足にぶつかり、その場で尻餅を突く形となり、若輩の車掌の手により首根っこを掴まれ、呆気なく捉えられた。


「やっと……捕まえた……」


 若輩な車掌は大分追い掛けて来たようで、肩で息をしていた。


「どうしたんです?」


 帽子を被った少女は聞いた。


「いえ、この子が貨物室に忍び込んで居まして。乗車券の確認を求めたら、突然逃げ出したので、恐らく無賃乗車ではないかと」


 老巧な車掌はその子供の目の高さを合わせ、話し掛ける。


「乗車券は持っているかい、御嬢さん? それが無いと、御嬢さんをこの列車に乗せる訳にはいかないんだよ」


「離して、離して、離して――」


 老巧な車掌は、物腰柔らかく問い掛けるが、錯乱している子供とは会話は噛み合っているとは言い難かった。その後も、老巧な車掌はいくつかの質問をするが、その返答は離しての一点張りで、首根っこを掴まれたその少女は、逃げる為に体を激しく揺さぶり暴れていた。


「すみません」


 直ぐ横で一部始終を見ていた帽子を被った少女は立ち上がった。


「この子は、私の妹なんです」


 今までその一部始終を黙って見ていたとは思えない会話だった。帽子を深く被った少女の弁明が明らかな嘘であることを少女は分かっていた。いや、少女だけでなく、その場に居た車掌たちにもそれが嘘であるということは明快だった。


「一応、身分の証明が出来そうなモノはありませんかね?」


 少女との関係を疑う老巧な車掌はそう問い掛ける。


「そうですね……」


 ポケットの中を探す素振りを見せるが、お互いの証明が出来るモノなんて在るはずも無かった。それは、この二人は姉妹同士などでは無く、紛れなくこの場で初めて出会った赤の他人同士だから。帽子を被った少女は腕を組み、暫し考える。


 そして。


 誰にも気付かれないよう焦りの色を浮かべた。


 それは。


 自分が助けて貰った時とは、シチュエーションが微妙に違っていたから。ただ、始めてしまったものは仕方が無かったので、強引に押し切ることにした。


「これでは、身分の証明にはならないですか?」


 帽子を被った少女はそう聞くと、深々と被っていた帽子を脱ぎ、胸にその帽子を当て、淑女らしい振る舞いを見せた。


 そして。


 少女は目を丸くした。


 その帽子を被った少女の頭に、犬のような獣耳が生えていたからだ。世界中なんて言えば大袈裟になるが、どこを探しても自分のような容姿をした人なんてどこにもいなかった。


 しかし。


 今まさに、目の前に居る人は自分のような容姿に違いなかった。


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