クラッシクシーズン開幕
現在、2月11日、10時30分、大西洋スペイン沖、エセックス級原子力空母『イントレピッド』。
「艦長、日本軍が作戦を開始したようです」
「そうか、我々も急がなくてはな」
現在、原子力空母『イントレピッド』を旗艦とした艦隊が、大西洋を横断していた、その目的は、勿論イギリス奪還作戦の掩護の為である。
「艦長、ドイツに居る日本軍より、電信が届きました」
CICの通信員が、手を上げ、艦長にそう伝えると、艦長は腕を組み、「読み上げろ」と指示を出した。
「は……我ら、航空戦力、主に爆撃機に不安あり、早急に『B52』を用意せよ……とのことです」
その電文に、艦長はため息をつく。
「全く、やはり日本は我々アメリカがいないと、満足に戦えんのか……」
しかし、その声はどこか優しげな声だった。
「艦隊増速! 予定よりも早くドイツに到着させるぞ!」
「ヨーソロー、艦隊増速!」
主力艦隊、空母『イントレピッド』駆逐艦『ラッセル』『ラメ―ジ』巡洋艦『シャイロー』『アンツィオ』潜水艦『バージニア』。
護衛対象、輸送艦『ワトソン』級七隻、輸送艦『ⅭS―1~34』。
この大艦隊は、本作戦のカギとなる、強力な航空戦力を抱えており、爆撃機不足の日本とドイツにとっては、どうしても必要な戦力だった。
その為有馬は、密かに強力な援軍を忍ばせていた。
「ソナー、対潜警戒は厳に行え、どこに『Ⅹ級』や、WASの潜水艦が潜んでいるか、分からんからな」
しかし、その存在に、艦隊は全く気づいてはいなかった。
それもそのはずで、水中に潜んでいるのは『伊403』潜水艦で、全力静寂運転を行っている、小型原子力発電機『灯』は完全に無音で運転しており、水面へと音波を出していない。
動力も水流発生装置の為、エンジン音ではなく海流の音としてソナーに伝わっている、派手な動きや攻撃を行わなければ、まずバレることはない。
「私の事は……気付いていないようですね」
静かに艦体を進めながら、耳を澄ませてみますが、艦隊に目立った動きは在りませんでした。
「パパは、この艦隊が攻撃されるとまずいから、静かに護衛してやってくれと言っていましたけど、どうして存在を悟られてはまずいのでしょう?」
連携して警戒した方が、より万全に防衛を固められる気がするのですが……。
「ん? この反応は……」
水中ソナーに一隻、潜水艦の姿を見つけました、艦種を調べるため航行音を聞いてみると、アメリカの潜水艦と一致しました。
「新たなアメリカ潜水艦『シーウルフ』級潜水艦と認……おかしいですね」
今回支援に来る艦隊の潜水艦は『バージニア』一隻だったはずです……。
「後で、一様パパに確認を取りましょう」
そんな調子で、私は静かに、艦隊についていくのでした。
同日、午後二時十三分、ボーンマス海岸臨時飛行場。
「『一式陸攻』『トランザール』『零戦』『BF109G』『M0』、発進準備完了しました」
私のもとに、航空整備班の兵が知らせに来る。
「了解、じゃあ指示あるまで待機させておいてください」
私がそう言うと、40代ぐらいの整備兵は走っていく。
「こんなに年上の人に命令するのは、ちょっと気が引けるなぁ」
だから、私の部隊は、皆若い人ばかりになってるんだけど……。
「だいぶここも、航空基地らしくなってきたね」
滑走路の脇にある駐機スペースには、『D150』に乗っていた『F15J―ⅭⅩ』8機と『零戦七二型』3機。
基地全体を囲うように、『87式自走高射機関砲』と『89式高速機動車輛』が八台ずつ並び、周辺の林の中には『74式』四輌が潜み、急襲に備えている。
そして二つだけ用意された簡易倉庫の内一つに、『モスキート』が待機している。
「こちら吹雪、航空機、及び基地の準備完了」
「こちら凌空、承知した、こちらも、全ての物資の荷揚げを終了した、之より、輸送艦隊は撤退する」
通信機越しで凌空長官が返事をする。
そう、ここから艦隊の指揮は凌空長官が執り、ドイツヤーデ湾へ帰投する、ハインケル長官が陸に上がるからだ。
「頼むぞ、吹雪君、サツキ作戦の成否は、君にかかっている」
「分かっています、お任せください」
最初の作戦、サツキ作戦は強行輸送が主目的、すなわち航空戦だ、ならば私が頑張らなくてはならない。
のちのユウシュン作戦は海戦、キッカ作戦は陸戦、空と有馬も、それぞれ役割を果たすはず、なら後に続ける為にも、ここで失敗するわけには行かない。
それに、輸送に失敗すれば、ロンドンで待つ兵士たちが飢え死にしてしまう、飢餓死体が積み重なったロンドンなど見たくはない。
「ドイツ司令本部に打電、馬たちはゲートに入った」
私が無線で、通信員に連絡する。
「了解、司令部へ打電、馬たちはゲートに入った」
同日、同時刻、ヤーデ湾指令室。
「ベルト首相、総統閣下、彭城長官、入電です」
通信室に居た兵が、扉を開け、そう私達に告げた。
「読みたまえ」
それを聞いて、ヒトラーは不敵な笑みを浮かべながら、そう指示した。
「は! 発信源、ボーンマス海岸臨時飛行場、馬たちはゲートに入った、とのことです」
どうやら、準備は完了したようだ。
「ベルト首相、始めても、よろしいですね?」
「ああ、頼む」
私が聞くと、ベルト首相は息を飲みながら、小さな声で言った。
「返信、ゲートは開かれた、精一杯走り切ってくれ」
「了解!」
「あ、それと港にいる有馬君にも、今の電報を伝えておいてくれ」
「は! 失礼します」
これで、イギリス本土奪還作戦の前段作戦である、クラッシクが開始される。
「さて、始まるようだな」
ヒトラーは先ほどと同じ顔で私に語り掛ける。
「はい、今日中にはサツキ作戦を終了し、ユウシュン作戦に移行します、そうしたら私も出撃するので、総指揮はお任せします」
本部に残るベルト首相はあくまで政治家であって、軍略家ではない、経験のあるヒトラーの方がまだましだろうと思い、総指揮権はヒトラーに渡す。
「ああ、だが万が一キッカ作戦の後、敵本部への攻撃が失敗した場合、私も戦場に出る」
初耳だ。
「総統自ら、ですか……」
ベルト首相も驚いたように、ヒトラーの顔を見つめる。
「ああ、誰かが私に囁いているのだ、本部への攻撃には私が必要だと」
天性の直感か……。
「……分かりました、ですが日本軍としては、その予想が外れることを切に願います……では私も作戦の打ち合わせがあるので、失礼します」
そう言って、司令室を後にした。
「貴様の思い通りにいかせるものか、ヒトラー」
私は強く拳を握りしめ、歯を噛みしめ、廊下を歩いて港へと向かった。
ユウシュン作戦決行は、おそらく明日か明後日だろう、騎士を救うために、遥々武士は海を渡って来たのだから、負けてしまっては、格好がつかないのだ。