鷹羽のアース
現在、2月12日、07時30分、ボーンマス臨時飛行場。
「輸送部隊離陸完了……後は、橋頭保に『B52』を向かわせないとね……」
サツキ作戦二日目、本来強行輸送を完了したら作戦終了だったが、状況が変わったので、敵橋頭保への爆撃と二度目の輸送を完了してから終了となった。
ちなみに今回の輸送部隊は、『トランザール』と『Ⅿ0』三機だ、本当は『M0』四機にしたかったのだが、一機がエンジントラブルで整備中だ。
「コンドル隊、滑走路へ移動」
私が通信機で指示すると、駐機スペースから続々と漆黒のボディーを持つ『B52』が、重々しいエンジンを響かせながら、滑走路へと移動してくる。
先頭の機体が滑走路に入ると、無線機から声が聞える。
「全機離陸準備完了」
通信機からは、しっかり日本語で返ってくる、自動翻訳機能のたまものだ。
「了解、仕事は敵基地の爆撃、無理そうならすぐ帰ってきてね」
「了解、仕事はきっちり果たしてくるさ……コンドル隊、出撃する」
そう言うと同時に、重々しいエンジン音が一層強くなり『B52』が空へと舞い上がっていく、たった一機で基地機能を完全に消失させられる爆弾搭載量を誇る死の鳥は、獲物を求めて各自散っていった。
空中で護衛機となる『F47』と合流し、『B52』一機、『F47』三機の編隊が五つ完成し、それぞれの爆撃地点へと向かっていく。
全機爆撃が終ったら、集合地点で五編隊が合流、まとまって基地に帰還する。
「さてと、後は報告待ちかな」
輸送隊は後一時間程で帰ってくるだろうし、ひとまず輸送組が安全に帰ってきてくれれば、アメリカのエリート爆撃隊が失敗することはないと思うから、作戦成功を宣言できるが……。
「……お前が、フブキ・キヨハラか?」
『B52』の編隊を見送っていると、後ろから声をかけられた。
「ええ、私が吹雪ですけど……あなたは?」
胸元には鷹の顔、見た感じでは、アメリカ空軍の人みたいだ。
「俺は、モビー・アース、第104戦術飛行隊、ホークの一番機、機体マークは鷹の羽だ」
……鷹羽のアース⁉
「貴方が、鷹羽のアース」
私が聞くと、男は頷く。
「そう呼ばれることがあるな」
鷹羽のアース、この男はアメリカ空軍史上、最強のパイロットと言われる男で、日米合同航空演習時、日本のエース部隊で在り国内でパイロットを育成する部隊であるアグレッサー部隊が全力で相手をした。
しかし、結果は6戦6勝、つまり全勝だ。
日本のエース部隊の六人に、簡単に撃墜判定を出して見せた、その後余程アグレッサーの人たちは悔しかったのか、三対一の戦いを挑んだが、多少被弾させるだけで、見事に返り討ちにされた。
その後も、世界中のエース部隊との演習で、一度も撃墜判定を貰わず勝利していることから、畏怖の念を込めて鷲羽のアースと呼ばれるようになった。
「で、私に何か御用でしょうか?」
「担当直入に言う、俺の機体の整備を頼みたい」
なんで?
