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ウェポンスピリッツは未来に継げる!  作者: 古魚
欧州出兵編~波乱の上陸~
189/340

サツキ作戦


現在、2月11日、14時17分、ボーンマス海岸臨時飛行場。


「本部より入電、ゲートは開かれた、精一杯走り切ってくれ、です!」


 きた……。


「こちらに向かっている、ハインケル長官にも伝えて」

「了解」


 私は大きく息を吸い込み、吐き出す。

 頬を叩いた後、滑走路で暖機運転を行っていた『零戦七二型』に乗り込む。


「これより、サツキ作戦を開始する、全機出撃!」


 通信機から、ハインケル長官の声が聞えた。


「了解、之より作戦を開始します! 全機、離陸始め!」


 長官からの命令が下ったことを確認し、滑走路に並ぶ機体を次々に出撃させる。


「零、行くよ」


 私が声をかける。


「うん、行こうか」


 そうすると、優しい声が返ってきた。

 私は、エンジンスロットルを最大まで上げて、機体を空へと持ち上げる。


「それじゃあ、ロンドンまで高度2200で、速度400キロ台を保ちつつ、約40分の飛行路だね、全機、周囲の警戒は怠らないように、『M0』は、無理に速度を合わせなくていいけど、すぐにこちらに向えるあたりを飛行しててね」


 正直、ジェット、レシプロ戦闘機、レシプロ大型機が混ざった編成なので、速度差がやや問題になってしまうが、仕方がない。

 本来『一式陸攻』は、輸送には参加するはずではなかったが、銃弾や火薬関連のものを輸送機の中に積んで、敵の攻撃で誘爆したら、食料品などもお陀仏なので、敵の目標をばらけさせるためにも、三機参加させることになった。


「こちら『トランザール』、もっと速度を上げることはできないか?」


 無線機で声が聞える。


「無理だね、『一式陸攻』やレシプロの巡行速度に限界があるから、これでもだいぶ早くしてるんだよ?」

 

 無線機の先で、ため息のような音が聞こえた後、「分かった」と、返ってきた。


 悪いけど、戦力の分散は悪手だから、部隊の分離は行わないよ。


「もしかして吹雪、有馬に言われてること気にしてる?」


 零がそう私に聞いてきた。


「な、何のことかな?」


 私は心あたりがあったため、言葉に詰まった。

 そうすると、零が小さく笑い、言った。


「指揮官の秘書と呼ばれる、私が知らないとでも?」


 どうやら、零は分かり切ったうえで聞いているようだ。


「零に隠し事は無理か……そうだよ、有馬にこの前怒られたんだよ……」


 私は、ため息をつきながら口を開く。


「有馬にね、「お前は個人行動や独断先行が多すぎる、もっと上司としての自覚と、一軍人としての自覚をもてバカ!」って言われちゃったからさ……」


 零は、大きく笑い声を上げる。


「はははっ! ついに吹雪も、上官から直々に指導貰っちゃたんだ」


 笑い事じゃないんだけどな……。

 そんな他愛もない会話をしながら、ロンドンを目指した。




同日、午後三時一分、ロンドン臨時飛行場まで50キロ地点。



「そろそろロンドンにつくかな……」

「後50キロほどですね」

 

 『Ⅿ0』に乗っている尾田少尉が、無線機越しに教えてくれる。


「ありがとう尾田さん、レーダーには、何か映ってる?」

「いや、今のところは、通常レーダーには反応が無いな、ステルスレーダーも起動してみるか?」


 ステルスレーダー?


「ステルスレーダーなんて、『Ⅿ0』に積んでたっけ?」


 そもそも、ステルスレーダーなんて『55号ステルスレーダー』ぐらいしか存在しないはずだ。

 『三笠』『大和』『瑞鶴』の三隻にしか搭載されていない、それを航空用にした覚えもなければ、聞いたこともない。


「ああ、俺の機体にだけ、ドイツの試作装備がつけられたんだ」


 えー聞いてない……。


「まあともかく、今の俺の『Ⅿ0』には、ドイツ製のステルスレーダーが装着されている訳だ、こんな風にレーダースイッチを切り替えると……」

 

 軽い声で話していたはずが、言葉が止まった。


「どうかしましたか?」

「左後方、距離5キロ、機数27、レシプロ!」


 敵機⁉


「全機、エンゲージ! 4機の『BF』と『零戦五二型』、『Ⅿ0』を残して、敵機へ向かうぞ!」

 

 私が、無線機で叫ぶと、AI操縦の機体が一斉に回頭させ、増槽を落とした。


「敵機視認! 『S型戦闘機』20機、『Z2ノトス』6機!」


 ……ん?


「尾田さん、敵の数、27って言ってましたよね?」

「ああ、レーダーには、レシプロ級の小型機が27機映ったのだが」


 今私が数えた機数は、26機、じゃあ後1機は?


「まさか!」


 私の頭に、一機の航空機が過る。

 味方にステルス性を持たせ、レシプロと同程度のサイズの機体と言えば!


