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ウェポンスピリッツは未来に継げる!  作者: 古魚
相模灘最終決戦編
333/340

打つ手なし

「紀伊、頼む」

「はい……おじいちゃん、聞こえる?」


 俺の合図で、紀伊は自身の無線機を使って『大江戸』へと回線を開いた。俺は、その無線を傍受させてもらっている。


「ああ、紀伊。聞こえているよ……元気そうでよかった」


 初めて聞く松川の声。事情を知らなければ、本当にただのおじいさんだ。


「うん、私は元気……ねえおじいちゃん、おじいちゃんは、本当は日本を攻撃したくないんでしょ? だから、ね? もうやめよう? 私、おじいちゃんが苦しそうにしてるの、もう見るの嫌なの」


 紀伊はストレートにそう思いを伝える。どことなく、その声には必至さが垣間見える。


「そうか……紀伊、『大和』との決戦は楽しかったかい? ずっと、会いたいと言っていただろ?」

「え? う、うん。それは、すっごく楽しかったよ」

「それはよかった。紀伊が楽しかったのなら、あの戦場を用意した甲斐があったというものだよ」


 あの戦場を用意した? まさか、こっちの作戦を全部分かったうえでそれに乗っかって、『紀伊』と『大和』の決戦をさせたとでも言うのか? 勘弁してくれよ。


「……紀伊。私はね、確かに、自分の故郷である日本を攻撃するのは辛い」

「じゃあ!」

「でもね、誰かが日本を叩かなきゃならないのなら、それは私の役目なんだ。いや、誰かに任せたくないんだ」

「でも、おじいちゃんはやりたくないんでしょ? じゃあそんな無理しなくてもいいじゃん!」


 幼い紀伊の言葉は、感情に訴える。


「紀伊の気持ちはとっても嬉しいよ。でもね、どうしても譲れないんだ。WASの目的を果たすためには」


 機械による人類の支配。機械的判断の下の平等と平和。それがWASの活動理由だ。


「おい、聞こえているのだろ? 日本の若い指揮官」


 嘘だろ!? 傍受してるのがバレてる!? 


「WASの目的は、機械による人類の支配と言い続けたが、あれは標語にすぎない」

「何を……言っているんだ?」


 唐突に、俺へと話始めたWASリーダーの松川。


「私の目的は本当に簡単なこと、たんなる復讐に過ぎない。人の幸せを願っていたのに、人によってその気持ちを踏みにじられた者達の復讐の機会。それがWASだ」

「おじいちゃん? 何を言ってるの? 私分からないよ! そんな話、私知らない!」


 紀伊の声が割って入る。


「紀伊、すまないな。お前の役割も、もうこれでおしまいだ」

「おじいちゃん? おじいちゃん!」


 無線から、紀伊の声が追い出される。


「紀伊は、私の娘の代わりだった。私の復讐心を忘れないための動力源だった。だが、ここまで来た以上、もう必要ではない。もう、私に利用される必要はない」

「そんな風に思ってあげられるのに、紀伊の言葉に耳を傾けてはやらないのか!?」

「あの子は紀伊だ。私の娘の代わりであって、娘ではない」

「自分の家族の不幸な死を理由に、自分を慕ってくれた人を裏切ってまで、あまりにも多すぎる死者を出すのか! 復讐だなんて理由で!」


 家族の死は辛いだろう。だが、だからって復讐という名目でこれだけ多くの人物を殺していい理由にはならない。


「数十年前の事故が理由で、関係ない人々がどれだけ殺された!? 復讐だなんて身勝手な理由で、一体どれだけの人を傷つけた!? 貴方が感じた家族を失う痛みを、一体何人が味わった!? 貴方は、戦争を起こしてしまったんだぞ!?」

「……1914年サラエボ事件」


 静かに松川は呟く。


「一人の青年が放った一発の銃弾が、1000万人を殺した」

「何が言いたい?」

「……果たして数十年前の事故と、約130年前の銃弾、いったい何が違う? 時代か? 死んだ人か? 状況か? 故意か事故か? 否、そこに違いなどありはしない!」


 一気に強い言葉になり、無線機を飛び越え、艦橋先にいる『大江戸』から、覇気が伝わって来る。


「戦争なんて、そんな一人の勝手な行動で起こってしまうのだ。起こってしまうほど人間は脆いのだ。だから、管理が必要なのだよ」

「『大江戸』に動きあり!」


 はっと『大江戸』の主砲を見ると、ゆっくりと砲身を上げ、副砲群が旋回を始める。


「それに、私の復讐を戦争にしたことにも意味がある」


 含みある言い方で、松川は言った。


「戦争は、唯一殺人を合法化し、死亡者を統計上の損害として捉えることができる出来事だからだよ。これで、私の起こした復讐は、『戦争』という災害に昇華され、死者は被害者ではなく犠牲者となる。人々はきっと、その犠牲の下の平和を喜ぶことが出来るだろうね」

