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外章 燃え広がるユニオンジャック

現在、1月9日、ロイヤル、臨時避難所。


「戦線がまた上がってきているのか……」


 防空壕の中で一人の男が、報告書を読みながら、太い手巻きたばこを吸っている。


「はい、鉄血軍や、我らロイヤル軍、同盟のフランス、スペイン軍が奮戦しているおかげで、戦線を維持してきましたが……」


 報告を読み上げる秘書の言葉が詰まる。


「なんだ、また新たな陸上タイプのロボットが出てきたかね?」

「いえ、大口径の砲弾が、兵士の頭上に降り注いだと……サイズは、推定で、36、5センチ」


 その言葉を聞いた瞬間、男は血相を変えて机を叩く。


「まさか、それを撃った兵器は……」

「はい、キングジョージⅤ世級戦艦かと……」


 男は頭を抱えながら、涙を零す。


「終わりだ……今までは、WSたちが敵の手に堕ちても、屈しないでいてくれたから敵に回ることは無かったが、戦艦が、我らイギリスの一番の戦艦が、敵の手に堕ちたとなれば、時期に他の艦や航空機もこちらに牙を向く、歩兵戦力とわずかな現代戦力だけでは……その量を捌ききれない」

 

 その言葉を聞き、秘書は言う。


「……全兵力を一旦撤退させましょう」

「何を言っているのかね、そしたらもうほとんど領土が残らないではないか」

「全力で、約一か月耐え抜きましょう、徹底的に守りに尽くし、全て温存です」


 男は、何を言っているのか分からないと言わんばかりに、顔をしかめる。


「日本です」

「日本?」


 秘書は、鋭く、覚悟を決めた眼差しで男に言う。


「日本の掩護が来るまで耐えるのです」


 そっと、男の前に資料を差し出す。


「この編成が、今回ヨーロッパの助けに向かってきています」


 その艦隊編成を見て、男は口に咥えていた煙草を、机に落とす。


「戦艦『大和』に、戦艦『IOWA』だと……」


 男は、より詳しく資料を読み、輸送物資や、艦の名前を見るたびに、感嘆の声を上げた。


「これなら、勝てる、勝てるかもしれん!」

「はい、武士道の国が、我々騎士道を助けようとしてくれているんです、数百年ぶりに、日英同盟が、再び共闘しようとしているんです」


 男は煙草を咥え直し、秘書に言う。


「全長官を集めろ、撤退後の防御に着いて会議する、この一か月、乗り切れば大きく勝利に近づく」


 秘書は「承知しました」と返し、走っていった。


「そうか……日本が助けに来てくれるのか……我がロイヤルネイビーの子供が、父親を助けに来てくれるか……」


 男は、再び涙を零していた。




数日前、イギリス北部のどこかの港。




「正気ですか⁉ 閣下!」


 甲冑を着込み、紫の長い髪を三つ編みにし、腰まで垂らす。

 細い目の瞳は、髪と同じ色をしている。


 その女性が、一人の男に詰め寄る。


「落ち着け、モスキート、何も私は死ぬとは言っていない」

「しかし……」


 港に籠型環境が立ち、特徴的な四連装主砲が搭載される、『キングジョージⅤ世』の艦体が浮かび、滑走路には双発の戦闘爆撃機、『モスキート』が待機している。


「これは私の命令だ、何とか飛び立ち、日本艦隊が来るまで耐え凌ぎ、私達艦隊のことを伝えろ、之は君にしかできないんだ」

「っ……了解、しました」


 男の必死な呼びかけに、モスキートと呼ばれた女性は、悔やみながらも了承し、姿を消した。


「頼むぞ、君だけが頼りだ、何とか日本に、私達ロイヤル艦隊の情報を届けてくれ」


 男も自身の艦体に戻り、顔を引き締める。


「全砲門開け!」


 力一杯怒鳴った声に比例し、四連装二基、連装一基の、合計十門の36,5センチ砲弾が、滑走路を挟んで着弾する。


 それと同時に、『モスキート』のエンジン音が響き、滑走路を走り出す。


「させるか!」


 『モスキート』を撃とうとする、艦や、対空砲、歩兵に向かって、『キングジョージⅤ世』は、主砲、副砲、高角砲、機銃、なんでも撃ちだす。

 『モスキート』が空の彼方へ消えたころ、『キングジョージⅤ世』の砲撃は止み、砲口から硝煙を登らせている。


「さて、私も動き出すか……」


 発動機に力を籠め、エンジンスクリューを回しだした瞬間、『キングジョージⅤ世』は違和感を覚え振り返ると、一人の年配な男が立っていた。


「……誰だ」


 キングジョージⅤ世は、王家の印である、ライオンの顔のつくマントを整えながら、その男に問いかけるが返事がない、変わりに飛んできたものは……。


「さらばだ、『キングジョージⅤ世』」


 紫色のオーラを纏った、いびつで大きな、黒い手だった。



 キングジョージの意識が途切れる直前、艦体後部に掲げてあった、ユニオンジャックは、火の粉に当てられ、静かに、じわじわと燃えていた。





「閣下……」


 モスキートは、ひとまずイギリス北部から離れようと、コンパスを頼りに、南に飛んでいた。


「必ず、お助けします、キングジョージ閣下も、クイーンエリザベス様も、ウォースパイト様も、イラストリアスも、アークロイヤルも、ベルファストも」


 モスキートは、自身の機体を操縦しながら、涙を零していた。


「私、ロイヤル航空部隊騎士団長である、この『デ・ハビラントモスキート FBMarkⅥ』が、必ず皆さんを救って見せます」


 モスキートはそう口にしながら、エンジンスロットルを上げた。

 この時、まだ日本を出港したての艦隊は、パプア軍港を目指していた。




                    ―――――――第五幕、完



              戦争は、動きだす。

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