84話 レクステッド散策
3人は各々、宿の感想を述べながら、ゆっくりフロントに向かって歩いている。
「しかし凄いな、次元でも歪んでるのか?部屋が最上階だとは思わなかった」
「え?姉ちゃん、そうだったの?」
「セイトは窓の外を見なかったのか?確かに4階だったぞ」
「へぇ〜、帰ったら確認しよ〜、僕は氷のトイレに座るのが怖かったよ」
「この世界ってトイレが洋式なんだよな、地球からどんだけ渡り人が来てるのかが分かるな」
「そんなに来ているのか?」
「そこは知らないのか…鼻くそが強くなれる才能のある奴を探して、地球の、特に日本から人を攫ってきているんだよ、自分が洗脳、もしくは精神操作できる奴をな」
「そうだったのか、それであたし達は期待外れだったと…」
「地球人とは見てるポイントが違うんだよな、ステータスの基礎能力値でしか人の価値を判断できないんだ、魔法の知識だけでも大分強くなれるのにな」
「ふふっ、滑稽だな」
「僕達、追放されて良かったかもね」
長い通路を喋りながら歩き、フロントへ到着。
「お出かけですかぁ?」
「ああ、少し街を観光してくるよ、夕飯までには戻る予定だ」
「気を付けて行ってらっしゃいませ〜」
―――
「さてと、まずは時計でも探すか、オーソロンにも売っていたし、ここにもあるだろ、リスクリワード…あっちだな」
「本当に便利な能力だ」
迷わず時計が売っているお店に直行する。
「いらっしゃいませ〜」
「時計は売っているか?」
「はい、ございますよ〜」
「あたしと、あとこいつの分、2個売って欲しい」
「はい、おひとつ1万クリになります〜」
「金貨1枚だな?」
「カリン、1万クリだ」
「レン…いやだから、金貨…」
「クリだ」
「1万…クリ、だな」
「よしっ」
「はい、ちょうどですね〜」
「プププ…姉ちゃん恥ずかしがってる♪」
「セイト!お前!」
「はい僕も♪1万クリね〜」
「まいど〜」
「くそっ…」
何故か無理矢理クリと言わせるレン、恥ずかしがるカリンを見て喜んでいる、完全に地球にいた頃とは立場が逆転していた。
本当にカリンは変わったな、昔だったら堂々と言っていただろう、恥じらいを持ってくれて俺は嬉しいぞ。
「さて、お城の周りを見て回って、開拓者組合でも行ってみるか?」
「そうだな、そこで氷王の情報でも集めたらいいんじゃないか?」
「そうだな、そうしよう」
「じゃあ行こ〜、ゴーゴー♪」
お城の周りは公園みたくなっていて、その公園を囲むように道が一周通っている、道の外周にはお店が沢山建ち並び、お城の北側正面に、向かい合うようにして開拓者組合があった。
「魔道具屋がやけに多い気がするなぁ」
「うん、おもちゃみたいのから生活用品まで、いっぱいだったね〜」
「1日じゃ回りきれんな」
「また後で見に来ればいい、別に制限なんかないんだから、自由に見にこれるだろ」
「時間に縛られないって最高だよね♪」
「よし、じゃあ組合に入ってみるか」
スゥ〜
氷の扉を押し開き中に入っていく。
良かった、試練の門じゃないな…
「ようこそ〜、開拓者組合レクステッド支部へ〜」
「少し休憩したいので、食堂を使いたいのだが」
「あ、はい〜、食堂は一般開放なので、ご自由に利用していただいて結構ですよ〜」
一般人もいるのか、情報収集にはちょうどいいな。
適当な丸テーブルを選んで3人で座る。
「ご注文はお決まりですか?」
「そうだな…この甘氷ってのを一つ頼みたい」
「あたしもそれを」
「あ、僕も〜!」
「あまごおり?あぁ、かしこまりました、甘氷3つですね、ふふふ♪しばらくお待ちください」
「なんか対応が日本みたいだな、なんで少し笑ってたんだ?」
「そうだな、中央は少し上から目線だったが、あたし達以外の開拓者にはな」
「さすが勇者様だな」
「よしてくれ、あんなものは恥でしかない」
「そうそう、黒歴史だよ〜」
「セイト、お前は今もその黒い歴史を作っている最中だろ」
「そんな事ないよ!レンちゃんはもう!」
「「はははは♪」」
しばらくして―――
「甘氷です♪ふふふ…冷たいのでゆっくりお食べ下さいね」
「ありがとう」
また笑ってるよ、ってかこれ…かき氷、だな。
「まんまかき氷だね〜」
「うむ、かかっているのはミルクか?」
「流石に練乳じゃないだろうな」
「おう、お前達、かき氷なんてなかなか渋い呼び名を知ってるじゃねぇか、まだ若そうなのになぁ」
ガタイのいいおっさんが話しかけてきた。
開拓者か?