「松川!」


 その一言が、俺の逆鱗に触れた。


「全艦砲撃用意!」

「『大江戸』発砲!」

「適当に撃っても当たる! 各艦『大江戸』を沈めろ!」


 俺の乱暴な指示に、各艦答えようと砲旋回を始める。


「本当に撃っていいんだな?」


 長門の声だ。


「もうあいつはだめだ。完全に恨みと絶望で盲目になっている。話ができる相手じゃない」

「分かった。全身全霊をもって、この『長門』、砲撃を敢行しよう」


 大江戸は自身を囲う艦艇たちに対応するよう、各主砲は左右に向き、対空砲、副砲も各々の目標へと砲を向けている。すでに発砲は確認され、各艦艇の周囲に水柱が立ち上っている。副砲以上の砲弾は、連射速度が遅いとは言え、当たれば一撃で致命傷になる。


「数発当たる程度じゃ効果なんてない。弾倉が空になるまで、鉛球を叩きこみ続けろ!」


 23隻一斉に大小さまざまな砲が火を噴く。まばゆいフラッシュが辺りを包み、昼間以上の明るさで目がくらむ。


「敵艦発砲!」


 この振動と爆音は、82センチ砲の発砲だ。『長門』の艦橋の窓がビリビリと揺れ、海面が波打ち、衝撃波で照明弾と探照灯の光すら揺れる。

 数秒後、轟音。海面を質量物が叩く音に交じって、金属が金属をすりつぶす音が響いた。


「誰だ!」

「イージス戦艦『メリーランド』に直撃弾! CIC、艦橋要員応答なし!」

「近い艦! 報告しろ!」

「あれはもう無理よ。艦の中央部から真っ二つに割れているわ。竜骨が、粉砕されているのでしょうね」


 アイオワがそう教えてくれる。一撃で、イージス戦艦の装甲をかち割り、撃沈に至らしめた82センチ砲の破壊力。注排水システム、防水区画など意に返さない切断。改めてその恐ろしさを体感する。


「怯むな! 撃ち続けろ!」


 もうどうしようもないのだ。集められるだけの火力を集め、再高威力を誇る51センチ砲も『大和』に導入した。これ以上、人間にこの艦を沈めるための能力を求めるなら、もはや弾道ミサイルか核爆弾など、戦略兵器を持ち出す必要がある。


 しかし、近辺で弾道ミサイルを保有する中国は既に潰滅し、ロシアも中国、北極奪還に集中しているため手を回す余裕はない。アメリカから発射する超長距離弾道ミサイルは、いくら大きいとはいえ、800メートル程度の移動物に直撃させられるほどの命中精度は保証できない。


 核を搭載したSLBM、『B52』の用意自体は、アメリカはあるというが、そんなもの論外だ。日本に三度目の被爆を許すことなどあってはならない。それに、相模灘内部に入り込まれた状態で撃てば、首都圏全体に被害が生じる。もはや日本は、日本として機能できなくなる。


「敵艦上に爆炎!」


 確実に命中し、対空砲群や、副砲群などは、すでに何門か使用不能になりつつある。されど、問題の82センチ砲、46センチ砲は、未だ健在だ。


「どうすればいい!? どうすれば!」


 分からない。何をすればこの化け物を沈められる? 航空攻撃、砲雷撃はまるで効果なし。対艦ミサイルもほとんどは無数のCLWSと迎撃ミサイルに撃ち落とされ、たとえ弾幕を抜けたとしても、『紀伊』や『フィラデルフィア』の張った電磁バリアが部分的に展開され、ガードされる。常時展開せず、必要な場所に必要な時に顕著化させることで、電力の節約を図っているのだろう。


 ともかく、もう打つ手がないのだ。じりじりと19ノットの全速で『大江戸』は日本へと迫る。この調子でいけば、7時間で三原山ラインを越えてしまう。


「何か、何か手を……」


 俺が考えている間に、二回目の『大江戸』の斉射。


「『モスクワ』『ビスマルク』に至近弾! 『モスクワ』の速力低下! 『ビスマルク』、喫水線下に浸水発生!」


 一斉射事に、被害が広がっている。日本に、俺には、一体何が出来る?


 俺はただ、艦橋に立ち尽くしていた。

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