表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/340

出迎え


 横須賀高校を出発して十五分後、第三学校にたどり着いた。


「気をつけてくださいね、何かあったら警察もすぐに駆け付けますので」


 そう言って、運転してくれた警官は敬礼する。


「ありがとうございます、行ってきます」


 俺達四人も敬礼し校門を超える。

 懐に入れていたFNは、腰のベルトに差し変えた。


「それで、誰に聞きに行くの?」

「そうだなぁ……校長と不良組の面子かな?」


 そんな会話を吹雪とすると、正面に五人の生徒が集まって来た。


「なんだぁお前ら? 須賀高の制服じゃねえか、まさかカチコミにでも来たんか?」


 俺は首を振る。


「まさか、少し話を聞きに来ただけだ」

「そうか……そんな嘘が通用するとでも思ってんのか⁉」


 生徒の一人がこちらに何かを投げつける。

 そうすると、空がそれを空中でキャッチし、投げてきた生徒の足に投げ返す。


「あああ! 痛ぇ⁉」

「ダーツだね、こんな物人に投げたら危ないでしょ」

 

 空はそう言いながらにこにこと、その生徒の集団へ向かう。


「一つ聞きたいんだけどさ、この銃、どこから貰ってきたか知らない?」


 空はそう言って、ポリ袋に入れているベレッタを指差す。


「し、知らねえ」

「本当に?」


 空はさらに詰め寄り、もう一度聞く。


「本当に知らないの? それとも、嘘をついてるだけなのかな?」

 

 空は相手の首元に、自身の手を当てながら聞き続ける。


「嘘なら……折るよ?」

「ひいいい⁉ し、知ってます! 知ってます! 村田先輩が、校長先生に紹介された人から三つ受け取ってました!」


 恐怖のあまり、その生徒は全てを話してくれた。

 それを聞いた空はその生徒の首から手を放し、俺の方を向く。


「校長室、いこっか?」

「ああ、直接話を聞いてみるか」


 俺たちは、校門での出迎えを華麗にスルーして、校舎に入って行く。

 一様上履きは持ってきた。


「まあさっきまで外で履いたけど……」


 須賀高の校庭で戦った時、上履きで戦ったので、だいぶ汚れてしまっているが、まあいいか。


「校長室ってどこにあるんでしょう?」


 圭がそう言いながら廊下に出ると、目をぱちくりさせてこちらに戻って来た。


「どうした、圭?」

「いや、すぐそこに校長室があって……」


 俺達三人も廊下に出ると、確かに思いの他すぐそこに校長室はあった。


「いいじゃないか、すぐにかたづ……くわけ無いか」


 俺たちが校長室まで向かおうとしたところ、正面から木刀を持った不良に見える生徒が八人ほど出てきた、簡単に通してくれそうにない。


「じゃ、もうひと暴れしますか」


 空はそう言って八人の中に突っ込んでいく。


「私も援護するね」


 吹雪も空の後についていき、狭い廊下での戦闘に参戦した。


「僕は下がってますね」

「そうだな……俺も出ない方がいいかもしれないな」


 圭は正直、そこまで格闘は強くなく、俺も純粋な格闘では、あの二人に劣る、ここは二人に任せた方がいいかもしれないな。


「とうりゃ、そりゃ」

「やあ! せい!」

 

 二人の気合の声がしばらく続くと、そんなに長くかからず戦闘は終わった。


「お疲れさん」

「もー有馬も戦ってくれればよかったのに~」


 空がそう不満を漏らす。


「いいだろ別に、お前ら程俺は格闘戦強くないんだよ」


 吹雪は制服を直しながらぼやく。


「やっぱり制服で格闘はやりにくいなぁ」


 やっぱり、ってお前、制服で格闘の経験、初めてじゃないのか?