「そうか?」
「そうだ、もう10年、いや15年以上前の読み名だ、今は甘氷が主流だぜ」
かんぴょう!?
「これ、かんぴょうって読むのかよ…普通にあまごおりって読んじゃったよ」
「店員さんもあまごおりって言ってたのに〜」
「う〜む、だから笑ってたのか、遊ばれたな」
いや、かんぴょうのほうが笑えるんだが…
「そうか、この甘氷は…15年くらい前からあるのか?」
「いや、確かもっと前、20年前くらいかな、レイス様が氷王になった頃考えたらしいから、そのくらいだな」
「また20年前かよ、北も東もそうだったが、西もか?」
「いや、俺が子供の頃、北と東の王が変わったって親父から聞いたが、西の王が変わったってのは聞いたことねぇから、西は違うな」
「教えてくれてありがとう、俺はレンだ、よろしくな」
「僕はセイトだよ〜」
「あたしはカリンだ、よろしく頼む」
「俺ぁガルディだ、よろしくな、お前らは違うところから来たんだろ?」
ノースリレーのオカマちゃんに似てる名前だな、間違えないようにしないと。
「よく分かったな」
「かき氷は知ってても、かんぴょうは知らなかったからな、一発で分かるぜ」
「そうか、俺は北から、この2人は中央からだな」
「うむ、元は中央だが、今は東で活動している」
「中央は意地悪さん達が多いからね〜、脱中したんだよ」
だっちゅうって…変な言葉を作るなよ、意味は分からないでもないが。
「おおそうか、まずは食っちまえよ、うめぇぞ?この街の名物だ」
「ああ、いただこうか」
「「いただきます」」
普通に美味い、ミルクに砂糖を溶かして、かけてるんだな、ちょうどいい甘さだ。
「甘いものは久しぶりだよ〜」
「やはり甘味はいいな、脳が喜んでいる」
数ヶ月ぶりの甘味に、3人は夢中になって食い進める。
「どうだ、うまかったろ?」
「ああ、美味しかったよ」
「さて…少し話をさせてくれ」
おっさんが真剣な顔して、質問をしてくる。
「お前らは何者だ?特にレン、あんたは只者じゃねぇ」
「はは、分かるのか?凄いな」
「俺はそういう技能を持ってるんだよ、何となくだが、いい奴か悪い奴かも分かる、だからお前達をどうこうしようって訳じゃねぇんだ、ここに来た目的を教えてくんねぇか?」
これは、氷王の事を聞くには、ちょうどいいかもしれないな。
「氷王レイスに会いに来たんだよ」
「なっ!?氷王様に、なんでまた?」
「う〜ん、目的はいくつかあるんだが…個人的に氷王に興味があるという事、列王サーレックに様子を見てきてくれと頼まれた事、中央の賢者ルードについて、少し聞きたいことがある事、あとこれは氷王は関係ないが、この2人の武者修行って所だな」
「ほぉ、列王様に依頼を受けるなんてなかなかの開拓者ランクなんだな」
「いや、開拓者として依頼された訳じゃないよ、個人的に頼まれただけだ、まぁ開拓者としてのランクもそこそこだとは思うが」
「よし、分かった、少し場所を変えないか?」
「うん?」
このパターンは…当たりかな。
「分かった」
3人は素直にガルディの後をついていった―――