「なぜでしょう? そちらにも整備課はいると思うんですが……」
「ああいる、腕もいい」
じゃあ私じゃなくていいじゃん。
「だが奴らは、空戦を知らない」
……ああなるほど、この人の狙いが分かった。
「もしかして、改造してほしいんですか?」
空戦を知ってないとできない整備なんて、改造ぐらいしかない。
「そうだ、俺の機体をお前の力で改造して、『Ⅿ0』と同等の格闘性能が欲しい」
いや難しい事言うなぁ、『Ⅿ0』のあの格闘性能は、特殊な設計のおかげで得た機動力であって、普通の機体で、あそこまでの機動性は難しい。
「さすがに、『Ⅿ0』程は、無理だと思います」
「なら旋回時の安定性を増してほしい、『F47プテラ』は、速度や武装、ステルス性については文句なしだが、機動力が低いのと、旋回時に機首がぶれるのが難点なんだ」
『F47プテラ』、名前は翼竜プテラノドンから取られていて、2028年に試験配備され、改装を重ね2033年に量産、正式配備された機体だ。
細かいスペックは覚えていないが、それなりに強い機体で、WASの機体を圧倒していたが、最近になって『Z4アネモイ』や、『S6キング』、『S5クイーン』などの、機動力が高い機体に負け続け、機動力の弱さという弱点が明るみに出てきてしまっている。
「……分かりました、やれるだけやってみましょう」
そう答えると、鷹羽は頷き、自分の機体へと案内した。
「こいつだ」
工具を持って倉庫に行くと、そこには鷹の羽が尾翼に刻まれ、羽とエンジンが黒く汚れている機体が鎮座していた。
エンジン部分から独特の焦げ臭い匂いが漂っている、この匂いは、無理に無理を重ね、機体をぶん回し続けた機体から出る匂い……一度だけ、嗅いだことがある。
「じゃあまずは普通に整備して、機体の構造を見させてもらって、その後改造ってことで良いですか?」
「任せる」
そう言って、鷹羽は、倉庫の壁に背中を預け、座りこんだ。
どうやら私の整備を見守るつもりらしい……めっちゃやりにくいんだけど……。
「ま、まあやっていきますか……」
私は軽く機体を触り、いくらかいじった後、必要な資材をこの倉庫に回すよう連絡した。
「機動力の増加、旋回時の安定性……後はおまけで、機銃も変えられそう……」
ちょっと聞いてみるか。
「あのー、アースさん?」
「呼び捨てかコードネームで呼んでくれ」
あ、そうですか……。
「……じゃあアース、機銃って良く使う?」
「まあまあだな、ヘッドオンや対艦攻撃にはよく使うが」
「対戦闘機には?」
そう聞くと、アースは少し眉を動かす。
「使えと言われれば使うが、バルカンは発射ラグがあるからが嫌いなんだ、その点については、レシプロ時代の機銃の方が良かったな」
その言葉を待ってたんだよ私は。
「じゃあ、21号20ミリFB機銃とかって欲しいですか?」
「……詳しく聞こう」
鷹羽が興味を持ったので、私は、日本が誇る最新機銃、『21号20ミリFB機銃』の詳細を説明することにした。
「『Ⅿ0』が装備している『21号20ミリFB機銃』、呼び方はそれぞれで、『21号』とか、『20ミリ』って呼んでるね」
私は、ちょうど到着した資材の中に混じった『20ミリ』を持ち出し、鷹羽の前に置く。
「発射レートは毎分3200発、Ⅿ61バルカンよりレートは低いけど、その代わりに長口径化し、初速は1422m/秒になっているから当てやすいとは思う、それに、この機銃はバルカンじゃない日本独自の機関砲でね、発射ラグはほぼ無いよ」
そう言うと、鷹羽が立ち上がり、弾を一発ベルトから外し、凝視する。
「弾も、通常の物では無いな」
さっすが、一目でわかるか。
「それはFB弾、本名はファイヤーバレット、特殊な硫酸が弾の中に仕込んであって、それで装甲を溶かし、硫酸より中に入っている鉄芯で、内部を破壊するちょっと特殊な弾、それがメインで装填されるからこの機銃は名前にFBって入ってるの」
一通り説明を終えると、鷹羽は言った。
「480発積めるか?」
随分とピンポイントな数を出したな……ああ、なるほど。
「もしかして、もともと『F22』に乗ってたりした?」
私がそう聞くと、鷹羽は少しだけ口元を緩めた。
「よくわかったな」
「ええまあ、勉強してるから……それで、装弾数の件ですけど、まあざっと見た所、『F47』には530発ほどなら詰めるよ、『F47』は、『F15』とかと同じ、機首のサイドに機銃が配置されているから、スペースにちょっと余裕があるんだ」
そう言うと、鷹羽は頷いた。
「では頼む、装弾数は485発で良い」
また刻んで来るねぇ。
「了解、機銃の換装も行っておく」
私は鷹羽から確認が取れると、上着のチャックを開け、工具を詰めたベルトを腰に巻く。
「久しぶりの大仕事、やってきますか」
まだいじったことのない機体を改造できる高揚感と、エースの機体を整備するという緊張感で心が満たされた私は、張り切って、『F47』の改造を始めた。