「まあ後で文句は聞いてやる、まずは校長に話を聞かないとな」

「そうだね」


 三人の準備が整ったことを確認し、俺は校長室の扉を開けた。


「さて、話を聞かせてもらいますよ、聖泉学院校長?」


 俺はFNを突きつける。


「撃たないでくれ……」


 突きつけられた男は、手を上げながら席を回し、こちらを向く。


「まずは名前を」

「私の名前は金井翔太」


 圭の方へ視線を送ると、圭はメモ帳を取り出して書き始めた、一方空と吹雪はソファーに腰を下ろしていた。


「では次、貴方、WASと関りがありますね?」


 バツが悪そうに視線を逸らすその素振りにイラつき、俺は大きな声を出した。


「答えろ!」


 俺が怒鳴ると、金井はビックと肩を震わせ、口を開く。


「……ボタンに、所属している」


 ボタン、WASの小規模組織、工作団の通称だ、そこの人間なのか……。


「ボタンの基地、どこだ?」

「……浦賀材木店の、地下だ」


 浦賀か……。


「圭」

「はい、すでに自衛隊に打電しました」


 圭の返答を聞いて、質問を続ける。


「拳銃はWASからの物で?」

「そうだ、之を不良に持たせて横須賀高校へ送れとボタン本部より指示があった」


 そこからいくらか質問をし、俺は大きく息を吐いた。


 拳銃を腰に差し直し、できる限り目つきを鋭くし、最後に一つ聞くことにした。


「最後に……一つ、質問です、何でボタンに所属し、横須賀高校に被害を与えたんですか?」

「……金に、困っていたんだ」

「っ!」


 俺は反射的にその男の顔面に、全力で拳を叩き込んでいた。


「この、クソ野郎!」


 腰に手を伸ばし、拳銃を抜こうとすると、空が俺の腕を抑え込む。


「ダメだよ、怒る気持ちはわかるけど、殺しちゃだめ」


 俺は震える手を押さえる空の真っ直ぐな瞳を見て、大きく深呼吸をし、拳銃に回していた手を離す。


「すまない……」

「大丈夫、じゃあ帰ろ? 今帰れば午後の授業間に合うよ」


 現在、13時20分、帰路に十五分ほどかかっても、授業の開始頃に学校につく。





 現在、13時38分、学校着。


  あの後、俺たちの送迎を担当してくれた警官が呼んだ別のパトカーに金井は逮捕され、俺達は無事須賀高に帰って来た。


 来たんだが……。


「どうしてこうなってんだ?」

「さあ?」


 なぜか不良の生徒を先頭に、おそらく全校生徒が校庭に集まっている、先生もいるようだ。


「有馬兄貴! お疲れ様でした!」

「「「「お疲れさまでした!」」」」


 舞立がそう言うのに続いて、後ろの全員も頭を下げる。


「うーんと、どうゆう状況?」


 俺が尋ねると、舞立は満面の笑みで答えてくれる。


「恩人には、最大限感謝しろって、先輩たちに言われてたからな!」


 不良たちに便乗して他の生徒も、そしてそれを止めるべく先生たちも出てきたんだろうが、半分諦めているのか、後ろで呆然と立ち尽くしている。


「いいじゃん、私達が作戦から帰ってきても、こんな大勢に出迎えられたことないでしょ?」


 吹雪が後ろから言う、片手にクリームパンを持って。


「そのパン、どっから取り出したんだ?」

「不良の子がくれた」


 振り返ると、吹雪の少し後ろに不良の子が待機している、空と圭もクリームパンを受け取って、それをほおばっていた。


「ほんと、こんな出迎えは初めてだな……」


 俺は、今はかぶっていない帽子のつばを握り、薄く笑い、


「こんなに嬉しいものなんだな、出迎えって」


 そう、呟いていた。

 

 それと同時に、不良たちはこちらに駆け寄り、先生と生徒たちは校舎に戻っていく、先生の内の一人が俺にひっそりと耳打ちする。


「授業始めるから、不良の子たちも授業に出るように言っておいてくれるかな?」

「あ、はい、わかりました」


 そう返事をすると、その先生も校舎に戻っていった。





 後に聞かされたが、今回の騒動、もとい聖泉学院の、横須賀高校への攻撃の真相は、ひとえに、日本内部への浸透と、次世代兵士の減少が目的だったようだ。

 

 2038年第二次ホープ作戦によって、独日の参戦が世界から望まれた、だがそれと同時に、日独の参戦によって不利になると踏んだWASは、日本国内での工作を強化した、その内の一つが、軍、自衛隊の息がかかった学校への間接的攻撃だ。

 例えば横須賀高校、ここは、防衛省が金を出して立てた学校で、主に国防関係の職を目指したり、軍や自衛隊と結びつきの強い家庭の生徒を募集した高校だ。

 ここを攻撃することで、生徒数の減少、国防意識の高い子供の弾圧を行い、日本の軍事力、及び交戦意思の低下を目的としていた。


 そもそも、聖泉学院もWASが主導していた学校の用で、一部の生徒、職員に、工作員が紛れ込み、横須賀高校や、周辺高校への攻撃を目的として建てられた学校だったらしい。

 しかしこの学校の暴動を押さえていたのが、横須賀高校の不良たちだったようで、自衛隊や軍からしたら、本当に感謝してもしきれない。

 そこで、どうやら防衛相から感謝状と謝礼金が学校に送られるようだ。


 ……ま、俺達はもういられそうにも無いのだが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