「吹雪、真下!」


 私は、零の声で操縦桿を倒し、下からの機銃掃射を躱す。


「黒く、プロペラの無いマスタング、間違いない『Ⅰ―932鋼ノ翼』!」


 あの時取り逃がした、WASの幹部が乗るWSだ。

 まさかこんなところで、再び会うことになるとは……。


「零!」

「分かってる!」


 私の声に応じて、一機の『零戦七二型』がこちらに向かう。

 私が操る一機と、零の操る一機、合計二機で挟むようにして戦う。


「他の機体は『S型』を狙って!」


 私が通信機で言うと、『BF』と『五二型』は、こちらに向かって来る『S型』に機首方向を向けた。


 最初の射撃は、零だった。

 正面反抗に近い形で、零は機首の13ミリ機銃を放った。


「私が引き付けるから、吹雪が墜として!」

「解った!」


 零は私に告げた後、あえて相手の射線上に飛び出し、『鋼ノ翼』のタゲを引き受ける。


「やっぱり、こいつ強い」


 零は、後方にいる『鋼ノ翼』の機銃を避けながら、そう呟く。

 速度的には、『鋼ノ翼』の方が圧倒的に早いはずだが、かなりエンジンを絞っているのか、しっかり零の後方をキープしている。

 私も追いかけながら、照準器内に敵機を収めようと機体を制御するが、上手く30ミリを発射するタイミングが無い、13ミリで牽制的な攻撃は数発当たっているはずだが……。


「ごめん零、もうちょっと我慢して」


 私は必中を期すため、やや機首を下に向け、降下の加速を使って、距離を500mまで詰める。


「当たれ!」


 私は思い切って、30ミリの引き金を引く。

 だが『鋼ノ翼』は、羽下のフラップを展開し急上昇、弾を躱したかと思えば、そのまま急反転し、こちらに両翼の12、7ミリ四丁の機銃を発射した。


「こんっの!」


 私は右フットレバーを踏込み、操縦桿を290度方向に倒し、右降下の体制に移る。

 おかげで何とか弾を躱す。


「吹雪⁉」

「大丈夫生きてる!」


 零の機体が翻り、『鋼ノ翼』に機銃掃射をかける。

 その弾は数発が羽を掠めたが、目だった損傷は見えなかった。


「こいつ、『零戦』の特性をよくわかってる……」


 強力な打撃力をもつ『零戦』の機銃を、滑らかで薄い羽を使って受け流す。

 ロケット機だから加速性が良く、一撃離脱に向いている。

 だが、強力な大型フラップにより、低速域では十分な機動力を得られる。


「ソ連がどれだけ『零戦』が嫌いだったか分かるね……」


 私は再び『鋼ノ翼』に照準器を合わせようとするが……。


「しまっ!」


 思ったより速度が出ていたようで、『鋼ノ翼』を追い越してしまった。


「吹雪!」


 零の声が聞えるのと、後方から30ミリ弾の発射音が聞こえるのは同時だった。


「っつ!」


 しかし、機体を30ミリの弾丸が襲うことは無かった。


「え?」


 私は状況が分からないまま機体を翻し、状況を確認する。


「『スピット』⁉」


 私と『鋼ノ翼』の間に、ボロボロになった『スピットファイア』が飛行していた。

 しかし、30ミリ弾に耐えられるわけがなく、数秒後には爆発した。


「吹雪、見て!」


 私は、コックピットからあたりを見渡す。


「ロンドンが見える……」


 そして同時に、ロンドンからこちらに向かって来る。数機のレシプロ機が見えた。


「こちらロンドン飛行場、輸送機はすでに滑走路に足を下ろしている、貴機らも、航空基地へ迎え」


 そんなに長い間ドッグファイトをしていたのか……。


「分かった、ありがとう」

 私と零は、適当に機銃弾をばらまき、急降下しながら離脱する。

 

 あの『スピット』たちは、ロイヤル側が援軍として出してくれた、無人のレシプロ機かな?

 だとしたら、後で離陸の指示をしてくれた指揮官には感謝しなくちゃだね。


「吹雪、振り返っちゃだめだよ」

「零……? なんで、泣いてるの?」





「気にしないで……でも、絶対振り返っちゃだめだよ」


 私の無線機には、偶然なのか、『スピット』のWSの声が入っていた。

 WSの私は、時折他のWSの感情が共鳴して、流れ込んで来る時がある、それが同種の戦闘機なら、より強く。


「ごめん……なさい……」


 『スピット』に乗る、エリートパイロットの皆さん、『スピットファイア』の皆……本当に、ごめんなさい。


「っ!」


 後方で、何度か爆発音が聞こえたかと思えば。

 擦れる声が、無線機に届いた。


「イギ……スの……空を……ぞ、日……の、サムライ……」


 その瞬間、私の頭の中に、誰かの記憶が流れてきた。


「まさか……スピットなの?」


 私の声に応える者はおらず、そのまま視界が暗転した。

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