鉄血の空
WSの航空機の種類が少ないのは、まだ納得できるが、いくら何でもジェット機数が少なすぎる。
それに、ただでさえ少ないジェットの二種類が、日本から不要なものを譲り受けた『F15J』を改良してドイツ仕様にした『F15JG』と、アメリカから購入した『F22ラプア』を同じくドイツ仕様に改装した、『F22Gラプア』とは、一体どうゆうわけか……。
2030年に量産が始まっているFCASのステルス戦闘機、『YR―キャップ』はどうしたのだろうか?
『F15J』の半数以上は改装を繰り返し、いまだに日本の主力機として存在しているが、『F3』の配備開始、『F35』の完全配備を踏まえ、『F15J』の一部を売却しよということになり、その売り相手がドイツだった。
それをドイツ仕様に改良したのが『F15JG』だ。
アメリカから買うよりも安く仕入れられ、なおかつ要撃機としての効果を高めた日本仕様の『F15J』の方が都合がよかったそうだ。
「……空軍戦力が一掃された、と言うのが適切だろうな」
首相がそう一言言い、ルーデル閣下の方へ視線を送る。
「お前たちがこちらへ向かっている途中、ヨーロッパは、WASから三度の大規模な空襲を連続して受けた」
一様報告は受けたが、そんなに酷くやられたとは……。
「最初の空襲はまさかのベルリンだった、正体不明の大型機から、大量の爆弾と、誘導ミサイルが放たれ、指揮系統がマヒ、町は大混乱だった」
正体不明の大型機……大量の爆弾と誘導ミサイル……。
「その時、私は多くの優秀な部下を失ってしまった」
首相が、机の上に置いた拳を震わせながら言う。
「ここに、人間としての長官が一人もいないのがその証拠だ、あの日は、偶然、陸海空の長官たちが集まっていた、そこを、狙われたのだ……」
俺たちは、黙って首相の言葉を聞いていた、いや、聞くことしかできなかった。
「そして二度目の空襲が、この港の側にある航空基地、今度は先ほどの機体ではなく、WAS一の重爆、『Ⅴ33シヴァ』が訳40機飛来して爆撃していった、迎撃に上がったジェット戦闘機もレシプロ戦闘機も、ことごとく防護機銃と、護衛で飛んできていた『Z4アネモイ』に撃墜された」
『Ⅴ33シヴァ』破壊神の名を持つこの爆撃機は、現在確認されているWASの機体の中で最も大きい六発超重爆撃機で、爆弾搭載量が29、780tとかなり多い。
おまけにチャコフレアや特殊防弾装備付きで、なおかつ防護機銃も20ミリ機銃が20門と凶悪だ。
現代では、あまりこういった戦略爆撃機は不要と思われていたが、この機体は現代技術を凝縮して、『B52』以上の性能を持っているため、現在最恐の大型戦略爆撃機と言われている。
本土を狙っていた『Ⅴ11ヴァーユ』とは、比にならないほど強力な機体だ。
『Z4アネモイ』東風の神の名前を持つこの戦闘機は、WASの主力ジェット戦闘機で、基本的な性能は『F35ライトニング』と同じだが、搭載しているミサイルや、機関銃が段違いに強くなっている。
「……結局、ジェット32機と、レシプロ13機を上げたが、帰って来たのは、ジェット3機だけだった」
「なぜそこまで一方的にやられたのでしょうか?」
「ジェットに乗っていた奴らは、皆ルーキーだったのさ」
ルーデル閣下がそう言いながら懐の煙草を取り出す。
「その日の基地は、まだ実戦経験の浅い新人パイロットたちが集まり、どこに配属するかを決める日だった、だから滑走路には、新型機の『YR―キャップ』が大量においてあった、新人たちへのプレゼントとしてな」
煙草に火をつけると、やや煙いが、葉っぱの匂いが広がった。
「そして空襲は起きた、ベテランたちの航空機は格納庫、出している暇は無い、ルーキーたちは意気揚々と新型機に乗り込み、この基地を守ると行きこんで、空に上がって行ったが、新米たち32人のうち、29人が撃墜され死亡した、帰ってこれた機体も損傷が激しく、もう使い物にならないほどボロボロだった」
『キャップ』は、決して弱い機体ではない、現代最強戦闘機の五つの指に入る戦闘機だ、だがやはり兵器を操るのは人、どんなにアシスト機能が付いていても、乗員が未熟ならば、機体も真価を発揮できない。
「それで、三度目の空襲と言うのが、バルト海の港だ」
今度はオイゲンが話す。
「バルト海にはその時、それなりの艦艇が錨を下ろしていた、内地での整備を終えたばかりで、次はどこの防衛に当たるのかを割り振っていた時、奴らはやって来た」
オイゲンはこちらに一枚の写真を出した。
「『B34』?」
その写真には、丸々と太ったボディーの下腹に、大量の突起物が付いた機体が映っていた。
「ああ、確かにロッキード『B34』に似ているが、そいつはWAS機の、『KB12ポベートール』だ」
そう言えばそんな機体がいたか……。
『KB12ポベートール』は下腹部に大量の機銃をつけた、地上攻撃用の急襲機。
日本は、あまり地上戦を行っていなかったので、この機体と会いまみれることは無かったが、欧州では地上戦が頻繁に起きるため、現れるのだろう。
「まずあいつらは、広域電波ジャックを行いこちらのレーダーを誤作動させた後、この機体を飛ばして、バルト海周辺の航空基地にいた航空機を根こそぎ穴だらけにした、レーダーが復旧した時には、周辺の航空基地は、穴だらけの機体が転がるばかりで、まともに動ける機体は少なかった」
随分頭を使った攻撃の仕方だな、WASにしては珍しい。
「そしてその数分後、大量の爆激機、雷撃機、戦闘機が飛来し、我々艦艇と残った航空機を殲滅にかかった、その時私もその場に居て指揮を執っていたのだが、数で押し通されてしまい、何百機もの航空機と数隻の艦艇を犠牲にしてしまった」
なるほどな、徹底的にドイツの航空戦力を削ぎに来てるな……。
どうもアメリカのような攻撃をするようになったのは気がかりだが、今はそれを気にしている場合ではない。
「それらのせいで、新型機が攻勢に回せず、航空戦力が不足していると……」
俺はそう呟きながら、頭の中にボードを展開する。
現在有力な航空戦力を保持しているのは俺たちの空母艦体だけ、アメリカからも航空機は来るが、一個機動艦隊分のため、制空権の確保は、こっちのジェットでやるしかないか……。
「聞きたいことはそれだけか?」
「はい、人の長官がいない理由もわかりましたし、大丈夫です」
「では、本格的に作戦会議を始めよう、英国攻略戦をどう進めるかだが……」