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最果てのホライズン  作者: 椎名乃奈
第二章 おつかい
19/60

【019】


「有り難うございました」


 スゥは、レリウスにペコリと頭を下げて挨拶をした。


 その挨拶に対してのレリウスの挨拶は当然なく、会釈をするだけだった。だけど、それでも十分だった。来る前と来た後では、スゥが潜在的に持っていたレリウスの印象とは既に大きく違うからだ。


 スゥは、レリウス商会を出た後も、オルゴールを眺めていた。


 それだけ、このオルゴールを気に入ったのだ。


 おつかいも無事に済み、後はクロードの店へと帰るだけだったスゥは、意気揚々と帰路に着く途中のことだった。スゥと差ほど歳の変わらなそうな少年が、ただならぬ挙動を見せていた。


 見慣れない容姿の人に驚き、怯え、怖がる――それはまるで、来たばかりのスゥを彷彿させる姿だった。そんな少年をスゥが放って置けるはずも無かった。スゥは、手に持っていたオルゴールをポケットへ捻じ込み、小走りでその少年の元へ向かった。


「どうしましたか?」


「うわあッ⁉」


 少年は、大きく驚いていた。


 スゥは、少年に声を掛けて初めて気が付いた。


 その少年は人間の子供だ、と。


 スゥは、優しさから声を掛けたが、それが裏目となってしまった。スゥは他の人達に比べ、人間とそれほど目立った違いは無いものの、やはり獣耳を生やしているスゥも、少年の目には一緒くたに映っていた。獣耳から連想されるそれは、犬やキツネ、それにオオカミと言った食肉獣だ。


 そして。


 少年は襲われる――直感でそう思った。


 だから。


 少年は、スゥを振り切ってその場から必死で逃げ出した。


 逃げ出す少年を見てスゥは、帽子を被り忘れていたことに気が付いた。ここでの暮らしに慣れて来た性か、帽子が無くても生きていけることに。それは、ある意味ではとても良いことだった。


 けれど。


 その性で、この少年は獣耳に驚いてしまったのだろう。スゥは、直ぐにそれを察した。それを考えてしまうと、慣れほど怖いモノは無い――と言う、まさに典型なのかもしれない。


「あ、ちょっと待って――」


 スゥの止める声も耳に入っておらず、相当動揺しているようだった。あの少年をそのまま放って置く訳にもいかず、スゥは逃げる少年を追い掛けた。けれど、少年もリュックサックを背負っており、互いに荷物を持っていると言う条件は同じなのだが、スゥはなかなか追い付くことが出来なかった。


 運動能力がまるで違った。


 そして。


 追い掛ける道中でスゥは足が縺れ、転んでしまった。


「きゃあ――」


 スゥの上げる高い声は響き渡り、逃げる少年の耳にも入った。少年は、その声の方向へ振り返ると、先程自分に声を掛けて来た少女が倒れているのが目に入って来た。自分のことを追い掛けて来て、少女が転んだのだと気付くのにはそう時間は掛からなかった。


 そのことに気が付いた少年は、少女の元へ駆け寄った。


「あ、あの……大丈夫?」


「はい、大丈夫です」


 スゥは、少しばかり膝を擦り剥いていた。


「ちょっと、待って」


 少年は、リュックサックを降ろし、中から薬やら、包帯やらを取り出した。そして、手際よくスゥの膝を消毒し、患部へ薬を塗布し、包帯を巻いた。あまりの手際の良さにスゥは感心していた。


「あ、ありがとうございます」


「ボクの性でキミが転んじゃったんでしょ? 突然逃げ出してごめん」


「いえ、私の獣耳を見て逃げたんですよね。大丈夫です。私、慣れてますから」


 スゥは、そう言い苦笑いを見せた。


 少年は、スゥの言葉の重みを感じた。


 もう慣れた――スゥにそう言わせる程に言わせてしまった数多くの人間が自分と同じような態度を取って来たと言う事実と共に、その数多くの人間の内の一人に自分もいると言う事実に気付かされた。


 それだけでなく、スゥは笑って見せたのだ。


 自分が一番辛いはずだと言うのに。


「凄いですね。あっと言う間です」


「ボクの住んで居る村はサンタフェリアと言って、薬草の栽培で有名なところで、こうして何があっても対応出来るように、色々と救急道具を持たされているんだ。まあ、いつでも村の宣伝が出来るようにって言うのが本命なんだけどね」


「ちゃっかりしてますね」


 スゥは、思わず笑顔を見せた。


 少年も釣られるように思わず笑顔を見せた。


 そして。


 少年は気付く。


 僕らと何ら変わらないじゃないか――と。


「ボクは、カレン。キミは?」


「私は、スゥと言います。宜しく願いします」


 スゥから差し出されたその手にカレンは、躊躇いも無く握手し返した。


 常識に固められた大人達にはない、子供ならではの柔軟性と呼ぶべきなのだろうか――さっきまで赤の他人だった二人が今は、笑顔で握手をしていた。


 そこには。


 人種の違いと言う些細でつまらない壁は無く、スゥと言う少女とカレンと言う少年が、二人で握手し合う姿がそこにはあった。


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